第一章8『これは本当に“おもてなし”なのか?いや、違う。』
彼らは村の道をまっすぐ進んでいた。
霧はますます濃くなっていき、不気味さを増していた。
「ブリアンナ……」
円香は、案内役に聞かれたくないかのように小声で彼女を呼んだ。
「なに?」
円香は彼女のすぐ近くまで歩み寄る。
「なんか……嫌な感じがする……」
村人たちは、新しく来た仮住まいの客人たちをじっと見つめていた。
まるで他にやることがないかのように。
『すごく嫌な感じだ……!』
ブリアンナはそっと彼の手を握った。
円香が顔を向けると、そこには優しい笑みが浮かんでいた。
「私がいるよ……何かあったら、私が守るから」
「え?」
二人は顔を見合わせ、小さく笑い合った。
「それなら、少し安心できる」
そこへ案内役のグレックが口を挟んだ。
長い薄笑いを浮かべながら、二人を見ている。
「仲が良さそうですなぁ」
「え、えっと……」
ブリアンナは言葉に詰まった。
だがグレックはそれ以上追及しなかった。
「いやいや、無理に答えなくても構いませんよ」
老人は小さく笑った。
空気を変えるように、ブリアンナはすぐ質問を投げかける。
「ところで、この村って何なんですか? 私、この王国で生まれ育ったのに、ダリウルなんて一度も聞いたことなくて……」
「あぁ?……まぁ、俺たちはあまり表に出ないようにしてるんですよ。周りから好かれてませんしな……それに静かに暮らしてる方が、魔獣も寄って来にくいんです」
「そ、そうなんですか……」
老人は今度は円香へ視線を向け、頭の先から足元までじろじろと眺めた。
「それにしても、そこの坊主はどこから来たんだ? 地元の人間じゃないだろ? ずいぶん変わった服を着てるなぁ……」
老人は一歩近づき、円香の胸元に書かれた文字を、ほとんど顔を寄せるようにして見つめ始めた。
円香は一歩後ろへ下がった。
足が地面で滑り、少年はなんとかバランスを保えた。
「な、何するんですか!?」
ブリアンナは眉をひそめ、不満そうな視線をグレックへ向けると、すぐに円香のもとへ駆け寄り、倒れないよう支えた。
「近すぎます、グレックさん!」
「申し訳ない……いやぁ、あまりにも珍しい服装だったもので。」
その笑みは顔から消えず、それが妙に不気味だった。
「さぁ、行きましょうか。もうすぐ着きますよ。」
円香はブリアンナと視線を交わし、無言のままグレックの後を追った。
霧はさらに濃くなり、視界をほとんど塞いでいた。
「なぁ、グレック……ここっていつもこんなに霧が濃いのか?」
グレックは振り返りもせず、円香の問いに答えた。
「霧ですか? あぁ、この辺りじゃ珍しくもありませんよ……そういえば少し前、娘と散歩していた時に見失ってしまってね……探しましたよ。何度も“ラウラ!! ラウラ!!”って叫びました。でも無駄でした。まるで霧が娘を飲み込んだみたいに……結局、見つからなかったんです。」
それを話している間も、グレックの口元には同じ笑みが浮かんでいた。
円香の背筋に冷たいものが走る。
「そ、それをそんな平然と話せるんですか……?」
グレックは小さく笑った。
「平然と? ……他にどうしろって言うんです?」
周囲の霧はますます濃くなっていく。
家々の輪郭はぼやけ、魔法で灯された街灯も、にじんだ光の塊のようにしか見えなかった。
ブリアンナは円香の手をさらに強く握った。
「グレックさん……村の人たちは捜索を手伝わなかったんですか?」
「えぇ、手伝ってくれましたよ。」
短くそう答えると、彼はまた歩き続けた。
「ですが、この霧は妙なんです。時々、声が聞こえる。存在しないものが見える。そして時には……」
老人はそこで口を閉ざした。
「時には?」と円香は慎重に尋ねる。
「時には、こういう話で旅人を脅かして遊ぶこともあるってことです。」
そう言った瞬間、グレックは大声で笑い出した。
円香とブリアンナは呆然と顔を見合わせる。
エリオットも不満そうにいなないた。
「はっはっは! あんたたちの顔、傑作でしたよ!」
老人は笑い涙を拭った。
