救出大作戦3
カイトと別れヤミコは暗闇を進む。地面にはバラバラになった機械生命体たちの残骸が転がっている。カイトが敵の攻撃を回避し、敵に確実に致命的な一撃を喰らわせる戦法を得意とするのに対しヤミコの戦法はわかりやすく正面からの真っ向勝負。とても単純な戦法だ。単純で戦いやすいが同時に敵からしてもとても対処しやすい。しかしその単純さを補って余りあるほど彼女の転生者としての能力は強力だった。
また1体、彼女の前に機械生命体が現れた。機械生命体は躊躇なく自身に搭載された電磁砲を発砲。発射音もなく金属の塊が射出されヤミコへと向かっていく。それに対してヤミコはとても冷静に一歩横に体をずらすことで攻撃を回避した。機械生命体は立て続けに電磁砲を撃つが発射した弾はどれ1つとしてヤミコには当たらない。
ヤミコにカイトのような敵の攻撃を予知する能力はない。だが冷静に避けられる。その原理はとても単純で敵が攻撃する瞬間を目で見て避けているだけだ。ヤミコには発射される瞬間の弾丸が見えている。攻撃の始まる瞬間を見ているのならあとは体を動かして攻撃を避けるもしくは防ぐだけ。言葉にしてみればとても単純で当たり前のことだが普通の人間がこの領域に達するのにどれだけの時間と訓練が必要だろうか。ヤミコはそれらの全てを転生によって踏み倒しているのだ。
攻撃を避ければやることは1つ。ヤミコは手に持った剣を振り下ろして機械生命体をバラバラに破壊した。全て単純な作業でしかない。
単純な戦法、単純な力、単純な攻撃に単純な防御。
全てが単純。しかしその単純も極まればどんな複雑な戦法よりも強くなる。単純故に隙なし。それがヤミコの強さだ。敵や暗闇に臆せず進むヤミコの歩は早い。鉱山内に転がるおびただしいほどの死体を跨いで奥へと進む。
(ひどい光景)
今、ただの高校生であるヤミコが冷静でいられるのは持ち前の性格もそうだが自分が絶対に死なないほどの力を持っているからだ。もしそうでなければきっとこんなところには来なかっただろう。カスミがどうなろうとヤミコの知ったことではない。しかし今こうしてここにいるのはカイトがそれを望んだから、そして自分自身に不可能を可能にできるだけの力があるからだ。ならば嫌でも冷静にならざるを得ない。
カスミが助かるのかどうか、なによりもカイトが悲しむかどうかはヤミコに掛かっているのだから。
ぴちゃっと音が立つ。水たまりか何かを踏んだのだろう。しかし気に留めはしない。しかし足を出して瞬間何かがつま先にぶつかった。少し重たく石などとも違う感触のそれは柔らかくブーツが僅かに食い込む。見るとそれは千切れた人間の右腕だった。そこでヤミコの歩みが初めて止まる。千切れた腕を見下ろす。機械生命体に襲われて千切られた右腕は力仕事をしているはずの炭鉱夫のものにしては細く、石炭などで汚れているわけでもなく白い綺麗な肌なのがわかる。
まるで女の腕のようだ。
ヤミコは歩いてきた道を振り返る。道には血だらけの死体があちこちに横たわっている。あの中にいたのだろうか。カスミはもう他の死体と見分けのつかないほどの姿になってしまったのだろうか。ヤミコの頭の中にそんな嫌な考えがよぎった。
残念だが可能性はある。これだけの人が死んでいるというのにカスミだけが生き残っているというのはあまりにも都合が良すぎる。ここは物語の世界ではない。誰だって死ぬときは死ぬ。それが例え自分の知り合いであったとしても。
ヤミコはそんな最悪の事態を想定しつつまた進み続ける。敵を蹴散らし、屍の山を越え、奥へ奥へ。暗闇の奥へと進んでいく。
(生存者なし)
それが最奥へたどり着いた彼女が出した結論だった。生きていた人間もいない。そして進むべき道ももうない。この道にいたのはこの惨状を作り出した機械生命体たちだけだがそれもただの鉄くずになってしまった。
(ハズレかしら)
