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境界の果ての白狼記〜英雄に憧れた少年は道亡き道を往く〜  作者: 廃棄人形
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序章……第肆話 『初デート』

 レイラさんと勇者様……もとい。

 凛瑠さんの秘密を知ってから、二日程が経過した。

 リレフィアに於ける僕の役目も終わり。明日にはこの街を出て、自分の帰るべき場所へと向かう事が決まった僕は、村の皆にお土産を買おうと城下町に出ていた。

 何を買おうか、と僕は候補を頭の中で連ねながら歩く。

 本当なら食べ物にしたいのだけど、皆が喜び、分けられる量……その上一ヶ月近く日持ちするものとなると、それは難しい。

 ともすれば、村に飾る事の出来る特別な物だろうか。それなら届けて貰う事が出来るし、金銭的にも…………結構無理をすれば、いける。僕のポケットマネーが完全に消え去るくらいだ。


「けど折角、ここまで来たんだもんね」


 無駄遣いも、時と場所を踏まえればそれは無駄遣いではなくなる。僕にとって、村にとってリレフィアとの関わりは良い思い出になれるのだから。

 良し、そうと決まれば良さそうな物を探そう。過去、実際に居たという勇者様の銅像は高いから無理としても、使っていた剣や盾の模造品ならある筈だし、それが良いかもしれない。村の子供たちは、勇者の物語は好きな子たちばかりだし。僕も含めて。

 うんうん、良い計画だ。

 一人田舎者よろしく辺りをきょろきょろしている、ふと僕の着ている服の裾を引っ張られてる感覚が。後ろからだ。

 振り向くと、フードを深く被った子が裾を掴んでいる。背の低い僕よりもさらに小さなその子は、マントとフードのせいで顔が見えない為、性別も分からない。


「えーと……?」

「レフィ、様でしょうか……?」


 上目使いで僕を見上げる。フードが少しずれ、その子の綺麗な金髪と蒼い瞳が垣間見えた。どこかで見た事があるその幼くも美しい造形……。

 そう、それこそ、勇者召喚の儀で見たことのあるような……。

 まさか。


「姫でん――」

「わわっ! しー、しーっ!」


 手を伸ばして僕の口を塞がれる。すぐ近くに居た通行人が訝しげに見てくるけど、どうやら気にせずにいてくれるらしい。無関心ともいう。

 口を塞がれたままの僕が数度頷くと、その子は安堵して手を退かしてくれた。

 彼女の反応で確定だ。どうやらこの子は王妃陛下が言っていた、僕より二つ年下の娘さんらしい。姫殿下という事だ。

 彼女は人気(ひとけ)の少ない路地裏を指差す。あそこで話そうという事だろうか。僕は頷いて、彼女の後を着いていく。

 周りに人が居ない事を注意深く確認して、彼女はフードを取った。少しだけウェーブの掛かった長い金髪がはらりと背中に垂れる。王妃陛下と違って、少し癖っ毛なのだろうか。

 綺麗、というよりは可愛い、と表現した方が良いんだろう。王妃様の女神がかった美しさの面影を残しつつも、そのまま幼くしたような感じだ。王妃様が女神と形容するならば、この子は天使だろうか。


「こほん。その……姫殿下がどうしてこんなところに?」

「リレフィアの様子を見て廻りたかったのです。将来の国の行く末を見守る者として、城下町の様子は知っておきたかったので」


 成る程、と僕は頷く。姫の上には二人の兄と一人の姉が居て、国の長になる事は叶わない。一応の王位継承権を持ってはいるけれど、国の歴史上、女性の統治者が存在し得なかったこの国ソルレントだ。この子が王になる確率は少ない。

 けれども、何らかの形で国に何かをしたいんだろう。姫殿下は他の兄弟に負けず劣らず……いや、その誰よりも責任感が強いと聞いた事がある。

 ただその分、好奇心が強く、護衛騎士や侍女たちに内緒で街に出る事もあるとか……あくまで小さな村の良くある噂と信じて疑わなかった僕だが、フードを深く被って僕の前に現れたし、どうやらその噂は的を射ていたようだ。


