64.閑話 源流騎士団
少し前に自分たちの一番上の人間が変わった。いや、正確には人間ではなく魔物なんだが
カイ団長の代理として団長になったのは同僚だったアルバだった。アルバは…そうだな、変わったヤツというのが感想になるな。いや、少しどころではないのかもしれない。だが、悪いやつではないな。
そもそもヤツとは出会い始めからしておかしなヤツだ。何せ外出中のリーシャお嬢様の帰り道に転がっていたんだぞ?ああ今でも覚えているさ、何故って俺はアルバが立ち上がったときに近くに居た一人だからな。
はじめはそうだな…こんなところで倒れているなんてかわいそうな騎士も居たもんだと俺は思った。ただまぁ…あそこの森は確かに土地勘が無いヤツが来ると迷いやすいところではあったからな。その点でも運のないやつだなと思っていた。だが、あいつが立ち上がってきたときには驚かされた。
いきなり自分の頭を外して武器を捨てて「私は魔物です」だぞ?話だけきけば頭がおかしくなったやつが言ったことかと疑いたくなる。
そして…そのあとは何をどうやってお嬢様に気に入られたのか今でもよくわからないが俺たちと同じ騎士になりたいという話になった。
なぁこの段階でかなりおかしな話だと思わないか?魔物のくせにここまで協力的だと
俺も含めてほとんどの騎士はあいつを疑った。魔物側からの密偵なのでは?人族に自分から服従するフリをしてどこかで奇襲を仕掛けるんじゃないか?だが蓋を開けてみればただの思い過ごしだった。
お人よし、協力的、いいやつ、話すと面白い、ドジ、抜けてる、実は人間、実は道化師、といつの間にかあいつを見る目は変わっていった。ほだされてしまったのか?魔物をしょっちゅう討伐してる騎士の俺たちがだ。
結局あいつは…俺たちが想像していたほど深くは考えていなかった。表に出ているのがあいつそのものだってよく分かった。底抜けにお人よし、冒険者で鍛えられたユーモア、ドジ。結局のところあいつはその程度の良いヤツだった。ドジであることを指摘したら絶対に違うと猛反対してきたが
そして気づけば…あいつはこの騎士団の団長になっていた。代理とはいえ、俺たちの中だと一番の新入りだったあいつがだ。その瞬間、俺はひょっとしてこうなるように全て仕組んでいたのか?と考えた。もしあいつが魔物側だとしたらこの状況は非常に都合がいい。もしこの騎士団を乗っ取るというつもりなら何もかも思い通りといったところだ。
だが、俺はその考えをすぐに取り消した。
「アルバが乗っ取る?いやいやいや…それはないだろ」
あいつにそんなこと考えれるほどの頭はないだろう。どうせあの頭の中にはどうやったら俺たちが喜んでくれるかしか入ってないようなやつなんだ。
じゃあ何故あいつが代理団長に?確かにあいつのドジや頭の空っぽさを抜きにしても能力はそれなりにあるっていうのは分かってる。だが、騎士団の中には言っちゃあ悪いがあいつ以上に上に立つ者に向いている人間が何人か居る。
…そして知ってしまった。何故あいつが選ばれたのか
おもしろそうだから
まず色々とおかしいだろう。なんであんたの後任を面白い面白くないで考えて決めているんだ?なぁカイ団長
面白いだけで決めてどうするんだ。それで騎士団がダメになってしまったらどうするんだ?レギルス様に申し訳ないと思わないのか?と怒鳴ってやりたくなった。
だから仲間たちと一緒に聞いてきた。すると帰ってきた言葉が
「う~ん面白そうだけじゃだめ?そっか…えっとね、まずアルバは書類仕事も欠かさずやってるし、人と話すのも得意だし、腕っぷしもなかなかある。やっぱり団長になる人が弱くて舐められるってのはよくないでしょ?それに…わたしよりも書類仕事得意だから代わってほしいなぁ…って」
馬鹿にしてるのか?
