【第三話】アプリの向こう側
その日から俺は毎日、睡眠アプリを開いた。
録音を聞き返して気づいた。
“それ”は、俺が眠っている間に俺の身体を使っている。
まるで、寝落ちの隙間を縫って“憑依”するみたいに。
“それ”も、徐々に俺の存在を理解していった。
俺たちは、俺たちだけの連絡方法を作った。
通話アプリのメモ機能――そこが、俺たちの会話の場所になった。
「君は幽霊なの?」
『そう思うならそうなんじゃない。』
「なんで俺に憑いてる?」
『意識がある頃から、ずっと君の中にいた。』
「生前はどんな人だった?」
『……生前のことは、あんまり覚えてない。』
「最初に言った“なんで殺した”って?」
『それも分からない。なんでああ言ったのか。』
「好きな食べ物は?」
『クレープ。冷蔵庫にコンビニのクレープが入ってたことがあって、甘くて好きだった。』
「好きなものは?」
『分からない。』
幽霊さん――いや、“それ”は、自分が何者か分からないみたいだった。
なぜ俺の中にいるのかも、わからない。
でも俺は、ある考えに辿り着いた。
「もし“それ”が俺の睡眠中しか出てこられないなら――
俺が朝に寝て、夜に起きていれば……」
嫌いな授業。
会いたくない同級生。
帰りたくない家。
それら全部を、“それ”に押し付けられるかもしれない。
俺は“それ”と取引をした。
“それ”が学校へ行き、同級生と話し、親と会話する。
時々、夢の中で会う。




