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第105話 庭心喰いは、噴水から始まる

白磁庭園の門は、まだ開いていない。


 正確には、開いているのではなく、壊れている。


 泥で詰まり、灰で濁り、苔灰で腐り、戻り水に濡れ、白錆噛みに噛み割られた裂け目。


 白磁庭園が門として整えた入口は、もう綺麗な入口ではない。


 迷靄洞がこじ開けた、汚い傷口だ。


 余はその傷口を見下ろしながら、白い部屋の床に命じた。


「作戦表示」


《表示します》



作戦名:

《庭心喰い》


目的:

一、白磁庭園内部へ侵入

二、庭心噴水を破壊、または汚染

三、白磁騎士の連携線を断つ

四、白磁庭園コアへ続く主根を特定

五、白磁庭園吸収のための支配構造を崩す


投入:

灰白線喰いの追跡者

白錆噛み 二体

赤錆噛み 六体

苔灰ゴブリン 二体

アンデッドゴブリン 六体

通常ゴブリン 十二体

影縫い大蜘蛛の糸束 四束

影縫い罠師カゲヌイ

マネ

グズの泥核 二塊

戻り水細流 三本


待機:

グズ本体

影縫い大蜘蛛本体

フィルエ本体



「今回は、庭心噴水を潰す」


《白磁庭園内部の魔力循環中枢と推定されます》


「白磁庭園の綺麗な水源だろう?」


《はい》


「なら、濁せば庭全体が乱れる」


《合理的です》


 フィルエの契約糸が、森の根を伝って震えた。


『ロード、門の奥、道が変わってる』


「もう組み替えたか」


『うん。でも全部は戻ってない。泥が詰まったまま。そこだけ庭が嫌がってる』


「よし。嫌がっている場所から入る」


 白磁庭園は美しい。


 整いすぎている。


 だからこそ、汚れを許せない。


 泥が詰まった部分を修復しようとして、白磁庭園は力を割いている。


 そこへ、さらに泥を流し込む。


「グズ」


 入口で、泥門番長ゴブリンが顔を上げた。


「グオ」


「泥を借りる。今度は二塊だ」


「グオオ」


 グズは不満そうに鼻を鳴らしたが、棍棒で足元の泥をかき混ぜた。


 重い。


 湿っている。


 血と灰と戻り水が混じった、迷靄洞の入口の泥。


 それが二塊、床下の水路へ落ちる。


《泥門番長ゴブリン由来の泥核を二塊取得》


「本体は門を守れ」


「グオ!」


「余が留守の間、入口を抜かせるな」


「グオオオ!」


 グズの返事は単純だ。


 だが、頼もしい。


 門番長は、門にいるから強い。


 そして今、余は敵の門を壊しにいく。


「追跡者」


 灰白線喰いの追跡者が、灰白の刃を鳴らした。


「白磁騎士の退路を喰え。逃げる線、繋ぐ線、命令の線、全部だ」


 刃が静かに震える。


「カゲヌイ」


《はい》


「白磁庭園の影は薄い。だが、門と噴水には必ず影がある。そこを縫え」


《承知》


「影縫い大蜘蛛」


 奥の闇で、大きな脚が動く。


「本体は出すな。糸だけを使う。白磁庭園に、お前の巣を覚えさせろ」


 黒い糸が、天井からするりと落ちた。


「マネ」


「マネ」


「余の声は真似るな」


「ヨノコエハマネルナ」


「……もういい。敵の足音を増やせ。騎士の剣音をずらせ。庭番人形の命令音を壊せ」


「コワセ」


「それでいい」


 余は息を吐いた。


 怖い。


 かなり怖い。


 敵の腹へ入るのだ。


 だが、余はもう待つだけのロードではない。


「行くぞ」


《庭心喰い、開始します》


白磁庭園の裂け目に、戻り水が流れ込んだ。


 三本。


 細く、浅く、しかししつこく。


 泥を押し込み、灰を溶かし、苔灰を白い床の継ぎ目へ運ぶ。


 白磁庭園の内部は、嫌になるほど綺麗だった。