「そうですか……分かりました。それは分かりましたけれど、どうして僕を?」


 僕の名前を知っていたのも驚きだし、僕を呼び止めたのも理由が分からない。僕の顔は、勇者召喚の儀の時にでも確認したのだろう。


「レフィ様は明日、村へ帰ってしまうと聞きました。レフィ様には碌なお持て成しも出来なかったので、せめてリレフィアの案内だけはわたくし自らしようかと」

「そ、そんなっ! 姫殿下にして貰うなんて贅沢にも程があります!」

「それに、お母様から、ルピス村からの使者であるレフィ様は年も近いので、良くして貰いなさい、と……わたくし自身、貴方の事が気になっていたのもあります」


 ああ、僕の名前はその時……。それにしたって、お忍びで城下町に降りて来る程の事じゃ……。


「それに先程も言いました通り、ただ、街の様子が知りたかったんです」


 そうも言われてしまうと、僕に二の次は紡げない。

 だが姫は顔を紅潮させ、照れたようにはにかむとフードを再び深く被った。


「殿方と二人で街を廻るのは初めてですので、その……まるで、逢引きのよう、ですね」



 ◇ ◆ ◇



「ここが、リレフィアの中でも一番大きな武具店です」


 お互いの初デートで、一番最初に来る場所が武具店で良いのだろうか、という僕の果てない疑問はさておいて、目の前には僕が暮らす屋敷と同じかそれ以上に大きな店舗が建っている。

 屋敷とは言っても、王都に来てからはその認識を改めかけている途中だ。辺りの民家を見渡せば、殆どが僕の屋敷以上の大きさを持つ家ばかりなのだ。村では豪邸でも、王都に出ればどれ程ちっぽけな世界だったのか思い知らされる。

 目の前の武具店も、二階建てになっているようで、僕の家が一階建てなのを鑑みてもこの店舗の大きさは僕の家以上だろう。

 武具店の隣には、ほんの少しだけ小さくなった防具店が存在を主張している。


「一日は短いのです。早速入りませんか?」

「はい、良いですよ。姫殿下」

「……今日は、敬語は禁止した筈です。姫殿下も無しで、名前で呼んでください、レフィ様」


 む、とジト目で僕を見遣って来るお姫様に、僕は困った表情を隠せなかった。

 彼女が言うには今日はお忍びで来たから、近衛騎士たちが探しているだろうし、バレないように名前で呼んでくれと。その割に本名は隠さないし、ローブを被る以外の変装をしないのだから肝が据わっているというかなんというか……。


「しかし、それは……」

「命令ですよ、レフィ様。少なくとも二人きりで居る間だけでも。もし従えないなら…………どうしましょうか?」


 ふふ、と天使らしからぬ笑みを浮かべる。

 女性って怖い。

 僕は頬を人差し指で掻きながら、彼女の名前を呼ぶ。


「……フィーナ……ちゃん」

「本当は呼び捨てが良かったのですけど……レフィ様の照れてる可愛らしいお顔が見れたので、許します」

「……後で不敬罪だー、とか言わないでくださいね」


 言うわけないじゃないですか、と。

 ふふ、と笑いながらそういうフィーナ姫に、僕は軽い溜め息を零す。

 可愛らしいというのは褒め言葉なのだろうけど、渋い男に憧れる僕にとっては複雑な言葉だ。目指せダンディズム。

 フィーナ=メイリス・ルーナレント。それが彼女のフルネームだ。


「では、気を取り直して入りましょうっ」


 あの、手……。

 僕の手を取り、武具店の中に入っていくフィーナ姫。血縁や小さな子供を除き、女の子と手を繋いだことなんて片手で数えるほどしかない僕にとって、フィーナ姫と手を繋ぐという行為だけで僕の顔は赤くなってしまう。相手が本物の姫殿下となれば尚更だ。

