16.図書室の影
決意を胸に明かした夜から、翌夜——。
「また明日……お会いしましょう、デイトナ様」
時計塔が12時の鐘を鳴らす中庭で、トリスタンは名残惜しそうに言い残すと、淡い金の粒子となって夜風の中に溶けて消えた。
握りしめていた手からぬくもりが失われた瞬間、デイトナは自室で決めた計画通り、すぐさま鋭い眼差しで動き出した。
(今夜こそ……彼女がどこへ『帰る』のかを確かめる!)
デイトナは消え残る金色の光の軌跡を見失わないよう、息を殺して夜の城内を疾走した。
向かう先は、数日前に彼女の後をつけて辿り着いた場所——王家図書館の最深部。
深夜の王家図書館は、深海のような重苦しい沈黙に包まれていた。
デイトナが禁書エリアの鉄格子前に滑り込むと、廊下をすーっと追ってきた淡い光の粒子の束が、鉄格子を軽々とすり抜けていくのが見えた。
光は吸い寄せられるように、禁書棚の奥深くに置かれた「ある一冊の本」へと集まっていく。
「っ……!」
デイトナは息を呑み、柱の陰からその光景を食い入るように見つめた。
光が収束していったのは、頑丈な鎖で幾重にも縛られた古びた一冊の書物だった。
擦り切れた黒革の表紙には見慣れぬ異様な魔導陣が刻まれており、微かに不気味な気配を漂わせている。
最後のひとすじの光がその本の中へと吸い込まれると、後には完全な静寂だけが残された。
(あの本の中に……トリスタンは引き戻されているのか……!?)
デイトナの胸に激しい衝撃が走った。
昨夜、自室で抱いた「彼女の古風な衣裳や言葉遣いへの違和感」。そのすべての答えが目の前にある。
彼女は単なる幽霊や幻などではない。あの古書の中に閉じ込められ、恐ろしい魔術によって囚われているのだ。
デイトナは固く閉ざされた鉄格子に手をかけた。
「待っていてくれ、トリスタン。君を縛りつけているものの正体を……必ず解き明かしてみせる」
彼女を苦しめる運命の全貌を暴くため、デイトナは禁書棚を開ける覚悟を固めていた。




