↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/272

第163話 白磁の騎士は、魔神の骨を測る

 白磁偽財殿はくじぎざいでんは、宝物庫であり、罠であり、墓場だった。


 白い床。


 白い壁。


 白い柱。


 そのすべてが、かつて喰った白磁庭園はくじていえんの名残でできている。


 だが、今は清らかではない。


 床には灰霧が這い、壁には戻り水の湿りが滲み、白い柱の根元には黒い魔物の血が流れている。


 正式宝箱の多くは、すでに戦闘用に転用されて壊れた。


 宝物室というより、白い戦場だった。


 その中央に、騎士が立っている。


 折剣濁白騎士せっけんだくはくきし


 濁白騎士の残骸に、Aランク隊長セリア・リンドの双剣片を組み込んで再構成された宝物庫守護者。


 片手には折れた白剣。


 もう片手には短い灰剣。


 兜には、折れた剣のような角。


 鎧の隙間には、赤錆と白磁片が混じっている。


 その騎士が、剣を鳴らした。


 かん。


 澄んだ音ではない。


 白磁の皿が割れる寸前のような、冷たい音だった。


「折剣濁白騎士、前へ」


《折剣濁白騎士、展開済み》


「宝物庫中枢補助核と接続しろ。ガルザヴェインの動きを記録。斬撃対応、罠線防衛、宝箱爆裂の指揮を任せる」


《接続します》


 白い部屋の床に、宝物庫戦闘図が浮かび上がる。


 白磁偽財殿。


 その奥にある宝物庫中枢補助核。


 左右に並ぶ壊れかけの宝箱。


 壁裏に張った影糸。


 床下の戻り水。


 天井に潜む白磁花粉。


 そして、中央へ向かってくる黒い反応。


 魔神ゴブリン・ガルザヴェイン。


 その周囲に残る精鋭群。


 数は、もう十万ではない。


 浅層と中層で凄まじく削った。


 それでも、残っている。


 しかも残った者ほど濃い。


 強化ゴブリン。


 黒い筋を持つオーク。


 金眼の狼型魔物。


 大型甲虫。


 飛行種の上位個体。


 そして、ガルザヴェイン本人。


《残存敵軍勢、推定二万六千から三万二千》


「まだそんなにいるか」


《ただし初期低級個体は大幅に減少。残存個体の平均ソウル価値は上昇しています》


「つまり、まだ稼げる」


《はい》


 白骨書記はっこつしょきが、白骨書記室から骨筆を走らせる。



残存敵群:精鋭化

低級個体:大幅減少

上位個体:増加

魔神ゴブリン周辺:高価値


推奨:

