※スリは犯罪です‼
マルタニでの一件を経て、カイト、ヤミコ、カスミはまたいつも通りの生活へと戻っていたがその生活には多少の変化があった。
一体どこから漏れたのか。ヤミコが骸頭を追い払ったことがハンターたちの間で噂になっていたのだ。そのためヤミコはハンターの間では一目置かれる存在となっていた。初めは噂を信じない人たちもいたがヤミコが巨斧を振り回して機械生命体を蹴散らしているところを見れば信じざるを得なかった。わずか1日にしてヤミコは無名のハンターから一気に人気者へと上り詰めた。そのおかげで連日他のハンターたちから声を掛けられたり、一緒に仕事をしないかと誘いを受けることが増えた。さらにヤミコに直接依頼をするもの現れた。個人を直接指名しての依頼などハンターからすればこの上ない名誉なことだろう。
しかし本人は浮足立つようなこともなく相変わらずカイトラブ。多少話すことはあっても仕事の誘いを受けることもなければ、依頼を受けるようなこともない。常にカイトと一緒にいた。全てはカイトのため。カイトだけ。カイトラブ。
そのため他のハンターたちと群れないヤミコという存在は高嶺の花のような存在として扱われていた。
ヤミコはこれほど褒められ称えられている。ではカイトはどうなのかという話だが残念ながらハンターたちの彼への評価はあまり良くなかったりする。マルタニでの戦闘にはカイトも参加していたが彼の活躍は伝えられていない。当然と言えば当然か。彼は人質の救出と周囲の機械生命体の相手をしていた。
誰もが恐れる骸頭との交戦時間はとても短く誰もその瞬間をまともに見てはいなかったのだ。そのため交戦時間の長かったヤミコが手柄を立てたことになるのは必然だった。
そんなわけでカイトは釣り合わないヤミコと一緒にいる謎の男ということになっている。人間というのは恐ろしいもので自分が好きなものに余分なものがくっ付いていると疎ましく思うものなのだ。
おかげさまで最近は少し肩身が狭い。
「何か学校にいた頃と同じものを感じる」
カイトとヤミコは人混みの多い通りを歩く。
元の世界にいた時もヤミコはヤンデレだったが実はそれを明確に知っているのはカイトだけだった。ヤミコは普段は優等生。学級委員長を務め、何でもできる美少女だった。当然人気者で男女問わずにファンがいた。男子たちはよく自爆特攻(告白)をしていたが、あまりの難攻不落っぷりから告白難易度SSSの高嶺、いやもはや天に昇る太陽のような存在として扱われていた。難攻不落の理由はもちろんカイトであるが詳しい事情を知っている者などおらず。人気者の傍にいるということでカイトは男子からよく目の敵にされとばっちりを食らっていたのだ。
「俺が傍にいるわけじゃないのよね」
そうカイトがヤミコの傍にいるわけではない。ヤミコがカイトの傍にいるのだ。彼はヤンデレと嫉妬の目に板挟みにされた哀れな被害者なのだ。
「なあヤミコや。他のハンターたちからの仕事も受けてみてくれないか?」
「いや」
「でもその方が報酬の良い依頼を受けられる。今みたいにチマチマ仕事をやるより効率が良いんだ」
「私はカイトと仕事がしたい。ずっと一緒にいたい」
カイトとしてはヤミコが良い報酬を受けてくれるならばそれに越したはことはない。それに最近はカイトに向けられる視線も痛い。少し距離を置きたいという気持ちもある。しかしヤミコがこう言っている以上はそれを無理にどうこうできるものでもない。ヤミコのことは怖いし、苦手ではあるが嫌いなわけではない。だから本人の意思は尊重したい。
「あ、便利屋さん‼」
色々と悩むカイトが立ち止まったのはとある露店の前だった。露店から良い匂いがする。茶葉の香りだ。この露店の正体は茶葉を売る茶葉専門店だ。この貧民街で茶葉は高級品に思えるかもしれないがアーケイドでは意外とそうでもない。もちろん突き詰めていけば高くなるし、中央区に住む人間にとっては最底辺かそれ以下のものだが貧民街に暮らす人々にとってはこの程度で十分。ましてや最低品質だろうがほぼ水同然の激薄のお茶だろうが構わず飲むカイトにとってはどうでもいいことだ。
「例のもの手に入った?」
「ああ。依頼通り、フルルフラルの花びらだ」
カイトは袋いっぱいに入ったそれを露店の店主に渡す。露店の店主は袋の中を覗くと満足そうな表情をする。
「これだけあれば十分。はい、報酬。お茶の葉だけど。本当にこんなでいいのかい?」
「ああ。ここのお茶好きだからな。それにちょうど切らしてたんだ」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。ならこれもサービスするよ。新作のブレンド。また来てくれよ」
カイトは茶葉の入った紙袋を手に露店を後にした。
カイトはハンターたちからは良く思われていない。しかしすべての人から良く思われていないわけではない。変わったのはカイトへの視線だけではない。カイトの仕事のスタイルも前とは少し変わった。
今までは酒場に貼られた依頼だけを受けてきたがそれとは別にカイトを訪ね、直接依頼を頼む人たちが現れたのだ。カイトに依頼する彼らは身分が高いとか、金払いが良いとかではない。ある者はただの茶葉屋、ある者はただの薬師、ある者はただの主婦。どこにでもいるような普通の人たちだ。
依頼される仕事など大したものではない。誰も見向きもしないような報酬が良いわけでもない小さな依頼。一体どうやって彼らはカイトを知ったのか。カイト自身最初は不思議だった。しかし聞いてみればその答えはすぐに出てきた。
マルタニでカイトに助けられた鉱夫の人たちがカイトのことを話したからだった。確かにカイトは悪夢を振り払った英雄ではなかった。しかし助けられた彼らにとってカイトは命の恩人であり、カイトこそが英雄だった。彼の頑張りを誰も知らないわけではない。誰も知らないところでカイトは小さな英雄となっていたのだ。
ヤミコはそんなカイトを横目で見てどこか自慢げに、そして満足げに微笑む。
「なんだよ」
「別に」
家へと向かう2人だったがその時、カイトが目の前から走ってきた子どもとぶつかった。軽くぶつかった程度で互いに怪我はない。子どもは急いでいたのか「ごめんなさーい」と謝りながらカイトの後方へと走り去っていった。別になんてことはない。人が多い割に道がそんなに広くない外周区ではよくあることだ。外周区の子どもは元気だ。貧民街の子ども、と聞くと心配になるかもしれないが外周区の子どもたちも日本にいた子どもたちと大して変わらない。よく外で遊んでいるし、走り回っている。もしかしたらゲーム機がない分こちらの方が健康的かもしれない。こんな場所でも元気。見ているとやはり子どもは元気が1番だと感じる。
物騒だが平和。というか子どもが唯一の平和の象徴。それが外周区だ。
「あ、用事を思い出した」
あまりにも唐突。カイトは持っていた袋をヤミコに渡す。そして元来た道を走っていく。
「それなら私も」
「いや大したことじゃない。先帰っててくれ」
ヤミコが止めるよりも前にカイトは走って行ってしまった。走るカイトの足に取り付けられたホルスターには見たことのないカイトも知らない銀色の銃が収まっている。大口径のその銃は太陽の光を反射して眩く光る。




