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不死の国のアリス  作者: 幽幻乃 紫
第二章「館」

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七話「廊下」

「また、死んだの?」

聞き覚えのある女性の声が聞こえる。


「次は、永く生きてね。」

そう言われた気がする。


女性の声は次第に遠のいていった。

声が聞こえなくなると、アリスは息を吹き返した。


冷たい床が不思議と、アリスの頬に温もりを与える。


くらくらする頭を支え、ゆっくりと上体を起こした。


アリスは綺麗な爪で、頬をつねった。

痛みを感じたが、もっと力を強くした。


激しい痛みを感じた。


それでもかまわず、力を込めた。

できなかった。

アリスの本能が、力を制御した。


夢なら本能に逆らうこともできるはずだった。


そう思っていたアリスは、頬から手を離した。


「夢?それとも現実?」

アリスは、弱々しく言った。


「もう、なんなの!!」

アリスの金切り声が、部屋を満たした。


驚いたのか、蝋燭の群れが部屋の中から出ていった。

部屋の光がなくなり、暗くなった。

空いているドアの隙間から、蝋燭がアリスの機嫌を伺う。


静寂、暗闇、淡い光。

その光景がアリスの冷静さを引き戻した。


「ここは、さっきの部屋?」

辺りを見渡し、アリスは疑問に思った。

丸い机も、割れた瓶のかけらもない。


嫌いな顔だけが満足そうに眠っていた。


その先に、揺れ動く蝋燭。

部屋の外に、見覚えのある光が揺れている。


「蝋燭!!」

アリスは感情を高ぶらせて、思わず立ち上がった。


扉が開いていた。


当然のように、アリスは舌を出して眠っている顔を煽った。

飛び跳ねるように、部屋から出た。


部屋を出た、アリスの近くに蝋燭が集まってきた。


「ありがとう」

アリスは、陽炎の群衆に感謝を述べた。


扉の外は、館の廊下だった。


壁には燭台が等間隔に並び、廊下を淡く照らしている。

「この子たちは、動かないの?」

アリスは不思議そうに、壁の燭台を見つめた。


床には赤い絨毯が敷かれていた。

誰も手入れしていないのか、家の絨毯よりも汚かった。



廊下を進むと、錆びた剣や甲冑が並んでいた。


アリスは剣を手に取り、持ち上げた。

「重い。」

アリスは思わず剣を離した。


「カラーン」

剣は床に落ちた。

ひどく錆び付いていたのか、刃は砕けた。


「残念、、バイバイ」

アリスは、得意げに手を振った。


武器が他にないか、周辺を探した。


古びた大時計が置かれていた。

ガラスは割れ、振り子はむき出しで止まっていた。


少し歩くと目の前には壁。


「ここで、行き止まり?なんで? 扉も、窓も、上の階へ続く階段すらないの?」

アリスは、まくし立てるように言った。


壁には巨大な絵画が飾られていた。

その絵画は、紫色の油彩で塗りつぶされていた。


「なに、この絵。作者の才能はないね。

うーん。でも、この奇妙な館にはお似合いね」

アリスは、皮肉たっぷりに言い放った。


沈黙だけが、無機質な廊下に流れた。


絵画の奥に隠し部屋が存在する。

そう確信した。


額縁を引いたが、絵画はびくともしなかった。


仕方ないのでアリスは、砕けた剣を持ってきた。


「持ってくるの大変だったんだから、外れてよね」

アリスは楽しげに呟いた。


剣の切っ先を壁と額縁の隙間に差し込み、力を込めた。


「痛いから、やめてくれ」

すぐ近くで、男の声がした。


アリスは慌てて剣を引き抜いた。

いつでも振り下ろせるように、重い剣を構えた。


「ニュルル……」


次の瞬間、絵画の中から紫色の頭が飛び出した。

頭には、目も耳も鼻もない。

大きな口だけがあった。


「キャー」

アリスは剣を振り回しながら叫んだ。


「危ないから、その鈍らを降ろしてくれ」

紫色の頭は口らしき場所から、アリスに言った。


アリスは驚いて床にへたりこんだ。


この世界は変な生き物がいる。

動物が話す、物にも意識がある。

そんな世界に、少しだけ慣れ始めていた。


でも、これは違う。

生物でも、物でもない。


何かわからない、未知な存在。


アリスは石の様に固まった。

思考も止まった。


「すまない、驚かすつもりは、ないんだ」


「ただ、眠りたいんだ。

だから叫んだり、触れたりしないで欲しいんだ。頼む。」

頭は、申し訳なさそうに語った。


「何もしないから、武器を降ろしてくれないか?」

頭は絵から人の腕みたいなのを四本出して、腕を上げた。


「わ……わかったわ」

「出口を教えてくれたら、いなくなるわ」

アリスは剣を床に降ろした。


「出口か・・」

頭は、顎を撫でながら、考え込んだ。

「いいだろう。案内しよう。」

頭は答えた。


「本当に?ありがとう」

アリスは珍しく、感謝を述べた。


「でも、絵の中に居て、どうやって案内するの?」

アリスは絵をまじまじ見ながら、浮かんだ疑問を言葉にした。


頭は答えなかった。

答えの代わりに腕がアリスに伸びてきた。


「あの、やっぱり探すので、案内・・いらないかも・・」

迫ってくる腕に怯えながら、アリスは答えた。


アリスの願いは、届かない。

腕がアリスの体を掴む。


「やめて、離して」

アリスは必死に抵抗し、腕に嚙みついた。


「おとなしくしてくれ。案内するんだから」

頭は、アリスを持ち上げて絵の中に引きずり込んだ。


「やめて、離して、助けて!」

アリスは絵の中へと消えていった。

最後の力を振り絞り、何とか片手だけを絵の外へ伸ばした。


手を握ってくれる人は、いなかった。


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