 引かれるまま武具店に入ると、中には冒険者風の男性が数人、武具を見定めていた。一人、二階へと上がって行くのも見える。


「……うわぁ……!」


 感嘆の息が出る。これ程の数の武器を見たのは生まれて初めてだ。

 剣、槍、斧、鎌、杖、弓、小手……武器として良く名を聞く数々の他にも、辞書と同じかそれ以上に厚い本や扇など、絵巻にも殆ど出てこないようなものも武器として売り出されている。この店にある武器全てを積み重ねれば、一つの山になりそうだった。

 ぼーっと僕がその光景に唖然としていると、フィーナ姫はくす、と嬉しそうに笑った。う、少し恥ずかしい……。


「喜んで頂けて何よりです。レフィ様は何か、武具などの使用経験はお有りなのですか?」

「ううん、全く無いよ。村にある物の手入れを任される時はあったけど、使った事は無いんだ」


 強いて言えば、果物とかをナイフで切る時くらいだけど、それはフィーナ姫の言う使用経験とは違うだろう。後はまぁ、この都市に来る途中の、盗賊相手に使ったくらいだけど……それは良い。使い手の僕が下手過ぎて、使ったとドヤ顔で言うのは恥ずかしいし。

 二人で剣コーナーを見回りながら、談笑を始める。僕だけがうわぁ、と目をキラキラさせているだけだからフィーナ姫は退屈なのではないかと思っていたけれど、横目で彼女を見遣るとニコニコした様子で剣の一本一本を手にとっては眺めている。

 城の中で守られてばかり居るからか、意外とこういう武具関連に興味があるのかもしれない。僕と一緒だ。

 王女として、こういう者を見る機会もそれ程多くは無いのかもしれないし。


「食事にしましょうか」


 武具店を出て少し。フィーナ姫が喫茶店を指差しながら言った。確かにそろそろお昼時だ。太陽が真上から少し落ちた場所から僕らを照らしている。

 それ程大きくない喫茶店だけれど、フィーナ姫は手慣れた様子で中に入っていく。従業員も、あらあら、と苦笑を見せながら席に案内してくれた。もしかすると、城から抜け出して来た時の常連なのかもしれない。

 入り口から一番遠い位置に案内された僕たちは、向かい合って席に座る。


「いつもので、お願いします」

「はぁい。そちらのお客様は?」


 やっぱり常連だった。

 いやいやそんな事よりも、そう急かさないで欲しい……僕はこの店どころか、喫茶店自体初めてなのだから。


「え、と……お、同じものを」

「はい、畏まりました!」


 元気に去って行く従業員に、僕はほぅっと肩を落とす。緊張する。

 フィーナ姫は柔和な笑みを浮かべると、フードを下ろした。金髪がさらりと流れる。


「顔を見せて良いの?」

「この店まで騎士の方々は来ませんから。私が街に降りて来る事を街の方々はもう知っていますし、隠してもくれます」


 うん?

 要はつまり、街の人々はフィーナ姫の味方、という事だろうか。それ程多く城下町に来ていることになる。

 好奇心旺盛を通り越して、とてもやんちゃな性格のようだ。パッと見た外見は病弱そうな深窓のご令嬢だというのに。ギャップが凄いとはこの事か。

 また一つ、フィーナ姫の事を知れて、僕は何故か嬉しくなった。


 さて。食事と談笑を長々として、外に出ればもうすぐ夕方に近い時間帯。

 最後という事で、商店街から少し離れた雑貨店にやって来た。通りにある武具店などに比べてしまうと少し小さく感じてしまうが、僕としてはこれくらいが丁度良い。

 ブレスレットやネックレスと言った装飾品に、家で使えそうなカゴ。村には普及されていない紙やペンが安く売り出されている。


「初めて入りましたけど、良いお店ですね」

「初めて?」

「はい。あまりこういうお店には入りませんし……大体この時間には近衛騎士の方々に見つかってしまうので」


 てへ、と照れたように舌を出しながらそう言うフィーナ姫に、そうなんだ、と相槌をする。今日は珍しい日なのだろうか。今は国全体のお偉いさんが集まっているし、それも関係しているのかもしれない。