深部で削る。

一括処理より、強個体処理を優先。



「分かっている」


 余は壁面を睨んだ。


 ガルザヴェインは、泥塞大門将でいそくだいもんしょうグズとの戦いを越えて、さらに奥へ進んでいる。


 グズは止めた。


 削った。


 だが、倒せなかった。


 あれは、倒す相手ではない。


 まだ。


 今は、見せる。


 霧灰白庭迷宮の強さを。


 その腹の深さを。


 そして、ここがただ力だけの場所ではないことを。


    ◇


 白磁偽財殿へ、最初に入ってきたのは強化ゴブリンの群れだった。


 金色に濁った目。


 長い爪。


 黒い筋の走る腕。


 その動きは、浅層で死んだゴブリンどもとはまるで違う。


 速い。


 賢い。


 互いを踏まない。


 影糸を警戒し、泥を避け、白い床の反射を見ている。


 ガルザヴェインの影響で、急速に引き上げられている。


 それでも、迷宮の宝物庫を知らない。


 白磁偽財殿の床が、かすかに光った。


 そこにあるのは、ただの床ではない。


 価値の罠だ。


 冒険者なら宝に釣られる。


 魔物なら、魔力に釣られる。


 強化ゴブリンたちは、壁際に置かれた白い小片へ視線を向けた。


 白銀磁片に似せた偽宝。


 強い魔力反応を持つが、触れれば爆ぜる。


 先頭の一体が飛びついた。


 その瞬間、床下の白磁板が反転した。


 偽宝が割れ、灰白の光が広がる。


 宝箱爆裂ではない。


 宝そのものを罠にした、偽価値爆裂。


 白い破片が弾け、強化ゴブリンの顔面を裂く。


 後続が止まる。


 そこへ、折剣濁白騎士が踏み込んだ。


 白剣が一閃。


 一体の首が落ちる。


 灰剣が逆手に走り、もう一体の膝を断つ。


 強化ゴブリンたちは、すぐに散った。


 正面から固まらない。


 横へ。


 壁へ。


 天井へ。


 さすがに学習している。


「騎士、罠線防衛」


《折剣濁白騎士、対応》


 折剣濁白騎士は、追わなかった。


 ただ、床を剣で叩いた。


 かん。


 白磁の音が、財殿に響く。


 その音に合わせて、壁際の宝箱が開く。


 中から出てきたのは宝ではない。


 白磁根。


 細い白い根が、壁を這う強化ゴブリンの足首へ絡む。


 ゴブリンが爪で切ろうとする。


 だが、根は硬い。


 そこへ灰霧が吹き込む。


 視界が消える。


 折剣濁白騎士の灰剣が、霧の中を走った。


 強化ゴブリンが次々と倒れる。


《白磁偽財殿、強化ゴブリン群処理》


《死亡推定:二千八百体》


《獲得ソウル:392,000》


「よし」


 だが、ゴブリン群は囮だった。


 その後ろから、黒いオークの集団が入ってくる。


 ガルザヴェインの魔力で引き上げられた上位オーク。


 ただ力が強いだけではない。


 白磁床を叩いて罠を探る。


 死んだゴブリンを前へ投げ、床の反応を見る。


 偽宝をすぐには拾わない。


「ゴブリンの軍勢だけでなく、オークまで学んでいるな」


《ガルザヴェインの鐘による行動修正の可能性があります》


 その通りだった。


 遠くで銅鐘が鳴る。


 ごん。


 黒オークたちは、ゴブリンの死体を盾のように持ち上げて進む。


 死体で罠を踏ませる。


 白磁根が死体へ絡む。


 その隙に、本体が進む。


「腹立たしい」


 余は言った。


「死体の使い方を学んだか」


 ならば、こちらも死体を使う。


「白骨書記、死体価値を偽装」


 白骨書記が骨筆を走らせる。



死体価値偽装:実行

対象:強化ゴブリン死体

表示:罠踏み用の軽量死体

実態:戻り水爆裂核入り



「やれ」


 床下から戻り水が死体へ染み込む。


 死体を盾にした黒オークが、さらに一歩進む。


 その瞬間、死体が膨れた。


 中に仕込まれた戻り水が一気に弾ける。


 水ではない。


 白磁片と灰霧を含んだ圧縮水。


 死体盾が爆ぜ、黒オークたちの顔と腕を裂いた。


 折剣濁白騎士が、その隙へ入る。


 白剣が腕を落とす。


 灰剣が喉を裂く。


 だが、黒オークも強い。


 一体が騎士の白剣を棍棒で受けた。


 別の一体が背後から殴る。


 折剣濁白騎士の肩が砕ける。


