表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/90

31 リリックに集まる視線

 リリックは、試合中ずっと一つの同じ視線を感じていた。


 視線なんて、大勢の人が集まる中に立つのだから、当然といえば当然だし、誰が着ても三割増し良く見える軍服を着ているのだ。ご令嬢たちの恰好の獲物になるのは必然である。

 いつも感じている狙いを定めるようなギラギラした視線、舐め回すように注がれる嫌な視線、恋慕を乗せて送る秋波のような視線。


 慣れた視線のその中に一筋、とても鋭い視線が交じる。


 試合をしながらもずっとその視線を捕まえていた。


 視線はリリックに割当てられた招待席の一角から感じる。

 招待した家門の中には、きな臭い家もある。


「万が一にもフルールちゃんを害する者が近づかないように」と、母の助言を受け、公爵家に連なる信用のある家門だけでフルールをがっちり固めたいが、どうしても序列的に外せない家がある。それがそのきな臭い家だった。


 そんな理由で、仕方なしに呼んだ者だったが──軍服を着ての見せ物的な試合は、顔が出ているので一目瞭然だが、頭の先からつま先まで鎧で覆われているのにも関わらず、変わらずに付いてくる視線。

 それが何を意味するか。


 あれだけ詳細な情報を集めたのだ。

 顔を見なくても動きだけでわかるだろう。

 ここにもう一人、スケッチブックの持ち主である可能性を持つ者が急浮上した。

 ドゥユビエール侯爵家当主だ。

 どちらかというと、フルールよりもエーデル家との因縁があるこっちの方が頷ける。




 ドゥユビエール家は、その昔亡くなった公爵家長男の子孫が当主となり、エーデル公爵家に連なっている家門である。

 この家は、公爵家の長男が亡くなるという痛ましい過去の事件を、未だに実弟による暗殺だと思っている。だから長男の子孫である自分こそが正しい後継者なのだと周りに吹聴し、あわよくば公爵家の乗っ取りを企てている家だ。


 暗殺されたと言うのは合っているがそれは公爵家にではなく、亡くなった長男の妻の実家、ラビエル侯爵家が行ったのだ。

 野心家の当主の命令で嫁いだラビエル家の令嬢レナも、公爵夫人になれるのだから悪い気はしないと、乗り気で華やかなウェディングドレスに袖を通した。


 しかし、嫁いだ男が実はとんでもない節操無しだと知ると、このままでは自分の品位まで落ちるのではないかと焦った。婚姻後すぐ嫡男を設けると、婚外子が何人いるのか把握するためにラビエル家に調査を依頼する。

 すると出るわ出るわ。

 六人もの婚外子が判明した。

 その結果を受けて唖然とするレナ。


 だが野心家の父を持つ娘は、やはり野心家であった。

 夫は即座に切り捨て、子どもに爵位を継がせるために動く。


 それが例の痛ましい事件である。

 夫は妻の企みなど知らずに、嫡男を設けたのでもう妻に用はないとばかりに外泊を繰り返していた。その道中で盗賊に襲われ、身ぐるみ剥がされ谷底に投げ入れられた。


 どれだけ妻の怨念が籠っていたかという話だが、それを受けてエーデル公爵は次期当主に次男を指名した。


 それを聞いたレナは、寝耳に水とばかりに公爵に詰め寄った。なぜ自分の息子ではないのか。確実に長男の子であると。


 しかし公爵は平然と「跡取りははじめから次男に決まっていた」と言い放った。

 レナは愕然とするが、誰が見ても当然だ。


 公になっていないとは言え、長男の女遊びの酷さは貴族の間では有名で、だからいい年して婚約者も決まらなかった。婚外子が既にいるのでは後々苦労する。誰がそんなところへかわいい娘を差し出すだろうか。仮に長男が継いだとして娘が公爵夫人になれたとしても、後継者問題で血生臭いお釣りがくる。娘も孫もそんな争いに巻き込ませたくない。わかっている者は、長男ではなく、次男へ釣書を送っていた。


 野心家で有名なラビエル家は、そんな貴族たちから一線を引かれていたから知らなかった。

 公爵家は長男の醜聞を隠しているわけではなかったので、それを知らない者がいるとは思わなかった。

 それだけの事だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