第一章11 『始まりへの帰還』
ステラは嬉しそうに笑った。
『年上って……?私より年上なの!?』
「待って……ステラ、何歳なの??」
彼女は意地悪そうにニヤッと笑い、高慢に顎を上げて腕を組んだ。
「ハハ♪ お兄ちゃん、私もう16歳だよ!!」
「は?」
「だから、これからはお姉ちゃんって呼びなさい♪」
「は?」
円香は口を開けたまま固まった。
『このバカ……!!』
「ふざけるな!!」
ステラはすぐに口調を変え、鋭く目を細めた。
「年上に対して、その口のきき方は何!?!?」
円香は勢いよく立ち上がった。
「お姉ちゃんなんて絶対に呼ばない!!」
「えぇ〜? なんで? 私の方が年上だよ♪」
ステラは楽しそうに笑い、円香の反応を面白がっていた。
「ズルいだろ! お前、俺より子供っぽく見えるぞ!」
「ふふ♪ そんなことないもん!」
彼女は円香に向かって舌を出した。
ブリアンナは口元を押さえ、笑いをこらえている。
「ぷっ……」
円香とステラは同時にブリアンナを見る。
一瞬、沈黙が落ちた。
そしてステラは再び円香の横にくっついた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん♪」
「くっつくな!」
「じゃあお姉ちゃんって呼んで♪」
「絶対嫌だ!!」
エリオットが鼻を鳴らし、まるで笑っているようだった。
ブリアンナはついに耐えきれず、小さく笑う。
「ふふふ……」
ステラはブリアンナに視線を向けた。
「あ、ブリアンナお姉ちゃんも私のことお姉ちゃんって呼んでいいよ♪」
「えぇ!?」
ブリアンナの頬が一気に赤くなる。
「そんな呼び方しないわよ!」
「なんで〜?」
「変でしょ! それに私の方が年上よ!!」
「え〜? 嘘だ! うそつき!」
「私は二十一歳よ!!」
「おお〜おばさんじゃん!!」
「だ、誰がおばさんよ!!」
円香は大きくため息をつき、頭を抱えた。
『なんであんな奴らと戦った後に、こんな会話してるんだ……』
それでも、口元はわずかに緩んでいた。
「お兄ちゃん、その人お兄ちゃんに合わない! おばさんだよ!!」
「このガキ!! 誰がおばさんよ!! 円香、騙されないで!!」
「お前さっきから誰の味方だ……?」
円香の声が少し沈む。
「じゃあ俺は何なんだ……?」
「え!? そういう意味じゃないってば!」
『くそ……全員年上じゃねぇか……恥ずかしい……』
ブリアンナは円香のもとへ歩み寄り、そっと彼を慰めようとした。
「そんなに落ち込まないで……それって普通のことよ。まだこれからなんだから」
円香は彼女を見上げる。
「ありがとう……」
円香は大きな岩の方へ歩き、皆を呼んだ。
「ブリ……ステラ……エリオット、こっちに来てくれ」
彼らは顔を見合わせてから円香のもとへ向かい、円を作って座った。
円香が最初に口を開く。
「ステラ……これからどうするつもりだ? 行くあてはあるのか?」
ステラはすぐに戸惑った。
「お兄ちゃん、私も一緒に行く!!」
「一緒に?」
ステラは頬を膨らませる。
「そんなの当たり前じゃん! お兄ちゃん、私と結婚するんだから! だから一緒に行くの!」
『は!?』
ブリアンナは一気に顔を赤くした。
「ちょ、ちょっと!! ステラ、それどういう意味よ!?」
「だって私、お兄ちゃんにぴったりだし! 年齢的にも!!」
円香は慌てて間に入る。
「待て……」
二人の少女は同時に黙って円香を見る。
「今はそれより大事なことがある。これからどう動くかだ」
「……」
「……」
円香は大きくため息をついた。
「そうか……」
その時、ステラが手を上げた。
「じゃあさ、暴食の罪の王都に行こうよ!!」
円香とブリアンナは同時にステラを見る。
「そこはダメだ……」
「え? なんで?」
「いいから!」
円香は少し考え込み、指を鳴らした。
『そうだ!!』
「ブリ! 王都に学院はあるか?」
ブリアンナは少し反応した。
「え、ええ……あるわよ。名門のゲルドフィールド学院が……どうして?」
「そこに入学する」
『この世界に馴染むには学院が一番だ』
「円香!! あそこは私たちを探してる場所よ!!」
「そのための変装がある」
円香が指を鳴らすと、彼のスーパーヒーローの衣装が下から順に消え、普通の私服へと変わっていった。
ステラの目が輝く。
「おおー!! お兄ちゃんかっこいい!! 似合ってる!!」
「そ、そうか……」
「円香、それすごいわ! どうやったの!? こんな魔法見たことない!」
ブリアンナは興味深そうに見つめた。
エリオットは特に反応しない。
ただのペガサスだからだ。
「顔じゃなくて、あの服だけが印象に残ってるはずだ。たぶん気づかれない」
ブリアンナは少し考えた。
だが実際のところ、彼女は最初から円香の外見に目を奪われていた。
この世界の人間とは明らかに違う。
ステラは再び円香に飛びついた。
「お兄ちゃん!! 首都で何があったの!? 教えて!!」
興味津々で揺さぶる。
円香は彼女を軽く持ち上げ、そのまま抱き寄せた。
「お、お兄ちゃん……?」
「お前は綺麗だ、ステラ」
ステラは一瞬で真っ赤になった。
ブリアンナは目を見開く。
「き、綺麗って……そんな急にずるいじゃない……」
彼女は視線を逸らし、小さく呟いた。
「あなたも……すごくかっこいい……」
『とりあえず落ち着かせるしかない……』
円香はステラをそっと下ろし、ブリアンナへ視線を向けた。
彼女はまだ彼を見つめたまま固まっていた。
数秒間、奇妙な沈黙が流れた。
ステラは顔を真っ赤にして俯き、足元を見つめている。
ブリアンナも視線を逸らし、気持ちを落ち着かせようとしていた。
円香でさえ、自分の発言に気まずさを覚えていた。
「分かってる……気にするな」
ブリアンナはゆっくりと円香に近づき、耳元でそっと囁いた。
「私も……言いたいの。あなたは……すごく綺麗」
円香は一瞬で顔を真っ赤にする。
『くそ……何なんだこれは……?』
『喜んじゃいけないだろ……』
『前の世界には、ちゃんと恋人がいる……ナインの一人だ……』
彼は慌てて咳払いをした。
「……クッ……そろそろ行こう」
「うん!!」
ブリアンナは素早くエリオットに跨る。
「ステラ、エリオットで一緒に行く?」
ステラはわざとそっぽを向いた。
「嫌! お兄ちゃんと行く!!」
ブリアンナは疲れたように目を細める。
『円香をステラに取られそうで……本気で嫉妬してる……!』
円香は深く息を吐き、ステラを抱き上げると、そのまま空へと飛び上がった。
彼らは向かう──暴食の罪の王都へ。




