表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スーパー新世界:スーパーヒーローが異世界に転移した物語  作者: 佐藤蓮
佐野円香

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/15

第一章8『これは本当に“おもてなし”なのか?いや、違う。』

彼らは村の道をまっすぐ進んでいた。

霧はますます濃くなっていき、不気味さを増していた。


「ブリアンナ……」


円香は、案内役に聞かれたくないかのように小声で彼女を呼んだ。


「なに?」


円香は彼女のすぐ近くまで歩み寄る。


「なんか……嫌な感じがする……」


村人たちは、新しく来た仮住まいの客人たちをじっと見つめていた。

まるで他にやることがないかのように。


『すごく嫌な感じだ……!』


ブリアンナはそっと彼の手を握った。

円香が顔を向けると、そこには優しい笑みが浮かんでいた。


「私がいるよ……何かあったら、私が守るから」


「え?」


二人は顔を見合わせ、小さく笑い合った。


「それなら、少し安心できる」


そこへ案内役のグレックが口を挟んだ。

長い薄笑いを浮かべながら、二人を見ている。


「仲が良さそうですなぁ」


「え、えっと……」


ブリアンナは言葉に詰まった。

だがグレックはそれ以上追及しなかった。


「いやいや、無理に答えなくても構いませんよ」


老人は小さく笑った。

空気を変えるように、ブリアンナはすぐ質問を投げかける。


「ところで、この村って何なんですか? 私、この王国で生まれ育ったのに、ダリウルなんて一度も聞いたことなくて……」


「あぁ?……まぁ、俺たちはあまり表に出ないようにしてるんですよ。周りから好かれてませんしな……それに静かに暮らしてる方が、魔獣も寄って来にくいんです」


「そ、そうなんですか……」


老人は今度は円香へ視線を向け、頭の先から足元までじろじろと眺めた。


「それにしても、そこの坊主はどこから来たんだ? 地元の人間じゃないだろ? ずいぶん変わった服を着てるなぁ……」


老人は一歩近づき、円香の胸元に書かれた文字を、ほとんど顔を寄せるようにして見つめ始めた。

円香は一歩後ろへ下がった。

足が地面で滑り、少年はなんとかバランスを保えた。


「な、何するんですか!?」


ブリアンナは眉をひそめ、不満そうな視線をグレックへ向けると、すぐに円香のもとへ駆け寄り、倒れないよう支えた。


「近すぎます、グレックさん!」


「申し訳ない……いやぁ、あまりにも珍しい服装だったもので。」


その笑みは顔から消えず、それが妙に不気味だった。


「さぁ、行きましょうか。もうすぐ着きますよ。」


円香はブリアンナと視線を交わし、無言のままグレックの後を追った。

霧はさらに濃くなり、視界をほとんど塞いでいた。


「なぁ、グレック……ここっていつもこんなに霧が濃いのか?」


グレックは振り返りもせず、円香の問いに答えた。


「霧ですか? あぁ、この辺りじゃ珍しくもありませんよ……そういえば少し前、娘と散歩していた時に見失ってしまってね……探しましたよ。何度も“ラウラ!! ラウラ!!”って叫びました。でも無駄でした。まるで霧が娘を飲み込んだみたいに……結局、見つからなかったんです。」