 僕みたいな辺境の地の人間はともかくとして、レイラさんのような重要な土地の権力者は尚更の事、護衛がつきそうだし。まぁだからと行って、フィーナ姫を探していない訳ではないだろう。人員が少し減っている、程度の事だろう。

 そんな事を考えながら店の中を歩いていると、フィーナ姫は顔を赤くして、妙にもじもじしているのに気付いた。


「ど、どうかした?」

「いえ、あの……すみません、レフィ様。少々、その、お花を摘みに行って来ます」

「あ、う、うん。分かったよ」


 随分と古い言い回しをするんだな、とも思ったけど、フィーナ姫は女の子だ。恥ずかしいんだろう。

 店員に声を掛けてお手洗いに行くのを見届けた僕は、すぐ目の前にあった装飾品の数々に目を移した。本当、色んな種類がある。

 …………。

 店内を廻った僕は数あるアクセサリの中から、透き通った空色の勾玉のネックレスを手に取る。これ……妹に買っていこうかな。似合いそうだ。


「……あ、ついでにこれも」


 もう一つ、僕は目についた物を手に、店員の元へ向かった。


 ◇ ◆ ◇


 その後、店を出た僕とフィーナ姫は、数分と経たずに騎士の方々に見つかってしまった。慌てた様子もなく、落ち着いてフィーナ姫と話す姿を見ると、実はフィーナ姫が城下町に降りていることを知っていたのではないだろうか。

 尤も。そうだったとしても、そうじゃなかったとしても、フィーナ姫を連れまわし、案内してもらったのは僕だ。

 フィーナ姫が頭を下げたその横で、僕も深く謝罪した。騎士たちが苦笑していた姿を見るに、僕が思っている以上に日常茶飯事らしい。お転婆娘だ。


 そんな僕らは王城に戻り、フィーナ姫を自室へと送り届けている。家に帰るまでが遠足だ、みたいな事を昔、祖父に言われた覚えがあるけれど、どうやらデートもそうだったらしい。

 部屋の前まで送ってください、とフィーナ姫に言われ、一介の村人である僕は断ることも出来ない。

 僕ら二人が並ぶ後ろには、護衛として二人の騎士が並んで着いて来ている。


「レフィ様。今日はお楽しみ頂けましたか?」

「はい、それはもう。姫殿下に案内して頂いて光栄で御座いました。本日の事は、一生の思い出と致します」


 僕の堅苦しい言葉に、フィーナ姫の顔に蔭が差す。けれど場所も場所だし、後ろには騎士二人が眼光を鋭くして見張っているんだから勘弁して欲しい。

 彼女もそれは分かっているのか、少しのふくれっ面だけで済ませてくれるらしい。その拗ねた表情は妹にそっくりだ。

 ……そういえば、フィーナ姫は妹と同い年か一つ年上だったっけか。フィーナ姫が妙に大人っぽいから、忘れていた。いや、妹が少し精神的に幼いのだろうか……余り考えないようにしておこう。


 フィーナ姫の部屋の前。僕が宛がわれている部屋の扉よりも一回り大きなその扉に、僕は苦笑と同時に、どこか同情に似た思いを感じてしまう。

 中は間違いなく僕の部屋よりも広いだろう。相当に広いに違いない。今の僕でさえこの城の部屋の広さには居心地の悪さを覚えてしまうのに、フィーナ姫はそれ以上なのだ。当然のように、一人部屋らしいし。

