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第148話 勝者は、最後に迷宮へ喰われる

 黒市主くろいちぬしは死んだ。


 赫槍のかくそうのあかりは勝った。


 その事実だけなら、彼らは英雄だった。


 死んだ迷宮を体に縫い込み、闇市の奥で迷宮を商品として扱っていた怪物を、Aランクパーティ四人が倒した。


 槍は折れかけ、盾は砕け、魔力は尽き、足は裂けている。


 それでも、勝った。


 普通の戦場なら、ここで終わりだ。


 倒れた敵。


 息を荒くする勝者。


 仲間同士の短い確認。


 そして撤退。


 だが、ここは普通の戦場ではない。


 霧灰白庭迷宮むかいはくていめいきゅうの中だ。


 勝利も、余の腹の内側にある。


「狩れ」


 余が命じた瞬間、骸門誘導室がいもんゆうどうしつの霧が変わった。


 黒市主が死んだことで、骸門牢獄がいもんろうごくの黒い檻は崩れかけていた。


 だが、完全には消えていない。


 黒い門の残滓ざんしが、床と壁に焦げ跡のように残っている。


 赫槍の灯は、その隙間を見ていた。


 レオハルトが折れかけた槍を杖のようにつく。


「……来るぞ」


 ミラが膝をついたまま、顔を上げた。


「何が?」


「迷宮だ」


 その言葉は正しかった。


 今までは、黒市主が敵だった。


 だが、これからは迷宮そのものが敵になる。


 バズが砕けた重祈盾じゅうきじゅんを持ち直した。


 盾の中央には大きな亀裂。


 左腕は垂れ、肋骨も折れている。


 それでも、彼は前に出た。


「レオ、ミラを連れて下がれ」


「お前が残る気か」


「いつものことだろ」


 シオンは片足を引きずりながら、投げ針を指に挟んだ。


「普通の帰路は無理。黒市主が開けた骸門の裂け目、まだ死んでない。あそこを抜ければ外層へ跳べるかもしれない」


 フィルエが白い部屋で目を細めた。


「ロード。あれ、まずい」


「分かるのか」


「うん。帰路じゃない。黒市主が作った“回収路”の残り。迷宮の出口じゃないから、帰路喰らいが少し噛みにくい」


「つまり、あいつらは余の出口を使わずに逃げる気か」


「うん」


「させるか」


 赫槍の灯は、まだ死んでいない。


 黒市主に勝った後でも、逃げ道を探している。


 しかも普通の帰路ではなく、黒市主の骸門残滓を利用するつもりだ。


 やはり強い。


 やはり帰してはならない。


「シオンからだ」


《対象:シオン》


「足を止めろ。あいつが逃げ道を見る」


 灰霧の奥で、ハイハネが羽を広げた。


 未成熟の霧喰い大蛾。


 だが、その追跡粉はもう十分役に立つ。


 ハイハネが霧を吸う。


 そして、白灰の粉を吐いた。


 粉は霧に混じり、シオンの裂けた足へ絡む。


 シオンはすぐ気づいた。


「粉!」


 彼は上着を裂き、足を払う。


 判断が早い。


 だが、そこへカゲヌイが入る。


 影縫い罠師かげぬいわなしカゲヌイ。


 新たに得た影鎖針えいさしんが、シオンの足影を縫った。


「っ!」


 シオンの動きが止まる。


 完全停止ではない。


 一拍。


 それだけ。


 だが、その一拍で、湿骨兵しつこつへいが三体、槍を揃えて突き出した。


 シオンは笑った。


「遅い」


 投げ針が三本飛ぶ。


 湿骨兵の関節へ。


 一体の膝。


 一体の肘。


 一体の首。


 湿骨兵三体が崩れかける。


「Aランクの斥候は、片足でもこれか」


《湿骨兵三体、損傷》


「構わん。押せ」


 損傷した湿骨兵は、崩れながらも前に出た。


 骨が砕けても、止まらない。


 シオンが二本目の投げ針を構えた瞬間、マネの声が霧の中に響いた。


 それは、レオハルトの声だった。


「シオン、右だ!」


 シオンの目が、ほんの一瞬だけ右へ動いた。