《折剣濁白騎士、肩部損傷》


「修復」


《白磁偽財殿から修復材供給》


 白い床から白磁片が浮き上がり、騎士の肩へ集まる。


 傷を塞ぐ。


 だが、その間に黒オークがさらに押し込む。


「宝箱、第二列を開け」


《第二列、起動》


 左右の宝箱が開いた。


 中から、赤錆噛みが飛び出した。


 ただの赤錆噛みではない。


 黒市主戦後の余剰素材と、強化魔物の歯を混ぜて育てていた戦闘用小型群。


 金属だけでなく、魔力の通った骨や武器の留め具も噛む。


 赤錆噛みが黒オークの棍棒の金具へ群がる。


 鎧の留め具へ。


 牙飾りへ。


 足甲の輪へ。


 黒オークたちの装備が崩れる。


 折剣濁白騎士が踏み込んだ。


 白剣、灰剣、白剣、灰剣。


 強い。


 以前よりも、剣筋が読みやすい。


 いや、違う。


 宝物庫中枢補助核が、敵の動きを分析し、折剣濁白騎士へ渡している。


 セリアの隊長判断片。


 暁秤の死地値踏みの記録。


 赫槍の灯の骸門突破記録。


 それらが、騎士の剣へ混ざっている。


《黒オーク群、処理》


《死亡推定:千九百体》


《獲得ソウル:475,000》


    ◇


 それでも、ガルザヴェインはまだ来ない。


 彼は財殿の入口に立っていた。


 金色の目で、戦いを見ている。


 銅鐘を時折鳴らし、群れの動きを変えている。


 彼は配下を捨て駒にしているのではない。


 いや、捨て駒でもある。


 だが、それだけではない。


 迷宮の罠を見ている。


 折剣濁白騎士の剣を見ている。


 宝箱の罠を見ている。


 白磁偽財殿そのものを見ている。


「見過ぎだ」


 余は低く言った。


「フィルエ」


「分かってる」


 フィルエの森灰観測網しんかいかんそくもうが、財殿の床へ薄く伸びる。


 ガルザヴェインの視線が、どこへ向いているのか。


 どの罠を覚えようとしているのか。


 どの剣筋を読んでいるのか。


 それをずらす。


「森灰術・視線違え(しせんたがえ)」


 白磁偽財殿の光が、ほんの少し曲がった。


 ガルザヴェインの目には、折剣濁白騎士の白剣が一瞬遅れて見える。


 罠線が半歩ずれて見える。


 宝箱の位置が少し浅く見える。


 だが、ガルザヴェインは眉を動かした。


 気づいた。


 完全に騙されてはいない。


「メ……ズレル」


 彼は言った。


 フィルエが小さく舌打ちする。


「勘がいい」


「勘ではない。成長だ」


 ガルザヴェインが一歩踏み込んだ。


 ついに、魔神ゴブリン本人が白磁偽財殿へ入る。


 周囲の魔物が、一斉に下がった。


 これまでの軍勢戦とは違う空気になった。


 折剣濁白騎士が、正面で剣を構える。


 ガルザヴェインは、銅鐘を鳴らさなかった。


 自分で戦うつもりだ。


「ツギ」


 ガルザヴェインが言う。


「ケン」


 剣を持つ騎士。


 魔神は、それを相手に選んだ。


 折剣濁白騎士が、静かに踏み込む。


 先に動いたのは騎士だった。


 白剣が上から走る。


 ガルザヴェインは腕で受ける。


 血が飛ぶ。


 だが、骨までは届かない。


 灰剣が脇腹へ走る。


 ガルザヴェインは半歩引いて避ける。


 避けた先に、白磁床の罠線。


 そこが開き、戻り水が噴く。


 ガルザヴェインの足が濡れる。


 次の瞬間、赤錆噛みが足甲へ群がる。


 だが、ガルザヴェインは足を振っただけで、赤錆噛みを壁へ叩きつけた。


 数体が潰れる。


 折剣濁白騎士が再び斬る。


 白剣が腕を裂く。


 灰剣が胸を狙う。


 ガルザヴェインの拳が、灰剣を横から叩いた。


 剣が曲がる。


《折剣濁白騎士、灰剣損傷》


「修復しろ」


《修復中》


 だが、ガルザヴェインは待たない。


 踏み込む。


 拳。


 折剣濁白騎士の胸へ直撃。


 白磁鎧が割れる。


 騎士が後ろへ滑る。


 その背後に、宝箱が三つ浮かぶ。


 蓋が開く。


 中から白磁根が飛び出し、ガルザヴェインの腕へ絡む。


 ガルザヴェインは笑った。


「シロイ、ツタ」


 彼は、白磁根を引きちぎった。


 ただの力ではない。


 黒い魔力で根を腐らせるように破壊する。