「そんなに心配しなくても大丈夫です。霧は不気味ですが、そこまで恐ろしいものじゃありません。」
「……全然笑えないんだけど。」
円香は小さく呟いた。
ブリアンナも大きく息を吐く。
「私、本気で信じかけました……」
「いやぁ、すみませんすみません! お詫びにぜひ我が家で夕食でもどうです? 妻が、きっとあなた方も食べたことのないご馳走を用意してくれますよ!」
「夕食……? どうしよう……」
円香は少し迷った。
「もう、円香! 断るのは失礼だよ!!」
『お前、ただ食べたいだけだろ!?』
ブリアンナの目が一瞬で輝いた。
「ぜひご一緒させてください、グレックさん!!」
円香はマントを払いながら重いため息をつく。
「それじゃ、住む場所を確認したあとでお待ちしていますよ。……ほら、着きました。」
老人が指差した先には、ごく普通の家が建っていた。
だが、一目見ただけでも長い間誰も住んでいないように見える。
「すみません……ペガサスを預けられる場所はありますか?」
「もちろんです。ラキリル用の小屋がありますからな。きっと気に入りますよ。」
エリオットは悲しそうな目でブリアンナを見つめた。
その視線はまるで――
『置いていかないでくれ……!』
そう訴えているようだった。
「……あの、少し待ってください。エリオットも一緒に住まわせてもいいですか?」
グレックは驚いたように瞬きをした。
「も、もちろん構いませんよ……その方が落ち着けるのでしたら……」
「ありがとうございます!」
ブリアンナはぱっと表情を明るくした。
グレックはまるで電気でも流れたかのように肩を震わせ、慌てて視線を逸らす。
「何かあれば遠慮なく! 夕食も用意して待っていますから、ぜひ来てください! あなた方の家の扉はもう開いています。ただ少し強く押してください。鍵は中にありますので」
「ありがとうございます、あとで伺います!」
老人はゆっくりと濃い霧の中へ消えていった。
ブリアンナは円香の方を見る。
「行こっか? 円香」
「う、うん……行こう……」
二人は家の入口へ向かった。
ブリアンナは扉を開けようとしたが、立て付けが悪いのか、まったく動かない。
「うぅ……」
彼女は困ったように円香を見上げた。
円香は無言で扉に手を置き、そのまま軽く押した。
重たい軋み音が響き、扉はあっさりと開いた。
ブリアンナの目が輝く。
『すごい力……!!』
「ど、どうぞ……入って……」
ブリアンナが最初に中へ入る。
エリオットは不満そうに鼻を鳴らしたが、それでも後ろから体を押し込むようにして入っていった。
円香は最後に中へ入り、静かに扉を閉めた。
家の中には埃と古い木の匂いが充満していた。
薄暗く、外の街灯の光だけが汚れた窓からわずかに差し込んでいる。
「ここ……かなり暗いな……」
円香は周囲を見回した。
小さな机、古びた椅子が二脚、壁際の棚、そして二階へ続く階段。
積もった埃を見る限り、長い間誰も住んでいなかったようだ。
ブリアンナは机の表面を指でそっとなぞる。
「……数ヶ月は空き家だったみたい……」
エリオットは静かに部屋の隅へ歩き、その場に翼を畳んで横になった。
床板がぎしりと不気味に鳴る。
「ま、まずは換気した方がいいかも……?」
ブリアンナはぎこちなく笑った。
「そうだな……」
ブリアンナは窓を開け、そのまま家の中を見て回り始めた。
円香は椅子に腰を下ろし、肘をつきながら考え込む。
『なんか変だ……グレックも、村人たちも……どう考えても怪しい……』
「円香!」
突然呼ばれ、彼は肩を跳ねさせた。
「な、何!? どうした!?」
「ちょっと……小さな問題があって……」
ブリアンナは頬を赤くしながら胸元で手を握り締める。
「問題!? 何があったんだ!?」
円香は勢いよく立ち上がった。
ブリアンナは言いづらそうに視線を泳がせる。
「ブリアンナ、黙らないでくれ。何があった?」
「ここ……ベッドが一つしかないの……」
「……え?」
円香は安堵したように息を吐いた。
そして再び木の椅子へ腰を下ろす。
