第176話 盾は、出口の顔をした腹で折れる
裂け目の先は、外ではなかった。
最初にそれを理解したのは、ネイザだった。
白い壁の割れ目を抜けた瞬間、彼は弓を構えたまま足を止めた。
空気が違う。
外の風ではない。
たしかに、さっきまでの白い霧よりは薄い。
冷たく、少し乾いていて、遠くに広がりがあるように感じる。
だが、空の匂いがない。
草もない。
土もない。
人間の焚き火の匂いもない。
あるのは、灰。
白磁。
戻り水。
そして、古い血の匂い。
「止まれ」
ネイザの声に、全員が止まった。
最後に裂け目を抜けたガルドスが、巨大な方盾を肩で押しながら狭い通路から出てくる。
「外か?」
「違う」
ネイザは即答した。
ベルグが、血と骨粉に汚れた双斧を握り直す。
「また迷宮かよ」
そこは、灰白回廊だった。
壁は白い。
だが、完全な白ではない。
白磁の壁に灰色の筋が走り、ところどころに黒い魔物の血が染み込んでいる。
床は乾いて見える。
だが、踏むとわずかに湿りが返る。
天井は高くない。
しかし、左右に長い。
奥へ続く通路は三つに分かれていた。
右。
左。
正面。
そのどれもが、出口へ続いているように見える。
薄い光が差している。
風のような流れがある。
外の気配に似たものがある。
だからこそ、誰もすぐには動かなかった。
もう、彼らは知っていた。
この迷宮は、見たいものを見せる。
帰りたい者には、帰り道の顔をした罠を見せる。
査定官マルクが、血に濡れた記録板を抱えたまま呟いた。
「出口に似せている……」
リーゼが割れた魔力盤を見た。
盤面には、三つの針がそれぞれ違う道を指している。
「三方向すべてに外部反応があります。ありえません」
オルフェンが祈祷布を広げる。
布の端が、正面の道へ引かれた。
だが、少し遅れて左にも揺れる。
最後に右へも引かれる。
「祈祷布も迷っています」
ガルドスが低く言った。
「つまり、全部怪しい」
「そうだ」
アレクは白銀の剣を構えた。
リンドがいれば、この三つの道の違いをもっと読めただろう。
だが、リンドはいない。
サラナもいない。
トーマもいない。
カルムもいない。
ここにいるのは、八人だけだった。
アレク。
ガルドス。
エリシア。
ネイザ。
ベルグ。
マルク。
リーゼ。
オルフェン。
そして、彼ら全員の背に、死者の重さが乗っていた。
◇
白い部屋で、余は灰白回廊を見下ろしていた。
「入ったな」
《はい》
「反応は」
《三方向すべてを出口候補として認識しています》
「よし」
この灰白回廊は、出口ではない。
だが、出口の匂いを持っている。
外の風に似せた戻り水の流れ。
外光に似せた白磁反射。
土の匂いに似せた戦屍処理灰。
人間の帰巣本能を揺らすための偽帰路区画。
軍帰路喰らいの落武者が喰い残した帰路の断片を、薄く貼りつけてある。
だから、人間の道具は迷う。
魔力盤も。
祈祷布も。
本能も。
「ここで盾を折る」
《対象:ガルドス・レイム》
「アレクをまだ殺すな。ネイザもまだ残す。エリシアももう少し使わせる」
《理由は》
「アレクが折れる過程を見たい。いきなり全部を奪うより、守ろうとした順に折る方が深く刺さる」
フィルエの声がした。
「ロード、悪い顔してる」
「顔はない」
「でも悪い」
「迷宮だからな」
フィルエは少し黙ってから言った。
「ガルドス、強いよ。あの盾、ただ硬いだけじゃない。自分の立つ場所を“守る場所”に変えてる」
「だから折る」
ガルドスがいる限り、調査隊は簡単に殺せない。
