第19話 包囲網の狭間で
西新宿のビル街に響き渡るパトカーのサイレンは、もはや通常の警ら活動のそれではなかった。交差点を塞ぐように次々と警察車両が展開し、上空には報道や捜査用のヘリコプターが低空で旋回を始めている。
「テロリストの潜伏および重要インフラ破壊工作の容疑――か。御厨は俺たちを『国家の敵』として公的に仕立て上げたな」
ビルの陰から大通りの様子を窺いながら、相馬は冷徹に呟いた。
国家の闇を暴こうとした者たちが、逆に国家の全権力を挙げた討伐対象として追われる。それは圧倒的な情報の力を持つ国家システムの前では、逃げ場のない完全な包囲網を意味していた。
「先輩、どうするんですか……! このままじゃ、新宿全体が封鎖されます!」
結城が息を荒らげながらスマートフォン――ではなく、先ほどビルの非常用回線から接続した小型のハンドヘルド端末の画面を指差した。
「最高検の特捜部はどう動いていますか?」
「……動いてます! 私たちが送ったデータが正式な受理手続きを経て、特捜部の主任検察官の手に渡った。現在、特定政策調整室に対する家宅捜索の令状請求が急ピッチで進められているわ!」
佐藤がそれを聞いて目を見開く。
「じゃあ……御厨たちが捕まるのも時間の問題ってことか!?」
「甘いな、佐藤」
相馬は即座に首を横に振った。
「御厨ほどの権力者が、検察の令状一枚で大人しく逮捕されると思うか? 奴らは司法の手が伸びる前に、私たちを物理的に消去するか、あるいは『証拠の隠滅』を口実にすべてを闇に葬り去るはずだ」
その言葉を裏付けるかのように、前方の大通りを警ら中の機動隊車両が二台、赤色灯を回転させながら猛烈なスピードで通過していった。
逃げ場のないビルの谷間で、相馬は懐から破り捨てられた自分の職員証の残骸を見つめた。かつて国家のシステムを守るために働いていた自分が、今やそのシステムを根底から揺るがす唯一の「バグ」となっている。
「行くぞ。ここに留まれば網にかかる」
「どこへ逃げるんですか、相馬さん?」
「逃げるんじゃない。奴らの本丸へ近づく」
相馬の瞳に、不敵で冷徹な光が宿る。最高検が動き出した今、国家の中枢である霞が関こそが、最大の安全地帯であり、同時に最後の決戦場となる。




