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そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
その始まりは静かに

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222/230

その始まりは静かに Ⅱ

 ボロボロの店が立ち並ぶ緩衝地帯(オアシス)の中心部では、くたびれた者達が道端にしゃがみ込み、思考を失った者達が足を引きずるように徘徊している。その数は増加の一途をたどっており、街は徘徊者で溢れていた。


「また酷くなってやがる」


 オッタは、そんな街の惨状に眉をひそめ、思わず口から言葉がこぼれ落ちる。


「オレ達が以前来た時は、たまに酔っぱらいが転がっているだけだったぞ。どうなってんだ?!」


 話には聞いていたが、想像を超える惨状にシンは驚きを隠せない。


「そのうち、まともに採取できる潜行者(ダイバー)がいなくなるだけさ」


 オッタが自嘲気味に吐き捨てると、シンが背中を押す。


「おい、行くぞ」


ノーラは徘徊者達に脇目も振らず、中心部を縫うように進んでいた。ふたりはフードを深く被り直し、つかず離れず、距離を置いて後を追う。そう長くはない中心部を抜けると、人の気配は一気に失せ、ふたりはさらに距離を開けた。

 地上では見る事のない独特な形状の木々が林を形成し始めると、オッタは既視感を覚え、一瞬、足を止めてしまう。


「こっちって、バルバラの⋯⋯?」

「おい、どうした? 行くぞ」


 シンに急かされ、オッタは再び足を動かす。

 バルバラが眠る場所。

 それとともに、心に何か引っ掛かるものを感じていた。だが、後を()けるのに集中していき、引っ掛かりは霧散する。

 ノーラはバルバラの眠る場所を通り過ぎ、赤味を帯びる壁に手を当てるとそのままグイっと両手で軽く開いて見せた。その瞬間、オッタの中にあった引っ掛かりが解けていった。


 そうだ⋯⋯イヴァンが言っていた、もうひとつのダンジョンの入口。


 それを目の当たりにして、ふたりとも戸惑いを隠せない。シンにいたっては、その光景に言葉を失い固まってしまった。

 岩肌を両手で開くと、ノーラは壁の中へ消えていく。ふたりは戸惑いながらも、ノーラの消えた岩肌へと急いだ。

 シンがオッタに目で合図を送るとオッタはすぐにうなずく。ふたりはしゃがみ込み、シンは壁に手を当てた。ヒヤっとする冷たい感じは岩のようだが、その柔軟さは明らかに岩ではなかった。柔らかくはないが、固くもない。

 ノーラが触れていた箇所をよく見ると、縦に亀裂が入っており、ちょうどよく指が引っ掛かる。不思議な感触に顔をしかめながら、シンは足元の岩肌をそっと開いていった。 

 下から中を覗き込むと、【アイヴァンミストル】らしき光が中を明るく照らしている。最深層のような黒い岩肌が奥へと続き、ノーラと、【龍の守り人】らしき男が会話を交わしていた。

 オッタも同じように足元から覗き込んでいくが、少し距離があるせいで、中での会話は聞こえなかった。

 ノーラが大きめの外套の下から袋を取り出すと、男も小さな袋を差し出す。お互いに交換した袋の中身を確認し合うと、ろくに挨拶もせずにノーラは踵を返し、こちらへと向かう。

 オッタとシンは慌てて、壁から離れ大きな木の陰に身を潜めていった。

 ノーラの持つ袋の中身が何であるか想像はつくものの、それがもうひとつのダンジョンと繋がらず困惑は深まっていく。


(どうする?)


 遠ざかるノーラの姿にオッタが耳打ちすると、シンは壁とノーラの背中を交互に見やり、軽く舌打ちをして見せた。


(守り人の方が(くみ)しやすいだろう)

(だよな)


 ノーラの背中が見えなくなるとシンは岩肌を開き、中をそっと覗いた。


(だれもいねえ。行こうぜ)


 シンがグイっと開くと、もうひとつのダンジョンへの入口ができる。ふたりはゆっくりと中に入り、未知のダンジョンを慎重に、だが足早に進んでいった。

 コツコツとふたりの足音だけがダンジョンに響き、人の気配は一切感じない。モンスターはいないと聞いているせいもあってか、不気味さはそれほど感じず、緊張感はそれほどなかった。


(⋯⋯いた)


 シンの言葉より先にオッタは飛び出し、男の背後へと迫る。

 気が付けば、オッタのナイフは男の首元に当てられ、男の体は壁際へと押しやられていた。右手にナイフ、左手は男の口を覆い、刃の冷たい感触に怯える男の耳元にオッタは口を寄せる。


