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君が消える1秒前  作者: クジラを描く
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4/7

夜だけの秘密基地


「待てなかった?」


 少し意地悪そうに笑うルナ。


「違う」


「じゃあ何?」


「……暇だっただけ」


「はい嘘」


 即答だった。


「お前、俺のこと分かった気でいるだろ」


「うん、結構分かる」


「腹立つな」


「でも来たじゃん」


 言い返せない。

 悔しい。

 でも。

 会えた瞬間、少し安心した自分がいるのも事実だった。


「で、今日は?」


「秘密基地作る!」


「まだやるのかよ」


「青春だから」


「万能ワードだなそれ」


 ルナは満足そうに頷く。


「今日は本気」


「昨日も言ってた」


「昨日は下見」


「歩道橋を?」


「うん」


「適当すぎる……」


 ルナは急に歩き出す。


「行こ、湊」


「どこに」


「秘密基地探し!」


 その言い方が、少しだけ楽しそうで。

 気づけば俺も、少し笑っていた。

---

 最初に連れて行かれたのは。

 

「……ゴミ置き場じゃねぇか」


「違う」


 ルナは真顔で言う。


「“秘密感のあるスペース”」


「言い方変えただけだろ」


 古い倉庫の裏。

 自販機が一台。

 猫が寝てる。


「ここ、よくない?」


「治安悪そう」


「えー」


「却下」


「厳しい……」


 ルナが大げさに肩を落とす。

 なんだこれ。

 でも。

 少し楽しい。

 気づけば、そんなことを思っていた。

---

「第三候補!」


 次に来たのは小さな公園。


「普通すぎ」


「じゃあ湊が探してよ」


「え」


「文句ばっか」


 ぐうの音も出ない。

 少し考える。


「……高いとこ」


「高いとこ?」


「夜景見える場所」


 言ってから少し恥ずかしくなる。

 なんか青春っぽいこと言った。

 ルナが少し目を丸くする。


「……いいじゃん」


「は?」


「なんか今、青春だった」


「お前が言わせたんだろ」

 

