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君が消える1秒前  作者: クジラを描く
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6/7

また明日、って言ってよ


昨日までは、ただの挨拶だと思っていた。

なのに。

言われなかっただけで、こんなに気になるなんて。

少し冷たかった声。

少し遠かった距離。


——たった数日。

ただ夜に会っていただけ。


それなのに。


今日、会えなかったら嫌だって思ってる自分がいた。


まだこの時の僕は、

それが何なのか、ちゃんと分かっていなかった。




これだと**「俺、会いたかったんだ」**ってep.6のテーマに自然につながる。


 朝。

 最悪だった。

 寝不足。

 眠い。

 なんかイライラする。

 原因は分かってる。

 昨日。

 ルナが、変だった。


> 「じゃあ」


 それだけ。


> 「また明日」


 言わなかった。

 なんだよ、それ。

 たった一言だろ。

 なのに。

 昨日の帰り道。

 やけに静かだった。


「湊、聞いてる?」


「……は?」


 顔を上げる。

 教室。

 朝ホームルーム前。

 陽が呆れた顔をしていた。


「いや、さっきから3回話しかけてんだけど」


「知らん」


「寝不足?」


「まぁ」


「青春だなぁ」


「違う」


「女関係?」


「違う」


「はい図星」


 こいつ。

 本当に勘がいい。


「てか返事どうすんの」


「……何の」


「昨日の告白」


 一瞬、言葉が止まる。


「……知らん」


「え?」


「だから、分かんねぇ」


 陽が少し目を丸くした。


「珍しくね?」


「何が」


「お前、だいたい即決じゃん」


 確かに。

 勉強も。

 進路も。

 資格も。


 迷う前に決めてきた。

 でも。

 今回だけは。

 なぜか、決められない。


「……好きな人でもいる?」


「いない」


 即答。

 の、はずだった。

 なのに。

 頭に浮かぶ。

 白いパーカー。


> 「青春だから」


> 「ちゃんと笑った」


> 「また明日」


「……」


「え、いる?」


「いねぇ」


「今の間なに?」


「うるさい」


 陽がニヤニヤする。


「へぇ〜」


「なんだよ」


「いやぁ神谷湊くんにも春が」


「ない」


「名前は?」


「だから違うって」


「可愛い?」


「……まぁ」


「いるじゃねぇか!!」


 でかい声出すな。

 クラスの何人かが振り向く。


「違う!」


「顔赤」


「赤くない」


「うわ青春してる」


「黙れ」


 陽が腹抱えて笑ってる。

 うざい。

 でも。

 少しだけ。

 気が紛れた。

---

 昼休み。

 弁当。


「で?」


 陽がしつこい。


「その子、同じ学校?」


「知らん」


「は?」


「学校も知らん」


「え?」


「連絡先も知らん」


「え??」


「昼何してるかも知らん」


 陽が静止した。


「……怖」


「は?」


「神谷、お前知らん女と夜会ってんの?」


「言い方」


「ホラーじゃん」


「違う」


「人間?」


「たぶん」


「たぶん!?」


 笑いを堪えてる。


「いや待て」


 陽が真面目な顔をする。


「それ、好きなやつじゃん」


「違う」


「なんで」


「……」


 言葉が出ない。


「返事できなかった理由、その子だろ?」


 一瞬。


 止まる。


「……知らん」


「神谷の“知らん”は図星」


 図星。

 なのか?

 分からない。

 ただ。

 昨日。

 ルナが少し冷たかった。


 それが。

 思ったより。

 嫌だった。


 授業中。

 ノートを開く。

 問題を見る。

 解ける。

 なのに。

 集中できない。


> 「彼女できたら、来なくなるかもだし」


 ルナの声。


> 「別に」


 あの言い方。

 ……なんだったんだよ。

---

 放課後。

 帰り道。

 いつもなら少し家で休んでから行く。

 でも今日は。

 まっすぐ公園に向かっていた。

「……早すぎだろ」

 スマホ。

 20時13分。

 約束よりかなり早い。

 ブランコ。

 誰もいない。


「……まだか」


 座る。

 風が少し冷たい。

 5分。

 10分。

 15分。

 来ない。


「……遅」


 スマホを見る。

 既読なんてない。

 そもそも連絡先知らない。

 ……そうだった。

 俺。

 何も知らないんだ。

 学校。

 家。

 昼。

 本当に存在してるのかすら。

 なのに。

 こんな待ってる。

 20分。

 30分。


 公園は静かになる。


「……なんだよ」


 少しイライラした。

 来ないなら言えよ。

 昨日あんな感じだったし。

 もう来ないのか?

 秘密基地、終わり?

