表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が消える1秒前  作者: クジラを描く
1/3

夜にだけいる君

はじめまして。

この物語は、「終わると分かっていても恋をする理由」を探す話です。

少しだけ、夜の空気を感じながら読んでもらえたら嬉しいです。


人はどうして、終わると分かっていても恋をするのだろう


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「よぉし、テストを返却するぞー」


「ガチかよ、みたくねぇー」


「おれもー」


 先生のひと言でクラスはうるさくなる。

 そんな事でいちいち盛り上がるなよ。

 俺は周りにバレない程度に睨みつけた。


「いいよなー、みなとは。どうせまた90点以上だろ?」


「まあ、今回も手応えあったしね。100点がいいな。」


 はっ。お前らより努力してるんだから当然の結果だ。

 羨むなら少しは努力しろよ。

 答案用紙が前から順番に配られていく。

 教室には、


「よっしゃ92点!!」


「やば、赤点だ」


「親に怒られる!」


 なんて声が飛び交っていた。

 俺には関係ない。

 結果なんて、大体分かってる。


神谷かみや


 先生に名前を呼ばれる。

 差し出された答案。

 96点。

 小さく息を吐く。

 ……ミスった。

 あと少しだったのに。


「え、たっか」


「やっぱ湊すげーな」


「勉強教えてくれよー」


 周りが騒ぐ。

 正直、どうでもよかった。

 90点を超えても安心できない。

 次はもっと上を取らないと。

 置いていかれる。

 そんな気がしていた。

 

 ホームルーム。

 担任が出席簿を閉じながら言う。


「そういやお前ら、そろそろ進路考えろよー」


 一瞬、教室の空気が変わる。


「大学どうするー?」


「もう資格取ってるやついるらしいぜ」


「早坂のやつ、就職で大手狙うって」

 

 またその話か。

 

 進路。

 夢。

 資格。

 最近、そんな言葉ばかり聞く。

 誰かと比べられて、

 焦って、

 頑張って、

 でも足りない気がして。

 

「湊は余裕じゃん」


 後ろの席のやつが笑う。


「頭いいし、資格も取るんだろ?」

 

「……別に」

 

 適当に返す。

 

 余裕?

 そんなわけない。

 

 頑張ってる。

 ちゃんとやってる。

 なのに。

 

 “もっとやれ”

 

 頭のどこかで、ずっと誰かの声がする。

 家でも。

 学校でも。

 寝る前でも。

 

 ——疲れた。

 

 その言葉だけが、やけに重く胸に沈んだ。


 靴に履き替えて学校を出る時、後ろから声がした。


「おーいまてよ!一緒に帰ろうぜ!」


 後ろへ振り返ると、 はるがこちらへ走ってくる。


「廊下を走るな」


 俺は注意する。だが、陽は俺の言ったことなど無視して話しかける。


「お前、進路どうすんの?」


 陽は靴に履き替え、俺と一緒に学校を出る。

しばらく静かになり。俺は少し上を向いた。


「俺は進学かな」


「嘘つけ、」


 チッ、バレたか。

 蒼井あおい陽とは小学校からの仲だ。いつも一人の俺に話しかけてくる変な奴だ。


「お前なんも考えてないだろ。というか、なんか悩んでる?」


 陽は昔から感が鋭い。俺になにかあると必ず気づく。

俺は陽に聞き返す。


「お前は進路どうすんだよ。」


「自分は進学だよ。やりたいこともあるし。」


即答かよ。


「凄いな陽は、、、」


「えっ、ありがとう、、?」


 陽は急に褒められたことに少し動揺する。

 やべー声に出てた。恥ずかしい。


「で、お前は?」


 陽が急に真面目な声を出した。


「何が」


「だから、やりたいこと」


 少しだけ言葉に詰まる。

 やりたいこと。

 そんなもの、考えたこともない。

 考える余裕なんてなかった。

 ただ、置いていかれないように。

 周りより少し上にいられるように。

 頑張ってきただけだ。


「……特にない」


 俺が答えると、陽は少し黙った。


「ふーん」


 その“ふーん”が妙に刺さる。

 同情でも否定でもない。

 でも、見透かされた気がした。


「まぁ、湊は真面目すぎなんだよ」


「は?」

 