 本物ではないと、すぐに気づいただろう。


 だが、反応はした。


 その瞬間、カゲヌイの二本目の影鎖針が入る。


 今度は、彼の投げ針を持つ手の影へ。


「しまっ――」


 湿骨兵の槍が、シオンの腹を貫いた。


 それでも、シオンは最後の針を投げた。


 針はカゲヌイの影へ飛ぶ。


 カゲヌイが退くより早く、針が影を裂いた。


《カゲヌイ、軽度損傷》


「最後まで厄介な」


 シオンは血を吐きながら笑った。


「レオ……骸門を、使え」


 その言葉を最後に、湿骨兵の槍が彼の胸を貫いた。


《Aランク斥候兼投擲手:シオン、討伐》


《獲得ソウル:1,090》


《取得:裂標針、骸門残滓読解片、片足撤退術の記憶、投擲精度の残滓》


 一人目。


 だが、喜ぶ暇はない。


 レオハルトが、シオンの言葉を聞いていた。


 骸門の裂け目を使う。


 やはり、あれが逃走路だ。


「骸門残滓を閉じろ」


《骸門牢獄由来の残滓です。完全閉鎖には時間がかかります》


「時間はない」


 フィルエが言った。


「私がずらす」


「無理をするな」


「少しだけ」


「その少しが毎回大きい!」


 フィルエは答えず、森灰観測網しんかいかんそくもうを骸門の裂け目へ伸ばした。


 裂け目は黒い。


 迷宮の出口ではなく、黒市主が持ち込んだ回収路の破片。


 そこを通られると厄介だ。


 フィルエがその“道の見え方”を少しずらす。


 真っ直ぐに見える裂け目が、実際には半歩ずれる。


 レオハルトが気づく。


「迷宮が道をずらしてる!」


 ミラが苦笑する。


「まだやる気なの、この迷宮」


「ここまで来て、逃がす気があるわけないだろ」


 レオハルトはミラを支えようとした。


 だが、バズが前に出る。


「俺が止める」


「バズ」


「三歩は持たせる」


「足りない」


「じゃあ五歩だ」


 バズは笑った。


 砕けた重祈盾を構える。


 そこへ、泥が押し寄せた。


 泥塞門将でいそくもんしょうグズ。


 泥門番長ではない。


 進化した門将。


 Aランク盾役ガルドを喰って得た、門を塞ぐ力。


 グズは泥の奥から現れ、巨大な門槌を構えた。


「グ……ズ……!」


 その声が、骸門誘導室に重く響く。


 バズが笑う。


「でかいな」


 グズが門槌を振る。


 バズが盾で受ける。


 衝突。


 白磁床が割れた。


 バズの両足が沈む。


 だが、彼は倒れない。


「重祈盾・灯壁残火とうへきざんか!」


 盾の亀裂から、祈りの火が漏れる。


 黒市主戦で消えかけた灯。


 それを、バズは最後の防御に変えた。


 グズの泥門が止まる。


「まだ押し返すか」


《対象バズ、極度の負傷状態でも防御性能維持》


「なら、正面から折る」


 グズがさらに泥を盛る。


 泥門が、壁ではなく山になる。


 バズは歯を食いしばる。


 肋骨が折れている。


 腕も限界だ。


 だが、祈りの盾はまだ立っている。


 バズが叫んだ。


「レオ! 行け!」


「行かせん」


 余は命じた。


「グズ、塞げ」


 泥が横へ広がる。


 バズを押し潰すのではない。


 レオハルトたちの道を塞ぐ。


 バズはそれを見て、盾を投げた。


 砕けた重祈盾を、泥門の中心へ。


 盾が泥の中で光る。


「重祈盾・灯杭とうぐい!」


 盾が杭になる。


 泥門を一瞬だけ固定する。


 グズの動きが止まった。


 バズは、その隙に素手で泥門へ突っ込んだ。


 押す。


 両腕で。


 砕けた肋骨で。


 祈りの残りで。


 泥塞門将グズと、真正面から押し合う。


 すごい。


 本当にすごい。


 だが、もう盾はない。


 赤錆噛みが、泥の中から這い上がる。


 盾ではない。


 バズの鎧の留め金でもない。


 祈祷具を繋いでいた鎖。


 そこを噛む。


 かり。


