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第191話 赤い核は、猟犬を奥へ誘う

 赤い価値が、霧の奥で瞬いていた。


 それは、エリラの実ではない。


 フィルエには分かっている。


 あの甘い赤金の光とは違う。


 命を含んだ柔らかな輝きではない。


 もっと硬く、もっと危険で、もっと血の匂いに近い赤。


 魔神性をほんのわずかに混ぜた、赤錆核あかさびかく


 ロードが置いた餌だった。


 だが、ただの偽物ではない。


 赤錆噛みの牙。


 スタンピードで死んだ金属食い魔物の核片。


 ガルザヴェインの魔神性が触れた黒い血泥。


 それらを白磁粉で固めた、小さな危険素材。


 魔道具職人が見れば、欲しがる。


 呪具師が見れば、欲しがる。


 闇市なら、かなりの値を付ける。


 けれど、エリクサー素材ではない。


 エリラの実とは、比べものにならない。


 それでも、罠の餌としては十分だった。


 セラの値星眼ねぼしがんが、その赤を見つけた。


「赤い方を見る」


 彼女はそう言った。


 天蓋の猟犬てんがいのりょうけんは、立ち止まらない。


 ロウエンが空糸そらいとを前へ伸ばす。


 ドランが風壁を薄く張る。


 ミトが床と壁の匂いを嗅ぐ。


 ノアの歌が、六人の呼吸を同じ間隔へ整える。


 アゼルの指先には、小さな星がいくつも浮かんでいる。


 彼らは、明らかに罠だと分かっていて進んだ。


 その進み方が、普通の冒険者とは違う。


 欲に足を引かれるのではない。


 欲を前に置き、危険を横に見て、帰路を後ろに残す。


 まるで、迷宮そのものを解体しながら歩いているようだった。


    ◇


 白い部屋で、余はその様子を見ていた。


「赤へ行くか」


《はい》


「エリラではないと分かっているのか」


《セラの反応から、最重要目標ではないと判断している可能性があります》


「それでも行く」


《価値があるためと思われます》


「冒険者だな」


 余は笑った。


 やはり冒険者は面白い。


 罠だと分かる。


 危険だと分かる。


 目的の品ではないと分かる。


 それでも、価値があれば見に行く。


 ただし、馬鹿ではない。


 命と値段を天秤にかけている。


 その上で進んでいる。


 厄介だ。


 非常に厄介だ。


「管理音声」


《はい》


「赤錆核の周囲罠は」


《三層構造です》


《一層目:戻り水沈降膜》


《二層目:赤錆噛み骨牙群》


《三層目:魔神性反応による短時間の精神圧》


「Sランクに効くか」


《通常ならば限定的です》


「だろうな」


 フィルエの声がした。


「ロード」


「何だ」


「たぶん、全部は踏まない」


「分かっている」


「でも、赤い核を調べるために近づく。そこは使える」


「ああ」


 余は、赤錆核の周辺図を見た。


 通路は細い。


 左右の壁には白磁片。


 床下には戻り水。


 天井には、薄い灰霧。


 赤錆核は、中央の小さな祭壇めいた白い台の上に置いてある。


 いかにも怪しい。


 いかにも罠だ。


 それでも、価値のあるものは、冒険者を止める。


「まず、見せろ」


《罠を発動しませんか》


「まだだ。Sランクがどう調べるか見たい」


 白骨書記が骨筆を構えた。



観察対象:

Sランク冒険者パーティーによる危険素材調査手順。



「よく見ろ」


 白骨書記が、かた、と顎を鳴らした。


    ◇


 赤錆核は、白い台の上にあった。


 親指の爪ほどの大きさ。


 赤黒く、中心に金属光がある。


 周囲には、細い白磁の輪。


 床は乾いて見える。


 だが、ミトはすぐに首を横へ振った。


「乾いてない」


「床?」


「床も。台も。赤いのも」


 ドランが眉をひそめる。


「赤いのも乾いてないって、どういうことだ」


「生きてるみたいに濡れてる」


 ミトは鼻を鳴らし、すぐに顔をしかめた。


「金属を食べる匂い。あと、黒い魔神の匂い。ちょっとだけ」


 ロウエンがセラを見る。


「価値は」


「高い」


 セラは右目を細めた。


 銀縁眼鏡の奥で、値星眼が小さく光る。


「でも、危ない。魔神素材そのものじゃない。魔神性が触れた赤錆系素材。武器に混ぜれば金属食いの呪いを持たせられる。防具に混ぜると、たぶん自壊する」


 アゼルが言った。


「売れる?」


「売れる。闇市ならかなり」


 ノアが静かに言う。


「リーネには?」


「直接は関係ない」


「じゃあ、無理して取る必要はないね」


「でも、持って帰れたら準備資金になる」


 セラは赤錆核を見つめた。


「次に来る時のね」


 その言葉に、六人の間で短い沈黙が落ちた。


 次に来る時。


 セラはもう、今回だけで終わるつもりがない。


 赤金の星を見た。


 奥に神薬系の可能性があると感じた。


 ならば、もし今回届かなくても、戻ってくる。


 そのための資金。


 そのための素材。


 そのための情報。


 ロウエンは小さく頷いた。


「取れるなら取る。ただし、深入りはしない」


「分かってる」


 セラは銀の薄札を取り出した。


 先ほど白骨水晶片を封じた価値封じ札とは違う。


 今度は赤い線が入っている。


「赤錆封じ。効けばいいけど」


「効かなかったら?」


 ドランが聞く。


「逃げる」


「分かりやすい」


 ロウエンが空糸を伸ばす。


 だが、赤錆核へは触れない。


 まず、周囲を撫でる。


 見えない糸が、白い台の周囲をなぞる。


 その瞬間、床下の戻り水がわずかに反応した。


 ロウエンは手を止めた。


「触れたら沈む」


「台ごと?」


「たぶん。赤い核を取れば、台の下が落ちる」


 ミトが頷く。


「下、口。広い。歯いっぱい」


「赤錆噛みか」


 アゼルが指先の小星を一つ落とした。


 星の粒が床へ近づく。


 床に触れる寸前、白い台の下から赤黒い骨牙が一瞬だけ覗いた。


 かち。


 金属を噛むような音。


 小星は噛まれる前に消える。


「噛むね」


 アゼルが言った。


 ノアが小さく歌う。


 声が赤錆核の周囲へ広がる。


 傷を癒す歌ではない。


 反応を見る歌。


探音歌たんおんか――小骨鳴こぼねなり」


 音が台の下へ染みる。


 かち。


 かちかち。