「死にたくなかったら、騒ぐな⋯⋯わかったら静かに頷け」


 男は恐怖で震えながら静かに頷くと、オッタはゆっくりと男の口元から手を外していく。首元に刃を突き付けられたままの男は、浅い呼吸を繰り返し、激しい怯えを見せていた。


「心配すんな。おまえが騒がなきゃ、オレ達はおまえの味方だ」


 シンが微笑みを浮かべながら近づくと、猜疑心を見せつつも、男は少しばかりの落ち着きを見せる。


「オッタ」


 シンに目配せされ、オッタは男の首元からナイフを外した。首元から消えた冷たい感触に、男は安堵の表情を浮かべる。


「オレはシンだ。こっちはオッタ。あんたの名は?」

「⋯⋯ロビラ」


 ヴィヴィと同じくらいの年齢だろうか。ヴィヴィよりも顔色は蒼く見え、地上の人間からするとやはり不健康に見えた。目鼻立ちははっきりとして整った顔をしているが、強い怯えからか視線はキョロキョロと落ち着かない。乱雑に切り揃えられた紫髪の艶はなく、肌着に毛が生えた程度の煤けた着衣は、どこかみすぼらしくさえ見えた。


「ロビラ、手荒なマネして悪かった。さっきも言ったようにオレ達は味方だ」


 シンは冷静に言葉を紡ぐ。だが、ロビラの猜疑心は消えず、怯えながらもその視線から拒絶が窺えた。


「りゃ、略奪者が! 何しに来た!」

「うるせえ⋯⋯静かにしろと言ったよな⋯⋯」


 オッタが首元に再び刃を添えると、ロビラは固まってしまう。


「まあまあ、オッタ落ち着けって。ロビラ、あんたもだ。別に何も盗りゃしねえよ。それより、その袋の中を見せてくれないか?」


 シンの提案に、ロビラはギュっと袋を抱きしめる。


「ダメだ。お、おまえら、これを盗る気なんだろう? これは大婆(オーマ)に渡さなければならない物だ」

「て、ことは、あんたはくすねることもせず、ちゃんと渡すいい子ちゃんなんだな」


 少しばかり毒を持ったシンの言葉は、ロビラの自尊心を軽く傷つけた。


「く、くすねるなんてことしたら、大変なことになる。すぐにバレちゃうよ」

「大変なことってなんだ? ま、話を聞く限り、大婆(オーマ)ってヤツはロクな野郎じゃねえんだよな」


 オッタがナイフを再び首元から外しながら言うと、ロビラは、オッタの口から大婆(オーマ)という単語が出たことに引っ掛かりを見せた。


「どうして、あんたが大婆(オーマ)を知っているんだ?」

「そりゃ、ウチのパーティーに【龍の守り人】がいるからな」

「えっ?!」


 当たり前だとばかりに言うオッタに、ロビラは思わず絶句してしまう。


「ディディアとファビオ、そしてヴィヴィだ」


 三人の名前がスラスラと出ると、ロビラは驚愕のあまり固まってしまった。そんなロビラの姿に、オッタは初めて笑みを見せた。


「三人共、生きているのか??」

「生きているも何も、元気にピンピンしているさ」

「……そうか、生きているのか……よかった……」


 ロビラは三人の生存に安堵し、独り言を繰り返す。


「このダンジョンの内情は三人から聞いている⋯⋯おまえにその気があるなら、上に連れて行く。おまえだけじゃない、上に行きたいやつがいれば、全員連れて行く」


 当たり前だと言い切るオッタに、ロビラは驚きを隠せず口を開けたまま固まっていた。

 そんなロビラにシンが、肩に手をまわしていく。


「ま、そういうこった。おまえの味方だと言ったろう? だが、その前にだ。あのエルフと何の取引をしていたか確認させろ」

「……本当に連れて行ってくれるのか?」

「ああ、本当だ。オッタのパーティーが、おまえたち【龍の守り人】の受け入れ準備を着々と進めている」

「ウチにはディディアとファビオ、そしてヴィヴィもいる。若いやつらが、上に行きたがっているのも知っている。ウチのやつらは、ヴィヴィを殺そうとした、大婆(ババァ)のやり方が気に入らねえんだよ」


 『殺す』という単刀直入な言葉に、ロビラは気まずさから俯いてしまう。

 【龍の守り人】の立場から違うと言うべきなのかもしれない。だが、その道理が通用しないことは、オッタの力強い物言いから理解できた。何より、ヴィヴィが生きていたことに安堵した自分が、オッタの言葉を否定できるとは思えなかった。


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