 灯杭の光が揺らぐ。


 グズの門槌が、横から入った。


 バズは避けない。


 避けられない。


 門槌が彼の脇腹を潰した。


 それでも、彼は笑った。


「五歩……稼いだぞ」


 次の門槌が、頭部を叩き潰した。


《Aランク重装僧兵:バズ、討伐》


《獲得ソウル:1,420》


《取得:重祈盾片、灯壁の残火、僧兵踏ん張り骨、盾杭術式の残滓》


 二人目。


 道は塞がった。


 だが、バズが稼いだ五歩で、レオハルトとミラは骸門の裂け目へ近づいていた。


 ミラはもう立っていない。


 レオハルトが片腕で支えている。


 それでも、彼女の杖には火が残っていた。


「ミラ」


「分かってる」


「逃げるぞ」


「逃げられたらね」


 ミラは、こちらの罠を見て笑った。


 疲れた顔で。


 でも、目は燃えている。


「この迷宮、火を怖がってる」


「怖がってはいない」


 余は低く言った。


 だが、ミラの火は厄介だ。


 浄火。


 死骸にも、残響核にも、影にも効く。


 もし十分な魔力が残っていれば、こちらの宝物庫罠も焼かれかねなかった。


 だが今のミラは、限界に近い。


 なら、そこを突く。


「火返し宝箱を起動」


《未完成機構です》


「ユーファの鑑定返しを応用しろ。火の価値を返せ」


《危険です》


「やれ」


 骸門誘導室の壁に、半ば壊れた正式宝箱が浮かび上がる。


 蓋は開いている。


 中身はない。


 ただ、箱の内側に灰白の紋が光る。


 ミラが即座に気づいた。


「反射箱!」


 彼女は火を止めようとした。


 しかし、止めるには遅い。


 骸門の裂け目を開くため、彼女はすでに浄火を放っていた。


「炎環術・細火輪さいかりん!」


 細い炎の輪が、骸門の裂け目を焼き開く。


 だが、その火の一部が、火返し宝箱へ吸われた。


 箱が赤く光る。


 そして、同じ火を返す。


 ただし、浄火ではない。


 灰霧と白磁花粉を混ぜた、濁った反射炎。


 ミラは杖で受けた。


「っ、ああ!」


 杖が割れる。


 炎が彼女の肩を焼く。


 それでも、ミラは倒れない。


「ふざけるな……私の火を、汚すな!」


 最後の魔力を絞る。


 火返し宝箱がさらに光る。


 まずい。


 あの女、反射されると分かっていて、箱ごと焼き切るつもりだ。


「折剣濁白騎士」


《展開》


 白磁偽財殿から、折剣濁白騎士せっけんだくはくきしが歩き出す。


 セリアの双剣片を組み込んだ、宝物室守護騎士。


 折れた白剣と灰剣を構え、ミラへ向かう。


 レオハルトが前に出ようとする。


 だが、ミラが止めた。


「行って」


「ミラ」


「行けって言ってるの!」


 ミラの火が大きくなる。


「炎環術・浄火葬じょうかそう!」


 炎が彼女自身を包む。


 折剣濁白騎士の剣が炎に入る。


 白剣が焼ける。


 灰剣が溶けかける。


 だが、騎士は止まらない。


 ミラの杖が完全に砕ける。


 火返し宝箱が反応し、最後の炎を一部奪う。


 その奪った炎を、折剣濁白騎士の白剣へ流す。


 白剣が、汚れた浄火をまとった。


 そして、ミラの胸を貫いた。


 ミラは笑った。


 血を吐きながら。


「……最悪。私の火で、私を焼くなんて」


 そのまま、白い炎に包まれて倒れた。


《Aランク炎術師:ミラ、討伐》


《獲得ソウル:1,510》


《取得:浄火輪の残滓、炎環術式片、焼けた杖核、火返し反応記録》


 三人目。


 残るはレオハルトだけ。


 槍使い隊長。


 黒市主を貫いた男。


 仲間三人を失い、槍も折れ、片腕も血に染まっている。


 それでも、彼は立っていた。


 骸門の裂け目は、まだ少し開いている。


 ミラが最後に焼いたからだ。


 そこへ走れば、外層へ抜けられる可能性がある。


 レオハルトは走った。