それを話している間も、グレックの口元には同じ笑みが浮かんでいた。

円香の背筋に冷たいものが走る。


「そ、それをそんな平然と話せるんですか……?」


グレックは小さく笑った。


「平然と? ……他にどうしろって言うんです?」


周囲の霧はますます濃くなっていく。

家々の輪郭はぼやけ、魔法で灯された街灯も、にじんだ光の塊のようにしか見えなかった。

ブリアンナは円香の手をさらに強く握った。


「グレックさん……村の人たちは捜索を手伝わなかったんですか?」


「えぇ、手伝ってくれましたよ。」


短くそう答えると、彼はまた歩き続けた。


「ですが、この霧は妙なんです。時々、声が聞こえる。存在しないものが見える。そして時には……」


老人はそこで口を閉ざした。


「時には?」と円香は慎重に尋ねる。


「時には、こういう話で旅人を脅かして遊ぶこともあるってことです。」


そう言った瞬間、グレックは大声で笑い出した。

円香とブリアンナは呆然と顔を見合わせる。

エリオットも不満そうにいなないた。


「はっはっは! あんたたちの顔、傑作でしたよ!」


老人は笑い涙を拭った。


「そんなに心配しなくても大丈夫です。霧は不気味ですが、そこまで恐ろしいものじゃありません。」


「……全然笑えないんだけど。」


円香は小さく呟いた。

ブリアンナも大きく息を吐く。


「私、本気で信じかけました……」


「いやぁ、すみませんすみません! お詫びにぜひ我が家で夕食でもどうです? 妻が、きっとあなた方も食べたことのないご馳走を用意してくれますよ!」


「夕食……? どうしよう……」


円香は少し迷った。


「もう、円香! 断るのは失礼だよ!!」


『お前、ただ食べたいだけだろ!?』


ブリアンナの目が一瞬で輝いた。


「ぜひご一緒させてください、グレックさん!!」


円香はマントを払いながら重いため息をつく。


「それじゃ、住む場所を確認したあとでお待ちしていますよ。……ほら、着きました。」


老人が指差した先には、ごく普通の家が建っていた。

だが、一目見ただけでも長い間誰も住んでいないように見える。


「すみません……ペガサスを預けられる場所はありますか?」


「もちろんです。ラキリル用の小屋がありますからな。きっと気に入りますよ。」


エリオットは悲しそうな目でブリアンナを見つめた。

その視線はまるで――


『置いていかないでくれ……!』


そう訴えているようだった。


「……あの、少し待ってください。エリオットも一緒に住まわせてもいいですか?」


グレックは驚いたように瞬きをした。


「も、もちろん構いませんよ……その方が落ち着けるのでしたら……」


「ありがとうございます!」


ブリアンナはぱっと表情を明るくした。

グレックはまるで電気でも流れたかのように肩を震わせ、慌てて視線を逸らす。


「何かあれば遠慮なく! 夕食も用意して待っていますから、ぜひ来てください! あなた方の家の扉はもう開いています。ただ少し強く押してください。鍵は中にありますので」


