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日本国・特別住民除籍係の記録  作者: ライド


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12/24

第12話 巨大倉庫の暗証

午前七時過。トラックが滑り込んだのは、東京湾の潮風が吹き抜ける品川埠頭の広大な倉庫街だった。

 相馬たちの乗ったトラックが貨物エリアで停車し、ドライバーがコンテナの荷下ろし作業に向かった隙を突いて、三人は車体の影から静かに飛び降りた。

 見渡す限り並び立つ無数のコンテナと、巨大な物流倉庫。トラックの往来とフォークリフトの走行音、港湾作業員たちの声が飛び交うこのエリアは、人目を忍ぶ逃亡者にとって格好の遮蔽空間だった。

「ハァ……ハァ……なんとか、振り切れたのか……?」

 佐藤がコンテナの金属壁に背中を預け、地面にへたり込む。

「追撃の第一波は凌いだ。だが、奴らがこのベイエリアの防犯カメラログを洗い直すのに、そう時間はかからない」

 相馬は即座に周囲の地形を確認し、使われていないと思われる古い定温倉庫の非常口へ向かった。電子錠のキーパッドに小型の解析器具をあてがい、手際よく内部へ潜り込む。

 倉庫の中はひんやりと冷たく、廃材や梱包資材が積み上げられていた。

「結城、始めろ」

「はい!」

 結城は薄暗い物陰に腰を下ろすと、バックパックからノートPCを取り出し、相馬から渡された暗号化ドングルを接続した。青いアクセスランプが高速で点滅し、画面上に複雑なディレクトリ構造が展開されていく。

「指示のあった『予算執行ID:904』……ありました。暗号化レベルが他と桁違いですが、神谷のローカルログから抽出したアクセスキーで解除します」

 キーボードを叩く乾いた音が倉庫内に響く。数十秒の沈黙の後、画面に一通の極秘プロジェクト仕様書が表示された。

 そのタイトルを目にした瞬間、結城の手がぴたりと止まった。

「……何だ……これ……?」

「結城、何が書いてあるんだ?」

 不安に駆られた佐藤が画面を覗き込む。

「『日本国・国家基盤データ統合及び次世代型自動管理システム構築計画』……通称、『プロジェクション・ゼロ』……」

 結城は声の震えを抑えきれない様子で、文章を読み進めた。

「休眠戸籍の売買や『除籍』は、単なる裏金作りじゃありませんでした……。特定政策調整室の本当の目的は、日本国民全員の戸籍、税務、医療、防犯カメラの顔認証、果てはSNSの行動履歴までを一元管理する、超法規的なAI管理システムの構築です」

「国民全員の……自動管理……?」

 佐藤が呆然と呟く。

「ええ。そして、そのシステムが『国家にとって有害、あるいは非生産的』と自動判定した人間を、裁判も通さずに社会からデータごと強制排除する……その自動化プログラムの『初期学習データ』として、私たちが使われていたんです」

 相馬の瞳が冷たく細められた。

「なるほどな。『除籍係』そのものが、新しい国家システムを運用するための実証実験(プロトタイプ)だったというわけか」

 自分たちが遂行してきた「除籍」という暗部作業。それは単なる不祥事の揉み消しではなく、日本という国全体を巨大な監視と排除のシステムへと変貌させるための、恐ろしい計画の一環だった。

「そんなの……狂ってる……! 国がそんなことしていいわけないだろ!」

 佐藤が怒りと恐怖で声を荒らげる。

 その時、相馬のポケットに入っていた使い捨て端末ではなく、倉庫の片隅に放置されていた旧式の有線インターホンが、突如としてジリリリと高音で鳴り響いた。

 三人の動きが、一瞬で凍りつく。

 相馬は静かに受話器へ歩み寄り、そのまま耳にあてた。

『――相馬蒼くん。静かな潜伏先を見つけたようだね』

 受話器から聞こえてきたのは、耳に心地よいほど落ち着いた、だが底知れぬ冷酷さを秘めた老人の声だった。

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