第101話 迷宮は、待つのをやめる
白磁の欠片は、まだ灰色に濁っていた。
白い部屋の中央。
戻り水に浸された小さな器の中で、割れた陶器の破片がかすかに震えている。
それは、人間の白杭ではない。
聖杭技師の封迷具でもない。
以前、迷靄洞の外縁を侵し、白い庭を押しつけてきた敵対迷宮――白磁庭園の残骸だった。
「……また、白磁庭園か」
余は、白い部屋で低く呟いた。
初めてではない。
忘れたわけでもない。
あの白い騎士。
陶器の花。
迷宮の壁を白く固めようとした根。
泥と灰を嫌い、綺麗な庭園に作り替えようとする、気味の悪い侵蝕。
迷靄洞はすでに、それと戦っている。
だが、これまでは基本的に受け身だった。
向こうが根を伸ばしてくる。
こちらが噛み砕く。
向こうが白磁騎士を寄越す。
こちらが泥と糸と戻り水で押し返す。
人間も来る。
白杭も来る。
聖杭技師も来る。
その上で、白磁庭園まで来る。
「多すぎるだろ……!」
《外敵数は増加傾向にあります》
「冷静に言うな!」
叫んでから、余は咳払いした。
いかん。
配下の前で慌てすぎるのはよくない。
昔なら、ここで本当に混乱していた。
今でも内側ではかなり慌てている。
だが、余はもう目覚めたばかりの新米ロードではない。
迷靄洞は、すでにBランクに到達している。
攻略されれば消える。
それは変わらない。
だが、ただ震えて待つだけの穴では、もうない。
《白磁庭園由来の外縁反応、南東側に再確認》
「前と同じ場所か」
《完全一致ではありません。ただし、以前の侵蝕線と近似しています》
「つまり、あちらも前の道を使っている」
《推定、はい》
白い床に、迷靄洞周辺の簡略図が浮かぶ。
北側には、人間から奪った白杭。
戻り水に浸され、白錆噛みに齧られ、灰杭返しの核になりつつある敵の道具。
南東外縁には、白磁庭園の反応。
以前交戦した白磁系の根と、同じ匂いを持つ線。
その奥に、小さな白い点がある。
《中継庭園と思われる外部構造》
「白磁庭園の出城か」
《表現として妥当です》
余は、その白い点を見下ろした。
白磁庭園本体ではない。
だが、迷靄洞へ根を伸ばすための足場。
あれを残しておけば、また向こうから来る。
また壁を白くされる。
また戻り水を固められる。
また、余の腹を勝手に庭にされかける。
「……嫌だな」
《はい》
「非常に嫌だ」
《はい》
「なら、待つのをやめる」
白い部屋の空気が、わずかに沈んだ。
管理音声が、一拍置いて応じる。
《迎撃ではなく、迷靄洞側からの先制干渉を行うという意味ですか》
「そうだ」
《危険です》
「知っている」
《迷宮外では、通常魔物の能力は大幅に低下します》
「それも知っている」
《外縁攻撃に失敗した場合、白磁庭園にこちらの干渉方法を学習されます》
「それでもやる」
余は、監視面を切り替えた。
入口では、グズが棍棒を抱えて泥の中に座っている。
泥門番長ゴブリン。
ただのゴブリンだった頃からは考えられないほど、入口の守り方を覚えた。
天井奥には、影縫い大蜘蛛。
糸と影で地図を殺す、迷靄洞の中核。
罠の影には、影縫い罠師カゲヌイ。
壁裏には、灰噛みネズミから変質進化した赤錆噛み。
さらに、白杭の封迷圧を齧って派生した白錆噛み。
奥の暗がりには、追跡者――今は灰刃を帯びた、落武者のような最強枠。
迷宮内なら、どこまでも追う。
死んだゴブリンから起き上がるアンデッドゴブリンもいる。