「ありがとうございます、あとで伺います!」


老人はゆっくりと濃い霧の中へ消えていった。


ブリアンナは円香の方を見る。


「行こっか? 円香」


「う、うん……行こう……」


二人は家の入口へ向かった。

ブリアンナは扉を開けようとしたが、立て付けが悪いのか、まったく動かない。


「うぅ……」


彼女は困ったように円香を見上げた。


円香は無言で扉に手を置き、そのまま軽く押した。

重たい軋み音が響き、扉はあっさりと開いた。


ブリアンナの目が輝く。


『すごい力……!!』


「ど、どうぞ……入って……」


ブリアンナが最初に中へ入る。

エリオットは不満そうに鼻を鳴らしたが、それでも後ろから体を押し込むようにして入っていった。

円香は最後に中へ入り、静かに扉を閉めた。


家の中には埃と古い木の匂いが充満していた。

薄暗く、外の街灯の光だけが汚れた窓からわずかに差し込んでいる。


「ここ……かなり暗いな……」


円香は周囲を見回した。


小さな机、古びた椅子が二脚、壁際の棚、そして二階へ続く階段。

積もった埃を見る限り、長い間誰も住んでいなかったようだ。


ブリアンナは机の表面を指でそっとなぞる。


「……数ヶ月は空き家だったみたい……」


エリオットは静かに部屋の隅へ歩き、その場に翼を畳んで横になった。


床板がぎしりと不気味に鳴る。


「ま、まずは換気した方がいいかも……?」


ブリアンナはぎこちなく笑った。


「そうだな……」


ブリアンナは窓を開け、そのまま家の中を見て回り始めた。

円香は椅子に腰を下ろし、肘をつきながら考え込む。


『なんか変だ……グレックも、村人たちも……どう考えても怪しい……』


「円香!」


突然呼ばれ、彼は肩を跳ねさせた。


「な、何!? どうした!?」


「ちょっと……小さな問題があって……」


ブリアンナは頬を赤くしながら胸元で手を握り締める。


「問題!? 何があったんだ!?」


円香は勢いよく立ち上がった。


ブリアンナは言いづらそうに視線を泳がせる。


「ブリアンナ、黙らないでくれ。何があった?」


「ここ……ベッドが一つしかないの……」


「……え?」


円香は安堵したように息を吐いた。


そして再び木の椅子へ腰を下ろす。


「なんだ……もっと深刻なことかと思った……!」


ブリアンナは驚いたように彼を見つめた。


「じゃ、じゃあ……私と一緒でも平気……?」


「俺はエリオットと寝るよ。あいつの近く、結構落ち着くし」


彼は彼女が言い終える前に遮った。


「ええええええっ!?」


ブリアンナは頬を膨らませ、そのまま入口の方へ歩いていく。


「行こ。待たせてるし」


『……なんか怒ってる?』


円香は立ち上がり、彼女の後を追った。


「エリオット、留守番頼む」


ペガサスの短い鼻鳴らしは、不思議と頼もしく聞こえた。


家を出ると、二人は濃い霧の中をグレックの家へ向かって歩き始めた。

村人たちは相変わらず、視線を逸らすことなく彼らを見つめ続けている。


「本当に行って大丈夫なのか?」


「え? でも……無料で泊めてもらってるし、断るのは失礼だと思う……」


円香は前を見たまま呟いた。


「わからない……でも、本能が“行くな”って叫んでるんだ。この場所で一晩だけ過ごして、できるだけ早く出た方がいいって……!」


「大丈夫だと思うよ……見た感じ、優しそうな人たちだし……たぶん。」


二人はグレックの家へ辿り着いた。

老人はすでに玄関先に立ち、客を迎えていた。


「おお、来てくれたか! さあ、どうぞ入ってくれ。」


「こんばんは! ご招待ありがとうございます。」


グレックは扉を開け、中へ入るよう手で促した。


「さあ! もう食事の準備はできてるぞ!」


ブリアンナはすぐに中へ入ったが、円香は一瞬だけ入口で立ち止まった。


「ん? どうかしましたかな?」


円香は冷たい視線をグレックへ向けた。


「……いや、別に。」


彼が中へ入ると、グレックはすぐ後ろで扉を閉めた。


「パパ、お客さん?」


角の向こうから、小さな女の子が顔を覗かせた。

特に目立っていたのは、その真っ白な髪だった。


「ああ、ステラ。この方たちがお客様だ。」


「わぁ、かわいい子!!」


ブリアンナはステラに近づき、その場にしゃがみ込んだ。


「こんにちは! 私はブリアンナ。こっちは円香だよ。」


少女は円香へ視線を向ける。

その目は、必要以上に長く彼に留まっていた。


「パパ、このお兄ちゃん好き!」


彼女は真っ直ぐ円香を指差した。


「えぇっ!?!?」


「ステラ、そんなこと言っちゃダメ! この人には彼女がいるんだから!」


ブリアンナは顔を真っ赤にした。


「か、彼女!?!?」


円香は特に反応を見せなかった。

それがなぜか、ブリアンナを少し安心させる。


「こほん……そ、そう! 私は円香の彼女だから! だからステラには渡さないよ!」


彼女は得意げに胸を張った。


