【第五話】幽霊の向こう側
“それ”は俺の人生の「あるべき姿」を、ひとつずつ演じて見せている。
俺は夜の闇に潜って、それを眺めるだけ。
白昼の中で「俺」が褒められ、好かれ、必要とされていくのを、まるで他人事みたいに聞き続ける。
いつしか、境界が溶け始めた。
――“それ”が俺の代わりに生きているのか。
――俺が“それ”の代わりに死んでいるのか。
分からなくなっていった。
幽霊――のような存在は、変わらず俺に日々を報告し、頼んだこと以上のことまで完璧にやってのけた。
両親の関係まで、成績の“成功”に引きずられるように少し改善していく。
俺は気づいてしまう。
“それ”のほうが、俺よりずっと上手く生きている。
そして俺の中に、存在してはいけないはずの考えが芽を出した。
夢の中で“それ”に会った時、俺は思わず言ってしまう。
「……もしかして、俺のほうがこの身体に憑いた幽霊なんじゃない?」
『違う! そんなわけない! 君がいるから、俺はこの生活を体験できてる。俺は……本当に楽しいんだ!』
「でも、全部、君の努力じゃん」
『俺は何もしてない。ただ、自分のやりたいことをやってるだけ。』
「……」
自分。やりたいこと。
(パチ、パチ)
自分……?
幽霊……?
俺が……俺は……?
『……思い出した?』
「……ああ。思い出した」
耳の奥でノイズが膨らみ、脳を侵食してくる。
こいつは幽霊なんかじゃない。