マネもいる。
グズもいる。
フィルエも、契約糸の先にいる。
弱かった迷宮は、弱いままではなくなった。
「攻められてから考えるから、余は毎回慌てる」
《はい》
「そこは否定しろ」
《事実です》
「……だが、事実なら対策する。白磁庭園がまた根を伸ばす前に、こちらから根を噛む」
『ロード』
フィルエの声が、契約糸から届いた。
『南東、白い匂いが濃くなってる』
「前に来た奴と同じか」
『同じ系統。でも、少し慎重。迷靄洞に噛まれたことを覚えてる』
「覚えているなら都合がいい」
『どうして?』
「怖がっている相手は、反応が遅れる」
言ってから、余は少しだけ黙った。
今のは、少し王っぽかったのではないか。
《外縁干渉候補を提示します》
「出せ」
床に文字が並ぶ。
⸻
外縁干渉候補
一、戻り水の細流
奪取した白杭の封迷線を経由することで、短時間のみ外縁へ流出可能。
二、フィルエの契約糸
森の根、匂い、異物反応の観測と誘導が可能。直接攻撃力は低いが、外縁案内に適する。
三、白錆噛み
赤錆噛みから派生した白杭・白磁系対抗個体。白磁根への局所破砕が可能。
四、赤錆噛み
灰噛みネズミ系からの金属食性進化個体。白錆噛みの護衛、回収、器具破損役に適する。
五、影縫い大蜘蛛の糸片
本体の外部展開は危険。切り離した糸片を罠核として使用可能。
六、影縫い罠師カゲヌイの影針
影が迷宮側と接続している場合、短時間の固定が可能。
七、灰刃追跡者の封線追い
敵迷宮の侵蝕線を記憶可能。ただし迷宮外では斬撃ではなく、圧と追跡記録に限られる。
⸻
「十分だ」
《目的は何ですか》
「白磁庭園本体を倒すことではない」
《はい》
「中継庭園の場所を割る。根片を奪う。白磁庭園の線を追跡者に覚えさせる」
《攻撃ではなく偵察寄りの先制噛みですか》
「違う」
余は、白磁の反応点を見据えた。
「偵察なら見るだけだ。今回は噛む」
作戦名は、《外縁噛み》となった。
「そのままだな」
《分かりやすさを優先しました》
「まあよい」
まず、影縫い大蜘蛛が糸を吐いた。
黒く湿った糸。
人間の測量を狂わせ、地図を殺し、進路認識を縫い止めてきた糸だ。
本体は出さない。
外では危険すぎる。
糸片だけを切り離し、そこへカゲヌイが影針を一本沈める。
《影針、仕込み完了》
「白磁の根が逃げるか、こちらの戻り水を掴もうとしたら縫え。倒せなくていい。遅らせろ」
《了解》
「白錆噛みは二体」
《三体中二体を投入します》
「一体は残せ。全部出して失ったら、余が泣く」
《泣くのですか》
「比喩だ!」
たぶん比喩ではない。
だが、それは言わない。
「赤錆噛みは三体。白錆噛みの回収役だ。白磁本体には深入りするな」
壁裏で、赤錆噛みが歯を鳴らした。
灰噛みネズミからの進化個体。
金具、鎖、杭留め、鎧の留め具を劣化させる小さな牙。
それが今、白錆噛みの後ろを走る。
「マネ」
奥から、特殊ゴブリンのマネが顔を出した。
「外縁に森の音を混ぜろ。鳥、獣、葉擦れ。人間の声は不要だ」
「ピィ、カサ、カサ」
「そうだ」
「ソウダ」
「余の声は真似るな!」
「ヨノコエハマネルナ!」
「やめろ!」
フィルエの糸が、小さく震えた。
『楽しそう』
「楽しくはない!」
だが、悪くはない。
配下がいる。
使える手札がある。
それだけで、最初の頃とは違う。
「グズ」
「グオ」
「お前は入口を守れ。今回は外に出ない」
「グオオ……」
