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第129話 暁秤は、浅層を信用しない

 暁秤あかつきばかりが来た。


 それは、銀刻の五人とはまるで違う足取りだった。


 銀刻は強かった。


 強く、速く、正しく進み、正しく撤退しようとした。


 だが暁秤は、さらに嫌だった。


 進む前に、止まる。


 見る前に、測る。


 触る前に、捨てる選択を考える。


 入口前に立った五人は、霧灰白庭迷宮むかいはくていめいきゅうを前にして、誰もすぐには入らなかった。


「……来たな」


《Aランクパーティと推定》


「推定ではなく、確定でよいだろう」


《外部情報と一致。Aランクパーティ《暁秤》です》


 白い部屋の壁面に、五人の情報が並ぶ。



侵入予定対象:


セリア・リンド

分類:Aランク双剣士/元危険査定官きけんさていかん

役割:隊長、戦況判断、撤退判断


ガルド・ローク

分類:Aランク盾役

役割:防御、足場確保、撤退補助


ユーファ・ベル

分類:魔導鑑定士まどうかんていし錬金術師れんきんじゅつし

役割:素材鑑定、報酬価値判断、魔道具解析


マルク・セーヴァ

分類:聖鎖師せいさし

役割:浄化、契約反応の観測、退路固定


キト・ラウ

分類:Aランク斥候

役割:罠探知、帰路印、浅層地図化

補足:ニル・カートの元指導者



「嫌な肩書ばかりだな」


《はい》


「帰すな」


《全員討伐方針でよろしいですか》


「よい。こいつらは広告塔ではない。値踏み屋だ」


 余は白い部屋の中央で、低く言った。


「値段を持ち帰る者は、宝を持ち帰る者より厄介だ」


 フィルエの声が、森灰観測室しんかいかんそくしつから届く。


「うん。帰したら、迷宮の形を外に持っていく」


「ならば殺す」


「でも、強いよ」


「知っている」


「あのキトって人、ニルよりずっと見る」


「なら、まずそいつだ」


 余は即座に決めた。


 斥候を殺す。


 地図役を殺す。


 帰路を測る目を潰す。


 迷宮に入ってくる者のうち、一番最初に殺すべきは、剣士ではない。


 盾でもない。


 魔術師でもない。


 地図を作る者だ。


「キト・ラウを最初に喰う」


《了解》


「ただし、雑に殺すな。あいつはニルの記録を読んでいる。ニルの罠読みを基準に動くはずだ」


《ニル・カート由来の罠記録片を逆用しますか》


「使え」


《戻り水に蓄積されたニル・カートの歩行記録、罠回避記録、恐怖反応を展開可能》


「よし。ニルの記録で、キトを殺す」


 フィルエが少し黙った。


「えげつない」


「迷宮だからな」


「便利な言葉」


「Aランクだからな」


「もっと便利にした」


 余は笑った。


 笑いながら、入口を見る。


 暁秤はまだ入らない。


 セリアが入口の霧を見ている。


 キトが膝をつき、土を触っている。


 ガルドが二枚の中盾をゆっくり構え直す。


 ユーファが小さな魔導板を取り出す。


 マルクが鎖を垂らし、入口の空気を測っている。


 入る前から、すでに面倒だった。


    ◇


 入口前で、セリア・リンドは短く言った。


「今日は宝を取る日じゃない」


 ユーファが不満そうに眉を動かす。


「見るだけ?」


「見る。測る。可能なら小物だけ取る。欲を出す者は置いていく」


「私を見るな」


「見た」


 ガルドが低く笑った。


「宝より帰り道だ。いつも通りだろ」


 マルクは鎖を指に巻きながら、入口を見た。


「霧が濃いですね。ですが、ただの幻覚ではない。白磁系の冷たさと、泥水の湿りが重なっています」


 キトは土から指を離した。


「足跡が多い。低ランクもかなり入ってる。逃げた足跡も多い。……それと、わざと残してる跡がある」


「迷宮が?」


 ユーファが聞く。