 かちかちかち。


 無数の小さな牙が、歌に反応して鳴った。


「多い」


 ノアが顔をしかめた。


「触ったら、採取具ごと食われる」


「じゃあ、食わせるものを用意するか」


 ドランが懐から古い鉄片を出した。


 迷宮へ入る前に持ってきた捨て金具だ。


 赤錆系の魔物を釣るための餌。


「はい、犬のおやつ」


 ミトが言う。


「犬じゃない」


「猟犬だろ」


「私たちは食べない」


「そうだな」


 ドランは鉄片を床へ放った。


 鉄片が白い台の近くへ落ちる。


 その瞬間、床下から赤黒い牙が無数に飛び出した。


 赤錆噛み骨牙群。


 肉体はない。


 骨牙だけだ。


 金属を喰う衝動だけを、戻り水と白磁で固定した罠。


 鉄片へ群がり、かちかちと噛み砕く。


 その隙に、ロウエンの空糸が台の裏へ入った。


「空糸技――裏取り」


 台の下の固定線が一本ずつ切られる。


 だが、切りすぎない。


 全部切れば罠が落ちる。


 必要な線だけ。


 赤錆核を固定している部分だけ。


 セラが赤錆封じ札を投げる。


 札が核へ貼りつく。


 赤い光が一瞬だけ弱まる。


 ロウエンの空糸が核を掴んだ。


 直接ではない。


 札ごと包む。


 そして、ふわりと引き上げた。


 白い台は落ちない。


 床も沈まない。


 赤錆噛み骨牙群は、まだ鉄片を噛んでいる。


 赤錆核だけが、空中を滑ってセラの手元へ来た。


「取れた」


 セラが封じ布に包む。


 その瞬間、赤錆核から黒い魔神性が細く漏れた。


 それは罠の三層目。


 触れた者の精神を圧する、ガルザヴェイン由来ではなく、模造された魔神圧。


 普通の冒険者なら、心臓を掴まれる。


 Bランクなら膝をつく。


 Aランクでも一瞬動きが止まる。


 だが、Sランクは違った。


 ノアが一音だけ歌った。


鎮歌しずめうた――喉撫のどなで」


 魔神圧が、歌に撫でられる。


 荒く膨れようとした黒い圧が、喉を押さえられた獣のように小さくなった。


 アゼルが小星を一つ落とす。


 星の粒が黒い圧の中心を打ち、散らす。


 ミトが鼻を鳴らす。


「偽物」


 ドランが笑った。


「偽物でも怖いけどな」


 セラは封じ布を縛り終えた。


「戦利品二つ目」


 ロウエンは霧の奥を見た。


「この迷宮、こっちを見てるな」


「最初から見てるよ」


 ミトが言った。


「今、ちょっと不満そうな匂いがした」


 白い部屋で、余は思わず眉をひそめた。


「匂いで余の不満を嗅ぐな」


    ◇


 白骨書記が、すさまじい勢いで記録している。



赤錆核罠、処理手順:


一、嗅覚により床下罠を感知。

二、空糸により台下固定構造を確認。

三、小星で骨牙反応を誘発。

四、探音歌で骨牙数を把握。

五、捨て鉄片により赤錆噛み骨牙群を誘導。

六、空糸で核固定のみを切断。

七、赤錆封じ札で反応を抑制。

八、封じ布へ収納。

九、魔神圧模造反応を鎮歌と小星で無力化。


結果:

