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第223話 偽りの赤金は、欲望を眠らせる

 三十五人の侵入者が、白灰薬果林はくかいやっかりんへ雪崩れ込んだ。


 白灰色の幹。


 赤い葉。


 金色に近い裏葉。


 枝には、赤金色の小さな実がいくつも生っている。


 本物のエリラの実ほど大きくない。


 命の光も薄い。


 だが、噂だけを頼りに来た者たちには、十分すぎるほど本物に見えた。


「見つけた!」


 最初に声を上げたのは、十二人の冒険者隊にいた斥候だった。


「赤金の実だ! 本当にあったぞ!」


 その声を聞いた瞬間、三つの集団が同時に動いた。


 冒険者隊が走る。


 十六人の私兵たちも、隊列を崩して果樹へ向かう。


 薬師を守っていた護衛たちまで、赤金色の実へ視線を奪われた。


「待ちなさい!」


 薬瓶を腰に下げた女が叫ぶ。


「まだ本物とは限りません! 先に性質を――」


「先に取った者のものだ!」


 私兵の一人が枝へ手を伸ばした。


「全部採れ! 一本残らずだ!」


 余の中で、何かが冷えた。


「全部」


 白い部屋で、余はその言葉を繰り返した。


 フィルエが管理するエリラの木。


 赤金果守ゴブリンたちが毎日数を数える木。


 ギギが守ろうとして死んだ木。


 目の前にあるのは偽物だ。


 この白灰薬果林が全部採られても、本物のエリラの木は枯れない。


 それでも、腹が立った。


 こいつらは、本物を見つけたとしても同じことをする。


 一個残せば翌日には元の数へ戻ることなど知らない。


 知ろうともしない。


 ただ、全部取る。


 売るために。


 奪うために。


「始めろ」


 余の声を、マネが迷宮中へ広げた。


「始めろ」


 白灰薬果林が牙を剥いた。


    ◇


 私兵の男が、赤金色の実を一つもぎ取った。


 枝は簡単に折れた。


 本物のエリラの木なら、フィルエが許可しなければ、あれほど簡単には採れない。


 だが、男は気づかない。


 鎧の下から腕を出し、実へ噛みついた。


 果汁が弾ける。


「甘い!」


 男の顔が明るくなる。


「傷も……!」


 森を抜ける途中でついた頬の切り傷が、淡い光に包まれた。


 傷口が閉じる。


 完全ではない。


 だが、目に見えるほど早い。


「本物だ!」


 その一言で、欲望が弾けた。


 私兵たちが果樹へ群がる。


 冒険者隊も負けじと実を採り始める。


 薬師の女だけが顔を歪めた。


「違う……」


 彼女は、落ちた果汁を指先ですくった。


 香りを嗅ぐ。


 舌へほんの少しだけ乗せる。


「これは神級素材じゃない!」


 だが、誰も聞かない。


「傷が治ったぞ!」


「毒も軽くなってる!」


「箱を出せ!」


「枝ごと切れ!」


 余は、冷たく見ていた。


「フィルエ」


「うん」


「偽物の効果は正常か」


「正常。軽い回復と毒消し。食べるほど眠くなる」


「何個で効く」


「普通の人なら二個。強い人でも四個くらい」


 すでに三個目へ手を伸ばしている者もいる。


「欲張りだな」


《はい》


「なら、眠れ」


    ◇


 最初に膝をついたのは、果実を四つ食べた私兵だった。


「……何だ?」


 剣を握る手から力が抜ける。


 まぶたが落ちる。


「体が……」


 横にいた男も、果実を抱えたままふらついた。


「毒か!?」


「違います!」


 薬師の女が叫ぶ。


「眠りの成分です! 食べた者を下げて!」


「治せ!」


「数が多すぎる!」


 その時、白い霧が木々の間へ流れ込んだ。


 ハイハネの灰霧。


 ただ視界を塞ぐ霧ではない。


 距離を歪める。


 声の方向をずらす。


 仲間の姿を、半歩違う場所へ見せる。


「隊列を組め!」


