「四話「落下」
深淵の闇がアリスを包む。
「アァァァ――ッ、イヤダァァーー!!」
声は裏返り、金切り声を叫んだ。
何かにしがみつくために、必死で空を掴む。
無駄、深淵には何もない。
感じるのは、臓器が口から吐き出される浮遊感。
長い時間落ちた。
どんなに、落ちても何もない。
上を見ても、下を見ても
光が存在しなかった。
時間がたつほど、恐怖心が少しずつ和らいできた。
「ここは、何なの?」
さすがの、アリスでも理解が追いつかない。
考えるたびに、思考がぐちゃぐちゃになった。
「夢? そうだ、夢なんだ。
ありえないもん!
穴の中に落ちたのに、地面がない。
光すらもない。
そんなのおかしい。」
「いつから夢なの?」
今日の記憶をたどり始めた。
穴の前に一人で立っていた。
落ちる前に、女性の声が聞こえた。
目に見えなかった。
あれも夢?
巨大な熊、着飾ったしゃべる白兎は?
夢の中の生物だわ。
そうだわ!そうよ!!
結婚式は事実?
記憶の中を深く潜り、夢の異変を探った。
「うーん?とくに、変な記憶はないわ」
そうだとしたら、結婚式中に居眠りしたのかしら。
「無理ね。
結婚式で寝たら、メリーサに起こされるもの」
「だとしたら、いつから夢なのかしら?」
闇の中を落ちながら、考えにふけ込む。
数分間、黙り。
静けさが虚無の中に溶け込む。
「わかったわ!!」
その声が虚無の空間に響いた。
結婚式も最初から夢なんだわ!!
前日の夜に、明日が来てほしくなくて、思い描いてる夢。
式を抜け出して、変な生物に会って、穴の中に入る変な夢。
悪夢なのかな?
「目が覚める時間ね、覚悟はできたわ。」
そう言い、決意を固めた。
微かな光がアリスの目に届いた。
光は拡大し、向かってくる。
アリスは目を閉じた。
光に触れたら、目が覚める。
そう信じた。
・・・目が覚めない?
なんで?
アリスは、不思議だった。
落ちている。
その、感覚は存在するのに。
目が覚めない。
動揺しながらも、目を開けてみた。
視界に入るのは白い光。
眩しすぎて、再び目を閉じる。
ゆっくりと目を開けて、光に慣らした。
空の上にいた。
しかも、落下していた。
なんで?どうして?
下を見ると、
古く、大きな屋敷がそびえ立つ。
近い。
どんどん近くなる。
思わず、死の恐怖に震えた。
「ウァァァァーーー」
アリスは絶叫し、狂ったように暴れる。
直後、鈍い衝撃音が響く。
アリスは屋根を突き破り、床に激突した。
衝撃は凄まじく。
骨が砕ける音が響き、
四肢はありえない方向へ曲がった。
痛みが全身に駆けめぐった。
意識を失う姿を、床に転がった青い瞳が眺めていた。
???「おはよう。目覚める時間よ」
女性が耳元で、
優しくささやいた。