天蓋の猟犬、損耗なし。

赤錆核、回収される。



「損耗なし、か」


《はい》


「実に腹立たしい」


 だが、有用な記録だ。


 Sランクパーティーがどう罠を処理するか。


 どの段階で何を見ているか。


 それが分かる。


 彼らは強いだけではない。


 道具を持っている。


 役割が重なっている。


 一人が見て、一人が聞き、一人が嗅ぎ、一人が支え、一人が落とし、一人が鎮める。


 罠は一人では踏まない。


 パーティー全体で分解してくる。


「今までの罠の組み方では足りんな」


 フィルエが言った。


「うん。罠を一つずつ分けると、解かれる」


「複数重ねても、順番に解かれる」


「同時に解かれるから」


「なら、解いたこと自体を罠にする必要がある」


《高位侵入者向け罠構造の再設計を推奨》


「今、それを考えている」


 だが、今すぐ完成するものではない。


 この戦いで学ぶ。


 次までに変える。


 天蓋の猟犬を今回殺しきるつもりなら、今ここで全力を出す。


 だが、相手はSランクパーティー。


 こちらが全力を出しても、殺しきれるとは限らない。


 むしろ、彼らはそれを見て逃げるかもしれない。


 そして、もっと対策して戻る。


 どちらにせよ、因縁になる。


 なら、まずは奥へ誘う。


 エリラへは近づけたくない。


 だが、近づかなければ彼らの本気も見えない。


 難しい。


 非常に難しい。


 ロードとは、本当に面倒な役目だ。


「中層の次を開け」


《どこへ誘導しますか》


「白磁偽財殿の外周跡。崩落後の戦利宝殿予定地だ」


《未完成区画です》


「だからいい。未完成の価値がある」


 白磁偽財殿は、アレクたちとの戦いで損傷し、その後再建中だ。


 まだ完全な宝物庫ではない。


 だが、崩れた白磁柱、折れた正式宝箱、Aランク装備の欠片、魔物軍勢由来の骨素材が混ざっている。


 Sランク冒険者にとっても、見る価値はあるだろう。


 そして、危険もある。


「そこで、少し火力を見せてもらう」


《対象は》


「アゼルだ。星落術師の本気を見たい」


    ◇


 天蓋の猟犬は赤錆核を回収し、さらに奥へ進んだ。


 霧は薄い。


 だが、道は白く崩れている。


 壁には亀裂。


 床には割れた宝箱の残骸。


 柱は半分折れ、白磁片が散っている。


 そこは、かつて白磁偽財殿だった区画の外周跡。


 今はまだ再建中の、戦利宝殿予定地。


 セラの右目が、強く反応した。


「ここ、価値が多い」


 ドランが周囲を見る。


「瓦礫だらけだぞ」


「瓦礫が高い」


「変な場所だな」


「Sランク迷宮だから」


 アゼルは天井を見上げた。


 さきほどまでより高い。


 星は見えない。


 だが、空間が広い。


「ここなら、少し落とせる」


 ロウエンが言う。


「敵が来るか」


「来るでしょ」


 ミトが耳を澄ますように鼻を動かす。


「骨じゃない。箱。あと、白い根。あと、何か中に刃が入ってる」


 ノアが歌を低くする。


「ここ、音がよく響く。反響が遅れる」


 ロウエンは指を広げた。


「陣形を広げる。ドラン、後方壁。アゼル、上を使え。セラ、拾うものを選べ。ミト、死角。ノア、反響を殺してくれ」


「了解」


 天蓋の猟犬が、散る。


 その瞬間、白い床から壊れた宝箱がいくつも浮かび上がった。


 蓋が開く。


 中から、白磁根。


 骨刃。


 赤錆噛みの牙。


 灰霧。


 影糸。


 複数の罠が同時に放たれる。


 並の冒険者なら、その場で四散する。


 だが、天蓋の猟犬は崩れない。


 ドランが両腕を広げる。


「風壁術――犬小屋いぬごや


 透明な風の壁が六角形に立ち上がる。


 雑な名前だ。


 だが、堅い。


 白磁根が風壁へ絡む。


 骨刃が弾かれる。


 灰霧が回り込もうとする。


 ノアの歌が響く。


「反響殺し(はんきょうごろし)の小歌」


 回廊の反響が消える。


 声真似も、音ずらしも、効きにくくなる。


 ミトが壁を蹴って走る。


 白磁根の根元を嗅ぎ当て、短爪で裂く。


 セラは価値のある瓦礫だけを見つけ、拾うものと無視するものを一瞬で選ぶ。


 ロウエンは空糸で、罠の発動線だけを切る。


 そしてアゼルが、上を見た。


「星落術――小天蓋しょうてんがい


 彼の頭上に、小さな夜空が生まれた。


 迷宮の中なのに。


 天井の下なのに。


