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君が消える1秒前  作者: クジラを描く
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5/7

君は、誰を見てるの?

最近、少しだけ夜が楽しみになっていた。


理由は分からない。

ただ、あいつと話してる時間だけ、頭の中が少し静かになる。


——でも。

青春って、だいたい面倒なタイミングで始まる。


そしてその日は、少しだけ“普通じゃない日"になった。


 最近。

 夜になるのが、少しだけ楽しみになっていた。

 ——なんて、絶対認めないけど。


 朝。

 教室の窓から入る風が気持ちいい。

 テストも終わって、少しだけ空気が軽い。

 みんな騒がしい。


「終わったぁぁぁ!」


「ゲームしよーぜ!」


「いや補習あるんだけど……」


 いつもの教室。

 いつもの朝。

 なのに。

 なんとなく、前より息がしやすい。


「……おはよ」


 席に座る。

 数秒後。


「……お前誰?」


 横から声。


「は?」


 陽だった。

 眠そうな顔。

 でもなぜか真顔。


「神谷湊くんどこ?」


「いるだろ」


「いや、最近のお前ちょっと違う」


「何が」


「なんか……人間っぽい」


「失礼すぎるだろ」


「前は“勉強マシーン”だった」


「そんなロボみたいに言うな」


「96点で死んだ顔してたし」


「悔しいだろ普通」


「なのに最近」


 陽が目を細める。


「余裕ある」


「ない」


「ある」


「気のせい」


「女だ」


「違う」


「女だ!!」


 急にでかい声。


「うるせぇ!」


 すると。

 近くの男子が反応する。


「え、神谷彼女!?」


「うそだろ!?」


「世界終わるぞ!」


「なんでだよ」


「神谷って恋愛しなそうじゃん」


「なんか数学と付き合ってそう」


「意味わからん」


 クラスが笑う。

 陽は机をバンッと叩いた。


「静かにしろお前ら!」


「お、なんだ?」


「今から捜査だ」


「捜査?」


 陽が俺を指さす。


「こいつ、最近怪しい」


「やめろ」


「放課後すぐ帰る!」


「用事」


「スマホ見る回数増えた!」


「普通」


「たまにボーっとしてる!」


「してない」


「笑うようになった!」


 一瞬だけ。

 止まる。


「……」


「はい図星〜!」


「いや違」


「しかも!」


 陽がさらに声を張る。


「最近ちょっと顔優しくなった!」


「は?」


「前まで“話しかけんな”顔だった!」


「悪口だろそれ」


「今なら女子いける!」


「何がだよ」


「モテ期!」


 男子たちが騒ぐ。


「神谷モテ期!」


「赤飯!」


「裏切り者!」


「何に対してだよ!」


 うるさい。

 本当にうるさい。

 その時。


「神谷くん」


 女子の声。

 空気が少し止まる。

 振り向く。

 クラスの女子。


「先生、プリント出してって」


「あ、ありがと」


「うん」


 少し笑って去っていく。

 ……普通だろ。

 なのに。


「……見たか?」


 陽が震えた声を出す。


「何を」


「今の笑顔」


「普通だろ」


「いや、あれ脈あり」


「怖い怖い怖い」


「神谷の時代きた」


「来てない」


「最近話しかけやすくなったもんな」


 前の席の女子が急に会話に入ってきた。


「え?」


「前怖かった」


「え、分かる」


 別の女子も頷く。


「最近ちょっと柔らかい」


「笑うと意外とかっこいいよね」


 一瞬。


「…………は?」


 固まる。


 陽、机を叩く。


「モテ期きたぁぁぁ!!!」


「うるせぇ!!」


「いやお前耳赤!」


「赤くねぇ!」


「照れてる!」


「違う!」


 女子たちも笑ってる

 なんなんだこれ。


---


 昼休み。


「神谷、購買いこーぜ」


「いい」


「最近付き合い悪い」