 ……いや。

 なんでそんなこと考えてんだ。

 たった数日だろ。

 なのに。

 胸が少しだけ苦しくなる。

 その時。


「……なにしてんの」


 声。

 振り返る。

 白いパーカー。

 少しだけ眠そうな顔。

 ルナだった。

 なのに。

 安心した自分に。

 少しだけ、驚いた。


「……遅ぇよ」


 思ったより強い声が出た。

 ルナが少しだけ目を丸くする。


「待ってたの?」


「……別に」


「出た」


 少し笑う。

 でも。

 なんか、昨日みたいだった。

 距離がある。


「帰ればよかったのに」


 ルナがブランコの鎖を軽く揺らす。


「……帰るか迷った」


「じゃあ帰ればよかったじゃん」


 また。

 その言い方。

 少しだけ。

 冷たい。


「なんなんだよ昨日から」


 一瞬。

 ルナの表情が止まる。


「何が」


「なんか変」


「普通だけど」


「普通じゃねぇ」


 言い切る。


「昨日も変だったし」


「……」


 沈黙。

 風が吹く。

 少しだけ気まずい。


「……彼女候補いるんでしょ」


 ぽつり。

 ルナが前を向いたまま言った。


「は?」


「告白されたんでしょ」


「まぁ」


「よかったじゃん」


「昨日からそればっかだな」


「だって事実だし」


 また。

 少しだけ刺さる言い方。


「付き合えば?」


「……なんでそんな言い方なんだよ」


 ルナが少し黙る。


「別に」


「それやめろ」


 ルナが少しだけ目を見開いた。


「……湊」


「それ、嫌なんだよ」


 自分でも驚いた。

 嫌。

 そんなふうに思ってたのか。


「昨日、“また明日”も言わなかったし」


 一瞬。

 ルナの顔が止まる。


「……覚えてたんだ」


「当たり前だろ」


 少し強く言う。


「なんか、調子狂うし」


「……」


 ルナが俯く。


「彼女できたら」


 小さい声。


「もう来ないかと思った」


 風。

 静かな公園。


「秘密基地とか」


「終わりかなって」


 初めて。

 ルナが少し弱い声を出した。


「……なんでそうなるんだよ」


「だって」


 一瞬だけ。

 ルナが困った顔をする。


「湊、普通にモテそうだし」


「初めて言われた」


「鈍感そうだし」


「急に悪口」


「あと」


 少し間。


「私より、ちゃんと普通の子のほうがいいじゃん」


 その言い方。

 少しだけ。

 寂しそうだった。


「……意味分かんねぇ」


「だって私、昼いないし」


 ぽろっと零れた言葉。


「学校も分かんないし」


「変だし」


「秘密多いし」


 そこで止まる。

 しまった、みたいな顔。


「……」


 初めてだった。

 ルナが少し弱そうに見えた。


「返事」


 湊がぽつりと言う。


「まだしてない」


 ルナが顔を上げる。


「……知ってる」


「いや知らねぇだろ」


「なんとなく」


「エスパーか」


「かも」


 少しだけ。

 いつもの感じに戻る。


「でも」


 言葉が止まる。

 なんて言えばいい。

 好きじゃない。

 ……たぶん。

 でも。

 昨日。

 なんか嫌だった。

 今日。


 待ってた。

 会えなくなるの、嫌だった。


「ここ」


 少しだけ視線を逸らす。


「嫌いじゃないし」


「……」


「秘密基地も」


「ココアも」


「変な会話も」


 ルナが少し黙る。


「……それ秘密基地褒めてる?」


「半分くらい」


「微妙」


 少し笑う。

 空気が少しだけ戻る。

 でも。

 まだ足りない。

 言わなきゃ。

 ちゃんと。


「あと」


 喉が少し詰まる。

 なんか変に緊張する。


「……」


 言葉が出ない。

 ルナが少し首を傾げた。


「なに?」


 呼吸。 

 夜風。

 心臓が少しうるさい。

 そして。

 初めて。


「……ルナといると」


 一瞬。

 ルナの目が止まった。


「楽」


 静かになる。

 風の音だけ。


「だから」


 少しだけ視線を逸らす。


「勝手にいなくなるな」


「……」


 ルナが何も言わない。


「おい?」


 見る。

 俯いてる。


「え、なに」


「……ずるい」


「は?」


 小さい声。


「それ、ずるい」


 顔が少し赤い。


「なんで」


「知らない」


 でも。

 少し笑ってた。

 昨日より。

 ちゃんと。


「……ごめん」


 ルナがぽつりと言う。


「昨日、ちょっと機嫌悪かった」


「知ってる」


「……ちょっとだけ」


「うん」


「ほんの少しだけ」


「うん」


「嫉妬した」


「……え?」


「忘れて」


「いや今の——」


「忘れて!」


 顔真っ赤。

 ルナが立ち上がる。


「秘密基地行く!」


「逃げるな!」


「逃げてない!」


 でも。

 少しだけ。

 安心した。

 いつもの感じだった。


---

 高台。

 夜景。

 ベンチ。

 二人でホットココア。


「……あのさ」


 ルナが小さい声。


「ん?」


「今日」


 少し間。


「来てくれて、ありがと」


「来るだろ普通」


「普通じゃないよ」


 また。

 少しだけ寂しそうな顔。

 でも。

 今日は違った。


「……また来る」


 ルナが少し目を丸くする。


「彼女できても?」


「知らん」


「えー」


「でも」


 少しだけ考えて。


「ルナとは会う」


 その瞬間。

 ルナが少し黙った。

 それから。

 ふっと笑う。

 柔らかく。

 安心したみたいに。


「……そっか」


 時間。

 帰り道。

 分かれ道。

 少し沈黙。

 そして。

 ルナが、小さく笑った。


「じゃあ」


 少し間。


「……また明日?」


 昨日はなかった言葉。

 でも今日は。

 ちゃんと戻ってきた。

 だから。

 少しだけ笑って。


「おう」


 一拍置いて。


「また明日、ルナ」


 一瞬。

 ルナの目が少し大きくなる。

 それから。

 すごく嬉しそうに笑った。


「……うん」


「また明日、湊」



ep.6 読んでいただきありがとうございました。

少しだけ拗れて、少しだけ近づいた二人。

初めて名前で呼んだ夜。

そして戻ってきた「また明日」。


でも。


少しずつ、“普通じゃない違和感”も増え始めています。


次回 ep.7

「昼にはいない君」


まだ、恋とは呼べない。

でも、もう少しだけ特別です。

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