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第3話 止まった村と、書き換わる現実

風が、止まっている気がした。

 村の入口で、リクは足を止める。

 家はある。畑もある。防壁もある。

 だが――何かが決定的におかしい。

 静かすぎる。

 人が、いるのに。

 視線を向けると、そこには住人たちの姿があった。

 だが、その動きはどこか不自然だった。

 同じ動作を繰り返す者。

 無表情のまま立ち尽くす者。

 何かを話しているのに、声だけが空虚な者。

「……なあ」

 リクは一人に声をかける。

 反応はない。

 だが、その瞬間――

「無駄だ」

 低い声が背後から飛んだ。

 振り向く。

 そこにいたのは、無精髭の男だった。

 ボロボロのマント。

 疲れきった顔。

 だが、その目だけは生きている。

「そいつらは、もう“戻らねぇ”」

「戻らない……?」

「ああ」

 男はゆっくりと歩み寄る。

「元は俺たちと同じ、“召喚された側”だ」

 リクの胸がざわつく。

「三年前まではな」

 その言葉に、違和感が引っかかる。

 三年。

 ――三年?

 喉まで出かかった言葉を、リクは飲み込んだ。

 なぜか、それを聞いてはいけない気がした。

「時間の感覚、狂ってんだろ」

 男が淡々と言う。

「ここじゃ普通だ」

「……あの人たちは?」

「マスターに見放されたキャラの末路だ」

 男は、虚ろな住人たちを見渡す。

「思考も感情も削れて、最後は“NPCになる”」

 ぞくり、と背筋が冷える。

「完全に消えないのが、逆に地獄でな」

 男は自嘲気味に笑った。

「俺はまだマシな方だ。“自我”が残ってる」

「……なんで?」

「さあな。運か、未練か」

 少しだけ間を置いてから――男は言った。

「ガルドだ。元Aランクの盾役」

「リクだ」

「リク、ね」

 ガルドはじっとリクを見る。

 まるで、値踏みするように。

「……妙だな」

「何が?」

「お前、“軽い”くせに“重い”」

「は?」

「存在がチグハグなんだよ」

 意味が分からない。

 だが、その言葉は妙に引っかかった。

 その時だった。

 村の外から、低い唸り声が響く。

「……来やがったか」

 ガルドが舌打ちする。

「ウェーブだ」

「ウェーブ……?」

「敵の襲撃だよ。この世界のルールだ」

 門の外、闇の中。

 何かが蠢いている。

 黒い影。獣のような形。

 数は――多い。

「下がってろ。お前はまだ――」

 ガルドが前に出た、その瞬間。

 一体の影が、異様な速さで突っ込んできた。

 速い。

 明らかに、反応できない速度。

「っ――!」

 ガルドの動きが、間に合わない。

 直撃する。

 そう見えた。

 ――だが。

 次の瞬間。

 “何も起きていなかった”。

 影は、ガルドの横をすり抜けていた。

「……は?」

 ガルドが、固まる。

 ありえない軌道だった。

 今のは、確実に当たっていた。

 避けられる距離でも、タイミングでもない。

 リク自身も、息を呑む。

(今の……)

 違う。

 避けたんじゃない。

 当たるはずだった結果が、消えている。

「おい、リク」

 ガルドがゆっくり振り返る。

「今、何した?」

「……分からない」

 嘘じゃなかった。

 本当に分からない。

 だが――

 さっき、確かに感じた。

 何かが“ズレた”感覚。

 世界の方が、あとから追いついてきたような。

 再び、影が襲いかかる。

 今度はリクへ。

 反応できない。

 ――はずだった。

 だが。

 その攻撃もまた、リクの身体をかすめることなく逸れた。

 まるで最初から――

 “当たらなかったことになっている”ように。

「……はは」

 ガルドが、乾いた笑いを漏らす。

「冗談だろ……」

 その目に浮かんでいるのは、恐怖だった。

「お前……何者だ?」

 リクは答えられない。

 ただ一つ、確かなことがある。

 自分の中に――

 “何かがおかしい”。

 その時。

 空に、ノイズのような光が走った。

 ビリ、と空間が歪む。

 そして、どこからともなく声が響いた気がした。

 ――エラー検知

 ――該当事象、確認不能

 一瞬で、消える。

「……今の、見たか?」

「……いや」

 ガルドは首を振る。

 だが、その表情は明らかに変わっていた。

 確信している顔だった。

「やっと来たかよ……」

「……?」

「この村を止めてた“何か”を、ぶっ壊す奴が」

 ガルドは、ゆっくりと盾を構える。

「リク」

「……なんだ」

「死ぬなよ」

 その言葉に、重みがあった。

「お前は――“終わらせる側”だ」

 次の瞬間。

 闇の中から、無数の敵が溢れ出す。

 止まっていた世界が、動き出す。

 リクは拳を握る。

 理由は分からない。

 だが、確信だけがあった。

 ――ここから、全部変わる。

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