アレクも、ガルドスを信じて前へ出られる。
盾役は、ただ攻撃を受ける者ではない。
仲間に行動を許す者だ。
なら、あれを折れば、全員の動きが変わる。
「グズの小型泥門、灰白回廊に配置」
《泥塞大門将グズ、中度損傷中ですが遠隔小型泥門は可能です》
「無理はさせるな。今回は正面から押し潰すのではなく、出口のふりをした壁として使う」
《承知しました》
「戻り水は床下で待機。湿骨軍列は出しすぎるな。カゲヌイは盾の影を狙え。ハイハネは霧を薄く、外に近く見せろ」
《実行》
ガルザヴェインは魔神練兵窟で待機。
ヴェルグレイヴは夜棺白庭で睡眠。
今回は使わない。
Aランクを相手に、進化配下と迷宮構造で削る。
それで十分だ。
いや、十分でなければならない。
◇
灰白回廊で、マルクが判断した。
「正面を確認します」
アレクが問う。
「理由は」
「外部反応が最も安定しています。右と左は揺らぎが大きい」
リーゼが震える声で補足する。
「ただし、安定しているから本物とは言えません。迷宮が安定して偽装している可能性もあります」
「つまり、全部怪しいままか」
ベルグが吐き捨てる。
ネイザが静かに言った。
「なら、怪しさが一番分かりやすい正面から潰す」
ガルドスが方盾を構えた。
「俺が前に出る」
アレクが頷く。
「ガルドス、無理はするな」
「無理せずに盾役はできん」
「そういう意味ではない」
「分かっている」
ガルドスは、ほんの少しだけ笑った。
そして、方盾を床へ打ちつける。
「鋼旗盾術――城歩き」
再び、彼の盾が移動する城壁になった。
灰白回廊の正面へ、ゆっくり進む。
その後ろを、調査隊三人。
左右にアレクとエリシア。
後方にネイザとベルグ。
全員が、リンドの残した短剣と糸を意識しながら進む。
しかし、その糸はもうほとんど反応しない。
裂け目を抜けた時点で、外へ向かう手がかりは薄くなっていた。
正面の通路には、外に似た光がある。
風もある。
マルクの記録板には、こう書かれていく。
⸻
灰白回廊。
三方向に出口類似反応。
正面が最も安定。
外光、外気に似た反応あり。
ただし、本物か偽装か判断不能。
帰路喰らいによる帰還概念の損耗が継続中。
⸻
その時、ガルドスの盾が止まった。
彼は低く言う。
「壁だ」
リーゼが前を見る。
「壁?」
何も見えない。
正面には道が続いている。
薄い光もある。
だが、ガルドスの盾は、それ以上進まなかった。
目に見えない何かに当たっている。
ガルドスが方盾に力を込める。
ぎし、と音が鳴った。
空間が歪む。
白い道の奥に、泥のような輪郭が浮かび上がる。
小型泥門。
ただし、霧と白磁光で出口のように偽装されている。
ベルグが舌打ちした。
「出口じゃなくて壁かよ」
エリシアが杖を上げる。
「泥門。グズのものに似てるって報告があったわね」
マルクが即座に記録する。
⸻
出口類似反応の正体、小型泥門。
視覚、風、魔力反応を偽装。
接触まで判別困難。
⸻
「壊せるか」
アレクが聞く。
ガルドスは盾の奥で笑った。
「盾役に聞くな。押すのが仕事だ」
彼は大きく息を吸った。
方盾の紋が濃くなる。
「鋼旗盾術――城門返し(じょうもんがえし)!」
盾が前へ押し出された。
泥門が軋む。
ガルドスは、ただ押しているわけではない。
盾の面に魔力を流し、相手の壁の圧を受け、それを逆方向へ返している。
防御技であり、破城技でもある。
泥門の表面がへこむ。
グズの遠隔門が耐える。
だが、本体ではない。