「不満そうにするな。門番長が門を空けたら、それは門番ではない」
グズは少し考えるように唸り、それから棍棒を床に突き立てた。
泥がじわりと広がる。
入口を塞ぐ守りの泥。
「よし」
奥で、灰刃追跡者の刃が鳴る。
「追跡者」
《……》
「白磁庭園の線が見えたら覚えろ。まだ斬るな。今回は、道を盗む」
落武者の影が、わずかに頷いた気がした。
《外縁噛み、開始可能》
「行け」
戻り水は、糸のように細く流れた。
奪った白杭に残る封迷線。
人間が迷宮を縛るために打ち込んだ線を、今度はこちらが逆に使う。
白錆噛み二体が、その細流の上を走る。
後ろには赤錆噛み三体。
上からは、影縫い大蜘蛛の糸片。
フィルエの契約糸が、森の根を伝って先導する。
『右』
「右だ」
《白錆噛み、進路修正》
『そこは違う。普通の白い石』
「普通の白い石を齧るな!」
白錆噛みの一体が、名残惜しそうに小石から離れた。
こいつら、白いものを見ると食おうとする。
優秀だが怖い。
『もっと奥。前に白い騎士の匂いが残ってた辺り』
「やはり、同じ線を使っているか」
『うん。でも前より細い。様子を見てる』
「なら、様子見の指を噛み千切る」
森の湿りが濃くなる。
苔。
枯葉。
木の根。
その中に、明らかに浮いた白があった。
陶器を細く伸ばしたような根。
植物の根ではない。
人間の白杭でもない。
白磁庭園の侵蝕根。
以前見たものと同じ、綺麗すぎる白。
周囲の苔だけが乾き、土が息を止めたように固まっている。
《白磁庭園由来の侵蝕器官を確認》
「以前と同じ匂いだな」
『うん。迷靄洞を覚えてる。根の表面が少し固い』
「噛まれるのを警戒しているのか」
《可能性があります》
「なら、警戒ごと噛め」
白錆噛みが飛びついた。
ぎり。
硬い音。
白磁根の表面に、細い傷が入る。
以前より深くない。
だが、入った。
もう一体が反対側から噛む。
ぎりぎりぎり。
根が震えた。
陶器を擦るような音が、土の下を走る。
《白磁庭園側、反応》
「来るぞ」
『来る。前と同じ庭番人形』
根の節が膨らみ、白い花が開く。
花弁の中から、小さな顔のない人形が這い出した。
庭番人形。
以前も見た、白磁庭園の小型眷属。
目も口もない。
だが、こちらを見ていると分かる。
指先から白い粉が落ちた。
粉が触れた草が、ぱき、と固まる。
陶器化。
「同じ手だ。触らせるな」
フィルエの糸が白錆噛みを引く。
白錆噛みが横へ跳ねる。
粉は外れ、土だけが白く固まった。
「白錆噛み、関節」
二体が左右から飛びつく。
庭番人形の腕に噛みつき、ぎりぎりと削る。
赤錆噛みは足元を走り、周囲の細い固定根を齧る。
赤錆噛みに白磁本体は硬すぎる。
だが、根の周囲に絡む微細な金具質の節なら齧れる。
《庭番人形、腕部損傷》
「よし。殺し切らなくていい。信号を出させろ」
《危険な判断です》
「信号が欲しい」
庭番人形の額が白く光る。
根の奥へ、細い線が走った。
白磁庭園へ異常を知らせる線。
「追跡者!」
《封線、視認》
「覚えろ!」
《記憶開始》
白い部屋の床に、一本の白線が浮かぶ。
南東外縁から、森の浅層を通り、さらに奥へ。
前に戦った白磁庭園騎士の気配と同系統。
だが、本体ではない。
中継だ。
小さな白い庭。
そこから根が伸びている。
《中継庭園の存在確度、上昇》
「見えたな」
『見えた。小さい庭。白い噴水みたいな匂いもある』
「噴水か」
白磁庭園らしい。