 笑われる。

 悔しい。

 でも。

 嫌じゃなかった。

---

 十分後。


「……階段きつ」


「体力なさすぎ」


「お前元気すぎ」


 少し高台の展望スペース。

 閉鎖された小さな休憩所。

 フェンス越しに街が見える。

 コンビニの光。

 車の列。

 家々の灯り。


「……すげぇ」


 思わず声が出た。


 ルナが少し得意そうに笑う。


「ここ」


「いいかも」


 夜風が吹く。

 静かだった。

 街の音が少し遠い。

 なんだろう。

 ここだけ、世界から少し離れてる感じ。


「決定!」


 ルナが両手を広げる。


「ここ、私たちの秘密基地!」


「勝手に決めるな」


「嫌?」


 少しだけ考える。

 ……嫌じゃない


「まぁ」


「それ、OKのやつだ」


「うるさい」


 ルナがベンチに座る。


「ルール決めよ」


「秘密基地に?」


「うん」


「いる?」


「いる」


 妙に真剣な顔。


「一つ」


 指を立てる。


「ここでは悩み事、少し忘れる」


「……」


「二つ」


「無理して強がらない」


「なんだそれ」


「湊用」


「余計なお世話」


「三つ!」


 ルナが笑う。


「また明日って言う」


 少しだけ、言葉が止まる。


「……なんで」


 ルナは空を見る。


「明日会えるって、結構すごいことだから」


 その言い方。

 少しだけ。

 寂しそうだった。


「……変なの」


「褒め言葉?」


「違う」


 二人で笑う。

 気づけば。

 時間が過ぎるのが早かった。


「ねぇ」


「なに」


「湊って好きな人いたことある?」


「ない」


「ほんと?」


「ほんと」


「モテそうなのに」


「初めて言われた」


「でも絶対、鈍感そう」


「急に悪口」


「告白されても気づかなそう」


「されないし」


「ふーん?」


 ニヤニヤしてる。


「お前は」


「ん?」


「好きな人いたことあんの」


 一瞬だけ。

 ルナが黙る。

 風が吹く。


「……あるよ」


「え」


「びっくりした?」


「いや、まぁ」


 なんか。

 少しだけ。

 胸がざわついた。


「どんなやつ」


「秘密」


「またそれ」


「でもね」


 ルナが少し笑う。


「ちゃんと笑う人が好き」


 なぜか。

 一瞬だけ。

 目が合った気がした。


「てか」


 ルナが急に立ち上がる。


「お腹空いた」


「急だな」


「青春には食べ物が必要」


「初めて聞いた理論」


「というわけでコンビニ!」


「おい」


 勝手に歩いていく。

 なんなんだこいつ。

 でも。

 気づけば俺も後ろを歩いていた。

---

 コンビニ。


「湊、お金ある?


「あるけど」


「奢って」


「嫌だ」


「ケチ」


「初対面から数日で奢らせようとするな」


「友情価格」


「まだ友達になった覚えない」


 ルナがショックを受けた顔をする。


「えっ……私たち、秘密基地仲間じゃなかったの……?」


「なんだその微妙な関係」


「ひど」


 少し笑ってしまう。



 結局。

 肉まんとホットココアを買わされた。


「やったー!」


「人の金で喜ぶな」


「湊ってなんだかんだ優しいよね」


「気のせい」


「いや優しい」


「気のせい」


「認めないタイプか」


 外のベンチに座る。

 夜風。

 コンビニの明かり。

 変な時間。

 なのに。

 不思議と落ち着く。


「……なぁ」


「ん?」


 少し迷う。

 でも。

 気になっていた。


「昨日さ」


「うん」


「昼、学校の近くいた?」


 一瞬だけ。

 ルナの動きが止まった。

 ほんの少し。

 表情が固まる。


「……なんで?」


「見た気がして」


「白いパーカーの人?」


「そう」


 ルナは少し黙る。


 そして。


「見間違いじゃない?」


 笑った。

 でも。

 なんか。 

 少しだけ、不自然だった。


「いや、絶対お前だった」


「そんなに会いたかった?」


「は?」


「昼でも探しちゃうくらい?」


「違っ——」


 言葉に詰まる。

 ルナがニヤニヤしている。


「照れてる」


「照れてねぇ」


「はい照れてる」


「腹立つ……」


 笑われる。

 悔しい。

 でも。

 なんか、安心する。


「でもさ」


 ルナが急に空を見る。


「昼は、あんまり得意じゃないんだ」


「得意じゃない?」


「うん」


「吸血鬼かよ」


「かもね」


「絶対違うだろ」


 ルナは少しだけ笑った。


 でも。


 その目は少しだけ、寂しそうだった。


「それより!」


 急に立ち上がる。


「秘密基地ルール追加!」


「増えるの?」


「増える」


 指を一本立てる。


「ここでは、笑うこと!」


「小学生か」


「湊用」


「俺限定やめろ」


「あと」


 ルナが少し考えて。


「帰る時、“また明日”って絶対言う」


「昨日も言ってたな」


「大事だから」


「なんでそんなこだわるんだよ」 


 ルナの笑顔が止まった。


「……会えるのって、当たり前じゃないから」


 小さな声。


 風に消えそうなほど。

 でも。

 なぜか、その言葉だけは耳に残った。


「……変なやつ」


「褒め言葉?」


「違う」


 二人で少し笑う。

 時計を見る。

 かなり遅い。


「やば、帰る」


「うん」


 秘密基地——高台を降りる。


 分かれ道。


「じゃあ」


 ルナが小さく手を振る。


「また明日」


「……おう」


 少しだけ間が空く。

 そして。


「また明日、ルナ」


 一瞬。

 ルナの目が少しだけ大きくなった。

 それから。

 嬉しそうに笑った。


「うん。また明日、湊」


 その笑顔が。


 なぜか綺麗すぎて。 

 少しだけ、不安になった。

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