第十四話 戻らない
静かだ。鳥の鳴き声もしない。
ソウジに叩きつけられた痛みが残っている。
呼吸は落ち着いてきたが、胸の奥はざわついている。
サトはソウジの背を見ながら山道を歩く。
少し距離を取る。近づきすぎないように。あの瞬間が頭から離れない。
サトは一歩ずつ確かめるように歩く。さっきのようには前に出ない。出ないようにしている。
あの音は今はしない。それでも耳の奥に残っている。
コツ、コツ...と、まだどこかで鳴っているような気がする。
前に広がる斜面の木立に目をやった。何もない。音もない。
それでも、あそこにケイがいるような気がしてならない。
サトは足を止めて深く息をした。
ソウジは変わらず一定の歩幅で進む。その背を見てサトはついていく。
だがあまり近くを歩きたくはない。
ソウジを信用できなくなった。
木立の間を抜ける。見覚えのある場所のはずだ。昨日も通ったと思う。
サトは足元を見る。根の出た場所。少し曲がった木。見た覚えがある。
さっきもここを通った気がする。
サトは前を見る。木立が続く。やはり同じ景色に見える。
山の中はよく分からない。
サトはまた足を止めた。振り返る。通ってきたはずの道。
だが、どこから来たのか分からない。同じ木が並んでいるだけに見える。
ここはおかしい。今は確かにそう思う。
引き返そうと思えばできるだろう。
だが、その考えがまとまる前に、ソウジの背が先に進み離れていく。
サトの足が動く。ついて行かねば。
もう戻らない方へ足が動いている。
サトは山の奥へ進んでいく。