遠隔の小型泥門では、Aランク盾役の本気を受け続けるには重い。
《小型泥門、圧力上昇》
「持たせなくてよい」
白い部屋で、余は言った。
「割らせろ」
《意図的破損》
泥門が割れた。
ガルドスの盾が、それを正面から打ち破る。
視界が開ける。
向こう側には、さらに通路があった。
今度こそ、外に似ている。
明るい。
風が強い。
マルクが息を呑む。
「抜けた……?」
リンドがいない今、誰もすぐには断定できない。
ネイザが弓を上げる。
「待て」
遅かった。
泥門が割れた瞬間、その中に溜められていた戻り水が、床へ一気に流れ出した。
ただの水ではない。
圧縮された、白磁粉と骨粉を含む重い水。
それが、ガルドスの足元へ広がる。
盾で前を押し切った彼は、足元への対応が一拍遅れた。
「ガルドス!」
エリシアが氷を走らせる。
「氷界術――銀杭!」
氷の杭が床へ刺さり、戻り水を凍らせようとする。
だが、戻り水の中には骨粉が混じっていた。
骨粉が氷の成長を歪める。
凍るが、均一ではない。
その隙間を、戻り水が走る。
ガルドスの足首を取った。
「ぐっ!」
ガルドスが片膝をつく。
方盾はまだ前にある。
だが、足が沈みかけている。
アレクが踏み込む。
「白銀剣技――水裂!」
白銀の剣が床の水を斬った。
戻り水の流れが一瞬だけ割れる。
ガルドスの足が少し浮く。
だが、そこへ湿骨軍列の槍が、割れた泥門の向こうから突き出た。
正面ではなく、斜め下。
盾の下。
膝。
足首。
腰。
ガルドスの防御の隙間を狙ってくる。
「させるか!」
ベルグが右から飛び込む。
「双斧技――骨砕車!」
双斧が車輪のように回り、骨槍をまとめて砕く。
だが、砕かれた骨片が戻り水へ落ち、さらに足元を重くする。
トーマはいない。
薬で水を鈍らせる者はいない。
サラナもいない。
光で霧を押し返す者はいない。
リンドもいない。
罠の次の動きを読む者はいない。
ひとつひとつの欠落が、今、重くなる。
◇
ネイザは、落武者を見た。
灰白回廊の奥。
軍帰路喰らいの落武者が、まだ立っている。
こちらを見ている。
いや、見ているのはガルドスではない。
道だ。
ガルドスが開けた泥門の向こう。
外に似た通路。
人間たちが希望と見なしかけた道。
落武者が刃を上げる。
「来る!」
ネイザが叫んだ。
落武者の刃が横へ振られる。
ガルドスが開いた道の意味が、切られた。
外へ続くように見えていた通路が、急に別の顔を見せる。
白い光が消え、灰色の壁が現れる。
風が止む。
そこは出口ではない。
ただの袋小路だ。
マルクの顔が歪む。
「偽装出口……」
リーゼの魔力盤が甲高く鳴る。
「外部反応、消失!」
オルフェンが祈祷布を握る。
「死者の流れも閉じました!」
つまり、ガルドスが全力で破った先は、出口ではなかった。
出口の顔をした袋小路。
その事実が、一瞬だけ全員の心を折りに来る。
だが、ガルドスは笑った。
「なら、また別を探すだけだ!」
彼は片膝をついたまま、方盾を横へ振った。
「鋼旗盾術――不落掃い!」
盾が壁のように横へ払われる。
迫っていた湿骨軍列の骨槍がまとめて弾かれる。
ガルドスの力はまだ落ちていない。
足を取られながらも、仲間の前を守っている。
アレクが叫ぶ。
「ガルドス、下がれ!」
「下がれる足なら下がっている!」
エリシアが氷を厚くする。
「今引き上げる!」
彼女は杖を両手で握った。
「氷界術――凍鎖引!」
氷の鎖がガルドスの腰へ伸びる。
戻り水に沈みかけた体を引き上げようとする。
その瞬間、影が動いた。
