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不死の国のアリス  作者: 幽幻乃 紫
第六章「城」

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三十二話「城の梟」

アリスは巨大な螺旋状の本棚のそばを歩いていた。

あらためてその大きさに驚いた。

見上げても、天井が見えない。

それほどの高さだった。

この中に母の本もあるのだろうか?

そうアリスは考えていた。


この膨大な本から母の本を探すのは骨が折れそうだ。

それに、出口に向かえという忠告もすでに無視している。


今はまだ女の人に気づかれていない。

ただ、時間がたてば見つかるだろう。

アリスは禁書がありそうな部屋の奥に進んだ。


進みながら、いろんな疑問が頭の中を駆けめぐっていた。


母のことを知っているのがやはり理解できない。

この世界に母は来たことがあるのだろうか?


アリスは無意識のうちに銀の首飾りを触っていた。

それに、この首飾りは赤の女王の物なの?

確かに、この城に来てから光り輝いて勝手に門が開いた。

門番の巨兵たちも、「お帰りなさいませ。女王様!」と言っていたような気がする。

本当にこの世界のものかもしれない。


考えながら歩いているうちに、梟(ふくろう)の壁画の前まで来ていた。

梟の目には白色の宝石が埋め込まれている。


「こんにちは、奥に行けますか?」

アリスは梟に聞いた。


「ホ、ホ、ホ。」

壁から陽気な梟の鳴き声が聞こえた。


「禁書のエリアには行くなと言われたのに、来るとはさすがはアリスじゃのう!」

「それならば、私の問題に正解せよ。さすれば汝に新たな道が開かれよう。」

梟はなぜか嬉しそうに話した。


「また、問題?」

「頭を悩ませる言葉はもうたくさんだわ。」

アリスは露骨に不機嫌な態度をとった。


「ホーホ。」

「アリスよ。残念ながら答えのない問題に答えを探しても無駄なんじゃよ。」

「私の問題には、しっかりと答えがある。烏たちの珍妙なものとは違う難問じゃよ!」

「もちろん、理不尽なことも起きはせん。」

「どうじゃ、挑戦してみないか?」

梟の声は不思議とアリスを落ち着かせた。


「ふぅー。」

「本当に変な問題ではないのね?」


「もちろんじゃよ。」


「わかったわ、答えが見つからないことに疲れたの。ちゃんとした問題なら挑戦するわ。」


「よかろう!」

「解答は一回のみじゃ。しっかり考えよ。」


「それでは問題じゃ。」

「詐欺師はこれを嫌い、賢者ほどこれを好む。その正体とは?」

梟の声色が変わり、緊張感が漂った。


「汝の知恵を振り絞れ!」

声の威圧感が増す。

重苦しい雰囲気にアリスは吞み込まれた。


重圧を跳ねのけるため、頭を左右に何度か振って問題に集中した。


これは烏と書き物机の問題に似ている。

もちろん、「知らない」が答えのしろものではない。


詐欺師が嫌い、賢者が好きな物。

この二つに共通する物を考えればいいはずだわ。

それとも、物ではなくて、感情や概念なのかしら?


知識はどうだろうかしら?

賢者は好きだし、詐欺師も好きだと思うわ。

うーん、残念だけど違うわね。


考え方を変えないとね。

たとえば、人が好きなものは無数にある。

でも、嫌いなものは少ないはず。


だから、詐欺師が苦手なものを想像すればいいのよ。

なんだ、簡単じゃないかしら!


そうね、それなら正義や警察官はどうかしら?


これも違うわね。

賢者もそんなに好きでないだろうし。


ならば、真実‥‥‥。


詐欺師は真実が嫌い、それに賢者は真実を求める。

だから賢者は真実を好む。

真実が答えだ。

アリスの表情に笑顔の光が灯った。


梟に答えを言おうとしたとき、気づいてしまった。

賢者は真実を求め、探求している。

だから、好むというより目指す目標だわ。

答えに近いけど、少し違う。

そんな答えを梟は求めていないと思う。


もっとしっくりくる言葉があるはずだわ。

アリスの表情に陰りが差した。

答えは、何?


「正解じゃ!」

梟が突然叫び出した。


アリスは何が正解なのかわからなかった。


「ホッ、ホッ、ホー。」

梟の笑い声が響いた。


「その表情、なぜ正解したのか理解できておらぬようじゃな。」

「答えは、沈黙じゃよ!」


沈黙?

アリスは少しの間、沈黙して考えた。


人を騙すには言葉が必要だから、詐欺師は沈黙を嫌う。

それと違い、賢者は思考の整理や答えを探すために沈黙する。

これが正解なのは、納得できる。


でも、納得できないことが一つあった。

それは、なぜ何も言っていないのに正解できたのか?


「クスッ」

アリスは思わず笑いだしていた。

結局、梟も理解できない問題を出している。


「なぜ、正解できたの?」

アリスは梟に聞いてみた。


「其方は沈黙をしていた。」

「答えを口にしていなくても態度で示したのじゃよ!」

「私は考えよと言ったまで、解答せよとは言っていないのじゃ。」


「でも、正解にたどりつかなかったわ。」

アリスは正直に答えた。


梟はやさしく話しかけた。

「そうかもしれない。」

「しかし、何もしなくても得た功績は誇れ。人生には運も必要じゃよ。」

「それに、この問題の答えは一つではないのじゃ。」

「お主が考えた、真実も考え方によっては正解になるだろう。」


アリスは梟の言葉に驚いた。

「なんで、真実を思い浮かべたと分かったの?」


梟が明らかにとぼけた様子で答えた。

「ホッ、ホッ、ホー。」

「ただの勘じゃよ。たまには当たるものじゃのう。」


「それに、この問題に真実と答えた聡明な女性がいたのじゃ。」

「私は真実と聞いて、答えは一つではないと諭(さと)されたのだ。」


「ふむアリスよ、其方はその女性に少し似ているのう。」


梟はしばらく沈黙した。

それから悲しそうに言葉を綴(つづ)った。

「少し昔の話をしすぎたのう……さあ、行(ゆ)きなさい。」


ゴォォーー。

梟の描かれた壁がだんだんと沈んでいき、目の前に暗闇が広がる。


「えーっと、あのー……ありがとう。」

アリスは見えなくなった梟に感謝して、闇の中へ消えていった。


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