 白い回廊。


 白い花壇。


 白い柱。


 陶器の鳥。


 陶器の蝶。


 左右対称に並ぶ庭番人形。


 そして、奥から聞こえる噴水の音。


 澄んでいる。


 透明だ。


 綺麗すぎて、吐き気がするほどだった。


「……あれが庭心噴水か」


《魔力濃度が高い水音を検出》


『白磁庭園の血みたいなもの』


 フィルエの声が、契約糸から届く。


『でも水じゃない。白い魔力を流して、庭全体を同じ形に保ってる』


「なら、あれを濁せば形が崩れる」


『うん。でも向こうも分かってる。守りが厚い』


 その言葉通り、噴水へ続く白い小径に、騎士がいた。


 三体。


 完全体の白磁庭園騎士。


 門番騎士と同格か、それ以上。


 顔のない兜。


 細い白剣。


 立っているだけで、庭全体が整う。


「三体か」


《高危険》


「知っている」


 余は即座に命じた。


「通常ゴブリン、前へ」


 十二体の通常ゴブリンが飛び出した。


 叫びながら、棍棒を振り回す。


 隊列などない。


 作戦理解などない。


 ただ走る。


 白磁庭園騎士の剣が、静かに上がった。


「散れ!」


 十体は散った。


 二体は散らなかった。


 剣が振られる。


 二体が斬られた。


《通常ゴブリン二体、死亡》


「アンデッド化は!」


《一体、反応あり》


「起こせ!」


 斬られた死体が、床で痙攣した。


 白磁化が肉を固める。


 その内側から、迷靄洞の死が押し返す。


 ひびが入る。


 黒い罅が白い皮膚を裂く。


《白罅アンデッドゴブリン、一体発生》


「よし。突っ込め」


 白罅アンデッドゴブリンが、奇声を上げて騎士へ走った。


 騎士がそれを斬る。


 白罅の体が砕ける。


 砕けた瞬間、白磁粉と腐灰が爆ぜた。


 騎士の鎧に灰色の汚れが散る。


《白磁騎士一体、表層汚染》


「今だ。赤錆噛み、足元!」


 赤錆噛み六体が、庭の縁を走る。


 騎士の足元に届く前に、庭番人形が群がった。


 小さな白い手。


 陶器の指。


 赤錆噛みを捕まえようとする。


「苔灰!」


 二体の苔灰ゴブリンが、湿った灰と苔を庭番人形の列へ投げた。


 白い人形の足元がぬめる。


 苔が関節に入り込む。


 赤錆噛みが、その隙間を抜けた。


 騎士の足首へ。


 噛む。


 ぎり、と嫌な音がした。


《白磁騎士一体、右足可動部に損傷》


「いい!」


 だが、二体目の騎士が剣を振る。


 赤錆噛み一体が斬られた。


《赤錆噛み一体、喪失》


「退けるな。噛み続けろ」


 余の声は、思ったより冷たかった。


 損耗は痛い。


 だが、ここで退けば噴水まで届かない。


 赤錆噛みたちは、仲間が斬られた場所を避けて、別の継ぎ目へ回り込む。


 白錆噛み二体は、まだ出さない。


 あれは噴水用だ。


 門を壊す牙ではなく、庭の血脈を割る牙。


「カゲヌイ」


《影針、一本目》


 影縫い罠師カゲヌイの針が、白磁騎士の剣影に刺さった。


 完全には止まらない。


 だが、剣筋が半拍ずれる。


「マネ」


「キン」


 マネが、騎士の剣音を真似た。


 キン。


 キィン。


 カン。


 剣が振られていない場所から、剣音が鳴る。


 庭番人形たちが一瞬だけ反応を乱した。


 白磁庭園の命令線が、音の位置を補正しようと揺れる。


 その揺れを、灰白線喰いの追跡者は見逃さなかった。


《白線喰い、発動》


 騎士三体の背後に伸びる、細い白い線。


 噴水と騎士を繋ぎ、庭の命令を流す線。


 追跡者の刃が、その一本を喰った。


 白磁騎士の首が、わずかに傾く。