カゲヌイの影針。
狙いはガルドスではない。
エリシアの氷鎖の影。
氷鎖は形を持つ。
形があれば影ができる。
影が縫われれば、鎖は動かない。
「まずい!」
ネイザが矢を放つ。
「黒弓技――影断ち鴉!」
黒矢が影針へ飛ぶ。
一本を撃ち落とす。
二本目も。
だが、三本目が残る。
氷鎖の影が縫われた。
エリシアの魔力が引っかかる。
「っ……!」
氷鎖が動きを止めた。
ガルドスはまだ沈みかけている。
アレクが剣で戻り水を斬り続ける。
ベルグが骨槍を砕く。
ネイザが影針を撃ち落とす。
エリシアは氷鎖を動かそうとする。
全員がガルドスを引き上げようとしている。
だから、調査隊の守りが薄くなる。
白い部屋で、余は静かに言った。
「今だ」
◇
床下から、白磁根が伸びた。
狙いはリーゼ。
マルクではない。
オルフェンでもない。
魔力盤技師リーゼ。
彼女の持つ割れかけた魔力盤は、まだ使える。
出口反応を拾える。
だから狙う。
リーゼが悲鳴を上げる前に、オルフェンが祈祷布を投げた。
「祈布術――白縛り!」
祈祷布が白磁根に絡む。
根の動きが鈍る。
リーゼが後ろへ転がる。
マルクが彼女を引く。
だが、次の根が来る。
ガルドスは、それを見た。
自分は戻り水に足を取られている。
仲間たちは自分を助けようとしている。
そのせいで、調査隊が狙われた。
彼の顔から、迷いが消えた。
「アレク」
「黙れ」
「俺を切り離せ」
「黙れと言った!」
「このままだと、全員止まる」
ガルドスは方盾を握り直す。
その盾の紋が、強く光る。
「俺は盾だ」
「だから助ける!」
「違う」
ガルドスの声は、静かだった。
「盾は、残るものだ」
その言葉に、アレクの顔が歪んだ。
エリシアが叫ぶ。
「馬鹿言わないで! まだ引ける!」
「引いたら、調査隊が死ぬ」
「それでも――」
「エリシア」
ガルドスは、少しだけ笑った。
「氷を俺の足元ではなく、皆の道へ使え」
エリシアは、言葉を失った。
ガルドスは方盾を床へ突き立てた。
盾が、泥と戻り水の中へ深く沈む。
「鋼旗盾術奥義――不落城杭」
方盾が、城壁ではなく杭になった。
ガルドス自身を中心に、鋼色の防壁が広がる。
戻り水の流れを止める。
湿骨軍列の槍を受ける。
白磁根を弾く。
影針を盾の影に吸わせる。
彼一人が、通路の中央で城になった。
だが、その代償に、彼の体は完全にその場へ固定された。
もう動けない。
「行け!」
ガルドスが叫ぶ。
「ここは俺が止める!」
アレクが一歩踏み出した。
だが、ガルドスは怒鳴った。
「隊長!」
その声に、アレクが止まる。
「命令しろ!」
アレクの目が見開かれた。
ガルドスは、血を吐きながら笑った。
「俺を、置いていけと」
時間が止まったようだった。
霧の中で、骨槍が盾へ突き刺さる音だけが続いている。
エリシアは泣いていなかった。
だが、顔が真っ白だった。
ベルグは何かを言おうとして、言えなかった。
ネイザは弓を構えたまま、目を伏せなかった。
マルクは記録板を握っていた。
アレクは、白銀の剣を握りしめる。
手が震える。
だが、隊長として。
彼は言わなければならなかった。
「……全員、進め」
声が掠れていた。
ガルドスは頷いた。
「それでいい」
エリシアが、震える杖を前へ向ける。
「氷界術――銀路固定」
今度の氷路は、ガルドスの足元ではなく、仲間たちの前へ伸びた。
細い道。
新しい道。
ガルドスが止めている間だけ進める道。
アレクたちは走った。
マルク、リーゼ、オルフェン。
エリシア。