「宝物庫の根を腐らせるか」


《ガルザヴェインの魔神性が白磁根に干渉しています》


「なら、灰で挟め」


 フィルエがすぐに動く。


 森灰観測網が、白磁根の外側へ灰を巻く。


 白だけでは腐らされる。


 なら、灰を混ぜる。


 白磁根が灰色を帯びる。


 ガルザヴェインが再び引きちぎろうとする。


 今度は、少しだけ遅い。


 その一瞬に、折剣濁白騎士の白剣が首筋へ届いた。


 深くはない。


 だが、斬った。


 黒い血が流れる。


 ガルザヴェインの金色の目が光る。


「イイ」


 彼は、笑った。


「モット」


「こいつ、本当に戦いを楽しんでいるな」


《はい》


「なら、さらに見せろ」


 余は宝物庫中枢補助核へ命じる。


「白磁偽財殿、全開」


《危険です》


「やれ」


《白磁偽財殿、戦闘全開》


 財殿全体が鳴った。


 壁が開く。


 床が反転する。


 壊れた宝箱が、罠として再構成される。


 白磁花が咲き、花粉を吐く。


 影糸が柱から柱へ走る。


 戻り水が床下を流れ、ところどころに鏡面を作る。


 折剣濁白騎士が、白い戦場の中央で剣を構え直した。


 ここからは、騎士だけではない。


 財殿そのものが、ガルザヴェインと戦う。


 白磁床が裂ける。


 ガルザヴェインが飛ぶ。


 飛んだ先に影糸。


 腕で切る。


 切った腕に白磁花粉。


 目を細める。


 その瞬間、折剣濁白騎士の剣が走る。


 ガルザヴェインが受ける。


 拳で。


 爪で。


 肩で。


 血を流しながら、笑う。


 だが、彼の周囲にいた精鋭魔物たちは笑えない。


 財殿全開の罠に、次々と飲まれていく。


 白磁根に吊られる。


 宝箱爆裂に裂かれる。


 戻り水鏡へ落ちる。


 影糸で首を落とされる。


 赤錆噛みに装備を崩され、湿骨軍列に刺される。


《白磁偽財殿、全開戦闘》


《精鋭魔物群、死亡多数》


《死亡推定:七千四百体》


《獲得ソウル:1,184,000》


 白い部屋に、また巨大な数字が流れ込む。


 現在保有ソウルが膨れ上がる。


 だが、同時に損耗も激しい。


《警告》


《白磁偽財殿、損傷率62%》


《正式宝箱多数破損》


《宝物庫中枢補助核、負荷上昇》


《折剣濁白騎士、中度損傷》


「構わん。押せ」


 ここは戦場だ。


 宝物庫ではない。


 いや、今は宝物庫そのものが武器だ。


    ◇


 折剣濁白騎士とガルザヴェインの戦いは、さらに激しくなった。


 騎士が斬る。


 魔神が受ける。


 白剣が砕けかける。


 灰剣が欠ける。


 ガルザヴェインの拳も血に濡れる。


 白磁花粉で片目が白く濁る。


 だが、彼は止まらない。


 むしろ、剣を見ている。


 学んでいる。


 折剣濁白騎士の斬撃に合わせ、腕の角度を変え始める。


 白剣を受ける時は骨で。


 灰剣を避ける時は肩で。


 罠線が来る時は、一歩ではなく半歩で。


 成長している。


 この短い戦いの中で。


「騎士、剣筋を変えろ」


《折剣濁白騎士、剣技変更》


 折剣濁白騎士の動きが変わる。


 セリアの双剣片由来の速さから、今度は宝物庫守護の重い剣へ。


 白剣で止め、灰剣で裂く。


 ガルザヴェインが笑う。


「カワル」


 拳が来る。


 折剣濁白騎士が白剣で受ける。


 受けきれない。


 胸がまた割れる。


 だが、その割れた胸の中から、白磁根が飛び出した。


 ガルザヴェインの腕へ絡む。


 騎士自身を罠にした。


 ガルザヴェインが目を見開く。


 灰剣が走る。


 今度は深く入った。


 ガルザヴェインの胸を、縦に裂く。


 黒い血が白い床へ落ちた。


 その血が、じゅう、と音を立てる。


 白磁床が黒く変色する。


《ガルザヴェイン、負傷》


《魔神血が白磁床に侵食》


「血まで厄介か」


 だが、血を流した。


 傷を負わせた。


 ガルザヴェインの笑みが、さらに深くなる。


「ツヨイ」


 彼は折剣濁白騎士を見た。


 次に、白磁偽財殿全体を見た。


 そして、さらに奥を見た。


「モット、オク」