「そうだと思う」


 キトは立ち上がった。


「ニルが書いていた。あの迷宮は、こっちが覚えたものを次にずらす。足跡、印、霧の濃さ、安全だった床。全部、次には罠になる」


 セリアは頷いた。


「なら、前の記録は信用しない」


「いや、半分だけ使う」


 キトは入口を見た。


「全部捨てると、迷宮の思う壺だ。ニルの記録は、罠の形じゃなく、迷宮の癖を見るために使う」


 余は白い部屋で舌打ちした。


「本当に嫌なやつだな」


《Aランク斥候です》


「言われずとも分かっている」


 五人が入口を越えた。


 灰白の霧が揺れる。


 浅層の牙跡。


 泥滑り。


 赤錆噛みの気配。


 白磁片。


 灰白採取物。


 それらを、暁秤は一つも雑に扱わなかった。


 低ランクなら驚くところで、止まるだけ。


 Cランクなら手を伸ばす採取物を、見るだけ。


 箱の跡を見ても、急がない。


 彼らは、迷宮へ入ったというより、秤を持って市場に入ったようだった。


 嫌な連中だ。


「浅層採取物は拾わないか」


《興味は示していますが、優先度を下げています》


「ユーファは欲しそうだな」


《はい》


 魔導鑑定士ユーファは、白磁花粉結晶を見て、灰霧石を見て、明らかに手を伸ばしたそうにしていた。


 だが、セリアが一度視線を向けるだけで止まる。


 統制が取れている。


 欲はあるが、欲だけで動かない。


 だからこそ、喰いがいがある。


「正式宝箱一号の跡へ誘導しろ」


《了解》


 霧が薄く割れる。


 白磁壁の脇にある正式宝箱一号の空箱跡。


 霧灰白庭迷宮の紋だけが残った場所。


 キトがすぐに見つけた。


「紋だ」


 ユーファがしゃがむ。


「これが例の宝箱の印?」


「たぶん」


 キトが答える。


 マルクは鎖を少し垂らした。


 鎖の先が、紋の近くで小さく震える。


「迷宮側の所有印ですね。宝そのものというより、開封記録に近い反応があります」


「所有印」


 セリアが小さく繰り返す。


「宝を取った者を覚える箱か」


 余は眉をひそめた。


「読んだか」


《一部推測されました》


「聖鎖師が厄介だな」


《マルク・セーヴァも危険対象です》


「だが、先にキトだ」


 キトは箱跡に触らなかった。


 ただ、周囲の床を見ている。


 ニルが踏んだ場所。


 ロウゼンが止まった場所。


 人間の足跡はもう消えている。


 だが、戻り水には残っている。


 迷宮側にだけ、残っている。


「ここで、ニルは箱を開けた」


 キトが言った。


「分かるのか?」


 ガルドが聞く。


「箱の右に重心跡。戻り水が少し深い。逃げる準備をしていたんだろう。ニルらしい」


 余は少しだけ黙った。


 キトはニルをよく知っている。


 だから、足跡の消えた場所にも、ニルの癖を見ている。


 ならば。


「その情を使う」


《ニル・カートの残響を展開しますか》


「いや、声はまだ早い。まず足跡だ」


《了解》


 浅層の床に、ほんの一瞬だけ湿りが浮いた。


 ニルがかつて付けた帰路印。


 ニルが使った浅い足跡。


 安全だった歩幅。


 キトは、それを見た。


 目が細くなる。


「……ニルの印?」


 セリアが振り返る。


「罠か」


「罠だ」


 キトは即答した。


「でも、ニルの癖に似すぎてる」


「迷宮がニルを真似ている?」


「そうだ」


 キトの声がわずかに低くなった。


「ニルは、迷宮に読まれてた」


 読んでいた。


 そして、もう喰った。


 余は白い部屋で、静かに指示を出す。


「影縫い大蜘蛛、第一糸」


《展開》


「カゲヌイ、まだ刺すな」


《待機》


 キトは前へ出た。


 罠と分かっていて、確かめに来る。


 斥候だからだ。