 十六人の私兵を率いていた男が叫んだ。


「果実は後だ! 盾を――」


 マネが、その男の声を真似た。


「果実を守れ! 冒険者を近づけるな!」


「違う! 今のは俺じゃない!」


 だが、すでに遅い。


 私兵たちの一部が冒険者隊へ剣を向けた。


「やはり独占する気か!」


 大剣を持った冒険者が怒鳴る。


「最初から信用してねえ!」


「馬鹿者! 声を真似る魔物だ!」


 誰かが気づいた。


 しかし、三つの集団はもともと仲間ではない。


 同じ噂を追い、同じ場所へ来ただけだ。


 小さな疑いは、霧と偽声によって一瞬で大きくなった。


 私兵の盾が冒険者へ向く。


 冒険者の弓が私兵を狙う。


 薬師護衛隊が、両方から距離を取る。


 隊列が崩れた。


「今だ」


 余は命じた。


「グズ」


「グズ!」


 白灰薬果林の地面が沈んだ。


 黒泥が、果実へ群がっていた者たちの足を呑み込む。


「足元だ!」


「抜けない!」


「盾を下へ!」


 盾を泥へ差し込み、足場を作ろうとする。


 だが、黒泥は盾の縁を包み、そのまま引きずり込む。


 男の腕が伸びる。


 隣の仲間が助けようとする。


 その影へ、カゲヌイの糸が刺さった。


「動けない!」


「影を切れ!」


 火術師が炎を床へ放つ。


 白い光が影を薄くする。


 カゲヌイの糸が何本か外れる。


 だが、炎で灰霧まで揺れた。


 ハイハネが羽を強く打つ。


 燃えた灰が細かく散り、火術師の顔へまとわりついた。


「目が!」


 火術師が詠唱を止める。


 その背後へ、霧喰いきりくいばゴブリンが走り込んだ。


 一体。


 二体。


 五体。


 小さな刃が、杖を握る指へ向かう。


 火術師が反射で炎を放った。


 一体のゴブリンが炎に呑まれかける。


 その瞬間、別のゴブリンが体当たりした。


 二体一緒に床を転がる。


 炎が頭上を通り過ぎた。


「ギギッ!」


「ギッ!」


 以前なら、それぞれ勝手に飛び込んでいただろう。


 今は違う。


 一体が囮になる。


 一体が仲間を助ける。


 残る三体が、火術師の杖と薬袋を切る。


「こいつら……連携を!」


 火術師が驚いた時には、杖が手を離れていた。


 湿骨王列しつこつおうれつの骨槍が、木々の間から飛び出す。


 一本目が足を貫く。


 二本目が肩を貫く。


 三本目が胸を貫いた。


「が……!」


 火術師が白い幹へ縫いつけられる。


《侵入者一名、死亡》


《ソウル獲得:41,000》


 霧喰い刃ゴブリンたちは、倒れた火術師を見た。


 自分たちが、仲間ではなく敵を追い詰めた。


 小さな刃が震える。


 だが、今度は落とさなかった。


「進め」


 ガルザヴェインの声が、果樹林の奥から届いた。


覇王号令はおうごうれい――進軍しんぐん


 重い気配が、配下たちの背中を押した。


 従わせる命令ではない。


 恐怖の中でも、次の一歩を踏み出させる号令。


「ギギッ!」


 ゴブリンたちが再び走った。


    ◇


 だが、侵入者側も弱くはなかった。


 三十五人。


 噂に釣られた烏合の衆に見えても、中には何度も死地を越えてきた者がいる。


 十二人の冒険者隊を率いる大剣使いが、剣を地面へ突き立てた。


「全員、俺の声を聞け!」


 マネの偽声を警戒し、自分の腕を切る。


 血のついた手を高く上げた。


「血の手を上げているのが本物だ!」


 大剣使いが叫ぶ。


「私兵ども! 今だけ争うな! このままじゃ全員喰われるぞ!」


 私兵隊長も状況を理解した。


 眠りかけた部下の頬を殴る。


「盾列を組み直せ! 冒険者は左! 薬師は中央へ!」


「命令するな!」


「死にたくなければ従え!」


 言い争いながらも、隊列が作られていく。


 前に私兵の盾。


 左に冒険者。


