救出大作戦2
マルタニに到着したカイトとヤミコはすぐに列車を離れ、村の中に潜伏した。現在、マルタニには人がいない。住民はすでに避難済みだ。おかげで隠れやすく動きやすい。中央警察の兵士に見つかっても厄介なことになりそうなのでこの状況はまさに好都合というやつだ。
中央警察の兵士たちは村の中にはおらず、全員どこかへ集結しているようだった。カイトたちはそのまま身を隠しながら兵士たちが駆けていく方へと後をつける。
兵士たちの後をつけた先でカイトとヤミコが見たのは鉱山の入口付近で戦う兵士と機械生命体たちだった。銃声や爆音が鳴り響くそこはまさに戦場。どうやら機械生命体の数が多いらしく兵士たちが苦戦しているようだ。
そして戦場である鉱山の入口付近から離れた民家の近くに前線基地が設置されていた。カイトたちは物陰に隠れ兵士たちの会話を盗聴する。
「戦況は」
「敵の数が多く未だ鉱山内への突入は難しいかと」
「クソッ‼このままでは助けられるものも助けられんぞ‼」
どうやら鉱山内に生存者がいるようだ。
「今のうちに行きましょう」
時間をかければかけるほど鉱山内の人が生き残る確率は下がっていく。いや、最悪の場合もうすでに。しかしここでそんなことを考えていたって仕方がない。慎重にもの後をと考えられる時間はない。考えっるより先に動く、今はそういう状況だ。カイトたちは戦場を回り込んで戦闘を回避しつつ突っ走り、戦闘の混乱に乗じて鉱山内に侵入した。
中は暗く、照明は電源を破壊されたのか点灯していない。カイトは額のゴーグルをつける。万能ゴーグルに搭載された暗視装置が作動すると暗闇で見えなくなっていた先の道がかなり鮮明に見えるようになった。そしてゴーグルが何かを検知し、それがカイトの視界に表示される。
「石炭を含む粉塵だ。この中で火を使えば大変なことになるぞ」
カイトにとって火が使えないというのは主力である銃が使えないということ。つまりは戦力の半減を意味している。カイトは渋々ナイフを手に持ち身構える。ヤミコはいつもの巨大な戦斧をしまうと直剣に持ち替えた。
「暗闇でも見えるのか?」
ヤミコはライトもなければカイトのようなゴーグルを持っているわけでもない。手に持っているのは剣のみだ。
「暗闇でも外と同じくらいしっかり見えてる」
さすがは最強転生者だ。カイトも暗闇でも人より視界は確保できているのだが外と同じようにしっかりと見えているわけではない。ゴーグルの補助がなければ完全に視界を確保することはできないのだ。ここはカイトとヤミコの能力の差が顕著に表れている。
「どうやって探す?」
鉱山内はかなりの数枝分かれしていて生存者を見つけるのは容易ではない。
「手分けしよう。地図を見せてくれ」
カイトがそう言うとヤミコは手首の腕時計のボタンを押した。ヤミコの持つ腕時計『SAD』には原理不明だが自分のいる周囲の地形情報を正確に表示する機能が付いている。腕時計から飛び出してホログラムで表示された地形情報を見る。
「この先、道が左右に分かれてる。俺は右、ヤミコは左を探そう」
「生存者を見つけたら?」
「できるなら中央警察に引き渡す。もし1時間経っても片方が戻ってこなかったら、もう片方の道を探す。いいな?」
「うん。地形は覚えた?」
「とっくに」
2人はそれぞれ右と左の道に進む。失敗の許されない救出作戦が始まった。
カイトは暗く狭い道をゴーグルを装着した状態で進む。手にはナイフ1つ。他に使える武装はない。もし今
機械生命体に襲われたとしても倒すことはできるだろう。しかしその方法はスマートなものとは言えない。道は狭く、ナイフの攻撃できる範囲はとても小さい。そしてナイフでは機械生命体の装甲を切り裂くことはできない。
狙うのは頭部に繋がるケーブルや機械生命体の心臓であるコアだ。そこを切断、もしくは破壊することで機能を停止させるしかない。
現状はカイトにとって不利ではない。しかし不利になりかねない。そんな不安定な状況だ。
暗闇の中で万能ゴーグルが何かを検知した。それは人間の死体だった。そして立て続けにゴーグルから物体を検知したことが表示される。しかしそんな表示がなくとも目の前を見れば検知されたそれが何なのかすぐにわかった。やはりというべきか、すべて人間の死体だった。何人もの人がここで機械生命体に殺されたのだろう。
カイトは死体を観察する。ほとんどのものには機械生命体の鉄の牙に食い殺されたようなひどい損傷はないように見える。しかし血は流れていて地面一帯を黒く染めている。
(一体何が・・・)
チリン
歩いたときに何かを蹴った。金属のような音だ。見るとそれはコインのような小さな金属の塊だった。カイトが疑問に思い、そのコインのようなものを拾おうとした時だった。カイトは自分の体に電流が走った時のような独特な感覚を感じた。
咄嗟に横に跳んだ。それと同時にすぐ真横を何かがものすごい速度で通過していく。敵の攻撃だとすぐに分かった。カイトが身構えると暗闇の中から機械生命体、アイゼンヴォルフが姿を現した。しかしその姿はカイトが知っているものではなかった。
アイゼンヴォルフの背中に見慣れない大砲のような筒状の武装が乗っていた。万能ゴーグルがすぐにその筒状の武装を解析した。カイトの視界に電磁砲とはっきり表示される。
(さっきのコインは電磁砲の弾か‼)
アイゼンヴォルフは再び電磁砲を発射する。しかしカイトはそれを容易く避ける。
カイトの能力である唯一の未来は敵の攻撃を完璧に予知する。敵がいつ、どこに攻撃してくるのかカイトにはすべて見えている。
カイトはアイゼンヴォルフとの距離を詰める。その間にもう1度電磁砲が発射されるがすでに予知しているカイトには当然それが命中することはない。あっという間に距離が縮まり、カイトはアイゼンヴォルフの首にナイフを突き立てる。ケーブルを切断するとアイゼンヴォルフの機能が完全に停止した。
「厄介だな」
鉱山内は狭く使える空間が狭いが攻撃の位置、方向、タイミングが見えている以上敵の攻撃を避けられないことはないだろう。しかしそれはカイトだけの話だ。
カイトが今、自分の置かれた状況よりも心配しているのは果たして生存者はいるのか、ということだ。近接攻撃のみの機械生命体ならば逃げられないこともない。生存者がいる可能性はある。
しかし電磁砲という遠距離攻撃を持つ個体がいるとなれば話は変わる。この狭い道で攻撃を避けることなど普通はできない。分かれ道はあるが結局は袋小路。待っているのは一方的な虐殺だ。
改めて問いたい。
本当に、生存者はいるのか?
不安を胸にカイトは暗闇を歩き続ける。