 危険を見なければ、仲間を通せない。


 その責任を使う。


 床に浮かんだニルの印の周囲に、影糸が張られる。


 だが見える。


 あえて見えるようにした。


 キトは糸を見つけた。


「見える糸」


「見せ罠か?」


 セリアが問う。


「そうだと思う」


 キトは糸を切らない。


 素晴らしい。


 切れば発動すると思ったのだろう。


 正しい。


 ただし、正しすぎる。


「第二糸」


《展開》


 床下。


 戻り水の薄い流れの中。


 影糸ではなく、水に映った影へ、カゲヌイが針を沈める。


 キトは気づいた。


 気づいたが、遅い。


 彼は一歩引こうとした。


 その足元に、ニルの帰路印が浮いた。


 人間なら、見てしまう。


 知っている者なら、なおさら。


 キトの視線が、半瞬だけそちらへ落ちた。


「今だ」


《影針、発動》


 カゲヌイの針が、キトの影を縫った。


 足ではない。


 腰でもない。


 視線の影。


 彼が見た方向へ伸びた意識の影。


 キトの動きが、ほんの一拍遅れる。


 セリアが踏み込む。


 速い。


 だが、影縫い大蜘蛛の糸が天井から落ちる。


 ガルドが盾で払う。


 マルクが聖鎖を伸ばす。


 ユーファが霧を焼く小さな術式を起動する。


 全員が速い。


 全員が正しい。


 だが、全員がキトを助けるために動いた。


 だから、全員の目がキトへ向いた。


 余はそれを待っていた。


「帰路喰らい、影だけ」


《帰路喰らいの落武者、影投射》


 浅層の壁に、落武者の影が立った。


 本体ではない。


 影。


 だが、キトには十分だった。


 帰り道を見る者ほど、その影を見てしまう。


 キトの目が、一瞬だけ見開かれた。


「ニルが見たのは、これか……!」


 その瞬間、カゲヌイの二本目の針が入った。


 影ではない。


 キトの帰路印袋。


 腰に下げていた、小さな金属筒。


 赤錆噛みが床下から飛びつき、その留め金を噛んだ。


 かり。


 筒が落ちる。


 キトの手が反射的に伸びる。


 斥候にとって、帰路印は命だ。


 それを失うのは、剣士が剣を落とすようなもの。


 取ろうとする。


 その手首に、影糸が絡む。


「キト!」


 セリアが叫ぶ。


 だが、もう遅い。


 帰路喰らいの影刃が、壁から伸びた。


 キトは避けた。


 半分は。


 だが、避けた先に、ニルの足跡があった。


 安全だったはずの足跡。


 そこが沈む。


 キトの膝が落ちる。


 灰白の影刃が、首筋を抜けた。


《Aランク斥候:キト・ラウ、討伐》


《獲得ソウル:940》


《取得:キトの斥候眼、帰路印解除針、ニル記録の写し、罠読みの記憶片》


 白い部屋に、数字が浮かんだ。


 940。


 まず一人。


 Aランク斥候を喰った。


 だが、喜ぶ暇はなかった。


 セリアの双剣が、影刃を斬った。


 ガルドの盾が、キトの体をこちらへ奪われないよう押さえる。


 マルクの聖鎖が、落ちた帰路印筒を絡め取る。


 ユーファが叫ぶ。


「回収は無理です! 退路を!」


 早い。


 仲間が死んだ瞬間に、撤退判断へ移る。


 さすがAランク。


 だが、帰さない。


「キトの死体を沈めろ」


《戻り水、展開》


 床が濡れる。


 キトの体を、戻り水が下から飲もうとする。


 ガルドが二枚の盾で床を叩いた。


「させるか!」


 戻り水が弾ける。


 重い。


 ただの盾役ではない。


 踏ん張る力が、床の罠そのものを押し返している。


「次はガルドだ」


《泥門番長ゴブリン・グズ、配置しますか》


「配置しろ。ただし本体はすぐ出すな。まず泥核」


《了解》


 灰霧の奥から、泥が流れた。


 グズの泥核。


 黒く、重く、粘る泥。