ステラは不満そうに頬を膨らませる。


「ずるい……私もお兄ちゃんの彼女になりたい……」


『なんだこの子供みたいな空気……』


円香はまだ中学生だったが、思考力や精神面では元の世界の大人たちすら凌駕していた。

難しい問題の解決や学校の成績でも、彼に並ぶ者はほとんどいなかった。


グレックはクスリと笑った。


「心配するな、ステラ。お前はとても可愛い。きっと円香様もそのうち心変わりするさ。」


「えぇっ!?!」


「うん、パパ! 私わかってる!」


今度はブリアンナが頬を膨らませた。


『完全に子供のケンカじゃないか……』


「さあさあ、とにかく食卓へ行こう。妻は一日中鍋の前から離れなかったんだ。まるで君たちが来るのを最初から知っていたみたいにな。」


彼らは居間へ案内された。

テーブルの上には、円香が見たこともない料理が並べられている。

それが逆に、彼の警戒心を強めていた。


テーブルのそばには背の高い女性が立っていた。


「アリエル、紹介しよう。こちらはブリアンナ様と円香様……そして未来の婿殿だ!」


女性は柔らかな笑みを浮かべながら円香を見つめ、そのあとステラへ視線を向けてウインクした。


「やるじゃない、ステラちゃん!!」


『……冗談好きな家族だな。』


グレックとアリエルは顔を見合わせ、静かに笑った。

アリエルは口元を手で隠しながら、笑いをこらえている。

だがブリアンナは、こうした冗談をまったく面白がっていなかった。


「さあ、どうぞ食卓へ。」


円香はテーブルの端に腰を下ろし、ブリアンナもすぐ隣に座った。

するとステラがすぐさま不機嫌そうな視線を向ける。


「ママ、私もお兄ちゃんの隣に座りたい!」


アリエルは円香へ視線を向けた。


「ステラ、円香様にはもう少し余裕がありませんよ。」


ステラは再び頬を膨らませる。


「お姉ちゃんずるい! 席、交換しようよ!?」


「ご、ごめんねステラ……でも彼を守るって約束したから、離れるわけにはいかないの。」


ステラはブリアンナを不満そうに見たが、やがて諦めた。


「ふん!」


彼女はそっぽを向いて鼻を鳴らした。

グレックとアリエルも席につき、ステラはその間に座った。

円香は手を合わせる。


「いただきます……」


全員が驚いたように彼を見た。


「何をしているんですか、円香くん?」


アリエルは彼の動きを真似しながら尋ねる。


『くそ……ここは日本じゃない』


「な、なんでもないです……忘れてください。」


ステラも同じように手を合わせて真似をした。


「いただきます!!」


ブリアンナもそれに続く。

円香は気まずそうに笑い、食事が始まった。


円香は目の前の正体不明のスープを一口すくう。

しばらくそれを見つめてから口に運んだ。


「どうしたんだ、円香くん?」


アリエルは少し心配そうに彼を見る。


「口に合いませんでしたか?」


「い、いえ……すごく美味しそうで……ちょっと考えてただけです。すみません。」


一口目が口に入る。


『うまい!!』


空腹だった円香は、礼儀を守りつつも器を最後まで食べ切った。


「ごちそうさまです、アリエルさん。」


彼の満足そうな顔を見て、アリエルは少し頬を赤らめた。


『なんて可愛い子……』


ブリアンナも食事を終える。


「ごちそうさまでした。」


ステラも食べ終えると、アリエルに礼を言った。

グレックはテーブルの下から樽を取り出した。中には明らかに酒が入っている。


「さあ、デザートだ!!」


彼は紫色の液体をグラスに注ぎ始めた。円香はそれを見て、自分の顔が映るのに気づく。


「すみません、これは何ですか?」


「これこそ友よ、お前が一生で一番美味いと思うものだ。」


グレックの口元からよだれが垂れる。


「酒だよ。」


ブリアンナが液体を見ながら答えた。


「まあ、そういうものだな。」


「すみません、俺は飲めません。」


「なっ!? なぜだ、円香くん?」


グレックが残念そうに声を上げる。


「バカねグレック、まだ未成年でしょ!」


アリエルは円香のグラスを取り、中身をこの世界の果実のジュースに入れ替えた。


「ありがとうございます。」


「どうぞ飲んでください。」


円香はグラスを口に運び、新しい飲み物を味わう。


「美味い!」


少し残しながらも、彼はアリエルを見る。


「アリエルさん、このジュースは何でできてるんですか?」


彼女は微笑んだ。


「これはゴブリンベリーを使った私の特製よ。」


「すごい!!」


円香はブリアンナへ視線を向けた。


「ブリアンナも飲んでみる……?」


その瞬間、円香は固まった。


ブリアンナはグレックの酒を飲み、何の躊躇もなくそのまま眠りに落ちていた。


「えっ……ごめんね……これ初心者には強すぎるやつで……飲むと一気に倒れるの……」


「おいグレック! 彼女にも入れたのか!?」


円香の声は明らかに大きくなっていた。