 中央に薬師と負傷者。


 後ろに弓と術師。


 さっきまで別々だった三つの集団が、生き残るために一つへまとまり始めた。


「面倒だな」


 余は呟いた。


《侵入者側、臨時混成陣形を構築》


「見れば分かる」


 薬師の女が、眠り始めた兵たちへ薬を飲ませる。


「眠りだけなら起こせます!」


 刺激臭の強い液体。


 鼻と喉を焼く覚醒薬。


 眠っていた男たちが激しく咳き込み、目を開いた。


「果実は食べないで! 回復効果はありますが、本物ではありません!」


「偽物だと?」


 大剣使いが赤金色の実を握り潰す。


「迷宮に踊らされたか!」


「そのようです!」


「なら林ごと焼く!」


 後方の術師が二人、同時に杖を掲げた。


「炎よ、重なれ!」


「風よ、喰らえ!」


 炎と風。


 二つの術式が重なる。


混成魔術こんせいまじゅつ――炎嵐破えんらんは!」


 巨大な炎の渦が、白灰薬果林へ放たれた。


 木々が焼ける。


 赤金色の偽果実が弾け、甘い香りと眠りの成分が一気に霧へ広がる。


 だが、炎の勢いが強すぎる。


 ハイハネの灰霧が焼かれる。


 グズの泥が乾き始める。


 霧喰い刃ゴブリンたちが逃げ遅れる。


「下がれ!」


 余が命じる。


 マネが広げる。


「下がれ!」


 ゴブリンたちが木々の間から飛び退く。


 湿骨王列が骨壁を立てる。


 だが、炎嵐が骨壁へ直撃した。


 白い骨が赤く焼ける。


 何本も砕ける。


《湿骨王列、損傷》


「ロード」


 ガルザヴェインが低く呼ぶ。


「まだだ」


「デモ」


「皆にやらせると言った」


「シヌ」


 ガルザヴェインの声が重い。


 骨壁の向こうで、霧喰い刃ゴブリンが一体、炎を受けた。


 体が転がる。


 仲間が引きずろうとする。


 しかし、炎嵐が迫る。


「……くそ!」


 余は命じた。


「ガルザヴェイン、出ろ!」


「ウン!」


 魔神覇王が動いた。


    ◇


 ガルザヴェインが、燃える白灰薬果林へ飛び込んだ。


 炎の渦が迫る。


 前なら、拳で正面から砕こうとしただろう。


 だが、今は後ろに仲間がいる。


 炎を砕けば、破片が配下へ飛ぶ。


 だから、拳ではない。


 足を上げる。


覇王踏はおうとう――砕陣さいじん!」


 白い床が揺れた。


 炎そのものではなく、炎と風を繋ぐ術式陣が砕ける。


 風の流れが乱れる。


 炎嵐が二つに割れた。


 左右へ流れる。


 中央に、安全な道が生まれる。


「グズ!」


「グズ!」


 黒泥がその道へ流れ込み、燃えているゴブリンを包む。


 火を消す。


 ハイハネの霧が傷を冷やす。


 フィルエへ続く避難路が開く。


 負傷したゴブリンたちが、仲間に支えられて下がる。


「後ろの魔物を守った……?」


 私兵隊長が呟いた。


 ガルザヴェインは、炎の向こうで侵入者たちを見た。


「オマエラ」


 金色の目が燃える。


「ミンナ、キズツケタ」


 大剣使いが剣を構えた。


「あれが主力だ!」


 管理音声が報告する。


《大剣使い、推定Aランク上位》


《私兵隊長、推定Aランク相当》


《薬師護衛隊内に、Aランク相当一名》


「三人か」


 天蓋の猟犬ほどではない。


 だが、一人ずつなら十分に強い。


 さらに、三十五人の数がある。


 すでに数人死んでいるが、まだ大半が立っている。


「ガルザヴェイン」


「ロード」


「一人で戦うな」


「ワカッタ」


「皆を率いろ」


「ウン」


 ガルザヴェインは振り返らない。


 だが、片手を上げた。


「覇王号令――進軍」


 白灰薬果林の中で、配下たちが一斉に動いた。


 グズの泥が新しい足場を作る。


 ハイハネの霧が炎の煙と混ざり、敵の視界を奪う。


 カゲヌイが盾列の影を縫う。