「なんだ……もっと深刻なことかと思った……!」
ブリアンナは驚いたように彼を見つめた。
「じゃ、じゃあ……私と一緒でも平気……?」
「俺はエリオットと寝るよ。あいつの近く、結構落ち着くし」
彼は彼女が言い終える前に遮った。
「ええええええっ!?」
ブリアンナは頬を膨らませ、そのまま入口の方へ歩いていく。
「行こ。待たせてるし」
『……なんか怒ってる?』
円香は立ち上がり、彼女の後を追った。
「エリオット、留守番頼む」
ペガサスの短い鼻鳴らしは、不思議と頼もしく聞こえた。
家を出ると、二人は濃い霧の中をグレックの家へ向かって歩き始めた。
村人たちは相変わらず、視線を逸らすことなく彼らを見つめ続けている。
「本当に行って大丈夫なのか?」
「え? でも……無料で泊めてもらってるし、断るのは失礼だと思う……」
円香は前を見たまま呟いた。
「わからない……でも、本能が“行くな”って叫んでるんだ。この場所で一晩だけ過ごして、できるだけ早く出た方がいいって……!」
「大丈夫だと思うよ……見た感じ、優しそうな人たちだし……たぶん。」
二人はグレックの家へ辿り着いた。
老人はすでに玄関先に立ち、客を迎えていた。
「おお、来てくれたか! さあ、どうぞ入ってくれ。」
「こんばんは! ご招待ありがとうございます。」
グレックは扉を開け、中へ入るよう手で促した。
「さあ! もう食事の準備はできてるぞ!」
ブリアンナはすぐに中へ入ったが、円香は一瞬だけ入口で立ち止まった。
「ん? どうかしましたかな?」
円香は冷たい視線をグレックへ向けた。
「……いや、別に。」
彼が中へ入ると、グレックはすぐ後ろで扉を閉めた。
「パパ、お客さん?」
角の向こうから、小さな女の子が顔を覗かせた。
特に目立っていたのは、その真っ白な髪だった。
「ああ、ステラ。この方たちがお客様だ。」
「わぁ、かわいい子!!」
ブリアンナはステラに近づき、その場にしゃがみ込んだ。
「こんにちは! 私はブリアンナ。こっちは円香だよ。」
少女は円香へ視線を向ける。
その目は、必要以上に長く彼に留まっていた。
「パパ、このお兄ちゃん好き!」
彼女は真っ直ぐ円香を指差した。
「えぇっ!?!?」
「ステラ、そんなこと言っちゃダメ! この人には彼女がいるんだから!」
ブリアンナは顔を真っ赤にした。
「か、彼女!?!?」
円香は特に反応を見せなかった。
それがなぜか、ブリアンナを少し安心させる。
「こほん……そ、そう! 私は円香の彼女だから! だからステラには渡さないよ!」
彼女は得意げに胸を張った。
ステラは不満そうに頬を膨らませる。
「ずるい……私もお兄ちゃんの彼女になりたい……」
『なんだこの子供みたいな空気……』
円香はまだ中学生だったが、思考力や精神面では元の世界の大人たちすら凌駕していた。
難しい問題の解決や学校の成績でも、彼に並ぶ者はほとんどいなかった。
グレックはクスリと笑った。
「心配するな、ステラ。お前はとても可愛い。きっと円香様もそのうち心変わりするさ。」
「えぇっ!?!」
「うん、パパ! 私わかってる!」
今度はブリアンナが頬を膨らませた。
『完全に子供のケンカじゃないか……』
「さあさあ、とにかく食卓へ行こう。妻は一日中鍋の前から離れなかったんだ。まるで君たちが来るのを最初から知っていたみたいにな。」
彼らは居間へ案内された。
テーブルの上には、円香が見たこともない料理が並べられている。
それが逆に、彼の警戒心を強めていた。
テーブルのそばには背の高い女性が立っていた。
「アリエル、紹介しよう。こちらはブリアンナ様と円香様……そして未来の婿殿だ!」
女性は柔らかな笑みを浮かべながら円香を見つめ、そのあとステラへ視線を向けてウインクした。
「やるじゃない、ステラちゃん!!」
『……冗談好きな家族だな。』
グレックとアリエルは顔を見合わせ、静かに笑った。
アリエルは口元を手で隠しながら、笑いをこらえている。
だがブリアンナは、こうした冗談をまったく面白がっていなかった。