 僕には本当、縁のない筈のお人だった訳だ。そんな人と知り合いになり、街の中を案内して貰えたという事は、本当に一生の想い出になりそうだった。人生初のデートだった訳でもあるし。

 そんな彼女に、僕は懐から一つの箱を取り出す。長方形の箱に、ピンク色のリボンで飾り付けして貰った物だ。


「姫殿下。これを」

「……? これは……?」


 最後の行ったお店。フィーナ姫がお手洗いに行っている間に、プレゼントとして買った物だ。勿論、妹へ送る代物とは別のアクセサリ。


「本日、姫殿下自らご案内して頂いたお礼です。高価な物ではありませんし、特別な物でもございませんので、お気に召さないかもしれませんが」

「まぁ……!」


 嬉しそうに箱を受け取るフィーナ姫に、僕の頬も緩む。


「フィーナ様――」

「良いのです、下がりなさい。お客様の……レフィ様のお心遣いを無下に扱えと仰るのですか。そのような事、私が許しません」


 確認でもしようとしたのか、騎士が箱に手を伸ばそうとしたがフィーナ姫が鋭い眼光でそれを制止する。

 なんというか……初めて、フィーナ姫が王女である威厳を見せられた気がする。別人みたいだ。これが、僕より年下だというのだから少ししょげる。

 住む世界が違うのだ。それは最初から分かっていたし、自分を卑下しようとは思わないけどね。


「開けても宜しいですか?」

「ええと……はい」


 目の前で開けられると恥ずかしい事この上ないが、断る理由も無いよね。

 リボンの結びを解き、箱をゆっくりと開ける。

 そこには、星型のイヤリングがあった。勿論、両耳につける為に二つ。耳に穴を開ける必要があるピアスとは違い、磁力魔法? だかなんだか、僕にはちんぷんかんぷんな技術を使用したものだ。

 周りが黒、星部分が白色の星を象ったイヤリングを、フィーナ姫はすぐさま両耳に取り付ける。髪の毛を耳に掛ける仕草が妙に色っぽくて、年下だというのに酷くドキドキしてしまう。


「ど、どうでしょう……?」


 彼女の両耳には、少し大きめのイヤリングがぶら下っていた。もう少し年齢を重ねれば丁度良くなりそうだ。

 綺麗な金髪と、瑠璃色に似た綺麗な蒼い瞳。そして、白黒の耳飾り。彼女の少し現実離れしているかのような美しい笑顔。


「とても……本当にとても、お似合いです。姫――」


 ――殿下、と呼ぶ直前だった。


 慌ただしい足音が近付いて来る。物凄い勢いで走って来ている。

 人数は、二人だった。


「レフィ!」


 赤髪の女性、レイラさんと、黒髪の女性、凛瑠さんだった。

 彼女は僕の顔を見付けると、さらに速度を上げて迫ってくる。


「貴様ら! 王女殿下の面前だぞ!」

「良いのです。何やら緊急事態のようですし、下がりなさい」


 レイラさんは勢いそのままに僕の肩を掴むと、息をどうにか整えると、凄い形相で僕を睨む。

 ぼ、僕、何か悪い事したかな……?


「レフィ……確認、しておくわ。アンタって、ルピス村の……人よね?」

「へ? そ、そうだけど……」


 今更確認するまでも無い事だと思うけど、レイラさんの表情を見るに、かなり大事な事らしい。僕は静かに頷いた。

 口に溜まった唾を呑み込む。


「落ち着いて、聴きなさい」


 既に僕の身体からは、寒さも暑さも感じなくて。

 今、レイラさんに掴まれている筈の肩ですら、まるで感覚を失くしてしまったかのように何も感じない。

 僕は……僕の身体は、呼吸さえも、忘れてしまったのだろうか。



 身体が。

 揺れる。




「ルピス村が、――――竜に、襲われたそうよ」





 妹への贈り物が、ことりと、床に落ちた。

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