「…こほん。じゃあわたしがアルバを推薦した一番の理由は…多分聞いたら怒るかもしれないけど」
「”勘”なんだ」
勘???団長の言葉に俺たちの思考は一つになったと思う。これだけもったいぶっておいての理由が勘だなんて誰が想像できたか。
「だから怒んないでって、でもよく聞いてほしいんだけど私の勘がビビッて反応したんだ。こう…私にも敵が見えるっ!みたいな感じで、アルバ以外はありえないってわたしの勘がそう囁くの」
「みんな納得しづらいと思う。だけど…」
「どうかわたしを信じてほしい」
…結局カイ団長のあのまっすぐな目に俺たちはやられて納得させられたんだ。あの目には団長には珍しい真面目な”騎士団長”としての思いが込められていた。あの人にはどちらかというと迷惑をかけられることが多いが信頼しているし、信用もしている。だが人としては尊敬はしていない。
まぁ…そんなうちらの団長がそう言ったんだ。なら俺たちはそれを信用してやるしかない、そう思わないか?
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「ふわ~あ…眠い」
「おいお前…気を抜きすぎだろ…夜間の警備だぞ?」
「分かってるけど眠いもんは眠いから仕方ないだろ。…どこぞのおてんば姫が人手を連れていかなったらなぁ…」
「それは…確かにそうだが」
太陽が完全に落ち、空からはぼんやりとした月の光が降り注ぐのみとなった時刻、レギルスの納める領内のとある町に二人の騎士は駐在していた。
「次に増員がもらえるのはいつなんだろうな。つっても本部は今頃忙しいだろうしなぁ…」
「ほぼ半数を持っていかれたからな。…まぁ場所を考えれば妥当か少ないと思うが」
二人の内、片方の男が頭をぽりぽりと書きながらため息を漏らす。今の待遇に文句があるわけではない。駐在している場所は領内の中でも平和な方で隠居生活をするとすればここに決めたいと思うほど穏やかな場所だ。それに時々やってくる子供たちの相手をしてやりながら暇を潰し、いざというときにささっと働く。王都の騎士が聞けばうらやましがるほどだ。
「…気づいたか?」
「あぁ、2…いや4人か」
眠気を感じていた顔は一瞬のうちに鋭くなり、槍を握る手に力が入る。
「この時間に忍び込もうだなんていい度胸してやがる」
「住人はとっくに眠りについているころ…合理的に考えれば賢いと思うが愚かだな」
防壁の上から近場の森を睨む。こんな辺境の地の町を狙ってくるような盗賊がいまだに居るのかと思うが残念なことについ先日も5人ほど拘束したばかりだ。
「…じゃっ、まずは俺が先に動くかな。お前は無いと思うが討ち漏らしを警戒しておいてくれ」
「分かった…いや待て、もう一つ妙な気配がする」
「なに?…確かに…あいつらの奥か?」
二人は感じ取った盗賊たちらしき気配の更に奥に大きな気配を見つけた。かなりの大きさだ。あの盗賊たちが小石ほどだとすれば奥にいる者は人間の数倍はあるほどの岩石といったところか。
「どこかで傭兵でも雇ってきたのか?用意周到なやつらだな」
「だとすれば一体いくら積んだっていうんだ?俺たちでも勝てるか怪しいと思うほどのやつなんかそうそう居ないとはずなんだが…」
いつもの小者盗賊と思ったがどうやらそうではないようだ。言ってはいけないとは思うがこの程度の小さな町にあれほどの傭兵を連れてくるほどの価値はないはずだ。町の地下にとてつもない物が隠されているだとか、隠居している貴族がいるとかそういう話は一切無い平凡な町だ。そんな町に何故?