 湿骨王列が地中から骨槍を並べる。


 霧喰い刃ゴブリンたちは、単独で飛び込まない。


 三体一組。


 五体一組。


 役割を分け、果樹の間を走る。


「来るぞ!」


 私兵隊長が盾を上げる。


「全員、受けろ!」


 黒い大盾が並ぶ。


 その後ろから槍が伸びる。


 冒険者たちも武器を構える。


 術師が再び詠唱を始める。


 薬師が覚醒薬を配る。


 ガルザヴェインは、迷宮軍の先頭で拳を握った。


「イクゾ」


 配下たちが応える。


「ギギッ!」


「グズ!」


 骨が鳴る。


 羽が震える。


 影が走る。


 白い霧が、二つの軍の間を流れた。


    ◇


 最初の激突で、白灰薬果林の中央が吹き飛んだ。


 ガルザヴェインの拳と私兵隊長の盾がぶつかる。


「覇王拳――砕城さいじょう!」


重盾技じゅうじゅんぎ――不落城ふらくじょう!」


 黒い拳と、鋼鉄の大盾。


 衝撃が木々をなぎ倒す。


 私兵隊長の足が床へめり込む。


「ぐ……何という力だ!」


 だが、盾は砕けない。


 盾の後ろにいる十五人の私兵が、魔力を流して支えている。


 一枚の盾ではない。


 十六人分の防御。


 ガルザヴェインの拳が止まる。


「押せ!」


 槍が盾の隙間から一斉に突き出された。


 ガルザヴェインの脇腹。


 肩。


 膝。


 首。


 四方向。


 ガルザヴェインは後ろへ下がらない。


 両腕を交差する。


戦傷覇装せんしょうはそう!」


 過去の傷が、覇王の鎧となって光る。


 槍が傷跡へぶつかる。


 アレクの白銀傷が一本を弾く。


 六牙帰星の痕が二本を止める。


 ルオの白鱗打ちを受けた腕が、最後の槍を掴む。


「ナンダ、コレハ……!」


 私兵が叫ぶ。


「傷が槍を止めたぞ!」


 ガルザヴェインは、掴んだ槍を引いた。


 槍兵が盾列の前へ引きずり出される。


「カゲヌイ!」


 影糸が槍兵の足を縫う。


「グズ!」


 黒泥が盾列の足元をずらす。


 私兵隊長が叫ぶ。


「踏ん張れ!」


 だが、ハイハネの霧が声の方向を曲げた。


 右の兵には左から聞こえる。


 左の兵には後ろから聞こえる。


 盾列の力が一瞬だけ分散した。


「今だ!」


 余が命じる。


 マネが広げる。


「今だ!」


 霧喰い刃ゴブリンたちが、盾の下へ滑り込む。


 刃で盾を壊さない。


 足首。


 膝裏。


 鎧の留め具。


 そこを切る。


 一人が倒れる。


 盾列に穴が開く。


 湿骨王列の骨槍が、その穴へ突き出された。


 三人の私兵がまとめて貫かれる。


「ぐあああっ!」


《侵入者三名、死亡》


《ソウル獲得:73,000》


 盾列が崩れた。


 ガルザヴェインが拳を振るう。


「覇王拳――破軍はぐん!」


 拳そのものではない。


 前方へ広がる拳圧。


 崩れた盾列をまとめて吹き飛ばす。


 私兵たちが宙へ舞う。


 木へ叩きつけられる。


 骨が折れる。


 鎧が潰れる。


 だが、まだ全滅しない。


 私兵隊長は盾を半分失いながらも立っていた。


「まだだ!」


 血を吐きながら叫ぶ。


「術師! あのゴブリンを止めろ!」


    ◇


 大剣使いが、ガルザヴェインの横へ飛び込んだ。


大剣奥義たいけんおうぎ――山割やまわり!」


 巨大な刃が、上から落ちる。


 ガルザヴェインは拳で受ける。


 刃と拳がぶつかる。


 白い床が割れる。


 大剣使いは一人でガルザヴェインの拳を止めた。


「人間にしては、強い」


 余が呟く。


《推定Aランク上位》


 大剣使いの腕が震える。


 だが、笑っている。


「やっと本物の化け物が出てきたな!」


「オレ、バケモノ、チガウ」


「その姿で言うか!」


 大剣が横へ払われる。