 余は、少しだけ感心した。


 仲間の死を見て、叫ばない。


 立ち止まらない。


 復讐に寄らない。


 生きて帰ることを選んだ。


 Aランクの隊長だ。


 だから、最後に一番厄介だ。


「帰路喰らい」


《展開》


 灰霧の奥で、帰路喰らいの落武者が刃を鳴らした。


 ただし、今回の帰路は普通ではない。


 骸門の裂け目。


 黒市主の回収路。


 だが、レオハルトはそこを“帰る道”として見ている。


 ならば、喰える。


 落武者が現れる。


 灰白の鎧。


 欠けた兜。


 帰路を見つめる眼のない顔。


 レオハルトが槍を構えた。


 折れた槍。


 それでも構える。


「最後に武者か」


 帰路喰らいが無言で刃を上げる。


 レオハルトは笑った。


「いい。分かりやすい」


 踏み込む。


 速い。


 黒市主との戦いでボロボロなのに、まだ速い。


「赫槍技・灯残し(あかりのこし)!」


 折れた槍の先から、赤い残火が伸びた。


 槍の長さを補う火の穂先。


 それが、帰路喰らいの刃とぶつかる。


 火花。


 灰霧。


 白磁の欠片。


 レオハルトは一度、二度、三度と突く。


 帰路喰らいは受ける。


 ただの正面戦ではない。


 帰ろうとする意思へ、刃を伸ばす。


 レオハルトの足元の影が、骸門の裂け目へ向いている。


 そこを斬る。


 レオハルトが歯を食いしばる。


「っ、足が……!」


 帰路そのものを斬られている。


 だが、彼はまだ進む。


 強い。


 本当に強い。


「フィルエ」


「うん」


「道をずらせるか」


「一回だけ」


「やれ」


 フィルエが床に手をつく。


 森灰術・道違え(みちたがえ)。


 骸門の裂け目が、レオハルトの目には半歩近く見える。


 実際には半歩遠い。


 そのズレで、彼の踏み込みが少しだけ狂う。


 レオハルトは気づいた。


「またか!」


 それでも、槍を突く。


 帰路喰らいの肩を裂いた。


《帰路喰らいの落武者、軽度損傷》


「まだ届くか」


 そこへ、マネが声を出した。


 ミラの声だった。


「レオ、行って」


 レオハルトの足が止まった。


 ほんの一瞬。


 彼はそれが偽物だと分かっていたはずだ。


 それでも、止まった。


 仲間の声だからだ。


 その一瞬に、帰路喰らいの刃が彼の帰還意思を喰った。


 足元から、骸門の裂け目へ向かう赤い線が消える。


 レオハルトは、外へ抜ける道を見失った。


「……やるな、迷宮」


 彼は笑った。


「勝った相手を、帰さないか」


 余は白い部屋で答えた。


「当然だ」


 届かない。


 だが、言った。


「ここは余の迷宮だ」


 レオハルトは最後に槍を構えた。


 逃げ道を失っても、折れない。


 だから、正面から終わらせる。


 泥塞門将グズが背後の道を塞ぐ。


 折剣濁白騎士が左から迫る。


 カゲヌイの影鎖針が足元を縫う。


 ハイハネの霧が視界を塞ぐ。


 帰路喰らいの落武者が、正面に立つ。


 レオハルトは一人で、全部を見た。


 そして、笑った。


「赫槍の灯、隊長レオハルト」


 彼は折れた槍を掲げた。


「ここまでだ」


 帰路喰らいの刃が振り下ろされる。


 レオハルトの槍が、それを迎え撃つ。


 最後の一撃。


 槍が砕けた。


 刃が胸を通った。


 レオハルトの体が、膝から崩れる。


《Aランク槍使い隊長:レオハルト、討伐》


《獲得ソウル:1,860》


《取得:赫槍の折れ槍、灯貫きの記憶、隊長判断片、骸門突破記録》


 静かになった。


 骸門誘導室には、黒市主の残骸。


 赫槍の灯の死体。


 折れた槍。


 砕けた盾。


 焼けた杖。


 投げ針。


 そして、灰白の霧。


 白い部屋に、結果が表示される。



赫槍の灯討伐結果:


シオン

獲得ソウル:1,090


バズ

獲得ソウル:1,420


ミラ

獲得ソウル:1,510


レオハルト

獲得ソウル:1,860


赫槍の灯合計獲得ソウル:5,880


黒市主討伐獲得ソウル:134,500


最終戦合計獲得ソウル:140,380


戦闘前保有ソウル:30,150

黒市主討伐後保有ソウル:164,650

赫槍の灯討伐後保有ソウル:170,530



 余は、その数字をしばらく見ていた。


 170,530。


 異常な数字だ。


 今までとは違う。


 迷宮として、一段どころではなく、何段も跳ねた数字。


 だが、骸門誘導室は壊滅寸前。


 残響核汚染は濃い。


 フィルエはまた反動を受けている。


 帰路喰らいも、折剣濁白騎士も、グズも、損傷している。


 勝利は大きい。


 だが、傷も深い。


《戦闘損耗》



骸門誘導室:損傷率92%

骸門牢獄残響汚染:極大

フィルエ:命脈反動、中

帰路喰らいの落武者:軽度損傷

泥塞門将グズ:軽度損傷

折剣濁白騎士:中度損傷

湿骨兵三体損壊

ハイハネ:疲労

カゲヌイ:軽度損傷

正式宝箱系罠:複数破損



「修復にいくらかかる」


《初期封じ込めに20,000。完全修復と汚染隔離に追加で35,000以上》


「高いな」


《骸門牢獄由来の残響汚染が大きいためです》


「だが、払える」


《はい》


 払える。


 黒市主を喰ったから。


 赫槍の灯を喰ったから。


 余の迷宮は傷ついた。


 だが、傷ついただけ強くなる材料を得た。


「管理音声」


《はい》


「骸門牢獄の残響を、完全には消すな」


《危険です》


「分かっている」


《汚染が残ります》


「隔離する。利用する。黒市主が着ていた死骸を、今度は余が檻に入れる」


《隔離区画が必要です》


「作る。後でな」


 フィルエが小さく言った。


「ロード」


「何だ」


「終わったね」


「終わった」


 黒市主は死んだ。


 赫槍の灯も死んだ。


 墓銭拾いも、卵市場も、サナギも、闇市そのものも残っている。


 だが、黒市主はもういない。


 余に値札を付けた男は、余の迷宮の中で死んだ。


 その体に埋め込まれていた多くの残響核も崩れ、ソウルになった。


 完全な終わりではない。



「白骨書記」


 白骨書記が、骨筆を構える。


「記録しろ」



黒市主、討伐。

赫槍の灯、全滅。

骸門牢獄残響、回収対象化。

闇市本流、指導者を喪失。

霧灰白庭迷宮、保有ソウル:170,530。



「よし」


 余は白い部屋の中央で、ゆっくり息を吐いた。


 勝った。


 とても大きな勝利だ。


 だが、浮かれすぎるな。


 SSSランク迷宮は勇者に消された。


 SSランク迷宮は一人の冒険者に消された。


 黒市主も、Aランクパーティも喰ったが、それでも上には上がいる。


 だからこそ、今は修復だ。


 強化だ。


 骸門牢獄の残響をどう扱うか、考えねばならない。


 夜棺白庭の奥で、白磁の棺が一度だけ鳴った。


 こつり。


 ヴェルグレイヴはまだ眠っている。


 余は、そちらを見て言った。


「まだ起こさん」


 そして、骸門誘導室の残骸を見下ろす。


「今回も、余の迷宮で勝った」


 黒市主の黒い値札が、灰になって崩れた。


 余は静かに笑った。


「勝利すら、持ち帰れぬ場所。それが霧灰白庭迷宮だ」

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