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不死の国のアリス  作者: 幽幻乃 紫
第二章「館」

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五話 「奇妙な部屋」

???「おはよう。目覚める時間よ」

女性は、同じ言葉を繰り返した。


不思議と、声は。

意識のない、アリスに届いた。


その言葉は、止まっていた時計が動き出すかのように、

アリスの鼓動を鳴らした。

体は宙に浮き、雷で撃たれたかのように痙攣を始めた。


床に散らばった赤黒い血だまりは、蛇のように波打ち。

アリスの口から吸収され、体の中に流れた。

剥がれ落ちた爪や、飛び出した眼球は元の場所に戻り、

四肢は「ゴキ、ボキ」と鈍い音を立てながら捻じれ、あるべき形へ戻っていく。


体の傷は癒え、綺麗だったアリスになった。


浮いていた体は、ゆっくりと床へ落ちた。


数秒後、

アリスは目が覚めた。


視界はぼやけ、眩暈が襲ってきた。

吐き気を感じ、胃の中のものをすべて吐き出した。


大きく息を吸い、呼吸を整え、その場にうずくまった。


視界が鮮明になるにつれて、アリスの身に起こった記憶が蘇ってきた。

深い穴に落ちて、建物に激突した。

思い出すと、恐怖と痛みで、体が震えた。


「傷がない、なんで?」

アリスは体を何度も触った。


破れたドレスの隙間から、

生まれたての赤子のように白い肌が露出していた。


アリスは、ゆっくりと顔を上げた。


天井は、教会のように高く吹き抜けていた。

「この館、おかしい」

建物の奇妙さに、アリスは言葉を失った。


教会なら、ステンドグラスから眩い光が差し込むはずだった。

この建物には、それがない。

それどころか、窓がない。


小さな燭台が、無数に空中を浮遊していた。

右に、左に、上下に軌道を変えながら、生き物のように漂っていた。

無音の中、それらは円舞曲に合わせて踊っているようだった。


踊る蝋燭の陽炎が、

地面を不規則に揺らし、平衡感覚を狂わせた。


その光景は、アリスから呼吸すら奪った。


天井から目を離し、部屋を見渡した。

思ったより窮屈だった。


落下してきた記憶では、巨大な館だったはず。


高さは見た目通り、でも狭い。


それに、家具がまったくない部屋など初めてだった。

アリスの家にも使われない部屋はある。

大抵そこは、必要ないものが溢れ、物置部屋になっている。


ここには、その痕跡が無い。


ただ、真っ黒で気味が悪い壁と床だけが広がる。


近くに浮いていた燭台を握りしめ、部屋の中を照らしながら探索した。


「うーん? なにこれ?」

何もない空間に、奇妙な扉がある。


さすがのアリスも困惑した。

同時に、懐かしさも覚えた。


扉は巨大で、

壁一面を覆っていた。

その巨大な扉の中に、

また扉。

さらにその中にも扉。


何層にも重なり合っていた。


「思い出したわ!!」

無邪気に声を上げた。


扉は、幼少期に父が大陸から持ち帰った。

奇妙な土産の入れ子箱を思わせた。


家の懐かしさに背中を押されたアリスは、ドアノブを回した。


「固い」

ドアノブは錆び付き、固定されていた。


ドレスでドアノブを包み、精いっぱい力を込めて回した。


今度も同じく動かない。


仕方ないので、アリスは腰を折り曲げれば通れる。

一番小さな扉を開けることにした。


小さな扉には、

金色に装飾が施された、大きなドアノブが付いていた。



気味が悪いことに、金属はところどころ錆び付いていた。

形が、眠っている人の顔みたいだった。


装飾された顔は立体的な構造をして、

鼻に見立てられた場所がドアノブになっていた。

口らしき場所に、鍵穴が刻まれていた。

震える手を支えながら、鼻をゆっくり回した。


ドアノブは回った。

力を入れて扉を押してみたが、開かない。


逆に、引いてみた。

腕に鈍い痛みが走った。


アリスが手を離した瞬間、

口がゆっくりと動いた。


「鍵がなきゃ開かない」と言った。


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