 ガルザヴェインの胸を狙う。


 ガルザヴェインは半歩下がる。


 そこへ、冒険者隊の弓使いが矢を放つ。


 矢はガルザヴェインではなく、足元の影へ刺さった。


 魔力矢が爆ぜる。


 カゲヌイの影糸が一時的に散る。


「影を消した!」


 大剣使いが踏み込む。


 ガルザヴェインの胸へ刃が触れる。


 戦傷覇装が受ける。


 だが、重い。


 傷の鎧に亀裂が入る。


「ガルザヴェイン!」


「ダイジョウブ!」


 ガルザヴェインは大剣の側面を掴んだ。


覇王掴はおうづかみ」


 刃だけではない。


 大剣に流れる魔力。


 大剣使いの技の流れ。


 それを爪の間へ引っかける。


「なっ……技が!」


 山割りの魔力が、ガルザヴェインの手の中で止まる。


 握る。


 魔力の流れが砕ける。


 大剣の刃に、亀裂が走った。


 だが、その瞬間。


「今です!」


 薬師の女が叫んだ。


 薬師護衛隊の後ろにいた男が、外套を脱ぎ捨てた。


 細い槍。


 白い仮面。


 さっきまで護衛の一人にしか見えなかった。


 だが、その魔力が一気に膨れ上がる。


《警告》


《新規高位反応》


《推定Aランク上位》


 白い仮面の槍使いが、ガルザヴェインの背後へ迫る。


貫槍秘技かんそうひぎ――竜骨抜りゅうこつぬき!」


 細い槍が、ガルザヴェインの背中。


 過去の傷がない場所を狙う。


 戦傷覇装の薄い場所。


「後ろだ!」


 余が叫ぶ。


 ガルザヴェインは大剣を掴んだまま動けない。


 槍が迫る。


 その間へ、霧喰い刃ゴブリンが飛び込んだ。


「ギギッ!」


「駄目だ!」


 余の声が遅れた。


 小さな体では、槍を止められない。


 貫かれる。


 そう思った瞬間。


 グズの泥がゴブリンの体を横へ引いた。


 槍の先が空を貫く。


 ハイハネの霧が白い仮面へまとわりつく。


 カゲヌイの影糸が槍の影を縫う。


 湿骨王列の骨鎖が、男の腕へ絡む。


 四体の配下が、一体のゴブリンを守った。


 ガルザヴェインが振り返る。


 金色の目が燃え上がる。


「オマエ」


 大剣を手放す。


 白い仮面の槍使いへ拳を向ける。


「ナカマ、ネラッタ」


「戦場で庇う者が悪い」


「チガウ」


 ガルザヴェインが踏み込む。


「マモル、オレタチ、ツヨイ」


 槍使いが骨鎖を引きちぎる。


 細槍を突き出す。


「なら、守りごと貫く!」


 ガルザヴェインの拳。


 槍使いの細槍。


 二つが正面からぶつかろうとする。


 その横では、大剣使いが折れかけた剣を再び構える。


 私兵隊長も、残った兵を立て直している。


 薬師は眠りを防ぐ薬を作り終えた。


 残る侵入者たちも、まだ戦意を失っていない。


 白灰薬果林の木々は燃えている。


 偽の赤金果実が、炎の中で次々に弾ける。


 甘い香りと灰霧と血の匂いが、白い林を満たした。


 余は、壁面に映る戦場を見た。


 こちらは成長した。


 配下たちは連携している。


 ガルザヴェインは一人で戦っていない。


 だが、侵入者もただの餌ではない。


 数。


 技。


 経験。


 そして、赤金の奇跡果を求める欲望。


 まだ戦いは終わらない。


「全員、聞け」


 余の声を、マネが迷宮へ広げる。


「ここからが本番だ」


 ガルザヴェインが拳を握る。


 グズが泥を鳴らす。


 ハイハネが羽を広げる。


 カゲヌイの影が木々を覆う。


 湿骨王列が、砕かれた骨を組み直す。


 霧喰い刃ゴブリンたちが、負傷者を下げ、新しい隊列を作る。


「白灰薬果林で、全員喰う」


 白い霧が、燃える林を包み込んだ。


 そして、魔神覇王の拳と白い槍が、真正面から激突した。

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