綺麗で、整っていて、いかにも安全そうなもの。
だから嫌いだ。
「根片を取って引く」
白錆噛みが、傷つけた根にさらに歯を立てる。
ぎぎ、と嫌な音がして、白い破片が剥がれた。
その瞬間。
根の奥が、大きく脈打った。
庭番人形ではない。
以前、迷靄洞を侵した白い騎士と同じ気配。
ただし、完全体ではない。
根から半分だけ咲く、騎士の芽。
白磁庭園騎士の未成熟個体。
白い花弁が割れ、陶器の腕が出る。
細い剣の柄を掴む。
《高危険反応》
「知っている顔だな」
《顔はありません》
「そういう意味ではない!」
白磁庭園騎士の芽が、剣を抜く。
以前戦った個体より小さい。
だが、斬撃の質は同じだ。
綺麗で、冷たく、湿ったものを許さない剣。
「引け!」
《戦闘継続は》
「しない! 勝ちに来たのではない。噛みに来たのだ!」
白錆噛み二体が走る。
赤錆噛みが負傷しそうになった一体の尾を咥えて引く。
騎士の芽が剣を振った。
斬撃が森の土を裂き、裂けた場所が白く固まる。
白錆噛みの後脚をかすめた。
《白錆噛み一体、後脚損傷》
「生きているか!」
《生存》
「なら走れ!」
フィルエの糸が白錆噛みを引いた。
だが、白磁の根も追ってくる。
細い枝根を伸ばし、戻り水の細流を掴もうとする。
それを掴まれれば、迷靄洞へ続く線を読まれる。
「影糸を捨てろ!」
《罠核を破棄します》
影縫い大蜘蛛の糸片が、森の影へ広がる。
カゲヌイの影針が、黒く沈む。
「縫え!」
影針が、騎士の芽の影を刺した。
完全には止まらない。
だが、一瞬だけ剣が遅れる。
庭番人形の足も止まる。
その一瞬で、白錆噛みたちは戻り水の線へ飛び込んだ。
白磁根が追ってくる。
その先に、マネの音が重なった。
鳥の羽音。
獣の足音。
木の根を踏む小さな気配。
白磁庭園の根が、一瞬だけ誤認する。
戻り水ではなく、捨てた影糸へ食いつく。
白い陶器化が、影糸を固めていく。
「よし、今だ!」
戻り水が閉じる。
白錆噛み二体、赤錆噛み三体が、北側偽脈の内側へ転がり込んだ。
白い部屋の監視面から、外縁の景色が途切れる。
静寂。
その後で、余はようやく息を吐いた。
「……損耗確認」
《白錆噛み二体、生存。一体後脚損傷》
「赤錆噛み」
《三体生存》
「影糸」
《喪失》
「カゲヌイの針」
《喪失。白磁化されたと思われます》
「痛いな」
《はい》
「だが、取った」
白錆噛みの一体が、口に白い欠片を咥えていた。
根片。
白磁庭園の侵蝕器官の一部。
「吐け」
白錆噛みは嫌そうにした。
「吐け。あとで少し齧らせる」
ぽとり、と白磁の欠片が落ちた。
《解析します》
床に表示が浮かぶ。
⸻
回収物:
白磁庭園の根片
性質:
敵対迷宮・白磁庭園の侵蝕器官の一部。
土、苔、木の根、迷宮外縁を白磁化し、中継庭園への接続を形成します。
前回交戦時の白磁根と同系統。
ただし表層硬度が上昇しており、迷靄洞側の噛みつきに対する警戒変質が見られます。
弱点:
湿気、灰、錆により反応低下。
戻り水との接触で表面硬化が乱れます。
白錆噛みによる局所破砕が有効。
危険:
長時間放置すると、周辺構造を庭園化する恐れがあります。
⸻
「警戒変質か」
《白磁庭園側も、前回の戦闘から学習していると推定されます》
「当然か。敵も馬鹿ではない」
『でも、噛めた』
「そうだ。硬くなっても噛めた」
余は笑った。
完全勝利ではない。
影糸と針を失った。
