25 司令官と五人の団長
「さて、一向に進まぬな」
司令室には司令官と、各団の団長五人が揃って難しい顔をしている。
スケッチブックの件を内密に探っていたところ、詐欺や麻香の密売、その他諸々の犯罪が釣れてしまい、そっちに時間を取られ、肝心のスケッチブックの方は持ち主の糸口も掴めていない。リリックを除いては。しかしそのリリックも糸口と言うものではなくカンで目星をつけたに過ぎない。
つまりは収穫ゼロだ。
「そこでだ、軍部演習を開こうと思う」
「敵を誘い出すつもりですか? でも早すぎはしませんか?」
「そうです。前回からまだ五年経ってないです」
「別に五年ごとと決まっているわけではない。ただ、なんだその、めんどうだからと歴代の司令官がなるべく先延ばしにして、宰相に活気づけをしろと言われるのがだいたい五年ごとなだけで、本来は毎年やってもおかしくない行事だ」
なんたる怠慢──と皆が皆思ったが、皆が皆口にはしない。
その視線を感じ取ったのだろう、司令官が何やら言い出した。
「だが、司令官の中では五年ごととしている。この通例を崩すと後任に申し訳ない。なんだかんだでこの行事は司令預かりだから大変なんだ」
先程『めんどう』と言っているのだから、今更取り繕っても意味が無いように思えるがみんな黙って聞いている。
「そこでリリック、お前の婚約祝いという事で開こうと思う」
「自分ですか? 司令、お言葉を返すようですが、それこそ特例などを作っては後任に皺寄せがいくかと」
リリックは絶対に自分の名前で開かれる演習など参加したくない。どうにか回避したい。
「まあそれもそうか。今後、高位貴族の婚約が決まるたびに大会を開く方がめんどうか」
──あーあ、まためんどうって言った。完全に心の声漏れちゃってるよ。
今まで尊敬の念しかなった司令官を少し身近に感じたが、これは絶対部下に漏らしてはいけない案件だ。
司令官の心の声に心のなかで反応した各団長は、各々で心に留めた。
「司令、でしたら剣術大会はどうですか?通常演習の縮小版みたいな感じで、一番盛り上がる各団の選抜チームの勝ち抜き戦だけに焦点を当てるんです」
「おおそれは名案だ。取り敢えずあちらさんが興味をもって動いてくれそうなものならなんでもいい。それで行こう」
通常の軍部演習は二部構成となっており、団の垣根を取っ払い、ランダムに選出された者でチームを組み、その足並みを披露する午前の部と、午後は同じ騎士団で組んで行う剣術の勝ち抜き戦が用意されている。
最初の頃は、訓練の成果を披露するものであったそうだが、だんだん余興めいた割合が増えていき、午前の部ではとんでもないチームが出来る方がより盛り上がる。
例えば──団長一人に他はみんな新米騎士のチームだとか、それに対するのが副団長を柱にベテラン騎士で構成されたチームだったりすると、団長の沽券もあるし、ベテラン勢は新人に負けるわけにはいかないからと余計な気負いで無茶するとか、とにかく面白い戦術を見ることが出来る。
一方午後の部は本気の一本勝負が見られるので、この軍部演習のチケットは飛ぶように売れる。勿論、午前午後ともに、それぞれでチケットが必要だ。だから国庫が危うくなると宰相にせっつかれるのだ。
有事でこそ騎士団の重要性が浮き彫りにされるが、この国は、平時は平時で金稼ぎという大事な使命があるらしい。
席数が決まっているこの手のチケットはプラチナチケットである。当然すり寄って来る者もいる。
何がめんどうって、司令官はそれがめんどうなのだ。
「いっそ運営もお前達でやれ」
えっ!?
「どうせこの中の誰かがこの席に着くんだ。予行をここでしとくのも悪くないだろう」
明らかな押し付けだが、そういわれてしまうと悪い気はしない。
「どうだ? 招待券十枚付けよう。ひとりにつき十枚だ。報酬としては格別だぞ」
一見尋ねているようだが、断ったとしても司令がやるわけでもない。では誰かに押し付けるとして誰に?
押し付けられそうな人物なんて一人しかいない。守銭奴の第三副団長だ。そんなことになったら大変だ。アイツは騎士団一の問題児で、どんなことでも金さえ払えば引き受けてくれるが金への執着が並みでない。そんな奴がプラチナチケット十枚なんて手にしたら、明らかにこちらに火の粉が及ぶ。
「わかりました。お受けいたします」
真っ先に返事をしたのは、一番火の粉を被りそうな第三騎士団長。
納得の立候補だ。
「おう、そうかそうかよろしくな。お手並み拝見させてもらおう」
「自分もやります」
「おうリリック、そうだなお前も次期司令の予備軍だしな、予行はしたいよな」
リリックとしては、フルールが関係しているかもしれない後ろめたさから引き受けたのだが、司令の言葉を受けた結果五人でやることになった。
乗せられた感満載だが、やるからには失態は許されない。




