17.禁書の棚
翌日、デイトナは王家近衛騎士団副団長としての権限を最大限に行使し、図書館長から禁書エリアへの立ち入り許可を取り付けた。
「副団長殿、あの奥の棚には古の禁忌の書が眠っております。くれぐれもお気をつけて……」
念を押す館長から重厚な真鍮の鍵を受け取ると、デイトナは迷わず図書館の最深部へと向かった。
昼間であっても薄暗い禁書エリア。
重い鉄格子に鍵を差し込み、回す。ギィ……と重い金属音が静寂の館内に低く響き渡った。
鉄格子を開け、デイトナはまっすぐに昨夜の場所へと歩みを進める。
棚の中央、厳重に鎖で縛られた一冊の古書——『魔法使いと囚われの姫』。
デイトナは鎖の結び目を解き、ゆっくりとその黒革の表紙を開いた。
埃っぽい羊皮紙の匂いとともに現れたのは、美しくもどこかおどろおどろしい挿絵の数々だった。
ページをめくっていくデイトナの手が、突然ぴたりと止まる。
「これは……!?」
そこに描かれていたのは、風に黒髪をなびかせ、悲しげな瞳で天を仰ぐ一人の姫の姿だった。
洗練された古代の装飾、胸元のブローチ、そして何よりもその面影——。
「トリスタン……」
デイトナの口から、掠れた声が漏れ出た。
挿絵の横には、美しい古文体でこう記されていた。
『今から三百年まえ、王国に咲いた一輪の美しき華、初代王女トリスタン姫。舞踏会の夜、絶大な魔力を持ちながら王国を裏切った筆頭魔術師バーンにより、その身を怪しき書物の中へと封じ込められり——』
血の気が引いていくのを感じながら、デイトナはむさぼるように文章を読み進めた。
そこには、300年前に起きた悲劇の全貌が綴られていた。
魔術師バーンはトリスタンに執着し、彼女を己の所有物とするために自作の本の中へと閉じ込めたこと。そして、王家の血に宿る「守護の加護」により完全に支配することは免れているものの、姫はいまも本の世界にある漆黒の塔で囚われ続けているということ。
さらなるページには、鋭い眼光を放つ不気味な男の肖像画が描かれていた。
それこそが、彼女を300年もの間苦しめ続けている元凶——筆頭魔術師バーン。
「300年……君はたった一人で、この闇の中で耐え続けていたのか……」
デイトナは固く本を抱きしめた。
彼女がなぜ夜の9時から12時までしか姿を現せないのか。なぜ自分に「関わるな、恐ろしい災いが降りかかる」と必死に訴えていたのか。
すべてが解き明かされた。
彼女が怯えていた「恐ろしい災い」とは、300年の時を生きる凶悪な魔術師バーンそのものだったのだ。
「許さない……」
デイトナの蒼い瞳に、静かな、けれど決して消えることのない激しい怒りの炎が揺らめいた。
本のページをそっと閉じる。
もう二度と、彼女を一人で泣かせたりはしない。どんな魔導が相手であろうと、己の剣と命をかけて彼女をこの呪縛から解き放つと、デイトナは強く心に誓った。