「だるい」


「絶対女」


「違う」


「好きな人?」


「いない」


「いる顔」


「どんな顔だよ」


 廊下を歩く。

 すると。


「……神谷くん」


 声。

 振り向く。

 隣のクラスの女子だった。

 見たことはある。


 確か雪乃芽依(ゆきのめい)さんだったか。


 でも話したことはない。


「あの」


 少し緊張した顔。


「放課後、少しいい?」


「……え?」


 一瞬。

 空気が止まる。


「話したいことあって」


 女子が少し顔を赤くして、


「体育館裏、来て」


 そう言って去っていった。


 沈黙。


「……」


「……」


 数秒後。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 陽が絶叫した。


「お前ぇぇぇ!!!」


「声でかい!」


「告白じゃん!!!」


「まだ分かんねぇだろ!」


「高校生の体育館裏に普通の用事ある!?」


 ……ない気がする。


「きたきたきた!!青春イベント!!」


「落ち着け!」


「予行練習しよう!」


「は?」


 急に陽が立ち上がる。


 そして声色を変えた。


> 「神谷くん……前から好きでした……」


「やめろ」


> 「付き合ってください」


「帰るぞ」


> 「待って!返事は!?」


「無理」


「早っ!?」


「お前気持ち悪い!」


 周りの男子まで笑い始める。


「陽ノリノリすぎるだろ」


「神谷ついに春きたか」


「彼女できたら奢れよ」


「まだ何も決まってねぇ!」


「え、断る気?」


 陽が真顔になる。


「どうすんの?」


 少し考える。

 付き合う。

 恋愛。

 ……想像できない。


「知らん」


「えぇぇぇ」


「そもそも告白って決まってねぇし」


「いや絶対そう!」


「賭けようぜ!」


「なんでだよ!」


 騒がしい。

 くだらない。

 でも。

 少しだけ、楽しかった。 




 放課後。

 教室。

 窓の外は少しオレンジ色になっていた。


「……行くの?」


 陽が机に頬杖をつきながら聞いてくる。


「まぁ」


「青春だなぁ」


「うるさい」


「で?」


「何」


「成功したらどうする?」


「成功?」


「付き合うとか」


「だから告白って決まってねぇだろ」


「いや体育館裏だぞ?」


「用事かもしれん」


「どんな用事だよ」


 うるさい。


 本当にうるさい。


 でも。


 少しだけ緊張していた。


「結果教えろよ」


「何もなかったら?」


「その時は俺が告る」


「絶対嫌だ」


「俺、神谷のこと昔から——」


「帰れ」


 笑い声。

 教室。

 騒がしい。

 でも。

 少しだけ心臓が落ち着かなかった。


---


 体育館裏。

 夕方。

 少し風が強い。

 部活の声が遠くから聞こえる。


「……来てくれた」


 女子が立っていた。

 近くで見ると、思ったより緊張している顔。


「あの」


「……うん」


 空気が静かになる。

 なんとなく。

 分かった。


「私」


 女子がぎゅっと手を握る。


「前から、神谷くんのこと気になってて」


 風が吹く。


「最初は怖い人だと思ってたんだけど」


「最近、前より笑うようになったし」


「話しかけやすくなったなって」


 ——笑うようになった。


 その言葉で。


 頭に浮かぶ。


> 「今笑った」 「ちゃんと笑った」


 ルナ。


 秘密基地。


 缶ココア。


> 「青春だから」


 ……なんで。

 なんで今。


「好きです」


 女子が真っ直ぐ言った。


「よかったら、付き合ってください」


 心臓が少しだけ鳴る。

 普通なら。

 たぶん。

 嬉しいはずなのに。

 返事をしようとして。

 でも。

 頭に浮かぶのは。

 夜。

 公園。

 白いパーカー。


> 「また明日」


 ……なんでだよ。

 なんで。

 あいつの顔ばっか浮かぶ。


「……神谷くん?」


 女子が少し不安そうな顔をする。


