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27. 暗雲の龍討戦

「あり得ぬ……! 我が黒蛇の呪詛を受けた者が、なぜ立ち上がれる!? なぜこの本の世界へ足を踏み入れられるのだ……!」

渦巻く漆黒の煙の奥から、黒髪の魔術師バーンが姿を現した。その顔は激しい不快感と憎悪で醜く歪んでいる。

「貴様の呪詛なら、もう打ち払った」

デイトナは静かに言い放ち、腰の「王家の剣」をゆっくりと一閃させた。

刀身から解き放たれた純白の光が部屋を包み込み、バーンが漂わせていた禍々しい魔気を一瞬で押し払う。

「な……ッ!? その鞘、その輝き……王家の紋章だと……!? なぜ初代王の剣がそこにある!」

バーンが驚愕に目を見開く。300年前、かつてあんなにも忠誠をつくしたこの私を筆頭魔術師の座から追放し、懇願したトリスタンとの婚姻を拒んだ因縁の王家。その聖なる威光が、目の前の見知らぬ騎士の手で忌々しく蘇っていたのだ。

「愚かな……! たかが一本の剣を手に入れた程度で、この世界の主である我に勝てると思うたか、名もなき騎士め!」

激昂したバーンの全身から、どす黒い魔力が暴風となって吹き荒れた。

呪文を唱えると、骨が軋む不気味な音とともにその身体が激しく膨れ上がり、分厚い黒鱗、凶悪な角、筋骨隆々とした四肢が生え揃っていく。

グォオオオオオオンッ……!!

地鳴りのような咆哮とともに姿を現したのは、本の世界の暗雲を背に受けた漆黒の巨大なドラゴンだった。

ドラゴンと化したバーンは、間髪入れずにその巨大な前脚を振り下ろし、鋭利な爪でデイトナを石床ごと押し潰さんと打ち据える。

ドォンッ……!!

凄まじい衝撃音とともに石床が爆砕し、粉塵が舞う。

「デイトナ様……!」

「私の後ろに!」

デイトナは寸前でトリスタンを抱えて跳躍し、直撃を回避。彼女を抱えたまま、塔の階段を駆け下りていく。

「くっ……。ちょこまかと、小賢しい!」

魔術師バーンもドラゴンの巨大な身体のまま、狭い階段を壁を破壊しながら追いかけてくる。ところどころ壁の残骸が落ちた階段を器用に飛びながら降りきった大広間の先で、背後に彼女を逃がすと、すぐさま間合いを詰めてきたドラゴンの牙を聖剣の腹で受け止めた。

ガキィィィンッ!

火花が激しく飛び散り、鋼と龍鱗がぶつかり合う重厚な金属音が響く。

ドラゴンは強靭な顎の力でデイトナを噛み砕こうとし、そのまま巨大な尻尾を全開で薙ぎ払ってきた。暴風のような風圧と質量がデイトナを襲う。

「キャっ!」

背後にいたトリスタンは風圧で飛ばされて壁に激突してしまう。

「トリスタンっ!!」

デイトナは悲鳴を上げて壁に叩きつけられたトリスタンの姿に息を呑み、視界が真っ赤に染まるほどの激昂に駆られた。一瞬でも隙を見せれば彼女の命はない。胸を刺すような恐怖を力に変え、デイトナの蒼い瞳に鬼気迫る覚悟が宿る。

デイトナは踏み込みの勢いを利用して低く身を沈め、尻尾の薙ぎ払いを間一髪で回避。打ち込まれた爪撃のすれ違いざま、聖剣の刃をドラゴンの前脚の隙間に滑り込ませ、硬い鱗ごと斬り上げた。

スパァンッ……!

「グアァァァッ!?」

聖なる光を纏った刃が龍鱗を容易く裂き、ドラゴンが苦悶の声を上げる。

魔法などではなく、長年の鍛錬と実戦で磨き上げられたデイトナの剣技と体さばきが、巨大な化け物の威容を確実に切り崩していく。

だが、手負いとなったバーンは狂暴性を剥き出しにし、傷ついた前脚を力任せに振るった。

ガアァッ!!

「くっ……!?」

間合いを詰めすぎていたデイトナは回避しきれず、龍爪の掠り傷を肩から胸元にかけて受け、鮮血を散らして吹っ飛ばされた。激しい衝撃で石壁に打ち据えられ、床へと転がる。

「デイトナ……様……っ!」

壁際で倒れていたトリスタンが、苦しげに声を絞り出す。

ドラゴンはその隙を見逃さず、巨体を踊らせて絶大な質量で追撃の踏み降ろしを放ってきた。頭上から迫る死の影。デイトナは寸前で鋭く身をひねり、間一髪で直撃を回避する。

ドドドォォォンッ……!!

石床が爆砕し、降り注ぐ瓦礫をデイトナは身を翻してかわしながら、すぐさま地を踏みしめた。

息を乱しながらも、デイトナの脚は決して止まらない。

血に濡れた刀身を強く握り直し、蒼い瞳の奥に燃える信念の炎をより一層強く輝かせる。

「たとえ何者へと姿を変えようと、私は絶対に諦めない! トリスタンを救い出す!」

デイトナは怯んだドラゴンの前脚を足がかりに跳躍し、その巨躯の首元へと一気に駆け上がった。

ドラゴンは狂ったように巨体を揺らし、壁に叩きつけようと暴れ回るが、デイトナの蒼い瞳は一瞬たりとも揺るがない。

激しい揺れの中でも軸をぶらすことなく、ドラゴンの胸元——魔力の核(コア)が脈打つ鱗の隙間へと一直線に聖剣を突き立てる。

肉迫した距離で、ドラゴンの赤目に初めて明確な「死の恐怖」が浮かんだ。

「この私が……こんな男に……ッ!」

「これで終わりだ、バーン!」

デイトナの放った渾身の一撃が、ドラゴンの胸元深くへと刺ささっていく——!

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