38 取って代わる公爵家の私兵団
その後は御察しの通り。
フルールは、こってり絞られた。
だが、時間はそんなにかからなかった。
リリックに免じたのではない。
フルールが心底反省し、もう二度とこのような事はしないと、自ら進んで約束したからだ。お得意の「なぜ?」は一回もでなかった。
伯爵は、今回のことを機に成長したと思えば、そこまでクドクドと叱ることもなかろうと切り上げた。
だから甘いと言われるのだ。
とは、誰が口にした皮肉だろう。
大方、ハンナあたりか。
フルールは屋敷中の者たちに謝罪してまわった。
とくにミルには丁寧に謝った。
ミルは、フルールがいなくなったのは自分のせいだと、泣きながらフルールを捜し回ったそうだ。
ハンナから緊急戦闘態勢を言い渡されていたにも関わらず、目を離してしまった自分のせいだと責めながら。
フルールの無事を知らせる第一報が、ガロンよりもたらされた時には、呼吸困難になるほど咽び泣いたと聞く。
それを聞いてフルールも泣きそうになった。
「本当にごめんなさい」
「いいです。お嬢様が無事ならいいです、うっぐ、でも、うっぐ、もう二度と黙っていなくならないでください」
「わかった。約束するわ」
「はい。約束です。ズズッ」
泣きはらしたミルは、鼻水こそ止まらなかったが、やっと顔を上げた。
大事に発展してやっと終結したかに見えるが、驚くことにこれはわずか一時間半の出来事だ。
フルールが関わると、本当に事が大きくなるということのいい例だった。
そして、どれほど公爵家の私兵が優秀かと言うことにも繋がる。
翌日、フルールはハンナに、なぜ公爵家の私兵まで出てきたのかその経緯を聞いた。
お礼をするにも、そこはわかりません、では話にならない。フルールの言い分は尤もだ。
「へえ、じゃあ、途中で会ったリツギに、リリック様のほうから声をかけたのね。二人は顔見知りだったの?」
リリックはほぼ毎日花束を持ってくるのだ。顔見知りにもなるだろう。
「リリック様の馬を預かるのは、決まってリツギでしたからね」
どうやら、出会ったリリックに事の次第を話したところ、公爵家の私兵まで出動する騒ぎになったらしい。
ハンナがこの騒動を察するに、公爵より夫人の力の方が大きいとみている。おそらく、私兵を動かしたのは公爵夫人だと。
昨日萎んでいたフルールはもういない。猛省してみんなにも謝った。これ以上この屋敷で出来ることはない。
フルールはクララの言うとおり前向きなのである。
悪いことも良いことも引きずらない。
悪かったことは直せばいい。
良かった点は伸ばせばいい。
進まなければ、どちらも、何もできない。
そして男がいなければ探しに行く。
これに尽きるのだろうが、その先が公爵家だというから、ナート家は頭を悩ませる。
フルールのそれがバレるのは嫁いでからでなければならない。今自分でバラしに行けば、嫁ぎ先が消えるのだ。
どうしたものか……。
「はああ。ハンナ、なぜこんなことになったのだ?」
「それは当然、演習場を禁じたからです。ですがお嬢様の言うことにも一理あります。実際に見つけてくれた方への礼はするべきでしょう。しかしその先がよりにもよって敵陣とは……」
伯爵とハンナは頭をかかえる。
これから縁者となる家なのだから、敵陣などと物騒な言葉が出ることは如何なものかとは思うが、実際、(ナート家にとっては)今一番フルールの情報を渡してはいけない相手なのだ。──敵と言うよりは防戦一方の相手だが。
更に本人が乗り込むというこの状況。
フルールはこれと決めたら梃子でも動かない。
今回はいつも以上の気迫だ。
今日は公爵の予定が取れないとのことで、会うのは明日になった。
だが、その前に公爵家の私兵のみんなに、差し入れをしたいと言い出した。
昨日フルールの無事を知らせてくれたガロンが、公爵家の兵士だと言うことはわかっている。フルールの目的がそのガロンだと言うことも。
寄りによってフルールを見つけた者が、フルールが一番好むガタイの持ち主だとは……。
それはどれほどの確率なのだろう。
本当にうちのお嬢様の引きは強いわ。
ハンナは呆れるが、本当にその通りなのである。
これほどの騒ぎを起こしておきながら、何処からも横槍がはいらない。
鋭い家は、公爵家の兵が出たことくらいわかっていそうなものだ。しかしなんの音沙汰もない。
まあ、公爵が全て手配しているのだとしたら、穴などないだろうが、それにしても探りのひとつもないのが気になる。
フルール一人を外に出して、何かあれば公爵家にまた迷惑がかかる。そう思った伯爵は、とりあえず演習場への出入りを当面禁じた。
それに対してごねると思っていたフルールは、あっさりと言いつけを飲んだ。
しかし、この要求だ。
「公爵家にお礼の差し入れを持っていきます」
フルールは、昨日もらった甘いりんごでアップルパイを作るようリダに頼んだ。
ハヤブサから譲ってもらったのだ。
ガロンにお礼をするためだと説明し、そこにはハヤブサも連れて行くと約束した。
その結果、ハヤブサはその案を受け入れてくれた。
ハヤブサの前にりんごをふたつ並べたが、ひとつしか食べなかったのがハヤブサの答えだろう。そう解釈したフルールは、残りのりんごを全部リダに渡した。




