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9月 ―3―

「いらっしゃーい。調子はどうだい? 太郎君」

「崖っぷち。具体的に言うと、残り一点で終末を迎えるくらいな」

「あははー、相変わらずダメダメだねー。今回は僕、邪魔してないよねー」

「先月は邪魔した自覚ちゃんとあったんだ……」

「あ、余計なこと言ったかなー。ところで、太郎君、今日も一人寂しくカラオケかい?」

 どこかで聞いたような台詞を!

「今日“は”一人です。それに別に寂しくはないから」

 さすがに一人がいい、とまでは言わなくなりましたよ。頑張ったな、俺。

「いやー、今の発言。太郎君は変わった様でいて、大事な所で変わってない気がするよねー。それに昔はちゃんと敬語で話してくれて、僕の扱いはもっと丁寧だったなー」

「俺の進歩に対する評価が不当だと思う! だいたい、佐橋さんが敬語使うなって言ったんでしょうが! 扱いだって、言葉遣いが変わっただけで本質は何も変わってないし」

「まさか今の台詞に二ヶ月の進歩が盛り込まれてるなんて思いもしなかったよねー。あと、僕の扱いが今まで通りだって言うなら、今後はもう少し優しくしてくれてもいいよ?」

「佐橋さんに優しくするのなら、その分を道端のアリにでも振り撒くでしょ。もういいから、空いてる機種はどれです?」

「そうだよねー。太郎君は自分の器がちっちゃいから、自分より卑小だと思う生き物にしか優しくなれないんだよねー。えっと、空いてる機種ねー。機種って言うか、一部屋しか空いてないや。というわけで、選択権はないねー」

「歌えればいいから、そこでいいか。それより色々あるけどとりあえずは、何で自分が俺より卑小だと思われている可能性を考慮出来ないのかな?」

「知ってるだろー? 僕、無駄なことはしない主義なんだ」

 佐橋さんが後半を端正な顔をキリっと引き締めて言う。

 この野郎……。

 普段のニコニコしているところからの、こういう変化が余計にムカつく。

「もういい。場所は……、ああ、ここか。じゃあ、失礼しますよ」

「はいはーい。こういう強引な切り上げをするようになったのも悪い傾向だよねー」

 それこそ進歩だろうに。あなたに煩わされる時間を減らす術を身に付けたのだから。

「ああ、太郎君。そう言えばさ。事故に遭ったお母さん、快復したんだってね。もうすぐ退院って連絡あってから二ヶ月経ってたけど、何かあったのかな?」

「あれ? 聞いてない? 俺が快復した時に連絡下さいって言ってたから、退院するタイミングじゃなくて、治った時に合わせて連絡くれたんだけど」

「え? そうなのかい? じゃあ退院の目途が立ったって連絡の次が、快復の連絡?」

「そうなるかな?」

「中途半端だねー」

「まめに連絡入れても迷惑かなとか考えてくれたんじゃないの?」

 そういうの要らないって言うくせに、回数減って満足って考えないのだろうか?

「じゃあ、ありがたいのかなー? それで治ったのなら会うんだよね?」

「学園祭で会うことになってるよ。佐橋さんも居るから」

「僕も会うのかい? いやー、太郎君だけでいいんじゃないかなー」

「別に俺はいいけど。そうすると別の機会に佐橋さんに連絡行くよ?」

「そうなるのかなー」

「絶対になる。あの人達はそれをする人だと思う」

「じゃあ、太郎君も居る時の方がいいかなー。しかたないねー」

「決まりでいいかな。それじゃ今度こそ」

「はいはーい。楽しんでおいでよー」

 佐橋さんの声に送られて、その場を後にした。

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