 それが、ガルドの足元へ広がっていく。


 ガルドはすぐ気づいた。


「泥が来る!」


「跳ぶな!」


 セリアが叫ぶ。


「足を取る泥じゃない! 着地を待ってる!」


 読んだか。


 だが、読んでも足元の泥は消えない。


 ガルドは二枚の盾を床へ打ちつけた。


 盾を足場にする。


 泥に直接触れず、盾を踏み台にして立つ。


 とっさの判断としては完璧だった。


「赤錆噛み」


《待機中》


「盾の内側を齧れ」


《了解》


 赤錆噛みが泥の中を走った。


 盾の裏。


 革紐。


 金具。


 留め輪。


 かり。


 かり。


 かりり。


 ガルドの眉が動く。


「盾に何かいる!」


 彼は片方の盾を振った。


 赤錆噛みが二体吹き飛ぶ。


《赤錆噛み二体、損傷》


「まだ噛め」


《続行》


 ガルドは強い。


 盾役として完成している。


 だから、正面から潰すには足りない。


 泥で足を奪い、赤錆噛みで盾を弱め、戻り水で重心をずらす。


 その上で、グズを出す。


「グズ」


 泥の奥で、低い唸りが響いた。


「グオ……」


 泥門番長ゴブリン・グズ。


 入口を守ってきた門番。


 白磁庭園戦でも、Aランク戦でも、何度も泥を支えたグズ。


 その体は、昔のゴブリンとは比べものにならないほど大きくなっている。


 だが、まだ泥門番長だ。


 まだ、入口の門番だ。


 ここで変わる。


「グズ。あの盾を止めろ」


「グオオオオ!」


 灰霧の奥から、泥の門が立ち上がった。


 ガルドの前に、黒い門が現れる。


 ガルドは笑わなかった。


 逃げもしなかった。


 盾役は、門から逃げない。


 門を受ける。


 ガルドは二枚の盾を交差させ、泥門へ突っ込んだ。


 衝突。


 白磁床が震えた。


 泥が飛び散る。


 ガルドの足元が沈む。


 それでも、ガルドは止まらなかった。


「押し返すぞ!」


 セリアがガルドの背後へ入り、双剣で影糸を切る。


 マルクが聖鎖でガルドの腰を固定する。


 ユーファが泥の水分を飛ばす術式を使う。


 連携が速い。


 グズの泥門が、乾き、割れかける。


「グズ、耐えろ!」


 余は叫んだ。


「ここで押し負けるな!」


 グズの唸りが、低く深くなった。


 泥門が、ただの壁ではなくなる。


 門の奥に、さらに門。


 二重、三重に重なる泥。


 ガルドが押す。


 グズが押し返す。


 盾と泥。


 人間の防御と、迷宮の門。


 どちらが先に折れるか。


《グズ、負荷上昇》


《泥門構造、限界接近》


「追加泥核!」


《グズ本体への負荷が増大します》


「構わん。ここで勝て!」


 入口側から、グズが蓄えていた泥核を流し込む。


 黒い泥が、白磁床を伝って門へ重なる。


 ガルドの盾が軋む。


 赤錆噛みが、今度は盾の縁を齧った。


 留め金ではない。


 盾の縁に埋め込まれた補強金具。


 そこを噛む。


 がきり、と嫌な音がした。


 ガルドの片盾が割れた。


「ちっ!」


 それでも彼は引かない。


 残った盾を構え、肩で泥門を受ける。


 人間の身体が、泥門に食い込む。


 すごい。


 素直にそう思った。


 だが、ここまでだ。


「カゲヌイ。ガルドの影ではなく、盾の影を縫え」


《実行》


 盾の影が、床に縫われた。


 ガルドの動きではない。


 盾そのものが、床に一瞬だけ固定される。


 ガルドは盾を捨てれば動けた。


 だが、盾役は盾を捨てるのが遅れる。


 一瞬だけ。


 その一瞬、グズの泥門が閉じた。


 盾ごと、腕ごと、胸ごと、ガルドを飲む。


「ガルド!」


 セリアが踏み込む。


 だが、泥門の奥からグズの腕が伸びた。


 泥の棍棒。


 セリアの足元を叩く。