ネイザ。
ベルグ。
そして最後に、アレク。
彼はガルドスの横を通る時、一瞬だけ足を止めた。
「戻る」
「戻るな」
ガルドスは即答した。
「前へ行け」
アレクは、歯を食いしばって走った。
◇
ガルドスは一人残った。
方盾を床へ突き立てたまま。
不落城杭。
鋼旗の四剣の盾役として、彼が最後に使える奥義。
動けない。
逃げられない。
だが、一定時間、そこを城にする。
湿骨軍列が押し寄せる。
骨槍が盾へ突き刺さる。
白磁根が腕へ絡む。
影針が盾の影へ刺さる。
戻り水が腰まで上がる。
それでも、ガルドスは笑った。
「軽いな」
骨槍が肩を貫く。
「オークの群れより軽い」
白磁根が脇腹を裂く。
「竜の尾より軽い」
戻り水が胸まで上がる。
「仲間を守れない重さより、ずっと軽い」
湿骨軍列が、さらに押す。
盾がひび割れる。
ガルドスの腕の骨が折れる。
それでも、彼は盾を離さない。
最後に、軍帰路喰らいの落武者が現れた。
灰白の刃を構え、ガルドスの前に立つ。
「お前か」
ガルドスは血を吐きながら言った。
「帰る道を喰う武者」
落武者は答えない。
刃を振る。
ガルドスは盾で受ける。
受けた。
刃は盾に深く食い込む。
帰りたいという意思を斬ろうとする。
だが、ガルドスにはもう帰る意思がほとんどなかった。
あるのは、守る意思だけ。
落武者の刃が、わずかに鈍る。
白い部屋で、余は目を細めた。
「帰るつもりがない者には効きが悪いか」
《はい》
「なら、肉を殺せ」
湿骨軍列が、槍を一斉に突き出す。
ガルドスの体を貫く。
一本。
二本。
十本。
盾が割れる。
不落城杭が崩れる。
それでも彼は、最後まで盾の柄を握っていた。
「……行けたか」
誰も答えない。
だが、彼はきっと答えを知っていた。
仲間たちは進んだ。
それでいい。
次の瞬間、戻り水が彼の胸を呑み、骨槍が心臓を貫いた。
《Aランク盾役ガルドス・レイム、死亡》
《獲得ソウル:1,460》
《取得:鋼旗盾術奥義片、不落城杭の記録、守護意思の残滓》
◇
白い部屋に、静けさが戻る。
余は、しばらくガルドスが沈んだ場所を見ていた。
「良い盾だった」
《はい》
フィルエが静かに言った。
「アレク、かなり来てる」
「ああ」
怒り。
喪失。
責任。
命令したという痛み。
守る者が、守られる者を置いていった痛み。
それが、アレクの中で重なっている。
まだ折れてはいない。
だが、深く傷ついた。
「次はエリシアか」
《対象エリシア、魔力消耗大》
「いや、すぐには殺すな」
余は、前へ進むアレクたちを見る。
ガルドスが命で作った道を、彼らは走っている。
だが、その先も出口ではない。
「守るものを失った盾の次は、支える氷を削る」
《承知しました》
白骨書記が、新しい記録を刻む。
⸻
討伐記録:
リンド・カーレン
斥候。帰路裂け目を発見。死亡。
サラナ
光砂術師。分断阻止。死亡。
トーマ
薬師兼呪具師。命瓶割で道を開く。死亡。
ガルドス・レイム
盾役。不落城杭で仲間を通す。死亡。
残存:
アレク
エリシア
ネイザ
ベルグ
マルク
リーゼ
オルフェン
⸻
余は、残った名を見た。
「まだ七人」
しかし、その七人の背には、死者の重さが乗っている。
特に、アレク。
彼の白銀の剣は、霧の中でかすかに震えていた。
まだ覚醒ではない。
まだAランクだ。
だが、その奥で何かが軋み始めている。
「進め」
余は静かに言った。
「もっと奥で、もっと折れてもらう」
灰白回廊の先で、白い霧が新しい形を取り始めた。