 青黒い半球が浮かび、その中に星が並ぶ。


 それは本物の空ではない。


 アゼルが持ち込んだ星図。


 自分の魔力で作った、小さな天蓋。


「落ちろ」


 星が降った。


 小星雨ではない。


 もっと重い。


 白い星の矢が、壊れた宝箱群へ降り注ぐ。


 宝箱が砕ける。


 白磁根が焼ける。


 骨刃が粉になる。


 赤錆噛みの牙が、星の熱で溶ける。


 罠の群れが、一斉に消し飛んだ。


《宝箱罠群、損壊》


《白磁偽財殿外周、損傷拡大》


「……火力が高いな」


 余は呟いた。


 アゼルは、まだ大技ではない。


 それでも、区画の罠群をまとめて焼いた。


「Sランクだな」


《はい》


 だが、こちらもただ見ているだけではない。


 星が落ちた場所に、白磁粉が舞う。


 その粉に、ハイハネの灰霧を混ぜる。


 星の光で焼かれた白磁粉が、逆に光を反射する。


 アゼルの小天蓋の星が、一瞬だけ散乱した。


「ん?」


 アゼルが目を細める。


「反射で星図を乱してきた」


 セラが笑った。


「向こうも見てるね」


 ロウエンが空糸を引く。


「長居はしない。拾うものは?」


「白磁核片三つ。骨星結晶一つ。あとは罠」


「取れ」


 セラが動く。


 迷宮の罠が焼かれた後の残骸から、価値ある素材だけを拾う。


 彼らは戦いながら拾う。


 拾いながら進む。


 やはり冒険者だ。


    ◇


 白い部屋で、余は状況を整理した。


 戻り水湿地外縁。


 突破。


 赤錆核罠。


 突破され、素材回収。


 白磁偽財殿外周罠群。


 星落術で大半を焼かれ、さらに素材を拾われた。


 損害はある。


 だが、まだ許容範囲。


 そして、情報は多い。


「ロウエンの空糸、セラの価値判断、ミトの嗅覚、ドランの風壁、ノアの歌、アゼルの星落。どれも厄介だ」


《はい》


「このままでは、深部へ来るな」


《到達可能性、高》


「エリラの木まで?」


《現時点では不明。ただし赤金価値反応への興味が継続しています》


「隠蔽をさらに重ねろ」


《実行》


 フィルエが言った。


「ロード」


「何だ」


「重ねすぎると、セラは逆に気づくかも」


「なぜ」


「隠してる場所が、価値の形になる」


 余は少し黙った。


 なるほど。


 隠せば、隠していること自体が見える。


 値星眼にとっては、空白も価値か。


「では、偽の空白を増やす」


《複数の秘匿反応を配置します》


「そうだ。赤金から遠い場所にも、隠しているように見える場所を作れ」


《承知しました》


「さらに、次の区画で撤退路を一つ見せろ」


《なぜですか》


「帰れると思わせるためだ」


 冒険者は、帰れると思うから奥へ行く。


 帰れないと悟れば、撤退を選ぶ。


 天蓋の猟犬は特にそうだ。


 無許可侵入している以上、外へ情報を漏らすつもりはないだろう。


 しかし、宝を持って帰るつもりはある。


 つまり、帰路は必ず確保しようとする。


 そこを利用する。


「偽ではない帰路を一本、遠くに置け。ただし、すぐには使えない位置だ」


《帰路を残すのですか》


「残す。彼らに見える程度にな」


 フィルエが少しだけ納得した声を出す。


「逃げ道があるから、もう少し進める」


「そうだ」


 余は笑った。


「Sランク冒険者でも、冒険者だ。出口のない宝には手を出しにくい」


 中層の奥で、霧が動く。


 天蓋の猟犬は素材を拾い終え、さらに奥へ進む準備をしていた。


 彼らの背後には、かすかな外縁方向の風。


 前方には、複数の秘匿反応。


 そして、遠く奥で隠された赤金のエリラの実。


 セラが、右目を押さえながら呟いた。


「……増えた」


 ロウエンが聞く。


「何が」


「隠してる星が増えた。偽物も混じってる」


「本物は」


「奥」


 セラの声は、少し震えていた。


「まだ奥。でも、ある」


 ミトが鼻を鳴らす。


「甘い匂い、ほんの少し強くなった」


 ノアが静かに息を吸う。


「リーネに関係あるかもしれない」


 ロウエンは、短く言った。


「進む」


 誰も反対しなかった。


 白い部屋で、余も静かに言った。


「来い」


 天蓋の猟犬は、さらに深くへ進んだ。


 霧灰白庭迷宮は、彼らを迎えるために次の腹を開いた。

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