また明日、の約束
「また明日」
その約束を、人は案外簡単に口にする。
でも——
それが当たり前じゃない人もいるのかもしれない。
次の日。
気づけば、またあの公園へ向かっていた。
別に理由なんてない。
昨日会った変なやつが、本当に来るのか気になっただけだ。
……いや。
少しだけ、会いたかったのかもしれない。
夜道を歩く。
コンビニの光。
自転車の音。
住宅街の静けさ。
昼とは違う世界みたいで、少しだけ息がしやすかった。
公園に着く。
ブランコ。
街灯。
誰もいない。
「……いないじゃん」
昨日の“また明日”は、ただのノリだったのかもしれない。
少しだけ肩の力が抜ける。
少しだけ、残念だった。
「来たんだ」
「うわっ!?」
急に後ろから声がして飛び上がる。
振り返る。
白いパーカー。
夜風に揺れる黒髪。
少しだけ楽しそうな顔。
「驚きすぎ」
「急に後ろ立つなよ!」
「だって面白いし」
ルナは悪びれもせず笑う。
「てか、お前こそ来たんだな」
「来るって言ったじゃん」
「普通、社交辞令とかあるだろ」
「しゃこう……?」
「知らないの?」
「知らない」
即答だった。
「今までどうやって生きてきたんだよ」
「秘密」
少し笑う。
昨日は変なやつだと思った。
でも今日は
少しだけ、会話が楽しかった。
「ねぇ湊」
「なに」
「今日、疲れてる顔してる」
「……分かるの?」
「うん」
即答。
なんなんだこいつ。
「学校?」
「まぁ」
「嫌なことあった?」
「別に」
「その“別に”って、本当は別にじゃない時に言うやつだよね」
言葉が詰まる。
陽にも言われた。
なんでこいつまで。
「……うるさい」
「当たり」
楽しそうに笑う。
少しムカつく。
でも。
嫌じゃなかった。
二人でブランコに座る。
風が吹く。
静かな公園。
「ねぇ」
「なに」
「秘密基地、作らない?」
「……は?」
「夜だけの」
昨日も聞いた気がする。
「ガキかよ」
「いいじゃん。青春っぽい」
「青春って年か?」
「失礼だなぁ、同い年だし」
「……え?」
「ん?」
「同い年なの?」
「そうだけど?」
知らなかった。
というか。
「学校どこ?」
一瞬だけ。
ルナの表情が止まった。
「秘密」
「またそれ?」
「だめ?」
「……別に」
なんとなく。
聞いちゃいけない気がした。
「湊はさ」
ルナが空を見る。
「友達いる?」
「いるけど」
「でもなんか、一人っぽい」
また図星だった。
「……なんだよそれ」
「だって、人に合わせてる顔してる」
「は?」
「無理して頑張ってそう」
風が吹く。
言い返したかった。
でも。
できなかった。
誰にも言われたことなかったから。
「湊ってさ」
「ちゃんと笑うと、結構いい顔するよ」
「……急になに」
「昨日、一瞬笑ったじゃん」
覚えてない。
でも。
少しだけ恥ずかしくなった。
「ねぇ」
「明日も来る?」
ルナが聞く。
「……暇なら」
「よし、約束」
「約束?」
「うん」
ルナは小指を出した。
「子供か」
「いいから」
仕方なく指を絡める。
温かかった。
その瞬間。
なぜか胸が少しだけ騒いだ。
帰り道、気づけば少し笑っていた。
家に帰る。
「おかえりー」
「……ただいま」
「あれ、なんか機嫌いい?」
母親の声。
「別に」
「ふーん?」
鋭い。
部屋に入る。
机の上。
参考書。
問題集。
いつもなら嫌になるのに。
今日は少しだけ、気分が軽かった。
スマホを見る。
午後11時43分。
……明日も行くか。
そう思った時だった。
ふと、違和感。
「……あれ」
俺。
ルナの連絡先、知らない。
なのに。
なぜか確信していた。
明日も、あいつは公園にいる。
そして——
次の日の昼休み。
「ねぇ、その子誰?」
陽が急に話しかけてくる。
「は?」
「昨日からニヤついてるし」
「してねぇよ」
「いやしてる」
うるさい。
「女?」
「違う」
「好きな人?」
「はぁ!?」
思わず声が出る。
その時だった。
窓の外。
一瞬だけ。
見えた。
校門の向こう。
白いパーカー。
「……ルナ?」
立ち上がる。
でも。
次に見た時には——
もう、誰もいなかった。
Episode2を読んでくださりありがとうございます。
少しずつ近づく距離と、少しずつ増える違和感。
ルナは、一体何者なのか。
次回、Episode3『(題名)』