引き返そうとしたヤミコだったがそこで見逃していた狭い脇道を見つけた。道の幅は人ひとり分くらいしかなく電磁砲のような重装備を背負った機械生命体では通り抜けられそうにない。ヤミコは警戒しながらその狭い道をゆっくりと進む。
狭い道の先には広い空間があるのが見える。ヤミコはその空間に躊躇なく足を踏み込む。
突如、左から鋭い一撃がヤミコに放たれる。それは槍だ。先端が鋭く尖り、パチパチと音を立て電流の流れる特殊な槍。当たれば鋭い槍が突き刺さって死ぬ、例え直撃を避けられたとしても槍の先端に触れれば電流によって普通の人間ならば黒焦げになっているだろう。ヤミコからすればどちらもかすり傷にもならない攻撃ではある。
いや、そもそも超人を超える身体能力と反応速度を持つヤミコに普通の攻撃が当たるはずもない。ヤミコはその鈍い攻撃を難なく最小限の動きで避ける。どんな機械生命体がいるのかと思い攻撃が来た方を見る。
「目を瞑っていたら当たるものも当たらないわよ?」
そこにいたのは目をぎゅっと強く瞑って槍を突き出しているカスミの姿だった。その後ろにはバラバラになった機械生命体の残骸がある。カスミが持っているこの槍はおそらく機械生命体の残骸から部品を取り出してこの場で作り上げた即席の武器なのだろう。絶体絶命のこの状況、しかも限られた部品の中でよく作り上げたものだとヤミコは心の中で感心する。
「ヤミコちゃん・ ・ ・ ・ ・ヤミコちゃぁぁぁん‼」
聞き覚えのある声に目を開いたカスミはヤミコの姿を確認すると槍を捨てて泣きながらヤミコに抱き着く。
「ちょ、ちょっと」
「メッチャ怖かったッス‼もうダメかと思ったッスぅ‼」
ここはおとなしく泣かせておいてあげるか優しく抱きしめてあげるべきなのだろう。しかし感動の再会もつかの間、もはや普段着と化している防具プロテクトスーツにしっかり鼻水を付けられたヤミコはカスミを引きはがす。鼻水を付けられてはせっかくの数少ない百合要素も再会の雰囲気も台無しというものだ。
「でも、何でここに?」
「カイトがそうしたいって言ったから」
「じゃあカイトさんもここに!?」
「ええ。他に生存者は?」
「わ、わかんないッス・・・」
カスミ以外の生存者はなし。ということか。見たところここ以外に機械生命体から隠れることのできそうな場所はない。他はどこも機械生命体が闊歩していて丸腰の人間が生き残れるような場所ではなかった。カスミだけが残ったのは偶然か、それとも必然か。
(生存者は1人だけ)
カスミを目の前にヤミコの中で何かが生まれる。
(こいつさえいなくなれば)
剣を握る手に力が入る。誰も見ていない。そしてこの目の前の少女さえいなくなれば。
全ては元通り。余計なものなどない。2人だけの時間を取り戻せる。もともとカスミがどうなろうとヤミコの知ったことではない。ただ目の前にあの少年の、愛する人の姿さえあるのなら他の全てがなくなってしまっても構わない。余計なものは消えた方が都合がいい。
これほどに誰かを強く思うのはいけないことだろうか。皆誰かを蹴落として生きている。勉強も、仕事も、生活も、恋も。知らないだけ見えないだけで誰かを踏み台にして、誰かを消し去って、誰かを殺してあっている。ならば誰もいないここで目の前の少女が死んだところでそれは自然の摂理というやつなのではないだろうか。
(いや、今じゃない。消すのはいつでもできる)
今までの考えとは裏腹にヤミコの選択はとても意外なものだった。
(カイト・・・)
どんな時でも頭の中に浮かぶのは笑いかけてくれるカイトの表情だ。決断させるものがカイトならばその決断を鈍らせるのもまたカイトという少年である。カイトはヤミコにとってのすべてであり、ヤミコ自身を左右する存在だ。今はまだ彼の笑顔を曇らせるべきではない。そう判断したのだ。
「行くわよ」
ヤミコはカスミを連れて外へと向かう。