「もっと適当に生きろって。お前、ずっと何かに追われてる顔してるし」


 余計なお世話だ。


「別に」


「はいはい、その“別に”な」


 陽は笑う。

 駅前で信号待ちをしながら、夕焼けを見る。

 オレンジ色の空。

 帰宅ラッシュ。

 楽しそうに笑う高校生。

 その中にいるのに、なぜか少しだけ、自分だけ違う場所にいる気がした。


「じゃ、ここまでだな」


 分かれ道。

 陽が軽く手を上げる。


「また明日な、湊」


「……おう」


 一人になる。

 ポケットに手を入れながら歩く帰り道は、やけに長く感じた。

 家に着く。


「ただいま」


「おかえり。テストどうだった?」


 母親の第一声。

 予想通り。


「96」


「え、惜しかったねぇ。次は100取れるんじゃない?」


 悪気がないのは分かってる。

 でも。


 “もっと上”


 またその言葉だ。


「そうだ、進路どうするか少し考えてる?」


 靴を脱ぐ手が、一瞬止まる。


「……まだ」


「早めに決めた方がいいわよ。今のうちに資格も——」


「分かってる」


 少し強く言ってしまった。


「あ……ごめん」


 母親が黙る。

 罪悪感が少しだけ胸に残る。

 部屋に戻る。

 机の上。

 積まれた参考書。

 赤シート。

 資格の問題集。

 やらなきゃ。

 そう思うのに。


 今日はなぜか、無理だった。

 気づけば財布とスマホだけ持って、家を出ていた。

 五月の風が少し冷たい。



 夜って、不思議だ。

 昼の世界から、少しだけ取り残されたみたいで。

 コンビニの白い光も、遠くの車の音も、なんとなく現実感が薄い。

 だからたまに思う。

 ——このまま、誰にも気づかれず消えても、案外世界は普通に回るんじゃないかって。

 

「はぁ……」


 神谷湊は、公園のブランコに座って空を見上げた。

 五月の風が少し冷たい。

 テスト期間。

 家に帰れば「勉強したの?」って聞かれる。

 学校では将来の話。

 資格だ、進路だ、夢だ。

 正直、全部疲れていた。

 頑張ってるはずなのに、足りない気がする。

 周りの誰かと比べて、置いていかれてる気がする。


「……めんどくさ」


 独り言が夜に溶ける。


「何が?」


 声がした。

 反射で顔を上げる。

 誰もいないはずの隣のブランコ。

 いつの間にか、一人の女の子が座っていた。

 白いパーカー。

 黒髪。

 風に揺れる前髪。

 でも、一番印象に残ったのは——

 夜なのに、なぜかその子だけ少し明るく見えたこと。


「……え、誰?」


「それ、初対面の人に失礼じゃない?」


 彼女は笑った。

 変なやつだ。

 でも不思議と嫌じゃなかった。


「てか、いつ来た?」


「さっき」


「いや絶対気づくだろ」


「気づかなかったじゃん」


「……」


 言い返せない。

 彼女はブランコを少し揺らしながら空を見た。


「ねえ」


「なに」


「もし明日、世界終わるなら何する?」


「急だな」


「いいから」


 湊は少し考える。


「……寝る」


「つまんない」


「いや世界終わるならもういいだろ」


「好きな人とかいないの?」


「いない」


「ほんとに?」


「ほんと」


 彼女は少し笑って、


「じゃあ、もったいないね」


と言った。


「君さ」


 今度は彼女が聞く。


「ちゃんと笑えてる?」


「……は?」


「なんか、ずっと疲れてそうだから」


 知らないやつに言われたくない。

 なのに。

 なぜか少しだけ、胸が痛かった。


「別に普通だけど」


「そっか」


 一瞬だけ。

 彼女の表情が寂しそうになった。

 でもすぐに笑う。


「私、ルナ」


「……湊」


「よろしく、湊」


 名前を呼ばれた瞬間。

 なぜか、心臓が少しだけ跳ねた。

 帰ろうとした時だった。


「また明日」


 ルナが言う。


「来るの?」


「来るよ」


「なんで?」


 彼女は少し考えて、

 静かに笑った。


「だって、まだ時間あるから」


「……?」


 意味がわからなかった。

 でも。

 その日から——

 湊は毎晩、公園へ行くようになる。

Episode1を読んでくださりありがとうございます。

ルナとの出会いでした。

少し不思議で、少し変な夜が、ここから始まります。

次回、『また明日、の約束』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