 余の背筋が、わずかに冷えた。


 もう、財殿の強さを理解した。


 そして、その奥にもっと強いものがあると分かった。


「満足したか」


 余は言った。


「なら次だ」


 折剣濁白騎士が再び構える。


 だが、そこでガルザヴェインは銅鐘を鳴らした。


 ごん。


 残った精鋭魔物たちが、一斉に白磁偽財殿へ雪崩れ込む。


 ガルザヴェイン本人が戦っている間に、残りを一気に押し込むつもりだ。


 彼は、財殿を突破すると決めた。


「させるか」


 余は白い部屋で手を広げた。


「財殿、崩落罠を起動」


《危険です。白磁偽財殿が大きく損傷します》


「構わん。ここで残りを削る」


《実行》


 白磁偽財殿の天井が、鳴った。


 白い柱の一部が、意図的に割れる。


 天井から白磁片が降る。


 ただ落ちるのではない。


 刃だ。


 白い刃の雨。


 強化魔物たちへ降り注ぐ。


 オークの肩を裂く。


 黒狼の背を割る。


 飛行種を串刺しにする。


 大型甲虫の殻を砕く。


 その下で、折剣濁白騎士が剣を振るう。


 宝箱が爆ぜる。


 戻り水が噴く。


 影糸が走る。


 財殿が、自分の天井を犠牲にして魔物を殺していく。


《白磁偽財殿崩落戦闘》


《死亡推定:五千九百体》


《獲得ソウル:1,062,000》


《白磁偽財殿、損傷率83%》


 財殿は壊れかけている。


 だが、敵も壊れた。


 残った精鋭は、さらに少ない。


 その中心で、ガルザヴェインは白磁刃の雨を浴びながら立っていた。


 体に傷が増えている。


 肩から血が流れ、胸の裂傷も深い。


 片目は白磁花粉で濁り、腕には白磁根の跡が残っている。


 それでも、立っている。


 折剣濁白騎士も、かなり壊れている。


 白剣は半分欠け、灰剣はひび割れ、胸の白磁鎧は砕けている。


 だが、まだ立っている。


 ガルザヴェインが一歩出る。


 折剣濁白騎士が剣を構える。


 最後の正面衝突。


 その瞬間、フィルエが言った。


「ロード。もういい」


「何?」


「あれ、ここで倒す相手じゃない。もう財殿の強さは見た。これ以上やると騎士が壊れる」


 余は少し黙った。


 折剣濁白騎士は重要戦力だ。


 ここで完全破壊されるのは惜しい。


 ガルザヴェインを殺すつもりなら、まだぶつける。


 だが、余の狙いは違う。


「折剣濁白騎士、下がれ」


《下げます》


 折剣濁白騎士は、一瞬だけ剣を下げなかった。


 まるで、まだ戦えると言うように。


「命令だ」


 騎士は剣を下げた。


 白磁の床が開き、折剣濁白騎士を奥へ引き込む。


 ガルザヴェインは追わなかった。


 ただ、騎士が消えた場所を見ていた。


「ケン……ツヨイ」


 そして、奥を見た。


「ツギ」


 白磁偽財殿の奥に、新しい道が開く。


 骸門残響隔離層の外周へ続く道。


 そこには、黒市主から奪った骸門牢獄の残響が封じられている。


 危険な場所だ。


 だが、ガルザヴェインをさらに試すには、避けて通れない。


「行かせるぞ」


《危険です》


「分かっている」


 白骨書記が、戦争台帳へ新しい数字を書き込む。



白磁偽財殿戦戦果:


強化ゴブリン群:392,000

黒オーク群:475,000

白磁偽財殿全開戦闘:1,184,000

崩落戦闘:1,062,000

その他宝箱罠・赤錆噛み処理:286,000


追加獲得ソウル合計:3,399,000


白磁偽財殿修復見込み:高額

折剣濁白騎士:中度以上損傷

宝物庫中枢補助核:過負荷寸前


現在保有ソウル:7,523,530



 7,523,530。


 もう、笑うしかなかった。


 だが、まだ終わっていない。


 ガルザヴェインは生きている。


 残った魔物も、まだいる。


 そして、次は骸門の残響だ。


 黒市主の死骸。


 牢獄の残り香。


 ガルザヴェインが、それにどう反応するか。


 余は白い部屋で、静かに告げた。


「来い、魔神ゴブリン」


 灰白の霧の奥で、金色の目が光った。


「次は、死んだ迷宮の檻を見せてやる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。