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26 地獄の茶会に副題を添えて

 

「剣術大会ですか?」

「ええ、軍部演習の縮小版のようなもので今度開催されることになったので、伯爵家の皆様も如何かと思いまして」


リリックは剣術大会にナート家を招待するために訪れた。


 フルールの目が輝く。

 軍部演習は話には聞いていたが、ずっと領地にいたフルールが見られるわけもないし、五年に一度しか行われないと聞く。

「行きます!」

 それが目の前に転がって来た。

 しかし、フルール以外の顔が芳しくない。


「私は当日、運営にいるのでおもてなしは出来ませんが、特等席をご用意するのでぜひ」


 伯爵はもちろん行きたくない。リリックとの婚約が発表された今、フルールを公の場に出すこと自体不安だが、ここまで目を輝かせるのは、領地での誕生日以来だろう。


何が起こるかわからない。

後で話を聞いたところで胃薬が必要となることは間違いないだろうが、一緒にいてあんなことになったらその場で倒れる自信がある。ごめん被る。

 領地で困りごとがあるため申し訳ない、と長男を巻き込んで断る事にした。


「運営という事は、リリック様は出場しないのですか?」


 姉のフユリが恐る恐る聞く。


「出場します。ですから大したもてなしが出来ないのです。運営と出場で、裏と表を行ったり来たりの大わらわでして」


 せっかくのお誘いだけれど、リリック様が出場するとなれば控えさせて頂きたいわ……。


 フユリは過去を思い出した。

 ──姉妹で招待されるエーデル家のお茶会。

 地獄の茶会と銘打たれるほどエーデル公爵家の茶会は毎回、怪我人が後を絶たなかった。


 何故そんなことになったかと言うと、やはりリリックの見目の良さに起因する。

 お披露目は三歳から始まるが、これという終わりの歳はない。

ほとんどは交流のある家を一通り回って終わりにすることが多い。二回り目は夫人のお喋りに子どもを連れて行くようなもので、ただの女のおしゃべりそのものだ。それ以上に何周もするのは余程縁を強く願う家くらいだ。


 その強く願う家(・・・・・)からの招待状が、エーデル家に引っ切り無しに届くのだ。


 全て受けたらきりがない。そう考えた夫人は、ある程度の人数を纏めて招待し、茶会一回当たりの消費量を上げた。

 それにより姉妹での参加が必然と増えていった。

 そうなると後は想像通りだ。


 《リリックを狙う令嬢たちの戦いが今ここに始まる!》

 ~地獄の茶会に副題を添えて~


 ──カーン、と試合開始の鐘でも鳴りだしそうな、キンキンするような殺伐とした空気感が出来上がる。


 リリックの美貌にあてられるのか、話すことなく見ただけで皆舞い上がり、妹が粗相をしても姉が気づかないなんてことは当たり前。何なら本当にお披露目が必要だと思われる幼い妹にお菓子を与えて、その隙にリリックに近づくなどは序の口で、誰も彼もがリリックの隣を取ろうと必死だ。当然自分だけが招待されたつもりで参加している者もいるのだからその気合の入れようは半端なく、多少ぶつかるくらいではすまない。あちらでビリッと何かが破れる音がしたと思ったら、「痛っ!」「なにすんのよ!」「足踏んでるわよ。どきなさい」と何処からかドスの利いた声も聞こえてくる。格好も気合が過ぎたのか、場違いなドレスに身を包む者もいた。ここは場末の酒場かしら? 本でしか読んだことがないけど。と思うフユリの感覚は間違っていない。そうこうしているうちに鉄扇のぶつかり合う音まで聞こえてくる。


 そんな茶会になぜかフユリとフルールは毎回呼ばれていた。


 最初は信じられない思いで見ていた鉄扇同士がぶつかる音も次第に慣れてくる。

 ここは戦場かしら? と思うくらいあちこちで火花が散る。物理的にだ。

 リリックをかけて爵位無用のガチの奪い合いだった。


 そんな中で我が道を行くフルールが、体躯の良い男探しにウロウロし始めるのだ。顔の良い目の前の男はほっぽって、おおよそ客が踏み込んでいいとは思われない場所へ、場所へ。フユリだってリリックの顔を堪能したいという思いはある。あった。でもあの中に入る勇気もないし、妹も放ってはおけない。

 招待される令嬢たちが入れ替わる中、ナート姉妹だけは毎回呼ばれていたから、フユリはその全てを見てきた。


 ──壮絶だった。

 あの茶会はこの一言に尽きる。


 その記憶が蘇った。


 母も同じだ。お披露目に行った先々の茶会で失態を犯したのだ。騎士しかいない会場など大惨事になるに間違いない。


 こうして、ナート家の参加はフルールだけになった。


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