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不死の国のアリス  作者: 幽幻乃 紫
第六章「城」

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三十話「城の書庫」

アリスが部屋の中に入っていくと、扉は勝手に閉まった。


部屋の中はとても暗く、何も見えない。

手を使って周囲を探った。

冷たい壁の感触が伝わってくる。


壁を頼りに部屋の中を進む。

少し進むと目の前にも壁が立ちふさがった。

左側にも壁があり、右側だけは先へ進めそうだ。


ボォッ!

突然、右側の壁から炎が上がった。

壁に取り付けられた燭台に、ひとりでに火が灯ったのだ。


ボォッ、ボォッ、ボォッ――。

それを合図にするように、奥へ続く燭台から次々と火が上がった。


明かりによって、ようやく周囲の様子がわかった。

書庫ではなく、狭く長い廊下なのだ。


扉を抜けたらすぐに書庫だと思っていたアリスは、がっかりした。


アリスは仕方なく、燭台の火を頼りに廊下を進んだ。

やがて燭台が途絶えて、目の前には暗闇が広がる。

最後の燭台の火が、わずかにその先の道を照らしていた。


暗い道を進むか迷っていると、周りの火がすべて消えた。

一瞬にして暗闇がアリスを包み、静寂と闇が不安を掻き立てる。


「フィナーレざまーす。」

陽気な女性の声が聞こえた。


ボォォォー。

消えた燭台から炎の柱が上がった。

あまりの眩しさに、アリスは目を閉じてたじろいだ。


舞い上がる炎は肌を焼き尽くす。

そう感じるほどの熱気を放った。


「見事なパフォーマンスでありんしょ!」

「さぁ、ここで拍手ざます。」

パチ、パチ、パチ。

拍手する音がちらほらと聞こえてきた。


「ゴホン。」

大げさな咳払いが聞こえてきた。


「えー、そろそろ目を開けるざます。」

「アリス、あなたに言っているでありんす。」


「な、なんで名前を知っているの?」

アリスは女性に聞いた。


「まずは目を開けるざます。」

アリスは言われた通りに目を開けてみた。


炎の光が眩しくて、目が慣れるまでしばらくかかった。

無数の燭台が浮遊して周囲を照らしている。


「うわー、す、すごい。な、なにここ?」

何から注目するべきなのかアリスは迷った。


空を飛ぶ本に、白色の手袋。

ひとりでに動く羽ペン。

螺旋(らせん)の……本棚?


目に映る物すべてが奇妙で不思議だった。

とにかく、この書庫には普通がない。


部屋の構造も異質で、見渡すことができないほど広かった。

本棚が部屋の中央にひとつだけそびえ立ち、この部屋が書庫なのか疑いたくなる。


右と左の手袋が浮遊する本を捕まえて、その本棚に無理やり押し込んでいる。

他にも何組もの手袋が同じように本を片付けていた。


本棚は巨大な木のように堂々と生えていた。

無数の本が詰まった棚が螺旋状に積みあがり、その脇には細い階段が続いている。


たぶん天井まで伸びているのだろう。

見上げても、薄暗くて頂上は見えなかった。


これを本棚だと呼んでいいのかアリスにはわからない。

なによりも、どうやって欲しい本を探すのか不思議だった。


「ゴホン。」

ふたたび咳払いが響く。

「そろそろ、私の姿に驚いてもいい時間ざます。」


先ほどから妙に賑やかで、気に障る声の方をアリスは見た。


見た瞬間、アリスは後悔した。

色鮮やかな服、派手な仮面が目に映ったからだ。


正直、これ以上の情報は求めていない。

それに、この人とは相性が悪いと本能で感じた。

すぐに目を背けて、見ていないふりをした。


「あまりにも素晴らしい姿に、感激ざんしょ!」

聞いてもいないのに自分の姿を語ってきた。


「まず、なんといってもこの仮面が素敵ざます。

 白い陶磁器製の仮面が艶やかに光り、同じ陶磁器製の道化帽が美しいざます。

 この帽子から出ている五本の太くて赤い飾りが最高ざます。

 なんといっても、この五本の弧を描いて垂れるデザインが心にくるざます。」


「まぁーなんて素敵ざますかね。」

アリスは女のしゃべり方をまね、ぶっきらぼうに答えた。


「そうざんしょ!そうざんしょ!」

「私めの魅力にやっと気づかりんしたんしょ!」

女はアリスに近づき、道化師の仮面を目の前で見せびらかした。


思ったよりも背が高く、威圧感がある。

アリスは迫力に圧倒されて一歩、二歩と後退した。


「もう少し上品に話せませんか?」

烏の耳障りなしゃべり方にうんざりしていたので、試しにお願いしてみた。

当然、アリスの頼みは無視された。


まだ話し足りないのか、今度は服の魅力まで語ってきた。


「服はさらに派手で、すばらしいでありんす。

 仮装舞踏会でも目立つ煌びやかな朱色のドレスが魅力ざます。

 そして、こちらのドレスには美しい光沢があり、腰はキュッと締まり、

 腰から裾にかけて段々と広がっていくスカートが、まさに完璧。」

「完璧、ざます。」

「それから、この上品な赤色に輝くヒールの靴が、

 私めの豪華さをより一層引き立てているでありんす。」


白色の手袋たちがいっせいに拍手をしていた。

それに合わせるように、女は頭を何度も下げる。


アリスは女を無視して、横を通り過ぎた。

所々で羽ペンがせわしなく動いている。

よく見えないが、机の上の本になにかを書き込んでいた。


「無視するなんて、あんまりざます。」

女がアリスを追いかけてきた。


「五月蠅い生き物と話すのに疲れたのよ。」

アリスはため息をつきながら女に言った。


「それは、残念ざます。」

「この国で大人しくて話の通じる者は少ないざますから。」

「ただ、幸運なことに私がその一人でありんす。」

仮面の下には、唇の形をした赤い模様がある。

本物の口みたいに動いていた。


見た目は人間の形をしているのだが、違う生き物なのだろうか?

アリスはさらに仮面をよく見た。


目元には、赤と黒のひし形模様が描かれている。

目の穴は真っ暗で、仮面と道化帽の縁を金の網目模様が飾っていた。


見れば見るほど、主張の強い仮面だ。


アリスは虫を払いのけるように手を動かした。

「仮面も服装も派手で、鼻につくしゃべり方をするあなたに、

まともな会話ができるとは思えないわ。」


「失礼ざます。この書庫の館長兼、司書および管理人ざます。」

「そんな肩書の多い私めに、無礼な態度を取るとは、まことに失礼ざます。」


「まぁ、特別に今回は見逃すでありんす。」

「この書庫と本のことなら、だいたい知っているでありんすから、知りたいことはありんすか?」

女は凛として美しいお辞儀をした。


「うーん、そうね。」

「それならまず、この書庫はなんなの?」

とりあえず害はなさそうだから、疑問に思ったことを聞いてみた。


「知識の宝庫ざます。」

「羽ペンが知り得た情報や歴史を本に書き上げるんでありんす。」

女は、さも当然のように答えた。


「知りたい答えがすべてわかるの?」


「知りたいものによりんすが、概ねわかるでありんす。」

「なんの情報を求めてやってきたんすぅ?」


「青虫について知りたいわ。」

アリスは少し目を輝かして、派手な服装の女性に聞いた。


「残念。」

「まことに残念でありんすが、あおむしと呼ばれる者の本は無いでありんす。」



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