 倒せはしない。


 だが、一歩遅らせる。


 ガルドの姿が泥の中に沈む。


 それでも、彼は最後に叫んだ。


「捨てろ! 俺を捨てて下がれ!」


 セリアの顔が歪む。


 マルクが聖鎖を伸ばす。


 ユーファが術式を組む。


 だが、ロウゼンの時と違う。


 ガルド自身が、自分を捨てろと言った。


 盾役として、最後の判断をした。


 だからこそ、完全に沈める。


「グズ」


 余は低く命じた。


「塞げ」


 泥門が閉じた。


 白磁床が、黒い泥で盛り上がる。


 その奥で、ガルドの呼吸が途切れた。


《Aランク盾役:ガルド・ローク、討伐》


《獲得ソウル:1,180》


《取得:ガルドの双盾片、踏ん張り骨、重盾受けの記憶、泥耐性鎧片》


 数字が浮かぶ。


 1,180。


 二人目。


 暁秤の盾を喰った。


 次の瞬間、白い部屋に別の表示が走った。


《泥門番長ゴブリン・グズ、進化条件を達成》


 余は目を見開いた。


「来たか」


《進化素材を確認》


《ガルドの双盾片》


《踏ん張り骨》


《重盾受けの記憶》


《泥耐性鎧片》


《グズの泥門維持記録》


《進化を実行しますか》


「当然だ」


《進化を実行します》


 迷宮の入口が震えた。


 グズの体を構成する泥が、黒く重くなる。


 ただの泥ではない。


 盾を受けた泥。


 白磁庭園の門を塞いだ泥。


 Aランク盾役を飲み込んだ泥。


 その泥が、グズの骨格を作り替えていく。


 ゴブリンの形はまだ残っている。


 だが、肩が大きくなる。


 腕が門柱のように太くなる。


 背中に、半ば砕けた双盾のような泥板が浮かぶ。


 顔つきは、さらに鈍く、さらに頑固に。


 棍棒は、泥と盾片を巻き込んで巨大な門槌になる。


《進化完了》


《泥門番長ゴブリン・グズは、泥塞門将でいそくもんしょうグズへ進化しました》


 泥塞門将グズ。


 ついに、門番長ではなくなった。


 門を守る者から、門を塞ぐ将へ。


 余は思わず笑った。


「よくやった、グズ」


「グ……ズ……」


 新しいグズが、泥の奥で低く唸った。


 その声は、前より重い。


 まるで、門そのものが喋っているようだった。


 だが、喜ぶのは後だ。


 暁秤は、まだ三人残っている。


 セリア。


 ユーファ。


 マルク。


 キトとガルドを失ったにもかかわらず、彼らは崩れていない。


 むしろ、恐ろしく静かだった。


 セリアが双剣を構える。


 ユーファが鑑定板をしまい、攻撃術式に切り替える。


 マルクの聖鎖が、泥の上で白く光る。


「撤退するか」


 余は呟いた。


 セリアは、キトの沈んだ床とガルドの泥を見た。


 そして、静かに言った。


「帰る」


 やはり判断が早い。


 だが、帰さない。


「管理音声」


《はい》


「灰白小宝庫を閉じろ」


《はい》


「白磁偽財殿への道だけを開け」


《危険度が上昇します》


「構わん。次はユーファだ」


 魔導鑑定士。


 宝の価値を見抜く者。


 帰せば、宝物庫機能の中身を外へ流す。


 だから、次に殺す。


「宝を見せろ」


《正式宝箱、偽装配置》


「価値を高く見せろ。ただし、本物ではない」


《鑑定返しは未習得です》


「なら、今ここで習得する」


 余は、ユーファの鑑定板を見た。


 あの目を喰う。


 宝を測る目を。


 そして、霧灰白庭迷宮の宝箱は、見られる側から見返す側へ進化する。


「暁秤」


 余は白い部屋の中央で、静かに告げた。


「お前たちは、量りに来たのだろう」


 白磁の奥で、偽の宝物室が開く。


「なら、量ったものごと喰ってやる」

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