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不死の国のアリス  作者: 幽幻乃 紫
第二章「館」

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九話「泡」

舌はアリスを館の奥深くまで引きずり込んだ。


アリスは瞳を閉じて、死ぬ運命を受け入れた。


舌はアリスをどこかの部屋に運んだ。

そして、ゆっくりと絡みついた舌を離した。


アリスの瞳の色は死んでいた。

しばらく、茫然と立ち尽くした。


部屋には、白色の脚付き浴槽が置かれていた。

その奥には、縁が金色で彩られた鏡があった。


「こんにちはアリス!

どうしてそんなに疲れ切った顔をしているの?」


アリスは、鏡のアリスに問いかけた。


鏡のアリスは、何も答えない。


不思議だった。


いままでなら、

鏡に映るアリスが勝手に動き、話し出す。

アリスが問いかけなくても。


そうなると確信していた。


アリスは鏡に近づき、手を振る。

「どうも、聞こえてる?」


鏡の中のアリスも手を振り、

口の動きまで同じようにまねていた。


可笑しなことに、

返事は返ってこない。


「ポコ、ポコ」

突如、可愛い音がした。


アリスは後ろを向いた。


「ポコ、ポコ」

浴槽の水が泡立ち、次々と弾けていた。


アリスはしばらく泡が弾ける姿を眺めていた。


そして、また鏡を見た。


鏡のアリスは、泥だらけで汚れていた。


アリスは思わず笑った。

そして、悪戯を思いついた子供のようにニヤリとした。

「バッシャーン」


アリスはドレスの裾をたくし上げ、浴槽に飛び込んだ。


水が溢れ、泡が大量にぷくぷくと膨れ上がる。


大きな丸い水の泡がアリスを包みこむ。


「不思議だわ、ドレスも髪も濡れていない。」


鏡のアリスは笑顔だった。


アリスは、泡の中から腕を伸ばしてみた。

泡は腕を避けるように広がった。

まるで触らせまいとするかのように。


泡は浴槽を飛び出して、

部屋の中を縦横無尽に転がった。


「アハハハ!」

アリスは目を回しながら、笑い声を出した。


水の泡は勢いよく扉にぶつかり、破壊した。


泡は止まることなく、部屋の外に出た。


泡の速度はどんどん上がる。


「もうちょっと速度を落として」

楽しげにアリスは頼んだ。


泡はアリスを無視して、廊下を走る。


その先には騎士がいた。

アリスは思わず身構える。


騎士は泡を大慌てで、避けた。

その姿は、とても無様だった。


「惜しい、もうちょっとだったのに」

アリスは、思わず声が出た。


泡は廊下を転がり続けた。


アリスは泡の回転に慣れ、

体勢を保てるようになった。


泡は勢いを増して、壁にぶつかり、床を飛び跳ねた。

アリスは楽しそうに笑い続けた。


アリスの後ろから、「ゴゴゴゴゴ」と嫌な気配の音が聞こえた。

後ろを見ると、床が崩れていた。

崩れる速度は凄まじく、泡を追い越す勢いだった。


「うまくいきすぎだもんね、何かあるよね?」

アリスは天を仰ぎ、思わず心の声を漏らした。


やがて床が無くなり、奈落の底に泡が落下した。


暗闇の中、無数の炎がアリスを照らした。

蝋燭が泡の付近に集まってきた。


「気が利くじゃない、ありがとう!」

アリスは余裕の笑みを浮かべた。


落下している中、アリスは下を覗いた。


パタパタと羽の生えた金の鍵が、

四方八方から集まってきた。


鍵同士が連結して、見事な金色の道を作り上げた。


泡はポヨンと金の道に着地した。


やがて、道を転がり始めた。


金の道は螺旋を描きながら奈落の底へアリスを導いた。


泡はどんどん速度を増していく。

「ふぉぉーっ!」

アリスは歓喜の雄叫びを上げた。


泡は速度を緩め、やがて弾けた。


「ありがとう、楽しかったわ!」

アリスは消えていく泡に感謝した。


アリスは、金の道をゆっくり歩いた。

「この道の先に何があるのかな?」

アリスの声色は高くなっていた。


金の道の先は、とても巨大な扉だった。


そして、扉が勝手に開いた。


蝋燭たちが扉の中に入り、アリスを手招きするかのようにお辞儀した。

アリスもその後につづいた。


中は石でできた通路だった。


足元の道も、壁も、

見渡す限り石ばかりだった。


アリスは大股で歩いた。


やがて、その先に、

真っ赤に彩られ、縁は金色の波紋で装飾された扉がどっしりと構えていた。


「いままでの扉とは、明らかに雰囲気が違う」

「この先に、館の主がいるわね」

アリスの目は輝き、歩みを速めた。


扉の横には、浴槽の鏡があった。


アリスは、鏡に目もくれず、ドアノブに手をかけた。

鍵は掛かっていない。


アリスは、胸の鼓動が早くなるのを感じた。


ゆっくりと扉を開けて、

アリスは部屋の中に消えた。


鏡のアリスは、


笑っていた。


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