六話「鍵」
「鍵はもってないわ」
「ここは室内なのだから、鍵は必要ないでしょ」
アリスは、驚いた様子もなく言い返した。
「鍵がなきゃ開かない」ドアノブは、先ほどとまったく同じ声で言った。
「鍵は、どこにあるの?」
アリスは、語尾を強くして言い放った。
「鍵がなきゃ開かない」
ドアノブと、アリスの声が重なった。
アリスは、ドアノブを睨みつけ、
あきれて後ろを向いた。
アリスの視線の先に蠟燭の炎が集まる。
眩しさに耐えきれず、目を瞑った。
虫を振り払うように腕を大きく払い、光をどかした。
突如、
「ドスン」と鈍い音が部屋の中央で鳴り響いた。
アリスは目を開いて、部屋の中央に視線を移した。
先ほどまで何もなかった部屋に、黒鉄の装飾で縁取られた丸いガラス製の机が置かれていた。
机は、アリスの腰ほどの高さだった。
アリスが近づくと、机の上に白硝子の瓶が置かれていた。
瓶をよく見ると、
古びて黄ばんだ紙札が貼られていた。
そこには、黒い文字で「私を飲んで」と書かれていた。
アリスは瓶の中身を見て、
「見つけた」と声を弾ませる。
透明な液体の底に、鍵が沈んでいた。
鍵は黄金の輝きを放ち、柄の部分に精巧な赤い宝石があしらわれていた。
アリスは、鍵に不思議と魅力を感じた。
都合がいいことに、瓶は開いていた。
瓶を逆さにした。
だが、
液体も鍵も落ちない。
振っても、指を入れても同じだった。
アリスは瓶を元の場所に戻した。
「私を飲んで」の文字が太くなっている気がする。
アリスは、家なら絶対に怒られる遊びを思いついた。
瓶の飲み口を持ち、力いっぱいに壁に投げつけた。
飛んでくる、破片から顔を守るため、腕で顔を覆った。
瓶は壁にぶつかった。
鈍い音を立て、跳ね返ってきた。
時が戻ったかの如く、机の上に静止した。
アリスは口と目を大きく開いた。
古びた紙札の文字が、赤く「私を飲みなさい!!」と怒った。
「わかったわ、飲めばいいんでしょ。」アリスは諦めて液体を飲むことにした。
瓶を持ち上げアリスは、口を付けた。
液体はするすると上昇し、口の中に少し流れ込んできた。
「ゴクリ」
アリスは液体を飲み込んだ。
味は甘みを帯び、喉を通過するとほのかな酸味が香る。
「美味しい!!すごくおいしい」
アリスは、瓶を傾け中身を一気に飲み干した。
胃の中に液体が溜まり、とても気持ち悪かった。
アリスは「グゥフ」とげっぷを出し、泡がいくつか飛び出た。
瓶に亀裂が入った。
アリスはとっさに、瓶を落とした。
瓶は割れてガラス片があたりに散らばった。
金色の鍵は床に落ちた。
アリスはガラス片を避けて鍵を拾う。
拾われた鍵は突然、白色の羽が生え動き出した。
鍵はアリスの頭を二周して、ドアノブに向かった。
ドアノブは口を開け、鍵を丸のみにした。
ガチャと音が鳴り、扉が開いた。
アリスは喜びより先に、強い吐き気が込み上げてきた。
とりあえず、扉へ向かって歩いた。
何かが、足元に垂れる。
それは血だった。
赤いアリスの血だった。
突然、鼻や口から大量にあふれ出す。
全身から、寒気と同時に痛みも感じる。
眩暈で、床に倒れ。
叫びもあげられないまま、意識が途絶えていく。
「残念、、バイバイ」とドアノブは淡々と言った。
アリスの意識は完全に途絶えた。