「さあ、どうぞ食卓へ。」
円香はテーブルの端に腰を下ろし、ブリアンナもすぐ隣に座った。
するとステラがすぐさま不機嫌そうな視線を向ける。
「ママ、私もお兄ちゃんの隣に座りたい!」
アリエルは円香へ視線を向けた。
「ステラ、円香様にはもう少し余裕がありませんよ。」
ステラは再び頬を膨らませる。
「お姉ちゃんずるい! 席、交換しようよ!?」
「ご、ごめんねステラ……でも彼を守るって約束したから、離れるわけにはいかないの。」
ステラはブリアンナを不満そうに見たが、やがて諦めた。
「ふん!」
彼女はそっぽを向いて鼻を鳴らした。
グレックとアリエルも席につき、ステラはその間に座った。
円香は手を合わせる。
「いただきます……」
全員が驚いたように彼を見た。
「何をしているんですか、円香くん?」
アリエルは彼の動きを真似しながら尋ねる。
『くそ……ここは日本じゃない』
「な、なんでもないです……忘れてください。」
ステラも同じように手を合わせて真似をした。
「いただきます!!」
ブリアンナもそれに続く。
円香は気まずそうに笑い、食事が始まった。
円香は目の前の正体不明のスープを一口すくう。
しばらくそれを見つめてから口に運んだ。
「どうしたんだ、円香くん?」
アリエルは少し心配そうに彼を見る。
「口に合いませんでしたか?」
「い、いえ……すごく美味しそうで……ちょっと考えてただけです。すみません。」
一口目が口に入る。
『うまい!!』
空腹だった円香は、礼儀を守りつつも器を最後まで食べ切った。
「ごちそうさまです、アリエルさん。」
彼の満足そうな顔を見て、アリエルは少し頬を赤らめた。
『なんて可愛い子……』
ブリアンナも食事を終える。
「ごちそうさまでした。」
ステラも食べ終えると、アリエルに礼を言った。
グレックはテーブルの下から樽を取り出した。中には明らかに酒が入っている。
「さあ、デザートだ!!」
彼は紫色の液体をグラスに注ぎ始めた。円香はそれを見て、自分の顔が映るのに気づく。
「すみません、これは何ですか?」
「これこそ友よ、お前が一生で一番美味いと思うものだ。」
グレックの口元からよだれが垂れる。
「酒だよ。」
ブリアンナが液体を見ながら答えた。
「まあ、そういうものだな。」
「すみません、俺は飲めません。」
「なっ!? なぜだ、円香くん?」
グレックが残念そうに声を上げる。
「バカねグレック、まだ未成年でしょ!」
アリエルは円香のグラスを取り、中身をこの世界の果実のジュースに入れ替えた。
「ありがとうございます。」
「どうぞ飲んでください。」
円香はグラスを口に運び、新しい飲み物を味わう。
「美味い!」
少し残しながらも、彼はアリエルを見る。
「アリエルさん、このジュースは何でできてるんですか?」
彼女は微笑んだ。
「これはゴブリンベリーを使った私の特製よ。」
「すごい!!」
円香はブリアンナへ視線を向けた。
「ブリアンナも飲んでみる……?」
その瞬間、円香は固まった。
ブリアンナはグレックの酒を飲み、何の躊躇もなくそのまま眠りに落ちていた。
「えっ……ごめんね……これ初心者には強すぎるやつで……飲むと一気に倒れるの……」
「おいグレック! 彼女にも入れたのか!?」
円香の声は明らかに大きくなっていた。
「すまん、悪気はなかったんだ……」
アリエルは深いため息をつき、円香へ視線を向けた。
「すみません、うちの夫は本当に酒癖が悪くて……」
「い、いえ……」
円香は眠っているブリアンナを抱き上げ、入口へ向かった。
「ごちそうさまでした。私たちはこれで失礼します。」
グレックが急に立ち上がる。
「いや、友よ、まだ……」
その言葉は途中で途切れ、彼はそのまま床に崩れ落ちて気を失った。
アリエルは深く息を吐く。
ステラが二人に駆け寄った。
「お兄ちゃん、行かないで! もっと遊ぼうよ!」
円香は彼女を見て、優しく微笑んだ。
「ごめんね、ステラ。でももう行かないと。また今度遊ぼう、いい?」
彼女はいたずらっぽく笑い、円香に抱きついた。
