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降臨する悪夢

暗闇を歩くカイトはある広い空間にたどり着いた。その空間は鉱山内の他のどの場所とも違いとても広く、ここの電源は生きているらしく薄暗く灯りがついている。おそらく鉱山内の採掘場だろう。採掘用の機械などがたくさん置かれている。そんな空間の中で何やら物音が聞こえる。カイトはゴーグルを外し、銃を取り出して構える。この広さならば銃を使っても問題はないだろう。音の方へ近づいていくと2体の機械生命体(メタリカント)が壁際で何かしているのが見えた。カイトはすぐ近くの物陰に身を隠し様子をうかがう。


ガリガリガリガリと岩を削る音が響く。


(何かを採掘しているのか?)


物音の正体は機械生命体(メタリカント)が専用の採掘装備で岩を削る音だったようだ。カイトは改めてレーザー銃マグナ・マグナをしっかりと握ると物陰から飛び出す。そして機械生命体(メタリカント)に向けて発砲。機械生命体(メタリカント)が振り向くよりも先に2つのレーザー弾が2体の機械生命体(メタリカント)のコアを正確に貫く。


心臓部であるコアを破壊された機械生命体(メタリカント)は機能を停止する。機械生命体(メタリカント)が採掘していた小さな鉱石が地面に転がり落ちた。カイトはそれをつまみ上げて見る。石ころ程度の小さな鉱石はダイヤモンドのようにキラキラと輝いている。しかしカイトの知っているダイヤモンドとは違い、わずかに白く濁ったような色をしていて透明感はあまりない。


せっかく外したゴーグルを再び装着しその鉱石を解析する。


『レアメタル、ホワイトランド鉱石』


レアメタルという言葉はカイトも聞いたことがある。学校で教師が「まあ、なんだ。レアなメタル。それがレアメタルだ」と説明していたのをなんとなく覚えている。詳しいことはよくわからないがこれも希少な金属なのだろう。


「なるほど、狙いが読めたぞ」


なぜ機械生命体(メタリカント)たちがマルタニ鉱山を襲撃したのかという疑問はあった。なぜこのタイミングなのか。機械生命体(メタリカント)の物量を以ってすれば鉱山を占拠するなど容易いこと、いつでもこの鉱山を取れたはずだ。今まで目もくれていなかったというのになぜ急にこの鉱山に目を付け襲撃、占拠したのか。その答えはカイトの手の中にあった。このつまむほどの小さなレアメタルだ。レアメタルは半導体の部品に使われると聞く。そして半導体とは機械の部品。機械部品は機械生命体(メタリカント)にとって内蔵のようもなくてはならないものであり、自分たちを造り、進化させる可能性そのものだ。


これまで無関心だった鉱山でも自分たちを強化できる宝が眠るとわかれば話は変わる。人間との共存が望めないのなら手に入れる方法は強襲以外にあり得ない。


カイトは小さなその鉱石を捨てて銃の持ち手を握り直す。こんな石ころなどカイトにとってはどうでもいいものだ。生きている人間を探し出す。それが今優先するべきことであり、価値のあるものだ。カイトは広い採掘場で生存者を探すために歩き始める。


採掘場には先ほどの個体の他にも機械生命体(メタリカント)が各所にいた。しかしすべての個体を相手にすることはできない。残弾に余裕があるわけではないし、こんな場所で派手に戦闘するわけにもいかない。スルー出来そうな個体は放っておいてカイトは人が隠れていそうな場所を探す。目を付けたのは仮設コンテナハウスのような四角い建物だった。おそらくは作業員の休憩場のようなものだろう。


カイトはゴーグルを付けるとゴーグルのモードを切り替える。今まで暗闇で活躍する暗視装置(ナイトビジョン)や物を分析するモードで使ってきたが今度のモードはこれらとは一線を画す。今カイトの目に映っているのは白黒の視界と数個の点滅する赤い点だ。数個の赤い点は近くに密集しておりそれぞれ点滅の頻度が微妙に違う。


心拍探知(パルスソナー)モード。それは生き物の鼓動を可視化するモードだ。本来見えないはずのない音を可視化することができるだけでなく小さな心臓の音を正確に拾い表示する。これがあれば半径20メートル以内の生き物を探すことができる。さすがは万能ゴーグルといったところだ。本当に何でもできてしまう。


今映っている心音は5つ。少なくとも5人は生きている人がいるということだ。カイトは静かに建物に近づくと鍵のかかったドアの取っ手をナイフで破壊し、静かにそして強引にドアを開けた。