 命令が遅れた。


「今だ!」


 通常ゴブリンが突っ込む。


 棍棒を振る。


 効かない。


 白い鎧に弾かれる。


 だが、邪魔にはなる。


 ゴブリンが足元にしがみつき、噛みつき、泥を塗る。


 そして斬られる。


《通常ゴブリン三体、死亡》


《白罅化反応、一体》


「起こせ!」


 また白罅アンデッドゴブリンが生まれた。


 今度は半身だけが白い。


 残り半分は腐った灰色。


 それが笑いながら、騎士の膝に抱きつく。


 騎士が剣で払う。


 白罅アンデッドゴブリンは砕けた。


 だが、砕けた灰が騎士の膝関節へ入り込む。


《白磁騎士一体、機動低下》


「よし。噴水まで道が開く」


 白い小径の中央。


 騎士三体の間に、細い隙間ができた。


「白錆噛み!」


 二体の白錆噛みが走った。


 赤錆噛みが護衛につく。


 苔灰ゴブリンが左右へ苔灰を撒く。


 戻り水が道を濡らす。


 白い床は嫌がるようにきしむ。


 噴水が見えた。


 白磁の噴水。


 中央には白い花を象った水盤。


 そこから、透明ではなく白い水が流れている。


 水ではない。


 白い魔力。


 庭を庭として保つ、白磁庭園の血。


「噛め」


 白錆噛みが、噴水の台座へ歯を立てた。


 瞬間。


 白磁庭園全体が鳴った。


 今までとは違う反応だった。


 庭番人形が一斉に振り向く。


 白磁騎士三体が同時に剣を構える。


 花壇の花が開く。


 白い花粉が噴き上がる。


《庭心噴水、防衛反応》


「来たか!」


《大規模陶器化粉》


「戻り水、全部濁せ!」


 三本の戻り水が、一斉に噴水へ絡む。


 白い粉が舞う。


 そこへ泥核が一塊、叩き込まれた。


 ぐしゃり。


 美しい噴水の水盤に、グズの泥が落ちた。


 白い水が濁る。


 噴水が悲鳴のような音を立てる。


《庭心噴水、魔力循環に異常》


「もう一塊!」


《投入》


 二塊目の泥核が、噴水の根元へ流れ込む。


 苔灰ゴブリンが、そこへ湿った苔灰を投げた。


 赤錆噛みが固定芯を齧る。


 白錆噛みが台座を噛む。


 影縫い大蜘蛛の糸が、噴水の花弁を縛る。


 カゲヌイの二本目の影針が、噴水の影に刺さる。


「追跡者!」


 灰白線喰いの追跡者の刃が、噴水から伸びる命令線へ触れた。


 噴水と騎士。


 噴水と庭番人形。


 噴水と花壇。


 噴水と門。


 白磁庭園の秩序を繋ぐ線が、幾本も見える。


 その中で一番太い線。


 庭の奥へ続く主根。


「それだ」


《白磁庭園コア方向の主根線を確認》


「喰うな。印をつけろ」


《灰白傷印、刻印》


 追跡者が、白い主根線に灰白の傷を刻む。


 白磁庭園が震えた。


 奥から、何かがこちらを見る。


 前回よりもはっきりと。


 白磁庭園のロード。


 敵対ダンジョンコア。


 まだ姿は見えない。


 だが、視線は分かる。


 冷たく、美しく、こちらを汚物として見る視線。


「見ているな」


《敵ロード反応》


「なら、よく見ろ」


 余は命じた。


「噴水を割れ」


 白錆噛み二体が同時に噛み込んだ。


 赤錆噛みが根元を齧る。


 戻り水がひびへ入る。


 泥が膨らむ。


 苔灰が広がる。


 影糸が花弁を引き裂く。


 白磁庭園騎士が、止めに来る。


 三体同時。


 剣が白く光る。


「アンデッド、壁になれ!」


 アンデッドゴブリン六体が前へ出る。


 斬られる。


 砕かれる。


 白く固まる。


 だが、その死体が壁になる。


 通常ゴブリンの死体も混じる。


 白罅アンデッドゴブリンが一体、斬られた瞬間に爆ぜる。


