第一章10 『バラン』
霧は少しずつ薄れ始めていた。
ダリウルの外では、すでに朝日が昇っている。
待ち合わせ場所へ近づいた時、円香はエリオットの姿を見つけ、勢いよく高度を下げた。
「エリオット!!」
ペガサスは顔を上げ、空を見た。
円香は周囲を必死に見回し、ステラの姿を探す。
着地すると、彼はブリアンナを丁寧に地面へ降ろした。
ステラは草の上で静かに眠っており、エリオットがその傍らで彼女を見守っていた。
円香はそっと少女の元へ歩み寄り、頬にかかっていた髪を優しく払う。
「……無事でよかった。」
そこへブリアンナが近づいてきた。
「円香……ステラはどうするの?」
「わからない……」
円香は視線を落とした。
『もしかしたら、俺たちは間違ったのかもしれない。
あの二人は偽物の親だったとはいえ……それでも……』
ブリアンナの手が、そっと円香の肩に触れる。
「間違ってないよ……!
あの場所で、あの子は苦しんでた。円香は助けたんだよ。」
「助けた……?」
円香は動きを止めた。
『そうだ……この騒ぎの中で、俺は自分が何者かを忘れていた……』
彼はゆっくりと拳を握る。
『俺はヒーローだ。最強のヒーロー。』
『なのに、どうしてこの世界の人間に怯えている?』
円香は朝日を見上げた。
『落ち着け……どこにいようと関係ない……』
『俺はまだ「ナイン」の一員だ。』
『あいつらはどうしてるんだろう……。ちゃんと無事でいるのか……?』
そんな考えに沈んでいた円香を、突然の声が引き戻した。
「お兄ちゃーん!!!!」
ステラが目を覚まし、勢いよく円香へ飛びつくように抱きついた。
「うわっ……! ステラ、苦しいって……!」
「お兄ちゃん!! 帰ってきた!! 本当に帰ってきたの!!」
円香はそのまま地面に腰を下ろした。
ステラは首にしがみついたまま離れず、まるでまた失うことを恐れているかのように強く抱きついている。
「ス、ステラ……苦しいって……!」
「え?」
ステラはぱっと手を離し、一歩下がった。
「ごめんなさい……」
だが次の瞬間、興味深そうに首を傾げる。
「お兄ちゃんの円香って……私たち、同い年だよね?」
「え?」
円香は思わず動揺した。
「い、いやいや! 俺の方が年上だ!」
ステラはにやりと笑い、そのまま隣にちょこんと座る。
「何歳なの?」
『まずい……そこを突いてくるのか……!!』
『正直に言ったら終わる……!!』
円香は咳払いをした。
「んん……十五歳……」
ブリアンナは思わずむせた。
「十五歳!?!?」
「うん……」
『え……? この子、私より年下……?』
ブリアンナの頬が一気に赤くなる。
『年下の男の子に……私、恋しちゃったの……!?』
『い、いや! そんなの関係ない……!』
ステラは満足そうに笑った。
「えへへ♪ お兄ちゃん、私の方が年上だよ!」
「え……?」
円香はゆっくりとステラの方を向く。
「……はぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」