中に隠れていた鉱員たちはカイトの姿を見て一瞬驚いたような顔を見せたがすぐに助けが来たのだと理解してくれた。


「他に生き残りは?」


「ここ以外に隠れることのできる場所はない。ここにいるのが全員だ」


「・・・わかった。脱出しよう」


生きていたのはたったの5人。カイトはその生き残った5人の鉱員たちを連れて出口を目指す。途中、機械生命体(メタリカント)の妨害があることを考えればこの大人数での脱出は困難だと思われたが運がいいのか、それとも人間を逃がしてしまうことよりもレアメタルの採掘の方が優先と判断したのか機械生命体(メタリカント)に見つかるようなこともなくすんなり広い採掘場から抜け出せた。出口へ向かう道中も機械生命体(メタリカント)には出会わなかった。


「カイト‼」


出口付近にはヤミコとカスミがいた。カイトはカスミの顔を見て安心したように頬を緩めた。しかしほっと胸をなでおろしていられるような状況ではない。ここはまだ戦場のど真ん中だ。


「外の状況は?」


「まだ戦闘が続いてる」


外は騒がしい。この状況で戦場の中を走り抜けるのは危険だ。しかしこのままここにいるのも良い状況とは思えない。標的がいつこちらに向いてもおかしくはない。それに生存者を中央警察に引き渡すことができればこれ以上戦闘が長引くことはない。何の戦闘能力も持たない6人を守りながらこの騒がしい空間を抜け出せるかどうかが勝負の分かれ目である。


カイトは『マグナ・マグナ』の残弾を確認する。弾倉の側面に付いたLEDが2つ消灯している。残弾にはもう少しだけ余裕がある。


「突破しよう。ヤミコは先行してくれ。俺は後ろに付く」


「わかった」


ヤミコは自分の背丈よりも大きな戦斧を装備すると外へ出るタイミングをうかがう。それに合わせて他の全員も身構える。今、この瞬間、緊張からか周囲の喧騒がとても小さく聞こえている。飛び出すタイミングとその後の行動の素早さは皆自身の命の危機に直結している。遅れても早すぎても死にかねない。


「ゴー‼」


ヤミコの掛け声と共に全員で飛び出す。ヤミコが前方の敵を蹴散らして進み、遠くの敵と後ろの敵をカイトが対処する。ありがたいことに多くの機械生命体(メタリカント)は中央警察との戦闘に夢中で気が付いていないのか、それとも気が付いたうえで無視しているのかカイトたちを標的とはしていなかった。

一方で中央警察はカイトたちに気が付いたようで援護、手を振って誘導している。


「こっちだ‼」


戦闘にいた生存者が中央警察の兵士のところにたどり着いた。そしてまた1人、2人と生存者たちが中央警察の下へとたどり着く。最後に列の1番後ろにいたカスミが無事に到着した。


「全隊、後退だ‼」


中央警察が前線を下げ始める。目的が達成されたというよりは戦力差が縮まらないことによる疲弊や損害を最小限に抑えるための一時撤退といった意味合いを含んだ後退だろう。だがともあれ生存者は無事に確保できた。ここは戦況を整えるためにもカイトたちも一時的に退いた方が良いだろう。


しかし全員が退いている中カイトとヤミコはその場から動かなかった。いや、動けなかった。


「何か来る」


カイトはその嫌な気配を色濃く感じていた。ヤミコを怒らせた時のような不穏な気配に近いがそれとは違いその気配から感じるのは冷たく、無機質で悪意も善意もない名前の付けようがないほど純粋で鳥肌の立つような嫌な気配。


それは空からやって来た。着地と同時に地面に強い衝撃と砂埃を上げる。煙幕のように上がった砂埃の中からソレはゆっくりと姿を見せる。5メートルを超える巨体を持つソレは重量を感じさせながら2本の足でゆっくりと一歩前に踏み出す。その足の先端はまるで大きな杭のように鋭く、地面を突き刺すように歩き。巨体に似合わず細い脚部と腕部、そして細い指はその巨体には似合わず、細くアンバランスでとても不気味だ。


その手に握られているのは岩石を削り出した大雑把すぎる剣。体にはボロボロのマントを巻き付けている。そして特徴的なのはその頭部。真っ黒な人間の頭蓋骨(スカル)だ。それは多くのハンターを殺し、災厄を振りまく、まさに死神の象徴。


上位個体(ハイグレード) 骸頭(スカルヘッド)である。


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