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52 思ってもみない言葉と納得の答え


「リリック様に『フルール』と呼ばれるのはしっくりくるのですが、わたくしは様呼びのほうがしっくりくるのです。時が来ればきちんとお呼びできるかと思います。そのように頑張りますのでその時までお待ちいただければと思います」

「なら、リックはどうだ? リック様もしっくりこないか?」


 おや? 坊っちゃんずいぶんと粘りますね。

 これはもしや、もしや。


「……りっくさま、リックさま、リック様。これは馴染みます、リック様」

「そうか! そうかそうか。ならこれからはその呼び方で呼んでくれ」

「はい、リック様」



 その円満解決から、徐々に敬語も減らしていこうとの取り決めもされ、立場が上のリリックからその取り決めに沿い尋問改め、質問が再開された。


「これはあまり上手くはないがおれが描いたものだ」

「まあ! 花畑のようにお花がいっぱいです! これを全部リリックさま、あ、リック様が?」

「そうだが、フルールの絵と比べて見てごらん。線の感じや、陰影のつけ方による立体感、どれをとっても格段の差がある」

「どう言えばいいのでしょう……。違うのはわかります。でも、言葉にするのはむずかしいです」

「いやそこは違いがわかればいい。問題はこの絵をどうやって習得したのか、誰かに習ったか? このような本物のような絵は見た事がない」

「えーと、いつからか、気づいたら描けるようになってました」

「誰にも習わず自己流でか⁈」

「はい」

「たいしたものだ。領地でも描いていたのか?」

「はい。領地のスケッチブックは持ち出し禁止で置いてきましたが、同じように描いてました」

 ふむ、だとするとそちらが①か。


「置いてきたものにも顔は描かれていないのか?」

「はい」

「なぜだ? 顔をかかない理由はなにかあるのか?」

「? 顔は描かないとダメなのですか?」


 至極きょとんとした顔で、思ってもない言葉が返ってきた。

 ……一旦引き返して別の質問を。


「では、絵の横に書かれているメモのようなものはどんな意味が? とても的確に記されていて驚いたのだが。動きの特徴や弱点など、古傷などとあわせて書いてあったが」


「名前がわからなかったので、……そのかわりです」

 ……そのかわり。そのかわりとは、いや──追及するのはやめて話題を変えよう。


「時に、フルールは見学席では眼鏡をしていたか?」

「はい! でもあれは眼鏡ではなくもっと精度がよく、先を見通せるものです! とても優れています。剣術大会であれを売りだしたら売れると思います!」

 売り込むような勢いで絶賛された。


「あー、では、尻、そう尻が描かれている者と描かれていない者の差はなんだ?」

「湯殿を使う人と使わない人の違いです。見えるのならみんな描きたかったです!」

 おかしなことにこの答えが一番納得できる。

 やはりあの位置のフルールの視線の先には湯殿が見えていたのだ。

 あの湯殿を使うのは、新人から中堅の半ばの層だ。五席以上の尻が描かれていない理由がわかった。自分の尻が暴かれていないことにホッとするも、他の男の尻をフルールが見つめていたという事実がどうにも腹立たしい。今日はなんなんだ。気持ちが安定しない。


 ハロンの腹筋は壊れそうだ。

 坊っちゃん、みんなの尻を描きたいと言われてなぜそんなに満足そうな顔をするのです。

 一体なんだこの謎かけめいた応酬は。

 ふたりのやり取りは完全にハロンを笑わせにきている。

 堪えなければと思えば思う程につらい。


「以前に見せてもらった絵と違うのだが、あれは他の者が描いたのか?」

「いえ、あれもわたしが描いたものです」

「まるで別物だが……」

「むう、どうぞ下手だと言ってください」

「ハハハ、下手ではない。あれは味があるというのだ」

「笑ってます」

「いい絵だと思うからだ。思い出すと楽しくなるいい絵だぞ。しかしなぜこんなに違うのだ? 別人が描いたと思うほどに」

「……それは、言えません」

「説明がむずかしいと言うことか?」

「わたしの一存で話せることではないからです」


 ふぅー、ここへきて詰まったか。明日の朝一番で伯爵に聞くしかないな。

「そうか。遅くまでありがとう。今日はもう休むとしよう」

「あの、家族は本当に罰を受けることはないですよね?」


 不安げに瞳を揺らすフルールは、先ほど大丈夫だと説明したことを今一度確認する。少しどころかだいぶ灸が過ぎたようだ。……すまない。


「ああ、大丈夫だ。家族はもちろん、君も、使用人も、誰も罪にはならない。だが、先ほども言ったが、フルール、君は明日、司令官と直接話してもらう必要がある。それだけは避けて通れない。隣におれもいるから心配しなくていい。今みたいに質問に答えるだけだ」

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。おやすみなさいリック様」

「ああ、おやすみ。フルール」


ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。励みになります。今後もフルールとリリックをよろしくお願いします。

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