「今から応援を呼びに行って間に合うか…いや、その前に滅ぼされるか」
「良くて時間稼ぎってレベルか、こりゃ無理だな。やれるだけやって名誉ある死ってとこまで持っていくか」
二人は若干諦め気味に盗賊たちを待ち構えていると意外なことに森から悲鳴が聞こえてくるのだった。
「ひぃぃぃぃぃ!?なんでリビングメイルの上位種が!?」
「ここは地上のはずだろ!?なんでこんなアンデッドが外に」
「嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない!!誰か助けてくれ」
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「痛いっ!」
「ギャンっ!」
「グフゥ!?」
悲鳴の次に聞こえてくるのは数回ほどの剣と剣がぶつかる音と、鈍い何かをぶつような音だった。そして、森から何かを引き摺るような音が聞こえてくるとともに音の正体が姿を現した。
「止まれ!こんな時間に町に…ってあれ?」
「あ、アルバ団長??」
手持ちのカンテラを向けて目を凝らしてよく見るとそれは顔という顔にたんこぶを作った男たちをまとめてロープで縛ったまま引き摺る我らの騎士団長だった。
「いやぁ~…初対面であんなビビられたらさすがに傷つきますよね。まったく失礼な人たちでしたよ」
アルバは肩を少し落としながら全身に「悲しい」のオーラを纏いながら砦門に歩いてきた。慌てて駆けよると盗賊たちを縛り上げたロープを受け取った。
「ご、ご苦労様です騎士団長。まさか貴方がここに来るとは…」
「やれやれだぜ…夜警の手伝いをと思って歩いていたのはいいんですがやけに人相の悪い人たちに出会いましてね?こんな時間にどうしたのかなって話そうと思ったら叫びながら襲い掛かってきたので思わず殴っちゃったんですけど」
「…これ大丈夫ですかね?」
盗賊たちの姿を改めて見ると最初に目に入ってから目立っていたたんこぶの数は痛々しさを感じさせるし、ところどころには青く腫れている箇所もある。挙句の果てに気絶している盗賊の一人の口からは血が少し垂れており、口を開かせると歯が3本ほど抜けてしまっていた。目をバッテンにして傷だらけの彼らと土汚れ一つなく若干手に赤い何かがついた騎士団長の姿を見ればどちらが悪いのかは一目でわかるだろう。とはいったものの相手は盗賊とはいえ襲い掛かってきたからといってここまで本気でぼこぼこにするまでは必要だっただろうか?二人は心の奥底で騎士団長の倫理を疑った。
「…えぇ~っと、こやつらは盗賊のようなので…まぁ…問題はない…かと」
ドン引きしながら荷物を調べると証拠が次々と見つかった。見つかったのは良いがもしこれで盗賊じゃなかったとしたらどうなっていたのか考えたくない。
「あぁ良かった。ただの盗賊でしたか。もし酔っぱらった冒険者とかだったら面倒な始末書書かないといけなかったんで…」
「「今何て言いました?」」
この人、人の心とかないのか?いやそもそも人じゃないし、アンデッドだったか…ならあんな発言は…普通なのかもしれない
「あそうだ。え~っと…多分こぼれてないはずなんですけど…あった!」
アルバ団長はハッとすると腰につけた袋に手を差し込んで中を探し始めた。そして探していたものが見つかると中から温度を保つ刻印の入った金属の筒を取り出した。
「こちら差し入れです。最近は冷えてきたので料理人さんに頼んで作ってもらったんです。飲むとあったまりますよ」
金属の筒を手渡されたので少し捻ると蓋が開いた。中からは湯気と共にとても良い香りのする液体が入っていた。
「だ、団長!さすがに受け取れませんよ。我々はまだ夜警の最中ですし…」
「まったく頑固な部下たちですね~、良いんですよ人の代わりに辛いことを引き受けてるんですから、こういうときぐらい良い思いしたほうがいいじゃないですか」
「別に当番で決まっているんで…」
「はいはい飲んだ飲んだ!寒くて余計な体力消耗するよりはマシなんで飲んでくださいね。飲み終わるまでそこで座って休みながらですよ」
そういうとアルバは二人の手から武器をひったくって無理やり門の隅に座らせた。部下を休ませて騎士団のトップが警備に励むというのはいささか問題しかないように思うが、その内考えるのを止めて大人しくスープをいただくことにした。
なんとなくだが、もっと頑張らないとなと思う