「すまん、悪気はなかったんだ……」


アリエルは深いため息をつき、円香へ視線を向けた。


「すみません、うちの夫は本当に酒癖が悪くて……」


「い、いえ……」


円香は眠っているブリアンナを抱き上げ、入口へ向かった。


「ごちそうさまでした。私たちはこれで失礼します。」


グレックが急に立ち上がる。


「いや、友よ、まだ……」


その言葉は途中で途切れ、彼はそのまま床に崩れ落ちて気を失った。

アリエルは深く息を吐く。


ステラが二人に駆け寄った。


「お兄ちゃん、行かないで! もっと遊ぼうよ!」


円香は彼女を見て、優しく微笑んだ。


「ごめんね、ステラ。でももう行かないと。また今度遊ぼう、いい?」


彼女はいたずらっぽく笑い、円香に抱きついた。


「うん! お兄ちゃん約束したからね! 約束は守るものだよ!」


「……ああ、約束する。」


「さようなら、アリエルさん。」


「またね……」


円香はブリアンナを抱えたまま外へ出て、仮の住まいへ向かった。

その時、背中に不気味な視線を感じる。

彼は勢いよく振り返った。

アリエルが見送っているのかと思ったが、ついさっきまで明かりが灯っていた家は、今は完全な闇に包まれていた。

一瞬だけ窓に黒い影が浮かび、すぐに消えた。


『……おかしいな』


宿へ戻ると、円香は二階へ上がりブリアンナをベッドに寝かせた。エリオットも後からついてくる。


「エリオット、ブリアンナを頼む。少し出てくる。」


ペガサスは戸惑いながらも頷いた。


「ありがとう、任せる。」


窓を開け、彼は外へ飛び出した。


『やっぱりあの家、調べる必要がある……ステラやアリエルに何かあったのかもしれない。グレックも怪しすぎる。』


濃い霧の中を静かに飛びながら、彼は二階の窓へと近づき、中の様子をうかがう。


『どうして俺たちが出た直後に明かりを消した?』


その時、鈍い衝撃音が響き、続けて何かが倒れる音がした。

円香は慎重に窓を開け、静かに中へ侵入する。室内は暗闇に包まれていた。


『音は……下からか?』


円香は音を立てないように慎重に動き、階下へと続く階段へ足を運んだ。

直感がここで確かめろと叫んでいる。このままでは眠れない――彼らの行動があまりにも不自然で、まるで最初から仕組まれていたかのようだった。


『たとえ見つかっても関係ない……確認しなきゃ……!』


階下へ降りた瞬間、彼は動きを止めた。

さっきまで食事をしていたテーブルの上に、人間の遺体が横たわっており、その周囲にグレックとアリエルが立っていた。


「ねぇ、あなた。油で焼く?それとも水で煮る?」


円香は咄嗟に闇へ身を隠す。テーブルの上では小さな蝋燭だけが揺れていた。


「待ちきれないわ。やっぱりカリカリに焼いた方が美味しいわね。」


『カニバリズムだと!? ステラはどこだ!?』


二人は遺体から肉を少しずつ切り取り、鍋へと入れていく。


「二人は二ヶ月後に食べるわ。それまでは呼んで、太らせてからね。あの女の子は……あの子は……!!」


グレックが舌なめずりをする。


「その男の子、とても可愛いわ。私のものよ。」


アリエルが続けた。


『俺を食う? ブリアンナを?……ふざけるな!』


円香は眉をひそめ、隠れ場所から飛び出した。


「何だ? お前……」


グレックが振り向き、わずかに驚く。


「円香くん、これは違います。あなたの思っているようなものでは――」


アリエルはすでに人間の肉を口にしていた。口元には赤黒い血が付着している。


その時、暗闇の中からステラが駆け出してきた。


「お兄ちゃん!! お兄ちゃん!! 助けて!!」


彼女は円香にしがみつく。


「ステラ……?」


「お兄ちゃん……」


その頬を涙が伝った。


「お兄ちゃん、あいつら……あいつら私に人を食べさせたの……!」


彼女はさらに強く泣きながら円香にしがみついた。


「私、やりたくなかったのに……本当だよ!!」


円香はそっと彼女の頭を撫でる。

ステラは涙で濡れた目を彼に向けた。


「君は悪くない。俺が助ける。」


「この小娘が。」


アリエルが鋭く手を振ると、彼女の掌から風の刃がステラへと放たれた。


『クソッ、魔法か!!』


魔力の一撃はすでに目前まで迫っていた。


「ひゃあっ!!」


円香はステラを抱き寄せ、自分の体で庇うように覆いかぶさる。

そのまま身体をひねり、攻撃を正面から受け止めた。


「ぐっ!!」


「お兄ちゃん!!」


『くそ……痛い!!』


「お兄ちゃん、大丈夫!?」


円香はゆっくりと立ち上がり、彼らの方へ向き直った。


「なぜだ……どうして無傷なんだ!?」


「ステラ、俺の後ろに隠れていろ……それと、すまない。」


「すまない……? 何を?」


彼は一瞬だけ言葉を詰まらせる。


「これから俺が、お前の両親にすることのことだ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