白錆噛みも負傷した。
白磁庭園騎士の芽は倒していない。
だが、こちらは目的を果たした。
根を噛んだ。
根片を奪った。
中継庭園の線を見た。
追跡者が覚えた。
《灰刃追跡者、侵蝕線記録完了》
「方向は」
《南東外縁。森の浅層を経由。中継庭園と思われる地点へ接続》
「距離は」
《短距離外縁干渉の範囲外。通常魔物の直接到達は困難》
「なら、引きずり込むか」
《可能性はあります》
「白磁庭園が根を伸ばすなら、その根を道にする」
《敵の侵蝕線を逆用する戦術です》
「前に白杭でやったことと同じだ。敵が刺したものは、余の歯にする」
北側の白杭。
南東の白磁根。
人間の封迷も、敵迷宮の侵蝕も。
どちらも、ただ怖がっていれば毒だ。
だが、噛み方を覚えれば道具になる。
「次は中継庭園を潰す」
『ロード、白磁庭園も本気になる』
「分かっている」
『前の騎士より、強いのが来るかも』
「分かっている」
《恐怖反応が上昇しています》
「言うな!」
余は叫んだ。
だが、その後で声を落とす。
「怖いから、準備する」
白い部屋の床に、新しい戦術記録が刻まれる。
⸻
戦術記録:
《外縁噛み》
目的:
白磁庭園の再侵蝕線に対する先制干渉。
中継庭園の所在推定。
侵蝕根片の奪取。
灰刃追跡者による封線記録。
成果:
・白磁庭園の根片を回収
・庭番人形を損傷
・白磁庭園騎士の芽を確認
・南東外縁に中継庭園の存在を推定
・白磁庭園が前回戦闘から警戒変質していることを確認
・迷靄洞側からの先制噛みに成功
損耗:
・影糸罠核一つ喪失
・カゲヌイの影針一本喪失
・白錆噛み一体軽傷
次段階:
中継庭園破壊作戦の準備。
戻り水、白錆噛み、灰杭返し、影縫い罠を用いた侵蝕線逆用を検討。
⸻
「よし」
入口では、グズが泥を練っている。
天井では、影縫い大蜘蛛が失った糸の代わりを吐き始めた。
カゲヌイは、影の奥で新しい針を研いでいる。
赤錆噛みは白錆噛みの周りをうろつき、白錆噛みは負傷した後脚を引きずりながらも、根片を見て歯を鳴らしている。
灰刃追跡者は、南東へ伸びる見えない線を、静かに覚えている。
フィルエの糸は、森の奥を見ていた。
白磁庭園とは、もう戦っている。
あれが危険なことも知っている。
綺麗な白の中に、迷宮を作り替える毒があることも知っている。
だからこそ、今回は待たない。
「白磁庭園に伝わっただろうか」
《根の損傷により、伝達されている可能性が高いです》
「ならよい」
余は、白い部屋で笑った。
「前は、余の腹に手を伸ばした」
戻り水が、床下で低く鳴る。
「今度は、その手首から噛み砕く」
南東の森の奥。
白く乾いた苔の下で、陶器の根が震えていた。
噛まれた傷口から、灰色の湿りが滲んでいる。
その湿りを嫌うように、白い花弁が閉じる。
小さな中継庭園。
白磁の噴水。
左右対称の小径。
顔のない庭番人形たち。
その中央で、半分だけ咲いた白磁庭園騎士の芽が、剣を抱えて動きを止めていた。
前にも、あの灰と霧の迷宮は抵抗した。
泥で汚し、糸で縫い、戻り水で腐らせ、錆で割った。
そして今度は、向こうから噛みに来た。
中継庭園の奥で、白い花が三つ、音もなく開く。
その中から、新たな騎士の芽が生え始める。
白磁庭園は、迷靄洞をただの餌とは見なくなった。
それは、敵として見られたということだ。
そして迷宮にとって、敵に見られるということは。
喰うか、喰われるかの始まりだった。




