第11話 混迷の首都高
大音量の警告音が響き渡る住宅街を、三人は全力で駆け抜けた。
背後で実行部隊の男たちが人目を憚りながらも追いかけてくる気配が漂う。住宅街の角を二つ曲がり、大通り沿いの環状七号線へと出たところで、相馬は足を緩めることなく周囲の交通量を見極めた。
「相馬さん……ハァ……もう走れない……!」
佐藤が路肩のガードレールに手を突き、吐き気混じりの息を漏らす。
「タクシーも電車も使えない状況で、どうやって逃げ切るつもりですか!?」
結城がバックパックを背負い直しながら、切迫した声を上げる。大通りの防犯カメラネットワークは、すでに彼らの通過をリアルタイムで補足し始めていてもおかしくない。
「徒歩での移動はここまでだ」
相馬が目を向けたのは、道路沿いに併設された24時間営業のコインパーキングだった。そこに、荷台に大きなコンテナを載せた中型トラックがエンジンをかけたまま停車している。ドライバーは缶コーヒーを手に、少し離れた自動販売機の前で煙草を吸っていた。
「先輩……まさか」
「盗むわけじゃない。利用するだけだ」
相馬は二人を促すと、トラックの影に潜り込んだ。コンテナの観音扉のロック機構を横目で見極め、側面の作業用ステップに飛び乗る。続いて結城と佐藤の手を強引に引き上げ、コンテナと運転席の間の狭い隙間へと二人を滑り込ませた。
「息を殺せ。警察の N システム(自動車ナンバー自動読取装置)は車両のナンバーを追うが、車体の影に潜む人間までリアルタイムで識別はできない」
直後、ドライバーがトラックへと戻り、ドアを閉める重い音が響いた。エンジン音が大きくなり、車体が大きく揺れながら発進する。
トラックは首都高速道路のランプへと入っていった。
高速で流れる夜明けの景色と、激しい風切り音が三人を包み込む。狭い隙間に身を寄せ合いながら、佐藤は震える声で尋ねた。
「これ……どこへ向かってるんだよ……」
「このルートのトラックは、川崎の物流ターミナルか臨海部の倉庫街へ向かう。広大で無数のコンテナと倉庫が立ち並ぶ港湾エリアなら、監視カメラの密度は都心部よりはるかに低い」
相馬は風に髪を煽られながら、胸ポケットからドングルを取り出した。東洋都市総合研究所から奪取したコアデータが入った記憶媒体だ。
「結城、臨海部へ着いたらすぐに端末を起動し、このデータの中にある『予算執行ID:904』の項目を洗え」
「904……? それは一体……」
「神谷が最後まで隠そうとしていた、特定政策調整室の『真の目的』だ。単なる戸籍の転売や裏金作りだけじゃない。国家のシステムそのものを書き換えて、何をしようとしているのか……その核心がそこに書かれているはずだ」
首都高の高架下を滑り抜けるトラックの車上。
過酷な追撃戦を潜り抜けた三人は、巨大な首都の闇へとさらに深く潜行していく。