「ごめん」


 気づけば口が動いていた。


「少し……考える時間、ほしい」


 一瞬。

 女子が驚いた顔をする。

 でも。


「……うん」


 少しだけ笑った。


「急に言われても困るよね」


「ごめん」


「返事、待ってる」


 そう言って。

 女子は小さく手を振って帰っていった。

 一人になる。

 風。

 夕方。

 ……なんなんだ。

 なんで返事、できなかった。

 好きな人なんて。

 いないはずなのに。


---


 夜。

 気づけば。

 また公園へ向かっていた。

 理由なんてない。

 ……たぶん。


「遅い」


 ブランコ。

 ルナが座っていた。

 白いパーカー。

 少し揺れる黒髪。


「まだ時間じゃ——」


「遅い」


「……え?」


 なんか。

 少し機嫌悪くないか?


「なんかあった?」


「別に」


 ——別に。


 俺の言葉。


「……何それ」


「湊のマネ」


 ルナがブランコを揺らす。

 でも。

 なんかいつもと違う。


「で?」


「何が」


「今日なんかあった?」


 鋭い。


「……別に」


「ふーん」


 間。


「告白された?」


「っ……!」


 思わず止まる。


「図星」


 即答だった。


「なんで分かんだよ」


「顔」


「顔?」


「“今日ちょっと人生イベントありました”顔してる」


「なんだそれ」


 ルナが少し笑う。

 でも。

 なんか。

 少しだけ冷たい。


「へー」


 ルナが空を見る。


「よかったじゃん」


「……何が」


「モテるんだ、湊」


 軽い言い方。

 でも。

 なんか。

 少しだけ。

 棘があった。


「付き合えば?」


「は?」


「かわいかった?」


「……普通」


「普通って言う時、大体かわいい」


「なんだよそれ」


「青春っぽいじゃん」


 またその言い方。

 でも。

 なんか。

 違う。


「……なんか今日変」


 一瞬。

 ルナの表情が止まる。


「何が」


「お前」


「別に普通だけど」


 普通。

 なのに。

 距離がある。

 なんか。

 嫌だった。


「……返事、まだしてない」


 思わず言っていた。

 ルナの動きが止まる。


「へぇ」


「考えるって言った」


「なんで?」


「……分かんない」


 本当に。

 分からなかった。


「普通、嬉しいもんじゃないの?」


「まぁ」


「じゃあ付き合えば」


「だからなんでそんな言い方なんだよ」


 少しだけ。

 イラっとした。

 すると。

 ルナが立ち上がる。


「……別に」


 小さい声。


「彼女できたら、秘密基地来なくなるかもだし」


「は?」


「なんでもない」


 そう言って歩き出す。


「おい」


「帰る」


「早くね?」


「眠い」


 絶対嘘だ。

 分かる。

 でも。

 理由が分からない。

 分かれ道。

 いつもなら。


> 「また明日」


 なのに。


「じゃあ」


 それだけ。

 ルナは背中を向ける。


「……おい」


 呼ぶ。

 でも。

 振り返らない。

 白いパーカーだけが、夜に溶けていった。

 一人になる。

 風。

 静かな道。

 なんだよ。

 なんで。

 こんなモヤモヤするんだ。

 スマホを見る。

 23時48分。


 

 ……明日。

 ちゃんと話すか。

 そう思ったのに。

 なぜか。


 少しだけ、不安だった。

ep.5、読んでいただきありがとうございました。


昼の学校回でした。

少しずつ変わり始める湊と、本人も気づいていないルナの気持ち。


そして、初めて少しだけ噛み合わなくなる二人。


「また明日」が言われなかった夜。

それが、湊にとって思っていた以上に大きかったのかもしれません。


次回 ep.6

「また明日、って言ってよ」


少しだけ、拗れます。けどちゃんと前に進みます。

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