「うん! お兄ちゃん約束したからね! 約束は守るものだよ!」
「……ああ、約束する。」
「さようなら、アリエルさん。」
「またね……」
円香はブリアンナを抱えたまま外へ出て、仮の住まいへ向かった。
その時、背中に不気味な視線を感じる。
彼は勢いよく振り返った。
アリエルが見送っているのかと思ったが、ついさっきまで明かりが灯っていた家は、今は完全な闇に包まれていた。
一瞬だけ窓に黒い影が浮かび、すぐに消えた。
『……おかしいな』
宿へ戻ると、円香は二階へ上がりブリアンナをベッドに寝かせた。エリオットも後からついてくる。
「エリオット、ブリアンナを頼む。少し出てくる。」
ペガサスは戸惑いながらも頷いた。
「ありがとう、任せる。」
窓を開け、彼は外へ飛び出した。
『やっぱりあの家、調べる必要がある……ステラやアリエルに何かあったのかもしれない。グレックも怪しすぎる。』
濃い霧の中を静かに飛びながら、彼は二階の窓へと近づき、中の様子をうかがう。
『どうして俺たちが出た直後に明かりを消した?』
その時、鈍い衝撃音が響き、続けて何かが倒れる音がした。
円香は慎重に窓を開け、静かに中へ侵入する。室内は暗闇に包まれていた。
『音は……下からか?』
円香は音を立てないように慎重に動き、階下へと続く階段へ足を運んだ。
直感がここで確かめろと叫んでいる。このままでは眠れない――彼らの行動があまりにも不自然で、まるで最初から仕組まれていたかのようだった。
『たとえ見つかっても関係ない……確認しなきゃ……!』
階下へ降りた瞬間、彼は動きを止めた。
さっきまで食事をしていたテーブルの上に、人間の遺体が横たわっており、その周囲にグレックとアリエルが立っていた。
「ねぇ、あなた。油で焼く?それとも水で煮る?」
円香は咄嗟に闇へ身を隠す。テーブルの上では小さな蝋燭だけが揺れていた。
「待ちきれないわ。やっぱりカリカリに焼いた方が美味しいわね。」
『カニバリズムだと!? ステラはどこだ!?』
二人は遺体から肉を少しずつ切り取り、鍋へと入れていく。
「二人は二ヶ月後に食べるわ。それまでは呼んで、太らせてからね。あの女の子は……あの子は……!!」
グレックが舌なめずりをする。
「その男の子、とても可愛いわ。私のものよ。」
アリエルが続けた。
『俺を食う? ブリアンナを?……ふざけるな!』
円香は眉をひそめ、隠れ場所から飛び出した。
「何だ? お前……」
グレックが振り向き、わずかに驚く。
「円香くん、これは違います。あなたの思っているようなものでは――」
アリエルはすでに人間の肉を口にしていた。口元には赤黒い血が付着している。
その時、暗闇の中からステラが駆け出してきた。
「お兄ちゃん!! お兄ちゃん!! 助けて!!」
彼女は円香にしがみつく。
「ステラ……?」
「お兄ちゃん……」
その頬を涙が伝った。
「お兄ちゃん、あいつら……あいつら私に人を食べさせたの……!」
彼女はさらに強く泣きながら円香にしがみついた。
「私、やりたくなかったのに……本当だよ!!」
円香はそっと彼女の頭を撫でる。
ステラは涙で濡れた目を彼に向けた。
「君は悪くない。俺が助ける。」
「この小娘が。」
アリエルが鋭く手を振ると、彼女の掌から風の刃がステラへと放たれた。
『クソッ、魔法か!!』
魔力の一撃はすでに目前まで迫っていた。
「ひゃあっ!!」
円香はステラを抱き寄せ、自分の体で庇うように覆いかぶさる。
そのまま身体をひねり、攻撃を正面から受け止めた。
「ぐっ!!」
「お兄ちゃん!!」
『くそ……痛い!!』
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
円香はゆっくりと立ち上がり、彼らの方へ向き直った。
「なぜだ……どうして無傷なんだ!?」
「ステラ、俺の後ろに隠れていろ……それと、すまない。」
「すまない……? 何を?」
彼は一瞬だけ言葉を詰まらせる。
「これから俺が、お前の両親にすることのことだ。」