 腐灰と白磁粉が騎士の視界を濁らせる。


「カゲヌイ、影を引け!」


《限界まで引きます》


 騎士の足元の影が、噴水のひびへ引っ張られる。


 半歩遅れる。


 それでいい。


 迷宮の戦いは、半歩で足りる。


 ぱきん。


 噴水の水盤に亀裂が入った。


 白い水が噴き出す。


 澄んでいた白が、泥と灰を巻き込み、灰白に濁っていく。


《庭心噴水、破損》


《白磁庭園内部循環、乱れ》


「もっとだ」


《警告。敵騎士接近》


「もっとだ!」


 白錆噛みが最後の力で台座を噛み砕いた。


 赤錆噛みが固定芯を引き抜く。


 戻り水が噴水の中へ逆流する。


 白い水が、灰色に染まった。


 噴水の音が変わる。


 澄んだ音から、濁った音へ。


 白磁庭園の白い回廊に、初めて汚れた水が流れた。


《庭心噴水、機能停止には至らず》


「破壊は無理か」


《しかし循環汚染に成功》


「十分だ」


 余は欲張らない。


 いや、本当は欲張りたい。


 ここで噴水を完全に壊したい。


 騎士も全部倒したい。


 白磁庭園の奥まで進みたい。


 だが、それをやれば死ぬ。


 ロードは欲で死ぬ。


 余はまだ死にたくない。


「撤退準備!」


《撤退路確保》


「白錆噛みを戻せ。赤錆噛みは噴水片を持て。苔灰は生きているか」


《二体とも活動可能》


「戻れ!」


 白磁庭園騎士が、今度こそ噴水前まで来た。


 一体は足を傷つけられている。


 一体は表層を汚されている。


 一体は命令線を喰われて動きが遅い。


 それでも強い。


 三体の剣が同時に振られれば、こちらの前線は壊滅する。


「追跡者、退路を喰え」


《白線喰い》


 騎士たちが追ってくるための線。


 噴水から門へ、門から裂け目へ、裂け目から外へ。


 その追撃線を、灰白線喰いの追跡者が噛む。


 完全には切れない。


 だが、遅らせる。


 白磁騎士の足が一瞬止まる。


「マネ、音を置いていけ!」


「オイテイケ」


 マネが、白磁騎士の剣音を逆方向へばら撒いた。


 庭番人形たちが、誤った小径へ向く。


 通常ゴブリンの生き残りが、泥を投げながら逃げる。


 一体が庭番人形に捕まった。


《通常ゴブリン一体、死亡》


「置け!」


 即答した。


 胸の奥が重くなる。


 だが、止まらない。


「全体を戻せ!」


 戻り水が引く。


 泥が引く。


 苔灰が引く。


 白錆噛みが、噴水片を咥えて戻る。


 赤錆噛みが、白磁固定芯を引きずる。


 苔灰ゴブリンが肩で息をしながら裂け目を抜ける。


 最後に、灰白線喰いの追跡者の圧が引く。


 その直前。


 追跡者は、白磁庭園の奥へ伸びる主根線に、もう一度だけ刃を触れた。


《灰白傷印、深化》


 白磁庭園の奥で、何かが明確に怒った。


 噴水の水音が乱れる。


 白い花が閉じる。


 騎士たちが剣を上げる。


 だが、もう遅い。


 迷靄洞の部隊は、汚れた裂け目の向こうへ引き戻されていた。


白い部屋に、泥まみれの部隊が戻ってくる。


 白錆噛みは二体とも傷だらけ。


 赤錆噛みは一体を失い、二体が負傷。


 苔灰ゴブリンは息を荒げ、背中の苔が白く焼けている。


 通常ゴブリンは、十二体中六体が戻らなかった。


 アンデッドゴブリンは全滅。


 影糸はほとんど白く固まっている。


 カゲヌイの影針は二本とも砕けた。


 だが。


 白い部屋の中央には、噴水片があった。


 白磁庭園の庭心噴水の欠片。


 泥と灰に濁った、敵の心臓部の破片。


《作戦終了》



作戦結果:

《庭心喰い》


成果:

・白磁庭園内部への侵入成功

・庭心噴水の部分破損

・庭心噴水への泥、灰、戻り水、苔灰汚染に成功

・白磁庭園内部循環に乱れを発生

・白磁騎士三体の連携線を一部捕食

・白磁庭園コアへ続く主根線を確認

・主根線へ灰白傷印を刻印

・白磁庭園コア方向の推定座標を取得


損耗:

・通常ゴブリン六体死亡

・アンデッドゴブリン六体全損

・赤錆噛み一体喪失、二体負傷

・白錆噛み二体中度損傷

・苔灰ゴブリン二体軽度損傷

・影糸束四束喪失

・カゲヌイ影針二本喪失

・グズ泥核二塊消費


回収物:

・庭心噴水片

・白磁固定芯

・白磁騎士鎧粉

・白磁花弁

・濁った白磁水



「……損耗が重いな」


《はい》


「だが、噴水は汚した」


《はい》


「コアへの線も見つけた」


《はい》


 余は、床に浮かぶ白磁庭園内部図を見た。


 門。


 白い回廊。


 庭心噴水。


 その奥へ伸びる太い主根線。


 そして、まだ見えない中心。


 白磁庭園のコア。


 敵ロードの座。


「近いか」


《近づいています》


「次で届くか」


《条件次第です》


「条件を言え」


《白磁騎士三体の排除、または足止め。庭心噴水の完全停止。主根線の切断。コア周辺防衛構造の確認》


「多いな」


《敵対ダンジョンのコア吸収には必要です》


「分かっている」


 余は、濁った白磁水を見た。


 白磁庭園の美しい水だったもの。


 今は、迷靄洞の泥と灰に濁っている。


 その濁りが、白い部屋の床で小さく震えていた。


『ロード』


 フィルエの声が届く。


『白磁庭園、もう直せないところができてる』


「噴水か」


『うん。流れは戻せる。でも一度濁った白は、完全には白に戻らない』


「よい知らせだ」


『それと、奥で何か動いた』


「白磁庭園ロードか」


『たぶん。今まで庭に任せてたけど、次は直接来ると思う』


 余は、しばらく黙った。


 怖い。


 また怖くなった。


 敵ロードが直接動く。


 それは、冒険者の襲撃とも、白磁騎士の防衛とも違う。


 迷宮と迷宮の殺し合いだ。


 負ければ、余は存在ごと消える。


 迷靄洞も消える。


 グズも、マネも、追跡者も、カゲヌイも、苔灰も、白錆も、赤錆も、影縫い大蜘蛛も、全部消える。


 それは困る。


 非常に困る。


「管理音声」


《はい》


「ソウル残量を確認」


《表示します》


 数字が浮かぶ。


 足りない。


 十分ではない。


 だが、空ではない。


「通常ゴブリンを補充。アンデッド化用の死体置き場を噴水片の近くに作れ。白罅化の再現を試す」


《了解》


「白錆噛みの治療。赤錆噛みの補充。カゲヌイの影針再生成。影縫い大蜘蛛の糸束を増やせ」


《了解》


「グズには泥核再生成を急がせるな。入口防衛優先だ」


《了解》


「灰白線喰いの追跡者は、主根線の傷印を監視」


 灰白の刃が鳴った。


「次は、庭心噴水を完全に止める」


《その後は》


「白磁庭園コアを喰う」


 言った瞬間、白い部屋が静かになった。


 自分で言っておいて、少し震える。


 だが、取り消さない。


 白磁庭園は迷靄洞を庭にしようとした。


 なら、迷靄洞は白磁庭園を腹にする。


「作戦名を用意しろ」


《候補を提示します》


「言え」


《白庭心臓抜き》


 余は、濁った噴水片を見下ろした。


「……よい」


 床下で戻り水が鳴る。


 奥でグズが泥を練る。


 マネが小さく、今度は余ではなく、白磁騎士の剣音を真似た。


 キン。


 その音に、灰白線喰いの追跡者が刃を鳴らして応えた。


 白い庭の心臓は、まだ止まっていない。


 だが、もう濁っている。


 次は、抜く。

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