第18話 閉ざされた地下道
地下通路に立ち込める焦臭い煙と、不気味に響き渡る重い足音。
相馬を先頭に、結城と佐藤は懐中電灯の細い光だけを頼りに、湿ったコンクリートの迷宮を走り抜けていた。
「ハァ……ハァ……! 相馬さん、追ってきてる! すぐ後ろまで来てるぞ!」
佐藤が悲鳴交じりの声を上げる。背後の暗闇から、無駄のない統率された足音が急速に距離を詰めてきていた。特定政策調整室の直属部隊――「除籍執行班」。彼らは警察や一般の捜査機関とは異なり、手加減や逮捕の手続きを踏む必要を持たない純粋な排除部隊だ。
「足を止めるな! 前方に旧地下地下鉄の換気口がある。そこから地上へ抜ける!」
相馬は懐中電灯の光を前方の天井へ向けた。錆びついた鉄製のタラップが、はるか上方の暗闇へと伸びている。
「結城、先に登れ! 佐藤が次だ!」
「先輩は!?」
「俺がここで時間を稼ぐ。早く行け!」
相馬は結城の背中をタラップへ押しやり、壁際の古びた配管設備へ向かった。
この地下通路は昭和中期に整備された旧式のインフラだ。相馬は持ち前の構造知識と『除籍係』としての現場経験から、通路を走る主配管の配置を瞬時に読み解いていた。
彼が腰のツールから取り出したのは、東洋都市総合研究所の地下から持ち出していたアタッシュケースの頑丈な金属フレームだ。それを高圧蒸気パイプのバイパスバルブの隙間に力任せに叩き込み、テコの原理で一気に支柱を破断させた。
シューッ! という凄まじい高音とともに、高温の過熱蒸気が白煙となって通路いっぱいに吹き出した。
「うわあぁっ!?」
迫っていた実行部隊の先頭が、急激な視界不良と熱気により足を止めざるを得なくなる。
「退路を塞がれた! 迂回路へ回れ!」
「落ち着け、相手は丸腰だ!」
敵の怒号と混乱の声が蒸気の壁の向こうで交錯する。
「相馬さん! 早く登ってくれ!」
タラップの中腹から佐藤が叫ぶ。相馬は一瞬の迷いもなくタラップに飛びつき、驚異的な速度で垂直梯子を駆け登った。
上方から差し込む冷たい外気。重い鉄格子を三人がかりで押し上げると、そこは深夜のビル街の路地裏――都庁に近い西新宿のビルの谷間だった。
冷たい夜風が、汗とスモークに塗れた三人の肌を打つ。
「ハァ……ハァ……助かった……のか?」
アスファルトの上に倒れ込む佐藤。しかし、相馬の瞳に安らぎの色は一切なかった。
「いや……始まったばかりだ」
相馬が周囲を見渡すと、街頭の防犯カメラのレンズが、カチリと音を立てて自分たちの方角へ回るのが見えた。同時に、遠くの交差点から警察車両のサイレンの音が、複数重なって響き始めていた。
最高検へのデータ送信によって追い詰められた御厨が、ついに国家の表の警察機構すらも「テロリスト捜査」の名目で全面投入し始めた証拠だった。




