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9月 ―2―

 あの日から約二ヶ月。学園祭まではあと一週間を残すのみだ。

 週末は佐橋さんの知り合いのバンドにお邪魔して教えを請う。それだけでは当然足りないので平日に個人で練習を重ねてその成果を持って行く形だ。

 それと合わせてお店の手伝いも。麗華さんにはああ言ったが、ペナルティが地味に効果的だった。死活問題なので喋る時の緊張感が並みじゃない。それにもある程度慣れて来た。コミュニケーション能力の向上は間違いなく果たしている。

 死活問題なだけあって、ペナルティで今月頭に一度死んだが……。それらの合間に息抜きと言った感じでカラオケに行っていたので、確かに行く回数はだいぶ減ったと思う。それでも一人だったり、アリアちゃんと一緒だったりするが定期的には通っている。


 それと彩さんも忙しそうにしている。

 俺と同じで学園祭に向けた練習をしなければならないこともある。だが、それとは別に彩さんは一つのサークルに入った。

 演劇サークル。

 高校の時に辞めたと言っていた部活も演劇部だったそうだ。俺が本を貸す時に戯曲から選んだのも、それと関係があったらしい。“ロミオとジュリエット”は読了済みだったそうだ。久々に話を追いたくなったから手に取ったのだとか。後から聞かされて、恥ずかしさのあまり言葉を失った。そんな彩さんに陳腐な言葉でお勧めをした俺って……。

 彩さんは専ら練習とサークルの方に時間を割いている。演劇サークルでは学園祭で劇を披露するらしく準備があるそうだ。彩さん自体は入ったばかりなので役は何もないそうだが、演じる人だけで舞台が成立する訳でもなくやることは多いらしい。

 空いた時間でお店を手伝ってもいる。特に麗華さんがバイオリンの練習に行くためには、お店に彩さんが居なければならない。なので俺と彩さんで店番をすることも最近は多い。そんな彩さんは今日もサークルの方に出ている。


 アリアちゃんは彩さんと居る時間が減った程度で、今までと変わらぬ生活を送っているらしい。以前をどんな風に過ごしていたのかを俺は知らないので、よくはわからないのだけど。夏休みで今日も朝早くに友達と遊びに出掛けた。

 『彩』に掛かりっきりなイメージを勝手に持っていたので思わず「友達?」と尋ねてしまったことがある。その言葉に、「兄ちゃんや彩ねえと一緒にしないで欲しいな」と軽く返された日は、枕を濡らした。何より俺の発言が彩さんに飛び火したせいで、俺が彩さんに怒られた……。

 とはいえ夏休みに毎日遊びに出る訳でもなく、お店でマスコット的に動き回ることもあり、俺がカラオケに行く時に誘えば付いて来てくれる。

 基本的には遊びに行って、それ以外の時間で俺らに付き合ってくれてるのかな?

 それと毎日エレナさんの御見舞に行っていた。知り合って二、三日はゴタゴタして行けなかっただけで、基本的に毎日病院に通っているらしい。快調の兆しもあって、エレナさんはもうすぐ自宅療養に移るのだとか。それを聞いたアリアちゃんが喜んでいた。


 麗華さんはさっき会った感じのままだ。あまり変わっていないと思う。俺が敬語を使わなくなったくらいか。ただ、俺をからかう回数が増えた気がする。お客さんまで巻き込んで……。しかも常連客はノリノリなのがさらにタチ悪い。これは麗華さんに限った話ではないのだけど。馴染んできたと思えばいいのだろうか。


 『彩』の事務処理は譲司さんが丸ごと引き受けてくれている。今回のライブも面倒事は全部、譲司さんの方に回っていた。何か手伝えることはないかと尋ねたら「俺がやることだから」と返されてしまった。申し訳ないが非常に助かる。

 だが譲司さん。俺が公演に立った日から軽く俺を目の敵にしているんだよな。

 会ったばかりの俺が彩さんと親しげなのが急に妬ましく思えてきた、と本人に言われた。彩さんの嫌い発言がだいぶ堪えたらしく、原因がそこにあるのが明白だった。

 それからは、色々と彩さんにアピールしているようだ。麗華さんがあの日親切にも、止めた方がいいって言ってくれていたのに。正直、彩さんへのあれは見るに耐えない。アリアちゃんならギリギリと思ったが、二十歳の娘にやっちゃいけないだろう。しかも、よくよく考えたらアリアちゃんは譲司さんの娘じゃないし。

 冗談でやっているのだと思う。俺のことも、彩さんのことも。じゃないと笑い話で済まない。


 父親と言えば、ウチの親父も最近は家事を真面目に頑張っているようだ。

 家がゴミ屋敷と化していた日から一週間後に見に行ったら、親父の部屋が綺麗に片付いていた。「太郎が頑張ってると僕も頑張らざるを得ないから」と言っていたか。

 頑張れば出来るのなら、普段からやれよ!

 まあ、いつまで維持出来るのか、楽しみだ。やることも多かったので二ヶ月も実家に戻っていない。ゴミ屋敷にまた戻っていたら、本当に対策を考えなければいけないな。

 その親父にライブのことを話したら、会社の連中と見に行こうかなとか言っていた。

 頼むから止めて欲しい。保護者参観か!


 これまでのことを振り返りながら歩いて行くと、カラオケボックスに着いた。ここにも一人『彩』に関わる、大学に来て一番付き合いが長い、碌でもない人がいる。

 佐橋さんとは、本当に変わらないよな。カラオケボックスの外で会う様になったくらいか。

 そんなことを思いながら、店に入ると声をかけられた。

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