第十五話 もう少しで
木立の先、斜面に人影が見えた。
サトは足を止めた。
後ろ姿、腕の振り、斧の軌道。ケイだ...
木に向かって打ち込んでいる。打つ、抜く、また振る。その動きが途切れない。
サトの足が速まる。前のめりに駆け、草履が土を蹴る。
斜面をよろけながら登る。
ソウジの手が肩に触れる。引き戻そうとする強い手。でも振り払い、進む。
荒い息でサトは走る。根に引っかかり体が前に崩れ手をついた。
手に潰されたコケの匂い。すぐに立ち上がり走る。
ケイはサトに気づく様子はない。ただ、黒い斧を振る。
サトは歯を食いしばって駆け、下草に足を取られ、激しく転倒した。木の根で頬を打った。
口の中に鉄の味がにじむ。口の中の血を「ばぁっ!」と吐き出した。
だが体を起こし、目を血走らせ、這いつくばって前へ出る。
背後でソウジがサトの服をつかみ引き戻そうとした。
だがサトは振り払い、這って斜面を駆け上がる。
ケイが目の前に見える。サトは腕を伸ばす。届かない。それでも伸ばす。足が滑り肩から地面に転げた。
土をつかみ指に力を入れて、体を引きずるように前へ出る。
ケイは木に向かったままだ。
サトはあと少しと思い、踏み出す。
ソウジの手が再び肩にかかり、強く引かれ、体が後ろにひっくり返って仰向けになった。
ケイが近い。もう直ぐなのに。何でソウジは邪魔をする!
サトがソウジをにらむ。血走った目がつり上がる。
束ねていた髪は解けて垂れ、泥と血に塗れた顔に張りついている。
ソウジは気押されて、一歩退いた。
そして、サトは這ってケイへと向かった。




