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20 賑やかな演習場

 

「お聞きになりましか?」

「ええ、リリック様のことですわよね?」

「そうです。ご婚約されたそうで……」

「お相手はナート伯爵家のご令嬢と聞いたのですが、確かフユリ様は既にご婚約してらっしゃったと記憶しているのですが……」

「フユリ様の妹さんらしいですわよ」

「まだデビュタント前で、なんでもエーデル公爵様直々のご指名だったそうよ」

「ちょっと領地が隣り合わせだからってずるいですわ」

「わたくしもリリック様と隣の領地で幼なじみとして生まれたかったですわ」


 今日の演習場の見学はいつもに輪をかけてご令嬢の人数が多い。そして賑やかである。


 貴族令嬢の話はあちこち向きを変え、尽きることなく続く。更に、それを取り囲むように平民の娘たちが話に耳を傾けている。


 きらびやかな花を囲む野花のような雰囲気だが、演習場から見上げると、そこだけが着膨れした人のシルエットのようにも見える。


 リリックがいない時でも多少の視線は演習場へ注がれるのに、今はただ情報を得るためかおしゃべりに夢中で誰も演習場を見ていない。


「今日、なんというかすげぇな」

「はい、なんか、こう、メラメラしてる感じ?」


 下の演習場ではその令嬢たちの熱気が話題になっていた。


「うちのねぇちゃんも隊長の婚約話に朝から騒いでたっス」

「あと少しで隊長来るけど不機嫌になりませんかね?」

「不機嫌っちゃぁ、いつもそうだけど、でも、足されても眉間のシワが一本から二本になるくらいじゃねぇ」

「それもそっスね」

「それにしても動じませんね。あの眼鏡令嬢」


 いや、一人だけいた。

 眼鏡令嬢と呼ばれている娘の視線だけが演習場へ向いている。


「ああ、彼女は一体なんの目的で来ているのだろうな?」


 ──ただの趣味です。

 フルールに聞こえていたならこう答えただろう。


「なんかいつもより万遍なくというか、忙しなくというか、動きがいつもと違って小動物のようですね。まあ、見た目もちんまりしてますが」


 ──いつもは動かずじっとり舐めるように見ていますからね。うちのお嬢様は。

 ハンナが聞いていたならこう説明するだろう。


 今日のナート家は朝から一悶着あり、演習場に来るフルールの時間が遅れた。

 それを取り戻すかのようにいつもの倍速でキョロキョロと見回すフルールの動きは、傍から見ると不審者以外の何者でもないらしい。


 ハンナが言う『生贄』を探しているのだろう。


「あれ?お付きの人いつもと違うような?」


 さすが騎士。

 よく見ている。


「ああ、いつもの人腰でも痛めたんじゃないか?」

「よく知ってるっスね」

「この前の強風のとき偶然聞こえたんだよ。ほらあの令嬢が来なかった日。どうやらお付きの侍女殿が腰を痛めて、早々に帰る事になってごねてる令嬢との会話をね。たぶんあれは眼鏡令嬢とその侍女殿の会話だと思う。そうとうごねてたからな。あんな強風の中帰りたくないなんて言うご令嬢は一人しか思いつかない」

「確かに。で、顔見ましたか?」

「いや、垣根向こうの馬車止めだったから姿までは。声だけ。それにしてもあの件まだ解決してないよな?」

「はい、今も隊長たちがそのことについて話し合ってます」

「早く終わるといいっスね」



「お前たち随分暇そうだな」


 口しか動かしていない騎士たちの背中にかけられた声はだいぶ低かった。



「あら? ねえハンナあの方リリック様に似てますわね? もしかして御本人かしら」


 リリックの登場により見学席のざわつきが大きくなった時、フルールの口から耳を疑うような言葉が飛び出した。


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